628 / 854
日常
第五百九十話 手作りクレープ
しおりを挟む
ありったけのクッションをベッドの上に置き、寄りかかれるようにする。まだうっすらと冷えるので、ブランケットも用意しよう。手元には、普段忙しくて読めていない漫画や、久々に読みたくなった漫画一式を積んでおく。
休みの日、たまにはのんびりぐうたら過ごすのもいい。
「よいしょ……っと」
クッションと漫画に埋もれるようにして座り、ブランケットを足にかける。あー、幸せだ。できることならここから動きたくない。まあ、極力動かないためにこんな空間を作ったわけだが。飲み物は水筒に入れて準備している。
まずはどれから読もうか。新しいやつからにしよう。ということは、前の巻から読むべきか。その方がより楽しめるかな。でも、早く読みたい気もする。
いいや、新しいの読んで、気になったら前のを読もう。
ビニールをはがして、まずは本の手触りを確かめる。電子書籍も便利でいいが、やっぱり、この本の手触りはたまらない。新しい本の匂い、紙の質感、表紙の手触り、重み……これはどうにも譲れない。
待ちに待った新刊、今回の表紙は真っ青な空がまぶしい。いまだ寒さの残る季節だが、本の中は真夏である。
「さて」
表紙をめくるときは、いつも少しだけ緊張する。でも、読み進めていくうちに、だんだんそんな気分は忘れてしまうのだが。
うんうん、今回もいい話だった。えーっと、次は何を読もうかな。そうだ、あれ、二回目まだだな。
本というのは初めて読む瞬間が最も感慨深いようにも思うが、二回目からが本番、みたいなところもある。一回目では読み切れなかった部分を二回目に読み、三回目になるとまた違うことに気付く……そういうのを繰り返すのが楽しい。
いまだに、もう何十回も読んだ本でも、こんなシーンがあったのかと思うときあるもんなあ。そして、飯テロ系の漫画は、何度読んでもいい。
「これか、これだな」
一巻から順番に読んでいくのも好きだが、遡って読んでいくのもなんか好きだ。一度順番に読んだからこそ楽しめる読み方でもある。そうそう、前の巻でそう言ってたよね、とか、ああ出てきたなあこの料理、とか、そうなるのが楽しい。
基本的に俺が読む漫画に出てくるのは、しょっぱい料理が多い。酒のつまみになりそうなやつだな。もちろん、ご飯にも合いそうだ。
でも甘いものが全く出てこないかというと、そうじゃない。クリームたっぷりのケーキとか、チョコレートと一緒に食べるチュロスとか、重々しいクレープとか。それもうまそうなんだよなあ。
しこたま本を読むと、満足感もあるが疲労もたまる。お茶を飲み、横になって天井を見上げる。
ふかふかのクッションに埋もれてぼんやりできる時間って、尊い。あちこち出かけるのも悪くはないのだが、やっぱり、俺は休みの日は家でのんびり過ごす方が好きだ。たまに出かけるのは、悪くないけどなあ。
とりあえず読みたい本は全部読んだことだし、しばらく目と頭を休めよう。昼寝するほどではないが、目をつむって周りの音に耳を澄ませるのは良い休息になる。
車のエンジン音、小鳥のさえずり、ヘリコプターの音も近い。きらきらと眩しい日差しは音が聞こえそうなまぶしさで、日の当たるところは暖かい。ポカポカ陽気の中でまどろむのは気持ちがいいなあ。
家の中も程よい音であふれている。昼下がりのワイドショーの笑い声、新聞をめくる音、食器が触れ合う音、何か調理を始めようとする音……
「……何作るんだ?」
なんとなく気になって起き上がる。扉を開けると、音は少し大きくなった。
「あっ、春都。ちょうどいいところに。手伝ってー」
台所に立っていた母さんがそう言って手招きをする。父さんは父さんで、テレビを見ながらバナナの皮をむいている。え、何でバナナ。
「何やってんの」
「おやつを作ろうと思って。クレープ」
「ああ、その具材でバナナ」
「ご名答」
台所には、小さないちごが詰まったパックとかみかんの缶詰とかもあった。全部家にあったやつだ。絞るだけのホイップクリームはいつ買ったんだろう。消費期限には余裕があるけど。
「私は生地を焼くから、春都はいちご切って」
「了解」
生地はホットケーキの粉を使うのか。薄く焼くの、難しそうだ。俺だったら途中であきらめてホットケーキでいいやってなりそう。
クレープに挟むいちごかあ。やっぱり薄く切った方がいいだろうか。でも、食べ応えも欲しいし……半分にしよう。へたを取って、しっかり洗って、水気を取ったら半分に切り分けて皿に盛る。甘酸っぱい、春の香りがする。
その間にも生地は次々焼かれていく。父さんは慎重にバナナを切り分けていた。
みかんの缶詰は器に盛る。
「はい、生地できた」
「果物もできた」
「バナナ、切り分けたよ~」
生地と果物をテーブルに持って行く。だらだらとテレビを流しながら食べるスイーツ、いいね。
