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日常
第六百四話 もんじゃ焼きと豚バラ
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文化祭も無事に終わり、一般客が帰ったらさっそく片付けをする。体育館から、パイプ椅子やテーブル、シートが片付けられていく。それを横目に、スピーカーやら何やらを運び出す。扱いにも慣れたものだ。
「何とか無事に終わってよかったなー」
倉庫に運んだ機材を整理しながら咲良が言った。
「この調子だと、思ったより早く帰れそう」
「そうだな」
「ラジオドラマもうまくいってよかったよ、ほんと」
と、マイクなんかの機材を抱えた早瀬が言った。そのあたりの細かい機材は、視聴覚室に片付けるんだったな。
「あ、あれな、俺のクラスのやつらがすげーよかったって言ってた」
咲良は倉庫から出ながら言った。この倉庫、狭いんだよなあ。引っかかって機材を倒さないようにしないと。
「感動して泣いたって言ってたやつもいたなあ」
「あ、そう? そりゃよかった」
「上から見てるの、気分がよかった」
倉庫の鍵を閉め、のんびりと階段を上りながら言えば、「そうそう」と咲良が笑った。
「視線が高いと、なんとなく余裕出来るよな」
早瀬も言った。
視聴覚室の片付けも済ませると、とっとと帰る。というか、さっさと帰るように言われた。先生たちにも何か事情があるのだろう。
夕方ではあるが、外はまだ明るい。
「はーっ、疲れたなー!」
咲良が伸びをして言う。
「でも、振替休日あるからラッキーだな。平日が休みだと、どこ行ってもあんまり人いないから出かけるにはいいんだ」
「それはそうだ。まあ、出かける予定も気もないけどな」
「結局家でだらだら過ごして終わるんだよなあ。計画しただけで満足するもん。春都はなんかする?」
「じいちゃんとばあちゃんちに泊まる」
「うめずも?」
「うめずも。先に来てると思う」
そう言うと、咲良は「いいなあ」と言った。
「俺、何しよ。まー、テレビでも見るかな~」
「そうなるよな、結局」
まあ、俺はそれで、別にいいんだけどなあ。
「ただいまー」
「わうっ」
「おお、うめず。ただいま」
帰り着いて真っ先に出迎えてくれたのはうめずだった。その後ろからばあちゃんが顔を出す。
「おかえり、お疲れ様」
「ただいま」
部屋に上がると、テーブルの上にはホットプレートが用意されていた。じいちゃんは座椅子に座ってテレビを見ている。
「おお、帰ったか」
「うん。ただいま」
「今日はもんじゃ焼きだぞ」
おっ、マジか。そりゃ嬉しい。ホットプレート使った料理なんて、一人じゃなかなかやんないからなあ。
「お肉もあるよー」
と、ばあちゃんがキャベツ山盛りのボウルと肉のパックを持ってきた。豚バラだ。
「お風呂入ってきなさいね」
「はーい」
熱々の風呂に覚悟して入る。沸いてしばらくたっているだろうに、まだまだ熱い。俺が最後の風呂みたいだし、少し水を足そう。しかしまあ、多少の水じゃあ冷えないってのが手ごわいなあ。
「あっつい、出よう」
少し赤くなった肌は、居間の扇風機で冷ます。
「はー……」
「よし、じゃあ焼こうね」
まずは豚バラから焼いていく。肉が焼けていく匂いや音、その様はどうしてここまで魅力的なのだろう。ささっと塩こしょうをふったら味付けは完了だ。
「いただきます」
まずはそのまま。豚バラはいろいろな料理に使うが、塩こしょうで焼いただけでも十分うまいんだよな。脂身の独特な食感に肉の噛み応え、ジュワッと染み出す肉汁は濃く熱々なのがまたうまい。表面のカリッとしたところがまた香ばしくていい。
焼肉のたれをつけるのもいい。ばあちゃん手作りの、醤油の香ばしさが際立つほんのり甘いたれにはごまが入っていて、風味もいい。
わさび醤油は、肉の味がよく分かる。
豚バラから染み出した油で、もんじゃ焼きを作っていく。
ちゃんと土手を作ろうという気はあるが、まあ、ざっとしたものだ。それでもうまいもんじゃができるから、俺としては構わない。
キャベツにラーメンスナック、イカフライを砕いたもの、コーン。うちのもんじゃ焼きはいつもこんな感じだな。味付けはウスターソースと出汁の素で、あとは粉を少々。水を入れてだまが残らないよう混ぜるのが大変だけど、ばあちゃん、うまく混ぜてるんだよなあ。
「おお、いい香りだ」
と、じいちゃんが言ってビールを一口飲んだ。
「縁の方はもういいんじゃないかな」
ばあちゃんに言われ、スプーンで縁の方から取っていく。
ほんの少しカリカリで、トロトロだ。しっかり冷まして食べないとやけどをしてしまう。おいしく食べたいもんな。やけどするとしばらく、何食べても変な感じするんだよなあ。
ウスターソースの香ばしさに出汁のうま味、ラーメンスナックからにじみ出てくる味もいいんだなあ、これが。サクサクとそのまま食うのもいいが、熱が通ってふにゃっとしたのもまたいい。イカフライの魚介の風味がまたいい働きしてる。カリッとしたところとウニッとしたところの違いがいい。
コーンのプチッとはじける甘さと食感がうまいなあ。そんでもって、たっぷりのキャベツ。みずみずしさと食べ応えがいっぺんに口いっぱいに広がってたまらん。
豚バラを焼いた時のうま味もいい感じに加わって香ばしく、おいしい。
久々にもんじゃ焼き食べたけど、やっぱりうまいなあ。それに、誰かに準備してもらえる食事は妙にうまい。
さ、ここ何日も頑張ったんだし、休みはゆっくりしよう。うまい飯も食ったし、元気になりそうだ。
ああ、そうだ。文化祭の準備期間はじいちゃんにもばあちゃんにも世話になったし、なんか作ろうかな。たまには手の込んだものを作るのも悪くない。
「ごちそうさまでした」
「何とか無事に終わってよかったなー」
倉庫に運んだ機材を整理しながら咲良が言った。
「この調子だと、思ったより早く帰れそう」
「そうだな」
「ラジオドラマもうまくいってよかったよ、ほんと」
と、マイクなんかの機材を抱えた早瀬が言った。そのあたりの細かい機材は、視聴覚室に片付けるんだったな。
「あ、あれな、俺のクラスのやつらがすげーよかったって言ってた」
咲良は倉庫から出ながら言った。この倉庫、狭いんだよなあ。引っかかって機材を倒さないようにしないと。
「感動して泣いたって言ってたやつもいたなあ」
「あ、そう? そりゃよかった」
「上から見てるの、気分がよかった」
倉庫の鍵を閉め、のんびりと階段を上りながら言えば、「そうそう」と咲良が笑った。
「視線が高いと、なんとなく余裕出来るよな」
早瀬も言った。
視聴覚室の片付けも済ませると、とっとと帰る。というか、さっさと帰るように言われた。先生たちにも何か事情があるのだろう。
夕方ではあるが、外はまだ明るい。
「はーっ、疲れたなー!」
咲良が伸びをして言う。
「でも、振替休日あるからラッキーだな。平日が休みだと、どこ行ってもあんまり人いないから出かけるにはいいんだ」
「それはそうだ。まあ、出かける予定も気もないけどな」
「結局家でだらだら過ごして終わるんだよなあ。計画しただけで満足するもん。春都はなんかする?」
「じいちゃんとばあちゃんちに泊まる」
「うめずも?」
「うめずも。先に来てると思う」
そう言うと、咲良は「いいなあ」と言った。
「俺、何しよ。まー、テレビでも見るかな~」
「そうなるよな、結局」
