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日常
第六百五話 ピザトースト
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目が覚めた時にはもう降っていた雨が、昼頃になっても続いている。雨粒のひとつひとつが細かいので、傘をさしていても頬がわずかに濡れる。
何か作りたくて、でも思いつかないから、買い物に行けば何か思いつくかなあと思って散歩がてら出てきてみたが、思ったより冷えるなあ。今の時期って、こんなに涼しかったっけ。雨のせいもあるだろうけど。
雨が傘を打つ音がどことなく炭酸に似ているから、何かジュースでも買って帰ろうかな。
雨の日の花丸スーパーは、いつになく寒い。生鮮食品コーナーはできるだけ長居したくないくらいだ。
「さて、何にしようかな……」
とりあえずかごを持って、今日はパンの方から回ってみる。いつもは反対側の野菜コーナーから回っているから、なんか変な感じだ。
お、今日はパンが安いのか。菓子パンとか総菜パン、買っとくといいんだよな。特にこの、ピーナツバターが挟まったやつ。家で焼いて食ってもうまいけど、そのままでも当然うまい。手が汚れにくくていいんだ。
そうそう、食パンも買っておこう。家にあると何かといい。冷凍してもいいしな。
「あっ、そうだ」
今日の昼飯は、あれにしよう。となれば、チーズを買わなければ。
玉ねぎは店にぶら下がってたよなあ。ピーマンも冷蔵庫に入っていたし、ハムもあったはずだ。あっ、そういえば家の方のケチャップがなくなっていたな。買っとかないと。
必要な物をかごに入れたら、買い忘れがないかもう一度店内を回る。なんか買い忘れてもう一回買い物に来なきゃいけない、ってなったら面倒だもんなあ。塩こしょうとか。
お菓子コーナーの近くを通りかかる。
今日は子どもの姿がない。ちっせぇのが走り回ってると、危ないんだなあこれが。かごの高さがちょうど子どもの頭あたりだから、ぶつからないように気を付けないと。
しかし今日は、でっかいの……というか、見知った顔がしゃがみ込んで、真剣に考えこんでいる。両手には似たようなお菓子がある。
「……こんにちは、山下さん」
声をかけようか否か悩んだ結果、何で悩んでいるのか聞きたい気持ちがギリギリ勝った。山下さんはゆっくりとこちらを振り向くと、愛想よく笑った。
「あ、一条君。久しぶり~。元気にしてる?」
「はい、元気にしてます」
「そっかあ、俺も元気」
山下さんは言うと、困ったように眉を下げて聞いてきた。
「ちょうどよかった。一条君、話聞いて?」
「何でしょうか」
「これなんだけど、どっちがいいかなあ」
見せられたのはチョコレートで、商品としては同じなのだが味が違うらしい。片方はミルクとビター、もう片方は期間限定トロピカル。
俺だったら迷わず、ミルクとビターを買うなあ。期間限定という言葉には惹かれるが、トロピカルはあんまり得意じゃない。
山下さんは真剣そのものという表情で言った。
「ミルクとビターっていう定番も気になるけど、トロピカルも気になるし……期間限定でしょ?」
「まあ……期間限定は気になりますね」
「でしょー? どっちも買いたいところだけど、割といいお値段だし。一条君はどっちがいいと思う?」
こういう時、自分の意見をはっきり言うべきか否か悩む。しかし、俺は、嘘をつくのが下手だと自分で知っている。
「俺は絶対、ミルクとビターにします」
「おっ、言い切るね」
山下さんはすがすがしく笑った。
「じゃ、俺もそれにする~」
「え、いいんですか」
「うん。正直、味というより期間限定って響きに惹かれてたところあるから。ありがとね、相談乗ってくれて」
「いえ」
しかし……トロピカル味かあ、いったいどんな味なんだろうなあ。
店に戻ったら昼飯の準備をする。雨だとはいえ、お客が来るときは来る。今日も忙しそうだ。
