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日常
第六百九話 ぶっかけそば
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残りの蒸し豚を細かく刻んで、溶き卵と混ぜておいた米、たれ、刻みネギと一緒に炒める。この時点でとてもいい香りがしてくるから、たまらないな。
「いただきます」
炒めるとたれの甘味が際立つようだ。米の食感とたれの味はよく合う。豚バラ肉は柔らかく、脂身部分の甘味もいい。ヒレ肉にはたれの味が染みて、チャーシューみたいだ。
今度は中華スープとかも準備したいなあ。みそ汁でもよかったか。
それにしてもこのたれ、万能だな。今度は野菜炒めを作ってみよう。他に何ができるかなあ。肉を漬けこんでもいいだろうなあ。
「ごちそうさまでした」
洗い物を終え、ソファに座りスマホを見る。おや、通知が。咲良か。
『明日暇なら、どっか遊びに行こう』
えー、どうしよっかなあ。明日って日曜日だろ、どこでも人が多いんじゃないか。うーん、悩むなあ。あっ、でもそうか。今度の月曜は休みだ。ならいいかな。
せっかく行くなら、いつも食わないもん食いたいな。
「そんでさー、その洋服屋の福袋が今日までらしくて。どうしても欲しいけど自分は別の用事があっていけないからって、妹に頼まれて」
店内を歩きながら咲良は疲れたように言った。
「一つだけでもいいから、って言うから、俺一人で行こうと思ったんだけどさ。福袋は二種類あるらしくて、一人一種類しか買えないとか、できれば二つともほしいなあとか、ずーっと言われてなあ……」
「それで俺を誘ったわけだ」
「悪いな」
「いや、別に構わん。嫌なときは断るし」
「それだから春都には頼みやすいんだよなあ」
そう言って咲良は笑った。
「ま、春都とも遊びたかったし」
「そうか」
目的の店には、確かに福袋が山積みになっていた。ピンクの袋と青の袋。なるほど、それぞれほしかったんだなあ。
「それにしても……」
この店構え。入るのに躊躇する。なんかすごく……女子って感じ。
「これ、やっぱ俺もついてこないとだめか?」
ダメもとで聞いてみるが、咲良は迷わず福袋を手にしながら言った。
「会計の時に二人いないと二つ買えないから、来てくれ」
「だよなあ……」
「さあ行くぞー」
妹と一緒によく行っているからか、咲良は何の抵抗もなく店に入っていく。すごいな、こいつ。
ただ会計に着いて行っただけなのに、とても疲れた。
「さ、終わった終わった。次どこ行く?」
用事を終えてすっきりしたらしい咲良はいきいきと歩みを進める。
「あ、あそこ行こう! おもちゃ屋さん!」
「おもちゃ屋さん? ああ、あそこな」
小さい頃はよく言っていたが、最近は行ってない。
天井が高くてまぶしくて、あっちを見てもこっちを見てもおもちゃばかり。値段もまちまちで、今は夏に向けて水辺で遊べるおもちゃとかの特集もやってる。そうそう、ゲームカセットも売ってんだよな。
日曜日ということもあって、子どもが多い。広い店内は子どもにとって絶好の運動場所のようで、走り回る小さいのにぶつからないようにしなければならない。
「あ、まだある」
他のおもちゃと比べて控えめな陳列がされているのは、ミニチュアのコーナーだ。好きなんだよなー、これ。いろんなシリーズがあって、割とクオリティも高くて好きだ。ここに飾ってあるみたいにきれいにレイアウト出来たらなあ。
「ミニチュアかあ」
咲良が隣にやってきて、箱を一つ手に取った。手のひらサイズの小箱で、中身はシークレットである。
「いいよなー、ミニチュアって。なんかワクワクする」
「そう。俺は水系のが好き」
「水系?」
「ジュースとか、屋台のヨーヨー釣りとか、そういうミニチュア。液体を固体で表現してるのがなんか好きなんだよな。透明だと一番うれしい」
「なるほどなあ」
咲良はいろいろなラインナップのミニチュアを眺めると言った。
「一つ買って帰ろうぜ。せっかくだし」
「ああ、それもいいな」