「いただきます」
まずは生地にホイップクリームをたっぷりのせて、いちごを散りばめる。
ほのかに温かい生地に、ひんやりと冷たいホイップクリーム。クレープの醍醐味の一つだよな、この温度差は。もちっとはしているが歯切れのいい生地は、ほんのり甘いホットケーキ味だ。ホイップクリームの甘さは控えめで、いちごの酸味ある爽やかな甘みがよく合う。
今度はみかんを挟んでみよう。
ちょっと果物が生ぬるくなる感じ、面白い。シロップの甘さも相まって、スイーツ食ってるなあ、って実感する。缶詰のみかんは、ひんやり食べたい時もあるけど、こういうふうにぬるくなってもうまい。
みかんって、クリームとの相性がいまいちな気もしていたが、実際、そんなことはないんだな。
バナナ入れると、いかにもクレープって感じだ。食べ応えがあるのは、バナナクレープだな。バナナそのものがうまいから、クリーム少なめでも十分だ。あ、そうだ。余っていたチョコレートを一緒にくるんでみよう。
うん、間違いない。チョコバナナクレープ、うまい。
すべての果物をくるんでみる。豪華な味だ。みかんの甘味にいちごの酸味、バナナのこっくりとした味わい、少し冷めた生地の風味、クリームのコク。
家でも、一級のクレープって、作れるもんなんだなあ。
「ごちそうさまでした」
休みの日、たまにはのんびりぐうたら過ごすのもいい。
「よいしょ……っと」
クッションと漫画に埋もれるようにして座り、ブランケットを足にかける。あー、幸せだ。できることならここから動きたくない。まあ、極力動かないためにこんな空間を作ったわけだが。飲み物は水筒に入れて準備している。
まずはどれから読もうか。新しいやつからにしよう。ということは、前の巻から読むべきか。その方がより楽しめるかな。でも、早く読みたい気もする。
いいや、新しいの読んで、気になったら前のを読もう。
ビニールをはがして、まずは本の手触りを確かめる。電子書籍も便利でいいが、やっぱり、この本の手触りはたまらない。新しい本の匂い、紙の質感、表紙の手触り、重み……これはどうにも譲れない。
待ちに待った新刊、今回の表紙は真っ青な空がまぶしい。いまだ寒さの残る季節だが、本の中は真夏である。
「さて」
表紙をめくるときは、いつも少しだけ緊張する。でも、読み進めていくうちに、だんだんそんな気分は忘れてしまうのだが。
うんうん、今回もいい話だった。えーっと、次は何を読もうかな。そうだ、あれ、二回目まだだな。
本というのは初めて読む瞬間が最も感慨深いようにも思うが、二回目からが本番、みたいなところもある。一回目では読み切れなかった部分を二回目に読み、三回目になるとまた違うことに気付く……そういうのを繰り返すのが楽しい。
いまだに、もう何十回も読んだ本でも、こんなシーンがあったのかと思うときあるもんなあ。そして、飯テロ系の漫画は、何度読んでもいい。
「これか、これだな」
一巻から順番に読んでいくのも好きだが、遡って読んでいくのもなんか好きだ。一度順番に読んだからこそ楽しめる読み方でもある。そうそう、前の巻でそう言ってたよね、とか、ああ出てきたなあこの料理、とか、そうなるのが楽しい。
基本的に俺が読む漫画に出てくるのは、しょっぱい料理が多い。酒のつまみになりそうなやつだな。もちろん、ご飯にも合いそうだ。
でも甘いものが全く出てこないかというと、そうじゃない。クリームたっぷりのケーキとか、チョコレートと一緒に食べるチュロスとか、重々しいクレープとか。それもうまそうなんだよなあ。
しこたま本を読むと、満足感もあるが疲労もたまる。お茶を飲み、横になって天井を見上げる。
ふかふかのクッションに埋もれてぼんやりできる時間って、尊い。あちこち出かけるのも悪くはないのだが、やっぱり、俺は休みの日は家でのんびり過ごす方が好きだ。たまに出かけるのは、悪くないけどなあ。
とりあえず読みたい本は全部読んだことだし、しばらく目と頭を休めよう。昼寝するほどではないが、目をつむって周りの音に耳を澄ませるのは良い休息になる。
車のエンジン音、小鳥のさえずり、ヘリコプターの音も近い。きらきらと眩しい日差しは音が聞こえそうなまぶしさで、日の当たるところは暖かい。ポカポカ陽気の中でまどろむのは気持ちがいいなあ。
家の中も程よい音であふれている。昼下がりのワイドショーの笑い声、新聞をめくる音、食器が触れ合う音、何か調理を始めようとする音……
「……何作るんだ?」
なんとなく気になって起き上がる。扉を開けると、音は少し大きくなった。
「あっ、春都。ちょうどいいところに。手伝ってー」
台所に立っていた母さんがそう言って手招きをする。父さんは父さんで、テレビを見ながらバナナの皮をむいている。え、何でバナナ。
「何やってんの」