ピーマンは半分に切って種を取り、程よい幅で切り分ける。ハムはどうしようかな。切らなくていいか。玉ねぎは薄切り……いや、もう少し厚めに。薄すぎても厚すぎてもいけないんだ。
材料を準備したら、広げたアルミホイルの上に八枚切りの食パンを並べる。それにケチャップを塗って、ハムをのせる。
ピーマンと玉ねぎはバランスよく。
チーズは一枚、思いっきりのせよう。そしたら、崩れないようにオーブントースターまで運んで、並べる。
この焼けている間もいいんだよなあ、ピザトーストって。
焼けたらやけどしないように皿に移す。
「よし、できた。じいちゃーん、ばあちゃーん」
テーブルの準備が終わったところで、二人とも上がってきた。
「ピザトースト、おいしそうね」
と、ばあちゃんがにこにこ笑って、手を洗いながら言った。
「久しぶりに食うな」
じいちゃんは首にかけたタオルで汗をぬぐった。
「いただきます」
焼きたてのピザトーストは熱々だ。
耳の香ばしさと歯ごたえ、鼻からはトマトケチャップの香りと玉ねぎやピーマンのみずみずしい香り、チーズの匂いが入ってくる。
具材がのっているところは、やわらかいんだよな。
もっちりとしたチーズのうま味と塩味は、いつ食べてもうまい。チーズの香りはしっかりあるとはいえ、濃すぎないのがいい。
ピーマンの程よい苦みといい食感、玉ねぎの熱が加わってほんのり甘くなった感じ、やっぱりピザトーストにはこれが必須だよなあ。
ハムは歯切れよく、程よい肉の風味がピザトーストの食べ応えを増す。がっつり肉、ってのも悪くはないが、ピザトーストにはこれくらいがちょうどいいように思う。
ちょっと冷めてくると、チーズが少しかたくなって、しょっぱさが増すようだ。これはこれでうまい。
それにしても、ピザトーストってどうしてあっという間に食べ終わってしまうんだろう。割とがっつりしてるけど、サクサク食えるんだなあ、これが。
「作ってくれてありがとうね、おいしかった」
ばあちゃんがそう言って笑った。おお、きれいに食べてる。じいちゃんもうんうんと頷いて、最後のひとかけらを食べた。
凝った料理ではないが、少しはお礼になったかなあ。
逆に、褒められて俺の方がうれしくなってるけど……ま、いいか。
「ごちそうさまでした」
何か作りたくて、でも思いつかないから、買い物に行けば何か思いつくかなあと思って散歩がてら出てきてみたが、思ったより冷えるなあ。今の時期って、こんなに涼しかったっけ。雨のせいもあるだろうけど。
雨が傘を打つ音がどことなく炭酸に似ているから、何かジュースでも買って帰ろうかな。
雨の日の花丸スーパーは、いつになく寒い。生鮮食品コーナーはできるだけ長居したくないくらいだ。
「さて、何にしようかな……」
とりあえずかごを持って、今日はパンの方から回ってみる。いつもは反対側の野菜コーナーから回っているから、なんか変な感じだ。
お、今日はパンが安いのか。菓子パンとか総菜パン、買っとくといいんだよな。特にこの、ピーナツバターが挟まったやつ。家で焼いて食ってもうまいけど、そのままでも当然うまい。手が汚れにくくていいんだ。
そうそう、食パンも買っておこう。家にあると何かといい。冷凍してもいいしな。
「あっ、そうだ」
今日の昼飯は、あれにしよう。となれば、チーズを買わなければ。
玉ねぎは店にぶら下がってたよなあ。ピーマンも冷蔵庫に入っていたし、ハムもあったはずだ。あっ、そういえば家の方のケチャップがなくなっていたな。買っとかないと。
必要な物をかごに入れたら、買い忘れがないかもう一度店内を回る。なんか買い忘れてもう一回買い物に来なきゃいけない、ってなったら面倒だもんなあ。塩こしょうとか。
お菓子コーナーの近くを通りかかる。
今日は子どもの姿がない。ちっせぇのが走り回ってると、危ないんだなあこれが。かごの高さがちょうど子どもの頭あたりだから、ぶつからないように気を付けないと。
しかし今日は、でっかいの……というか、見知った顔がしゃがみ込んで、真剣に考えこんでいる。両手には似たようなお菓子がある。
「……こんにちは、山下さん」