しっかし、悩むなあ。絶妙に欲しいものがそろってるんだよなあ。うーん、どれにしよう。こうやって悩むのもまた楽しいんだけど。
どれにしようかなあ。
しっかり悩んで一つ買って、混みあう前に飯を食いに行く。色々と店はあったが、蕎麦屋にした。
「冷たいそばが食いたい」
メニューを見ながら咲良が言う。
「俺も」
ということで、値段も一番お手頃なぶっかけそばにした。とろろになめこ、オクラと大根おろし、かいわれ大根までのってるやつだ。家でもできないことはないが、手間もかかるし、一人だと特にやらない。
大きめの皿にたっぷりのそばと具材がのっている。わさびをしっかり溶かしたつゆをかけて、混ぜたら……
「いただきます」
トロトロ、ねばねばのそばはもったりとしていて、食べ応えがありそうだ。
口いっぱいにそばの香りが広がる。大根おろしのおかげか、がっつりとした口当たりの割にさっぱりしていて、とろろのおかげでするする入っていく。つゆの甘味とわさびの風味、辛みがいい。
カイワレ大根のほんの少しひりひりとした味わいもいい。シャキシャキ食感が爽やかだ。
オクラもいいなあ。種の部分がプチッとはじけて面白い。噛めば噛むほどジャキジャキトロッとして、青い香りが鼻に抜ける。ああ、オクラの季節になったんだなあ。いい季節だ。
炒めてもうまいが、お湯に通したのもうまいもんだ。
あ、なめこ。プチッとはじけてきのこの味が広がる。みそ汁じゃないなめこって、意外とあまり食べないかもしれない。うまいな。
天かすもかけてみる。おお、さっぱりにちょっとがっつりが加わる。天かすを合わせるとうま味が増すんだよな。カリカリのところと、ほんの少しふやけたところと、食感の違いも好きだ。
それに、そば専門店だからか、そばそのものもかなりうまいと思う。こだわりとかは特にないけど、香りとか口当たりとかの違いはなんとなく分かる。
「この後はどこ行く?」
と、咲良がお茶を飲んで聞く。
「本屋とか?」
「あー、いいな。そうしよう」
確か本屋の近くにはフードコートがあったはずだ。いい感じのおやつないかなあ。持ち帰りでもいい。
とろみのあるつゆは、最後まで食べてしまいたい。というか、自然と食べてしまう。
あー、うまかった。
「ごちそうさまでした」
「いただきます」
炒めるとたれの甘味が際立つようだ。米の食感とたれの味はよく合う。豚バラ肉は柔らかく、脂身部分の甘味もいい。ヒレ肉にはたれの味が染みて、チャーシューみたいだ。
今度は中華スープとかも準備したいなあ。みそ汁でもよかったか。
それにしてもこのたれ、万能だな。今度は野菜炒めを作ってみよう。他に何ができるかなあ。肉を漬けこんでもいいだろうなあ。
「ごちそうさまでした」
洗い物を終え、ソファに座りスマホを見る。おや、通知が。咲良か。
『明日暇なら、どっか遊びに行こう』
えー、どうしよっかなあ。明日って日曜日だろ、どこでも人が多いんじゃないか。うーん、悩むなあ。あっ、でもそうか。今度の月曜は休みだ。ならいいかな。
せっかく行くなら、いつも食わないもん食いたいな。
「そんでさー、その洋服屋の福袋が今日までらしくて。どうしても欲しいけど自分は別の用事があっていけないからって、妹に頼まれて」
店内を歩きながら咲良は疲れたように言った。
「一つだけでもいいから、って言うから、俺一人で行こうと思ったんだけどさ。福袋は二種類あるらしくて、一人一種類しか買えないとか、できれば二つともほしいなあとか、ずーっと言われてなあ……」
「それで俺を誘ったわけだ」
「悪いな」
「いや、別に構わん。嫌なときは断るし」
「それだから春都には頼みやすいんだよなあ」
そう言って咲良は笑った。
「ま、春都とも遊びたかったし」
「そうか」
目的の店には、確かに福袋が山積みになっていた。ピンクの袋と青の袋。なるほど、それぞれほしかったんだなあ。
「それにしても……」
この店構え。入るのに躊躇する。なんかすごく……女子って感じ。
「これ、やっぱ俺もついてこないとだめか?」
ダメもとで聞いてみるが、咲良は迷わず福袋を手にしながら言った。
「会計の時に二人いないと二つ買えないから、来てくれ」