まあ、俺はそれで、別にいいんだけどなあ。
「ただいまー」
「わうっ」
「おお、うめず。ただいま」
帰り着いて真っ先に出迎えてくれたのはうめずだった。その後ろからばあちゃんが顔を出す。
「おかえり、お疲れ様」
「ただいま」
部屋に上がると、テーブルの上にはホットプレートが用意されていた。じいちゃんは座椅子に座ってテレビを見ている。
「おお、帰ったか」
「うん。ただいま」
「今日はもんじゃ焼きだぞ」
おっ、マジか。そりゃ嬉しい。ホットプレート使った料理なんて、一人じゃなかなかやんないからなあ。
「お肉もあるよー」
と、ばあちゃんがキャベツ山盛りのボウルと肉のパックを持ってきた。豚バラだ。
「お風呂入ってきなさいね」
「はーい」
熱々の風呂に覚悟して入る。沸いてしばらくたっているだろうに、まだまだ熱い。俺が最後の風呂みたいだし、少し水を足そう。しかしまあ、多少の水じゃあ冷えないってのが手ごわいなあ。
「あっつい、出よう」
少し赤くなった肌は、居間の扇風機で冷ます。
「はー……」
「よし、じゃあ焼こうね」
まずは豚バラから焼いていく。肉が焼けていく匂いや音、その様はどうしてここまで魅力的なのだろう。ささっと塩こしょうをふったら味付けは完了だ。
「いただきます」
まずはそのまま。豚バラはいろいろな料理に使うが、塩こしょうで焼いただけでも十分うまいんだよな。脂身の独特な食感に肉の噛み応え、ジュワッと染み出す肉汁は濃く熱々なのがまたうまい。表面のカリッとしたところがまた香ばしくていい。
焼肉のたれをつけるのもいい。ばあちゃん手作りの、醤油の香ばしさが際立つほんのり甘いたれにはごまが入っていて、風味もいい。
わさび醤油は、肉の味がよく分かる。
豚バラから染み出した油で、もんじゃ焼きを作っていく。
ちゃんと土手を作ろうという気はあるが、まあ、ざっとしたものだ。それでもうまいもんじゃができるから、俺としては構わない。
キャベツにラーメンスナック、イカフライを砕いたもの、コーン。うちのもんじゃ焼きはいつもこんな感じだな。味付けはウスターソースと出汁の素で、あとは粉を少々。水を入れてだまが残らないよう混ぜるのが大変だけど、ばあちゃん、うまく混ぜてるんだよなあ。
「おお、いい香りだ」
と、じいちゃんが言ってビールを一口飲んだ。
「縁の方はもういいんじゃないかな」
ばあちゃんに言われ、スプーンで縁の方から取っていく。
ほんの少しカリカリで、トロトロだ。しっかり冷まして食べないとやけどをしてしまう。おいしく食べたいもんな。やけどするとしばらく、何食べても変な感じするんだよなあ。
ウスターソースの香ばしさに出汁のうま味、ラーメンスナックからにじみ出てくる味もいいんだなあ、これが。サクサクとそのまま食うのもいいが、熱が通ってふにゃっとしたのもまたいい。イカフライの魚介の風味がまたいい働きしてる。カリッとしたところとウニッとしたところの違いがいい。
コーンのプチッとはじける甘さと食感がうまいなあ。そんでもって、たっぷりのキャベツ。みずみずしさと食べ応えがいっぺんに口いっぱいに広がってたまらん。
豚バラを焼いた時のうま味もいい感じに加わって香ばしく、おいしい。
久々にもんじゃ焼き食べたけど、やっぱりうまいなあ。それに、誰かに準備してもらえる食事は妙にうまい。
さ、ここ何日も頑張ったんだし、休みはゆっくりしよう。うまい飯も食ったし、元気になりそうだ。
ああ、そうだ。文化祭の準備期間はじいちゃんにもばあちゃんにも世話になったし、なんか作ろうかな。たまには手の込んだものを作るのも悪くない。
「ごちそうさまでした」
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