声をかけようか否か悩んだ結果、何で悩んでいるのか聞きたい気持ちがギリギリ勝った。山下さんはゆっくりとこちらを振り向くと、愛想よく笑った。
「あ、一条君。久しぶり~。元気にしてる?」
「はい、元気にしてます」
「そっかあ、俺も元気」
山下さんは言うと、困ったように眉を下げて聞いてきた。
「ちょうどよかった。一条君、話聞いて?」
「何でしょうか」
「これなんだけど、どっちがいいかなあ」
見せられたのはチョコレートで、商品としては同じなのだが味が違うらしい。片方はミルクとビター、もう片方は期間限定トロピカル。
俺だったら迷わず、ミルクとビターを買うなあ。期間限定という言葉には惹かれるが、トロピカルはあんまり得意じゃない。
山下さんは真剣そのものという表情で言った。
「ミルクとビターっていう定番も気になるけど、トロピカルも気になるし……期間限定でしょ?」
「まあ……期間限定は気になりますね」
「でしょー? どっちも買いたいところだけど、割といいお値段だし。一条君はどっちがいいと思う?」
こういう時、自分の意見をはっきり言うべきか否か悩む。しかし、俺は、嘘をつくのが下手だと自分で知っている。
「俺は絶対、ミルクとビターにします」
「おっ、言い切るね」
山下さんはすがすがしく笑った。
「じゃ、俺もそれにする~」
「え、いいんですか」
「うん。正直、味というより期間限定って響きに惹かれてたところあるから。ありがとね、相談乗ってくれて」
「いえ」
しかし……トロピカル味かあ、いったいどんな味なんだろうなあ。
店に戻ったら昼飯の準備をする。雨だとはいえ、お客が来るときは来る。今日も忙しそうだ。
ピーマンは半分に切って種を取り、程よい幅で切り分ける。ハムはどうしようかな。切らなくていいか。玉ねぎは薄切り……いや、もう少し厚めに。薄すぎても厚すぎてもいけないんだ。
材料を準備したら、広げたアルミホイルの上に八枚切りの食パンを並べる。それにケチャップを塗って、ハムをのせる。
ピーマンと玉ねぎはバランスよく。
チーズは一枚、思いっきりのせよう。そしたら、崩れないようにオーブントースターまで運んで、並べる。
この焼けている間もいいんだよなあ、ピザトーストって。
焼けたらやけどしないように皿に移す。
「よし、できた。じいちゃーん、ばあちゃーん」
テーブルの準備が終わったところで、二人とも上がってきた。
「ピザトースト、おいしそうね」
と、ばあちゃんがにこにこ笑って、手を洗いながら言った。
「久しぶりに食うな」
じいちゃんは首にかけたタオルで汗をぬぐった。
「いただきます」
焼きたてのピザトーストは熱々だ。
耳の香ばしさと歯ごたえ、鼻からはトマトケチャップの香りと玉ねぎやピーマンのみずみずしい香り、チーズの匂いが入ってくる。
具材がのっているところは、やわらかいんだよな。
もっちりとしたチーズのうま味と塩味は、いつ食べてもうまい。チーズの香りはしっかりあるとはいえ、濃すぎないのがいい。
ピーマンの程よい苦みといい食感、玉ねぎの熱が加わってほんのり甘くなった感じ、やっぱりピザトーストにはこれが必須だよなあ。
ハムは歯切れよく、程よい肉の風味がピザトーストの食べ応えを増す。がっつり肉、ってのも悪くはないが、ピザトーストにはこれくらいがちょうどいいように思う。
ちょっと冷めてくると、チーズが少しかたくなって、しょっぱさが増すようだ。これはこれでうまい。
それにしても、ピザトーストってどうしてあっという間に食べ終わってしまうんだろう。割とがっつりしてるけど、サクサク食えるんだなあ、これが。
「作ってくれてありがとうね、おいしかった」
ばあちゃんがそう言って笑った。おお、きれいに食べてる。じいちゃんもうんうんと頷いて、最後のひとかけらを食べた。
凝った料理ではないが、少しはお礼になったかなあ。
逆に、褒められて俺の方がうれしくなってるけど……ま、いいか。
「ごちそうさまでした」
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