635 / 854
日常
第五百九十六話 花見弁当2
しおりを挟む
酒盛りじゃない花見がしたい。
咲良からそんな連絡が来たのは、花見をした日の晩のことだった。結構歩いて疲れ切って、やっと布団に……というタイミングで送ってくるあたり、間がいいんだか悪いんだか分からないやつだ。
だらだら長々と文章が送られてきたが要約すると、
『酔っ払いたちの世話でろくに桜が見られなかった。ちびどもの世話で飯も食えてない。俺だってのんびり花見しながら飯が食いたい』
ということらしい。
「俺にどうしろと」
そう送り返せば、間もなくして返信が来た。
『明日、花見に行こう』
かくして、二日連続の花見が決定したのである。
花見をする公園は、昨日とはまた違った場所だ。小学生の頃、鍛錬遠足で来たことがあるようなないような気がする。
公園に行く前に、コンビニで飯を買う。あの後咲良は、朝比奈と百瀬も誘ったようだった。
「かつ丼か、カツカレーか、ソースカツ弁当か……」
「とんかつしか選択肢がないのか?」
「お菓子は俺、作って来てるからね~」
「……あ、肉まんまだあるんだ」
いろいろと目移りするが、ここは幕の内にしよう。
「えー、なんか春都、ひねりなくない?」
そう言う咲良は、味噌かつカレー丼なるものを手にしていた。ソースも付属してんのか。それは……うまいのだろうか。
「花見っつったらこれだろ」
「そっかあ。で……」
朝比奈はクリーム系のスパゲティ、百瀬は小さいおにぎり弁当を買っていた。
「朝比奈、スパゲティなんだ」
「俺は今これが食いたい」
「まあ、食いたいもん食うのが一番だよな~」
会計を済ませて、ぼちぼち公園へ向かう。
「おっ、なかなかいい感じじゃん」
公園に入って、咲良は嬉しそうに言った。
その公園には入り口がいくつかあって、周囲は住宅街になっている。開けた広場には真新しい遊具が光り、そんな広場を取り囲むように桜が植わっている。少し高くなったところには立派な銅像があった。あー、これ見たことあるわ。何回か来たな、ここ。
案外空いていて、子どもの姿もない。遊具は貸し切り状態だ。
「さて、それじゃあ……」
咲良は言うと、俺に荷物を預けてきた。あまりにも自然だったから、つい、受け取ってしまう。
「遊ぶぞー!」
咲良は言いながら、遊具に突進した。見れば百瀬も全力疾走だ。荷物は朝比奈に預けたらしい。そんで、大荷物を抱えた朝比奈もそわそわしている。
「朝比奈……」
なんだかもう、何でもどうでもよくなって、朝比奈から荷物を受け取った。
「……行ってこい」
その言葉を聞くや否や、朝比奈も遊具まで猛ダッシュした。さて、どこか飯が食えるような場所は……ああ、あの東屋いいな。テーブルと椅子もあることだし。
「よいしょ……っと」
荷物を置き、椅子に座る。あいつら元気だなあ。
「あはは! この滑り台、かなり怖い!」
波打つ赤い滑り台を百瀬が滑る。途中で浮いたぞ、あいつ。朝比奈は高いところに登っただけでも楽しいようで、遊具のてっぺんで目をキラキラさせていた。
咲良は……ブランコか。なんか妙に上手だな。みるみる勢いが増して、とんでもない高さになっていく。一回転しそうな勢いだったが、途中で勢いを緩める。見ているこっちがハラハラしていた。
「春都~、こっちのブランコ空いてるぞ~」
咲良が楽しそうにそう言って、自分の隣を指さすから、行かざるを得ない。
「お前、ブランコうまいな」
「昔っからやってるからなあ~。妹が生まれてからは特に公園で遊ぶこと多かったし、コツがあるんだぜ?」
「ほう」
俺は、ゆらゆら揺れているだけでいいな。目をつむると空を飛んでいるような気がしてくる。
「こうやって最大限足を延ばして~、折り曲げるタイミングがあってだな」
「すげえよ、お前は」
「なんか春都って妙なところで感心するよな~」
「そうか?」
素直にすげえと思ってるだけなんだがなあ……
満足するまで遊んだら、飯にする。
「いただきます」
幕の内弁当って、豪華だなあ。結局自分で作ることはなかったけど、まあいいや。
卵焼きに煮物、ひじきにコロッケに鮭。ご飯には黒ごまがかかっている。
まずはひじき。甘い味付けで、食感が楽しい。一緒に炊いてある大豆がトロトロで、ニンジンの色がまぶしい。
コロッケにはソースをかけて食べる。ちょっとだけ酸味のあるソースは、ジャガイモとひき肉のうま味によく合う。極限まで潰されたジャガイモはトロットロで、衣はサクサクだ。この食感の違いは、コンビニのコロッケならではだよなあ。
卵焼きは出汁巻きと甘いのの中間って感じだな。プルプルしている。ほんの少しひじきの色が移っているのがなんだか愛おしい。
鮭はほろほろと崩れ、塩加減もちょうどいい。皮は少し柔らかい。