「おやつを作ろうと思って。クレープ」
「ああ、その具材でバナナ」
「ご名答」
台所には、小さないちごが詰まったパックとかみかんの缶詰とかもあった。全部家にあったやつだ。絞るだけのホイップクリームはいつ買ったんだろう。消費期限には余裕があるけど。
「私は生地を焼くから、春都はいちご切って」
「了解」
生地はホットケーキの粉を使うのか。薄く焼くの、難しそうだ。俺だったら途中であきらめてホットケーキでいいやってなりそう。
クレープに挟むいちごかあ。やっぱり薄く切った方がいいだろうか。でも、食べ応えも欲しいし……半分にしよう。へたを取って、しっかり洗って、水気を取ったら半分に切り分けて皿に盛る。甘酸っぱい、春の香りがする。
その間にも生地は次々焼かれていく。父さんは慎重にバナナを切り分けていた。
みかんの缶詰は器に盛る。
「はい、生地できた」
「果物もできた」
「バナナ、切り分けたよ~」
生地と果物をテーブルに持って行く。だらだらとテレビを流しながら食べるスイーツ、いいね。
「いただきます」
まずは生地にホイップクリームをたっぷりのせて、いちごを散りばめる。
ほのかに温かい生地に、ひんやりと冷たいホイップクリーム。クレープの醍醐味の一つだよな、この温度差は。もちっとはしているが歯切れのいい生地は、ほんのり甘いホットケーキ味だ。ホイップクリームの甘さは控えめで、いちごの酸味ある爽やかな甘みがよく合う。
今度はみかんを挟んでみよう。
ちょっと果物が生ぬるくなる感じ、面白い。シロップの甘さも相まって、スイーツ食ってるなあ、って実感する。缶詰のみかんは、ひんやり食べたい時もあるけど、こういうふうにぬるくなってもうまい。
みかんって、クリームとの相性がいまいちな気もしていたが、実際、そんなことはないんだな。
バナナ入れると、いかにもクレープって感じだ。食べ応えがあるのは、バナナクレープだな。バナナそのものがうまいから、クリーム少なめでも十分だ。あ、そうだ。余っていたチョコレートを一緒にくるんでみよう。
うん、間違いない。チョコバナナクレープ、うまい。
すべての果物をくるんでみる。豪華な味だ。みかんの甘味にいちごの酸味、バナナのこっくりとした味わい、少し冷めた生地の風味、クリームのコク。
家でも、一級のクレープって、作れるもんなんだなあ。
「ごちそうさまでした」
29
お気に入りに追加
253
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!


妻を蔑ろにしていた結果。
下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。
主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。
小説家になろう様でも投稿しています。
「一晩一緒に過ごしただけで彼女面とかやめてくれないか」とあなたが言うから
キムラましゅろう
恋愛
長い間片想いをしていた相手、同期のディランが同じ部署の女性に「一晩共にすごしただけで彼女面とかやめてくれないか」と言っているのを聞いてしまったステラ。
「はいぃ勘違いしてごめんなさいぃ!」と思わず心の中で謝るステラ。
何故なら彼女も一週間前にディランと熱い夜をすごした後だったから……。
一話完結の読み切りです。
ご都合主義というか中身はありません。
軽い気持ちでサクッとお読み下さいませ。
誤字脱字、ごめんなさい!←最初に謝っておく。
小説家になろうさんにも時差投稿します。
サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜
野谷 海
恋愛
「俺、やっぱり君が好きだ! 付き合って欲しい!」
「ごめんね青嶋くん……やっぱり青嶋くんとは付き合えない……」
この3度目の告白にも敗れ、青嶋将は大好きな小浦舞への想いを胸の内へとしまい込んで前に進む。
半年ほど経ち、彼らは何の因果か同じクラスになっていた。
別のクラスでも仲の良かった去年とは違い、距離が近くなったにも関わらず2人が会話をする事はない。
そんな折、将がアルバイトする焼鳥屋に入ってきた新人が同じ学校の同級生で、さらには舞の親友だった。
学校とアルバイト先を巻き込んでもつれる彼らの奇妙な三角関係ははたしてーー
⭐︎毎日朝7時に最新話を投稿します。
⭐︎もしも気に入って頂けたら、ぜひブックマークやいいね、コメントなど頂けるととても励みになります。
※表紙絵、挿絵はAI作成です。
※この作品はフィクションであり、作中に登場する人物、団体等は全て架空です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる