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日常
第五百九十五話 花見弁当
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パンパンに膨らんでいた桜のつぼみが、とうとう開いた。桜というのは気が付けばあっという間に咲くものだが、今年は、なんだかのんびり咲いたような気がする。
「おおー……」
花見に向かう道すがら、ちょっとした桜のトンネルを通る。車から見る桜も乙なものだ。
「天気が良くてよかったねー!」
と、助手席の母さんが言う。運転をしながら、父さんが「そうだなあ」と言った。その後ろの席にはじいちゃんとばあちゃんがうめずを挟んで座っていて、のんびりと外を眺めていた。その更に後ろの席でのびのびと桜のトンネルを眺めるのは悪くないな。
曇り空の日が何日か続いていたからなあ。曇り空を背景に見る桜も、雲が地上に降りてきたみたいできれいだったけど、やっぱり、桜は青空に映えるなあ。
「ん?」
写真を見ていたら、咲良からメッセージが送られてきた。桜に咲良……ややこしいなあ。
どうやら咲良も、家族で花見に出ているようだった。満開の桜の花の写真が送られてくる。弁当もお重に入って豪勢だ。というか、人が多い。
『花見なう』
たった一言しか添えられていないが、自撮り写真に写る咲良は浮かれた調子である。あっ、またメッセージが。
『親戚が集まって毎年恒例の花見中。酒の量がすごい』
あ、ほんとだ。酒盛りのお手本のようだなあ。でっかいボトルのお酒って、ほんとに需要あるんだ。
俺もさっき撮った写真を送る。
「うちも、花見に行く途中……っと」
「どうしたの、春都?」
母さんが振り返って聞いてくる。
「んー、咲良から連絡来た」
「あら、何て?」
「親戚が軒並み集まって花見だって。酒盛り状態」
咲良から『すげー』というスタンプが送られてきたタイミングで、公園に着いた。うめずの散歩コースにある公園とはまた違う、少し遠いところにある公園だ。遊歩道も整備され、手入れの行き届いた広場、悠々と鴨が泳ぐ池、立派な遊具、そしてなんといっても、たくさん植わった桜の木。公園中が薄紅色の雲で包まれているようにすら見える。
まあ、人も多いが。それでも場所取り合戦をする必要がないほどにはベンチやテーブルが設けられているので、落ち着いた雰囲気である。
「結構余裕があるね」
と、荷物を抱えたばあちゃんが言う。その荷物をじいちゃんが流れるように受け取って言った。
「あっちの方がいいんじゃないか」
「そうね」
じいちゃんが抱える荷物には、弁当がある。ばあちゃんと母さんお手製の花見弁当。それが楽しみなんだよなあ。
「ほら、お父さん。これ持って」
母さんが抱えていたクーラーボックスには飲み物やら何やらが入っている。
「あ、ああ」
「春都はこっち手伝って」
「はーい」
敷物はいらないから、寒いときに羽織る上着やらブランケットやらが入ったバッグを持って行くことにする。うめずは母さんと一緒に一番後ろからやってくる。
なだらかな坂になっている道の両端に、木製のテーブルと椅子がいくつかずつ設けられている。いくつかは埋まっているが、まだ余裕はありそうだ。それにここからは、近くの桜も、眼下に広がる町のあちこちに植わっている桜もよく見える。
少し上ったところ、隣の花見客とはテーブル二つ分離れた場所に座る。
さあっと風が吹くと少し寒い。
「おお」
桜吹雪だ。まぶしい太陽の光の中、青空に薄紅色の花弁が舞う。風と踊っている、という表現が自然と頭に浮かぶような光景だ。
まあ、俺は花より団子だが。
「さ、準備できたよー」
テーブルの上には、運動会の時に使う大きめの弁当箱が広げられていた。中には魅力的なおかずがたくさん詰まっている。うめずのために準備した特別なご飯もばっちりだ。
「いただきます」
からあげにエビフライ、卵焼きは出汁巻きと甘いのが両方。ハム巻き、ぐるぐる巻きのパン、おにぎり数種、いそべ揚げに豚の天ぷらもある。ウインナーもうまそうだ。
まずはからあげかなあ。紙皿と割りばしで食うのがいい。紙コップで飲むオレンジジュースもうまい。
少し冷えているが、これが弁当って感じだよなあ。サクッとしていて、カリカリで、身はプリッとジューシーで……香ばしい醤油の風味がたまらないな。皮もモチモチして、脂がじわじわとにじみ出る。
次はエビフライといそべ揚げ。
エビフライは小さめで尻尾もないからサクサクと食べやすく、まるでスナック菓子のような気軽さだ。衣が厚めで、サクッとしながらももっちりした食感が好きだ。醤油を少しかけると香ばしさとえびの風味が増す。小さいながらも、えびはぷりっぷりだ。
ハム巻きは、ハムの塩気とキュウリのみずみずしさ、マヨネーズのまろやかさのバランスがいい。つまようじに二つずつ刺さっているのがちょうどいいなあ。
パンにもハムとマヨネーズが巻いてある。ふかふかしていて甘さは控えめの、サンドイッチ用の薄いパンにプチッとはじけるようなハムの食感、マヨネーズはなんだかさっぱりして感じられる。
おにぎりはシンプルな塩とゴマ塩、梅干しにおかか。塩は豚の天ぷらと合う。豚の天ぷらはにんにく醤油の濃い味付けで、脂身はほのかに甘みがある。それに塩味の白米がよく合うことだ。
ゴマ塩はしょっぱい。ごまの香ばしい風味とこのしょっぱさが、たまらんのだよあなあ。
間に出汁巻きと甘い卵焼きを。
出汁巻きはジュワッと出汁が染み出してきてうまい。プリプリした食感で、いくらでも食べられそうだ。飲み物みたいだ。
甘い卵焼きは卵のコクも相まって、カステラのようだ。ほっとする味である。
梅干しは……酸味もあるがフルーティだ。白米によく合う。しその風味は程よくて、食感もいい。
おかかは醤油と相まって、うま味がすごいなあ。
ウインナーは揚げ焼きみたいにしてあって、食感も風味もいい。カリサクッとした表面にプリッとした中身、塩気と肉の風味がジワッと染み出してきていいなあ。
何より、天気のいい中で、春風の香りと一緒に味わえるのがいい。そして、家族の笑い声がすぐそばにある。うめずのふわふわしたしっぽが足に当たってくすぐったい。
ああ、幸せだ。
「ごちそうさまでした」
「おおー……」
花見に向かう道すがら、ちょっとした桜のトンネルを通る。車から見る桜も乙なものだ。
「天気が良くてよかったねー!」
と、助手席の母さんが言う。運転をしながら、父さんが「そうだなあ」と言った。その後ろの席にはじいちゃんとばあちゃんがうめずを挟んで座っていて、のんびりと外を眺めていた。その更に後ろの席でのびのびと桜のトンネルを眺めるのは悪くないな。
曇り空の日が何日か続いていたからなあ。曇り空を背景に見る桜も、雲が地上に降りてきたみたいできれいだったけど、やっぱり、桜は青空に映えるなあ。
「ん?」
写真を見ていたら、咲良からメッセージが送られてきた。桜に咲良……ややこしいなあ。
どうやら咲良も、家族で花見に出ているようだった。満開の桜の花の写真が送られてくる。弁当もお重に入って豪勢だ。というか、人が多い。
『花見なう』
たった一言しか添えられていないが、自撮り写真に写る咲良は浮かれた調子である。あっ、またメッセージが。
『親戚が集まって毎年恒例の花見中。酒の量がすごい』
あ、ほんとだ。酒盛りのお手本のようだなあ。でっかいボトルのお酒って、ほんとに需要あるんだ。
俺もさっき撮った写真を送る。
「うちも、花見に行く途中……っと」
「どうしたの、春都?」
母さんが振り返って聞いてくる。
「んー、咲良から連絡来た」
「あら、何て?」
「親戚が軒並み集まって花見だって。酒盛り状態」
咲良から『すげー』というスタンプが送られてきたタイミングで、公園に着いた。うめずの散歩コースにある公園とはまた違う、少し遠いところにある公園だ。遊歩道も整備され、手入れの行き届いた広場、悠々と鴨が泳ぐ池、立派な遊具、そしてなんといっても、たくさん植わった桜の木。公園中が薄紅色の雲で包まれているようにすら見える。