ご飯を切って食べる感じが、弁当らしくて好きだ。やわらかめの米に、鮭がよく合う。黒ごまも香ばしくていいアクセントになっている。
「お菓子はねー、じゃん! 三色団子~。花見といったらこれでしょ」
百瀬は透明のパックを取り出した。中には、串にささったピンク、緑、白の団子がある。
「うまそうだな!」
咲良は言って、一本手に取った。
「あ、これ、あんこ入ってる……」
と、朝比奈が言うと、百瀬は少し得意げに言った。
「ピンクにはなんも入ってないけど、白にはこしあん、緑には白あんが入ってるよ~」
うん、これはうまいな。三色団子って、あんまり食べた記憶ないけど、これはうまい。ほんのり甘い団子はもちもちで、ペットボトルの緑茶がよく合う。白あんは上品な甘さで、こしあんはこっくりとしたうま味がたまらない。
団子の最後の一口を食べたとき、ふわっと目の前に桜がひとひら舞い降りた。今年は、結構いろんなところの桜を見たように思う。
そろそろ、見納めか。名残惜しいが、散るさまも美しいのが桜だ。
目の前のひとひらだけお土産にして、あとは目に焼き付けておくとしよう。
「ごちそうさまでした」
咲良からそんな連絡が来たのは、花見をした日の晩のことだった。結構歩いて疲れ切って、やっと布団に……というタイミングで送ってくるあたり、間がいいんだか悪いんだか分からないやつだ。
だらだら長々と文章が送られてきたが要約すると、
『酔っ払いたちの世話でろくに桜が見られなかった。ちびどもの世話で飯も食えてない。俺だってのんびり花見しながら飯が食いたい』
ということらしい。
「俺にどうしろと」
そう送り返せば、間もなくして返信が来た。
『明日、花見に行こう』
かくして、二日連続の花見が決定したのである。
花見をする公園は、昨日とはまた違った場所だ。小学生の頃、鍛錬遠足で来たことがあるようなないような気がする。
公園に行く前に、コンビニで飯を買う。あの後咲良は、朝比奈と百瀬も誘ったようだった。
「かつ丼か、カツカレーか、ソースカツ弁当か……」
「とんかつしか選択肢がないのか?」
「お菓子は俺、作って来てるからね~」
「……あ、肉まんまだあるんだ」
いろいろと目移りするが、ここは幕の内にしよう。
「えー、なんか春都、ひねりなくない?」
そう言う咲良は、味噌かつカレー丼なるものを手にしていた。ソースも付属してんのか。それは……うまいのだろうか。
「花見っつったらこれだろ」
「そっかあ。で……」
朝比奈はクリーム系のスパゲティ、百瀬は小さいおにぎり弁当を買っていた。
「朝比奈、スパゲティなんだ」
「俺は今これが食いたい」
「まあ、食いたいもん食うのが一番だよな~」
会計を済ませて、ぼちぼち公園へ向かう。
「おっ、なかなかいい感じじゃん」
公園に入って、咲良は嬉しそうに言った。
その公園には入り口がいくつかあって、周囲は住宅街になっている。開けた広場には真新しい遊具が光り、そんな広場を取り囲むように桜が植わっている。少し高くなったところには立派な銅像があった。あー、これ見たことあるわ。何回か来たな、ここ。
案外空いていて、子どもの姿もない。遊具は貸し切り状態だ。
「さて、それじゃあ……」
咲良は言うと、俺に荷物を預けてきた。あまりにも自然だったから、つい、受け取ってしまう。
「遊ぶぞー!」
咲良は言いながら、遊具に突進した。見れば百瀬も全力疾走だ。荷物は朝比奈に預けたらしい。そんで、大荷物を抱えた朝比奈もそわそわしている。
「朝比奈……」
なんだかもう、何でもどうでもよくなって、朝比奈から荷物を受け取った。
「……行ってこい」
その言葉を聞くや否や、朝比奈も遊具まで猛ダッシュした。さて、どこか飯が食えるような場所は……ああ、あの東屋いいな。テーブルと椅子もあることだし。
「よいしょ……っと」
荷物を置き、椅子に座る。あいつら元気だなあ。
「あはは! この滑り台、かなり怖い!」
波打つ赤い滑り台を百瀬が滑る。途中で浮いたぞ、あいつ。朝比奈は高いところに登っただけでも楽しいようで、遊具のてっぺんで目をキラキラさせていた。
咲良は……ブランコか。なんか妙に上手だな。みるみる勢いが増して、とんでもない高さになっていく。一回転しそうな勢いだったが、途中で勢いを緩める。見ているこっちがハラハラしていた。
「春都~、こっちのブランコ空いてるぞ~」
咲良が楽しそうにそう言って、自分の隣を指さすから、行かざるを得ない。
「お前、ブランコうまいな」
「昔っからやってるからなあ~。妹が生まれてからは特に公園で遊ぶこと多かったし、コツがあるんだぜ?」
「ほう」
俺は、ゆらゆら揺れているだけでいいな。目をつむると空を飛んでいるような気がしてくる。