「だよなあ……」
「さあ行くぞー」
妹と一緒によく行っているからか、咲良は何の抵抗もなく店に入っていく。すごいな、こいつ。
ただ会計に着いて行っただけなのに、とても疲れた。
「さ、終わった終わった。次どこ行く?」
用事を終えてすっきりしたらしい咲良はいきいきと歩みを進める。
「あ、あそこ行こう! おもちゃ屋さん!」
「おもちゃ屋さん? ああ、あそこな」
小さい頃はよく言っていたが、最近は行ってない。
天井が高くてまぶしくて、あっちを見てもこっちを見てもおもちゃばかり。値段もまちまちで、今は夏に向けて水辺で遊べるおもちゃとかの特集もやってる。そうそう、ゲームカセットも売ってんだよな。
日曜日ということもあって、子どもが多い。広い店内は子どもにとって絶好の運動場所のようで、走り回る小さいのにぶつからないようにしなければならない。
「あ、まだある」
他のおもちゃと比べて控えめな陳列がされているのは、ミニチュアのコーナーだ。好きなんだよなー、これ。いろんなシリーズがあって、割とクオリティも高くて好きだ。ここに飾ってあるみたいにきれいにレイアウト出来たらなあ。
「ミニチュアかあ」
咲良が隣にやってきて、箱を一つ手に取った。手のひらサイズの小箱で、中身はシークレットである。
「いいよなー、ミニチュアって。なんかワクワクする」
「そう。俺は水系のが好き」
「水系?」
「ジュースとか、屋台のヨーヨー釣りとか、そういうミニチュア。液体を固体で表現してるのがなんか好きなんだよな。透明だと一番うれしい」
「なるほどなあ」
咲良はいろいろなラインナップのミニチュアを眺めると言った。
「一つ買って帰ろうぜ。せっかくだし」
「ああ、それもいいな」
しっかし、悩むなあ。絶妙に欲しいものがそろってるんだよなあ。うーん、どれにしよう。こうやって悩むのもまた楽しいんだけど。
どれにしようかなあ。
しっかり悩んで一つ買って、混みあう前に飯を食いに行く。色々と店はあったが、蕎麦屋にした。
「冷たいそばが食いたい」
メニューを見ながら咲良が言う。
「俺も」
ということで、値段も一番お手頃なぶっかけそばにした。とろろになめこ、オクラと大根おろし、かいわれ大根までのってるやつだ。家でもできないことはないが、手間もかかるし、一人だと特にやらない。
大きめの皿にたっぷりのそばと具材がのっている。わさびをしっかり溶かしたつゆをかけて、混ぜたら……
「いただきます」
トロトロ、ねばねばのそばはもったりとしていて、食べ応えがありそうだ。
口いっぱいにそばの香りが広がる。大根おろしのおかげか、がっつりとした口当たりの割にさっぱりしていて、とろろのおかげでするする入っていく。つゆの甘味とわさびの風味、辛みがいい。
カイワレ大根のほんの少しひりひりとした味わいもいい。シャキシャキ食感が爽やかだ。
オクラもいいなあ。種の部分がプチッとはじけて面白い。噛めば噛むほどジャキジャキトロッとして、青い香りが鼻に抜ける。ああ、オクラの季節になったんだなあ。いい季節だ。
炒めてもうまいが、お湯に通したのもうまいもんだ。
あ、なめこ。プチッとはじけてきのこの味が広がる。みそ汁じゃないなめこって、意外とあまり食べないかもしれない。うまいな。
天かすもかけてみる。おお、さっぱりにちょっとがっつりが加わる。天かすを合わせるとうま味が増すんだよな。カリカリのところと、ほんの少しふやけたところと、食感の違いも好きだ。
それに、そば専門店だからか、そばそのものもかなりうまいと思う。こだわりとかは特にないけど、香りとか口当たりとかの違いはなんとなく分かる。
「この後はどこ行く?」
と、咲良がお茶を飲んで聞く。
「本屋とか?」
「あー、いいな。そうしよう」
確か本屋の近くにはフードコートがあったはずだ。いい感じのおやつないかなあ。持ち帰りでもいい。
とろみのあるつゆは、最後まで食べてしまいたい。というか、自然と食べてしまう。
あー、うまかった。
「ごちそうさまでした」
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