まあ、人も多いが。それでも場所取り合戦をする必要がないほどにはベンチやテーブルが設けられているので、落ち着いた雰囲気である。
「結構余裕があるね」
と、荷物を抱えたばあちゃんが言う。その荷物をじいちゃんが流れるように受け取って言った。
「あっちの方がいいんじゃないか」
「そうね」
じいちゃんが抱える荷物には、弁当がある。ばあちゃんと母さんお手製の花見弁当。それが楽しみなんだよなあ。
「ほら、お父さん。これ持って」
母さんが抱えていたクーラーボックスには飲み物やら何やらが入っている。
「あ、ああ」
「春都はこっち手伝って」
「はーい」
敷物はいらないから、寒いときに羽織る上着やらブランケットやらが入ったバッグを持って行くことにする。うめずは母さんと一緒に一番後ろからやってくる。
なだらかな坂になっている道の両端に、木製のテーブルと椅子がいくつかずつ設けられている。いくつかは埋まっているが、まだ余裕はありそうだ。それにここからは、近くの桜も、眼下に広がる町のあちこちに植わっている桜もよく見える。
少し上ったところ、隣の花見客とはテーブル二つ分離れた場所に座る。
さあっと風が吹くと少し寒い。
「おお」
桜吹雪だ。まぶしい太陽の光の中、青空に薄紅色の花弁が舞う。風と踊っている、という表現が自然と頭に浮かぶような光景だ。
まあ、俺は花より団子だが。
「さ、準備できたよー」
テーブルの上には、運動会の時に使う大きめの弁当箱が広げられていた。中には魅力的なおかずがたくさん詰まっている。うめずのために準備した特別なご飯もばっちりだ。
「いただきます」
からあげにエビフライ、卵焼きは出汁巻きと甘いのが両方。ハム巻き、ぐるぐる巻きのパン、おにぎり数種、いそべ揚げに豚の天ぷらもある。ウインナーもうまそうだ。
まずはからあげかなあ。紙皿と割りばしで食うのがいい。紙コップで飲むオレンジジュースもうまい。
少し冷えているが、これが弁当って感じだよなあ。サクッとしていて、カリカリで、身はプリッとジューシーで……香ばしい醤油の風味がたまらないな。皮もモチモチして、脂がじわじわとにじみ出る。
次はエビフライといそべ揚げ。
エビフライは小さめで尻尾もないからサクサクと食べやすく、まるでスナック菓子のような気軽さだ。衣が厚めで、サクッとしながらももっちりした食感が好きだ。醤油を少しかけると香ばしさとえびの風味が増す。小さいながらも、えびはぷりっぷりだ。
ハム巻きは、ハムの塩気とキュウリのみずみずしさ、マヨネーズのまろやかさのバランスがいい。つまようじに二つずつ刺さっているのがちょうどいいなあ。
パンにもハムとマヨネーズが巻いてある。ふかふかしていて甘さは控えめの、サンドイッチ用の薄いパンにプチッとはじけるようなハムの食感、マヨネーズはなんだかさっぱりして感じられる。
おにぎりはシンプルな塩とゴマ塩、梅干しにおかか。塩は豚の天ぷらと合う。豚の天ぷらはにんにく醤油の濃い味付けで、脂身はほのかに甘みがある。それに塩味の白米がよく合うことだ。
ゴマ塩はしょっぱい。ごまの香ばしい風味とこのしょっぱさが、たまらんのだよあなあ。
間に出汁巻きと甘い卵焼きを。
出汁巻きはジュワッと出汁が染み出してきてうまい。プリプリした食感で、いくらでも食べられそうだ。飲み物みたいだ。
甘い卵焼きは卵のコクも相まって、カステラのようだ。ほっとする味である。
梅干しは……酸味もあるがフルーティだ。白米によく合う。しその風味は程よくて、食感もいい。
おかかは醤油と相まって、うま味がすごいなあ。
ウインナーは揚げ焼きみたいにしてあって、食感も風味もいい。カリサクッとした表面にプリッとした中身、塩気と肉の風味がジワッと染み出してきていいなあ。
何より、天気のいい中で、春風の香りと一緒に味わえるのがいい。そして、家族の笑い声がすぐそばにある。うめずのふわふわしたしっぽが足に当たってくすぐったい。
ああ、幸せだ。
「ごちそうさまでした」
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