「こうやって最大限足を延ばして~、折り曲げるタイミングがあってだな」
「すげえよ、お前は」
「なんか春都って妙なところで感心するよな~」
「そうか?」
素直にすげえと思ってるだけなんだがなあ……
満足するまで遊んだら、飯にする。
「いただきます」
幕の内弁当って、豪華だなあ。結局自分で作ることはなかったけど、まあいいや。
卵焼きに煮物、ひじきにコロッケに鮭。ご飯には黒ごまがかかっている。
まずはひじき。甘い味付けで、食感が楽しい。一緒に炊いてある大豆がトロトロで、ニンジンの色がまぶしい。
コロッケにはソースをかけて食べる。ちょっとだけ酸味のあるソースは、ジャガイモとひき肉のうま味によく合う。極限まで潰されたジャガイモはトロットロで、衣はサクサクだ。この食感の違いは、コンビニのコロッケならではだよなあ。
卵焼きは出汁巻きと甘いのの中間って感じだな。プルプルしている。ほんの少しひじきの色が移っているのがなんだか愛おしい。
鮭はほろほろと崩れ、塩加減もちょうどいい。皮は少し柔らかい。
ご飯を切って食べる感じが、弁当らしくて好きだ。やわらかめの米に、鮭がよく合う。黒ごまも香ばしくていいアクセントになっている。
「お菓子はねー、じゃん! 三色団子~。花見といったらこれでしょ」
百瀬は透明のパックを取り出した。中には、串にささったピンク、緑、白の団子がある。
「うまそうだな!」
咲良は言って、一本手に取った。
「あ、これ、あんこ入ってる……」
と、朝比奈が言うと、百瀬は少し得意げに言った。
「ピンクにはなんも入ってないけど、白にはこしあん、緑には白あんが入ってるよ~」
うん、これはうまいな。三色団子って、あんまり食べた記憶ないけど、これはうまい。ほんのり甘い団子はもちもちで、ペットボトルの緑茶がよく合う。白あんは上品な甘さで、こしあんはこっくりとしたうま味がたまらない。
団子の最後の一口を食べたとき、ふわっと目の前に桜がひとひら舞い降りた。今年は、結構いろんなところの桜を見たように思う。
そろそろ、見納めか。名残惜しいが、散るさまも美しいのが桜だ。
目の前のひとひらだけお土産にして、あとは目に焼き付けておくとしよう。
「ごちそうさまでした」
28
お気に入りに追加
253
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!


妻を蔑ろにしていた結果。
下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。
主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。
小説家になろう様でも投稿しています。
「一晩一緒に過ごしただけで彼女面とかやめてくれないか」とあなたが言うから
キムラましゅろう
恋愛
長い間片想いをしていた相手、同期のディランが同じ部署の女性に「一晩共にすごしただけで彼女面とかやめてくれないか」と言っているのを聞いてしまったステラ。
「はいぃ勘違いしてごめんなさいぃ!」と思わず心の中で謝るステラ。
何故なら彼女も一週間前にディランと熱い夜をすごした後だったから……。
一話完結の読み切りです。
ご都合主義というか中身はありません。
軽い気持ちでサクッとお読み下さいませ。
誤字脱字、ごめんなさい!←最初に謝っておく。
小説家になろうさんにも時差投稿します。
サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜
野谷 海
恋愛
「俺、やっぱり君が好きだ! 付き合って欲しい!」
「ごめんね青嶋くん……やっぱり青嶋くんとは付き合えない……」
この3度目の告白にも敗れ、青嶋将は大好きな小浦舞への想いを胸の内へとしまい込んで前に進む。
半年ほど経ち、彼らは何の因果か同じクラスになっていた。
別のクラスでも仲の良かった去年とは違い、距離が近くなったにも関わらず2人が会話をする事はない。
そんな折、将がアルバイトする焼鳥屋に入ってきた新人が同じ学校の同級生で、さらには舞の親友だった。
学校とアルバイト先を巻き込んでもつれる彼らの奇妙な三角関係ははたしてーー
⭐︎毎日朝7時に最新話を投稿します。
⭐︎もしも気に入って頂けたら、ぜひブックマークやいいね、コメントなど頂けるととても励みになります。
※表紙絵、挿絵はAI作成です。
※この作品はフィクションであり、作中に登場する人物、団体等は全て架空です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる