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日常
第五百七十三話 ばあちゃん飯
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家に帰りつくともういい時間だったので、三人とも帰ることになった。散々遊んで疲れてはいるが、色々食べまくったおかげか、割と回復が早そうだ。
エントランスで三人を見送る。百瀬が元気よく言った。
「また遊びに来るよ!」
「色々世話かけたな」
朝比奈は言うと荷物を背負いなおした。
「なかなか賑やかな時間を過ごさせてもらった」
言えば百瀬は「楽しかったねえ」としみじみつぶやいた。
「じゃ、またね。今度はまた違うところ遊びに行こう」
「ああ、気を付けて帰れよ」
「また明日な」
朝比奈の言葉で思い知る。そっか、明日は学校か。
「俺、もう一泊してもいい気分」
二人が帰路に着いた後、隣でそんなことを言うのは咲良だ。咲良は本当に帰りたくないのか、なかなか家の前を離れようとしない。
「明日は学校だろ。そういうわけにもいかない」
「じゃあ、明日が学校休みだったら、もう一泊していいってこと?」
「どうだろうな」
「なんだよ~」
と、咲良は肩を小突いて笑った。
「でもまあ、休めないし、休みにもなんないし。帰るわ。二連泊はまた今度な」
「おう、気を付けてな」
咲良もしっかり見送ったら、中に入る。
「……ただいま」
なんだか、いつにも増して静かな感じがする。さっきまでやかましかったからなあ。なんか変な感じだ。父さんと母さんが仕事に出た後とはまた違う、何だろう。嵐が過ぎ去った後、みたいな。さみしさと安堵の両方が混在する感じがする。
布団片付けないと。洗濯するのは……今度の週末でいいか。とりあえず客間の隅に寄せておこう。
今日は部屋にあまりいなかったから、散らかっていない。すっかりがらんとしてしまった居間に、沈み始めた太陽の薄明かりが差し込んでいる。うめずの毛並みがキラキラして、ソファに埋もれた。
「晩飯どうすっかなあ……」
冷蔵庫に大抵の食材はある。でもなにも思いつかない。食い過ぎたか。ま、いいや。腹は減るだろうし、減ったときに何食いたいか考えよう。
準備するにはまだ早いし、少しのんびりしよう。
「ふあ……あ」
なんか、気が抜けたなあ。疲れたというより、ぼんやりしている。今の今まで夢を見ていたみたいだ。ソファに横になり、グーッと伸びをする。
「あ、片付け」
そうだそうだ。買ってきたものを片付けないと。
「よいしょ」
反動をつけて起き上がる。
餅は箱ごと冷凍庫に入れておく。食べたい時にレンジでチンすれば食えるんだな。せんべいはお菓子コーナーに並べておこう。七味せんべい、いつ食べようかなあ。
片づけ終わった棚を眺めていたら、インターホンが鳴った。
「あれ、何だろう」
誰か忘れものでもしたのだろうか。そう思ってモニターを見ると、ばあちゃんが見えた。
「おお」
『春都、来たよ』
「はーい」
こりゃいい。お土産を渡せる。
「帰ってたのね、どうだった?」
一応ばあちゃんたちにも天満宮の方へ行くと連絡していたので、ばあちゃんはそう聞いてきた。
「楽しかったよ」
「そう、よかった」
「これお土産」
「ありがとう。ちょっと期待してたのよ」
期待されてたか。せんべいも一緒に入れておいてよかった。
「晩ご飯は?」
「いや、まだ思いつかなくて」
「また色々食べ歩いてきたんでしょう?」
へへ、ばあちゃんにはバレてるみたいだ。ばあちゃんは笑うと、台所に向かった。
「食べるのは食べるでしょ」
「それはもちろん」
「じゃあ、作るね」
やった。めっちゃうれしい。
何作ってくれるんだろうなあ。作っている様子を見るのも楽しいけど、何ができるか楽しみにしながら待つのもいい。待っている間に、ばあちゃんは風呂まで準備してくれた。
「お風呂入っちゃいなさい。疲れたでしょ」
「はーい」
熱々の風呂に入り、身も心もホッカホカになって居間に向かう。
あ、なんか甘辛い匂いがする。何だろう。
「どう? おなかは空いた?」
「空いたー」
「元気ねぇ」
とっぷりと陽が沈むころには、腹にたまっていたものもすっかり消化されてしまった。どんぶりに山盛りご飯。いい光景だ。
「いただきます」
牛肉とこんにゃくを甘辛く炊いたものに、トマトのざく切り、それとキムチだな。あー、なんかじいちゃんとばあちゃんの家で飯食ってるみたいだ。
まずは牛肉だなあ。たっぷりご飯にのせて、こんにゃくものせて、つゆだくにする。薄切りの牛肉は、やわらかい。しっかり噛み応えのあるところもありつつ、とろけるようである。絶妙な甘辛い味付けのおかげでもあるのだろう。脂身も甘くてうまいなあ。
牛肉のうま味は、白米に合う。これは牛丼とはまた違う味わいで、白米の風味を感じつつも肉の濃いうま味と味わいが強く感じられる。
こんにゃくの食感もたまらないなあ。ギュッギュッとしているような、味が染み染みのこんにゃく。つい無心で食べてしまう。
少し一味が入っているから、辛さで味が引き締まるんだな。
キムチもうまい。白菜のサラダ、って感じの和風キムチだ。辛いだけではなくうま味もあり、赤色は控えめだ。どちらかというとオレンジっぽい。うちのキムチは、いつもこれだ。
トマトも爽やかだなあ。塩を少しかけたり、マヨネーズをつけたりして食べる。塩だと甘みが際立ち、マヨネーズはサラダっぽさが増す。
そんでまた、牛肉に。甘辛い汁が口いっぱいに広がって、うまいなあ。
なんか少し寂しい気分がしていたけど、すっかりどこかへ行ってしまったようだ。
うまい飯って、偉大だなあ。
「ごちそうさまでした」
エントランスで三人を見送る。百瀬が元気よく言った。
「また遊びに来るよ!」
「色々世話かけたな」
朝比奈は言うと荷物を背負いなおした。
「なかなか賑やかな時間を過ごさせてもらった」
言えば百瀬は「楽しかったねえ」としみじみつぶやいた。
「じゃ、またね。今度はまた違うところ遊びに行こう」
「ああ、気を付けて帰れよ」
「また明日な」
朝比奈の言葉で思い知る。そっか、明日は学校か。
「俺、もう一泊してもいい気分」
二人が帰路に着いた後、隣でそんなことを言うのは咲良だ。咲良は本当に帰りたくないのか、なかなか家の前を離れようとしない。
「明日は学校だろ。そういうわけにもいかない」
「じゃあ、明日が学校休みだったら、もう一泊していいってこと?」
「どうだろうな」
「なんだよ~」
と、咲良は肩を小突いて笑った。
「でもまあ、休めないし、休みにもなんないし。帰るわ。二連泊はまた今度な」
「おう、気を付けてな」
咲良もしっかり見送ったら、中に入る。
「……ただいま」
なんだか、いつにも増して静かな感じがする。さっきまでやかましかったからなあ。なんか変な感じだ。父さんと母さんが仕事に出た後とはまた違う、何だろう。嵐が過ぎ去った後、みたいな。さみしさと安堵の両方が混在する感じがする。
布団片付けないと。洗濯するのは……今度の週末でいいか。とりあえず客間の隅に寄せておこう。
今日は部屋にあまりいなかったから、散らかっていない。すっかりがらんとしてしまった居間に、沈み始めた太陽の薄明かりが差し込んでいる。うめずの毛並みがキラキラして、ソファに埋もれた。
「晩飯どうすっかなあ……」
冷蔵庫に大抵の食材はある。でもなにも思いつかない。食い過ぎたか。ま、いいや。腹は減るだろうし、減ったときに何食いたいか考えよう。
準備するにはまだ早いし、少しのんびりしよう。
「ふあ……あ」
なんか、気が抜けたなあ。疲れたというより、ぼんやりしている。今の今まで夢を見ていたみたいだ。ソファに横になり、グーッと伸びをする。
「あ、片付け」
そうだそうだ。買ってきたものを片付けないと。
「よいしょ」
反動をつけて起き上がる。
餅は箱ごと冷凍庫に入れておく。食べたい時にレンジでチンすれば食えるんだな。せんべいはお菓子コーナーに並べておこう。七味せんべい、いつ食べようかなあ。
片づけ終わった棚を眺めていたら、インターホンが鳴った。
「あれ、何だろう」
誰か忘れものでもしたのだろうか。そう思ってモニターを見ると、ばあちゃんが見えた。
「おお」
『春都、来たよ』
「はーい」
こりゃいい。お土産を渡せる。
「帰ってたのね、どうだった?」
一応ばあちゃんたちにも天満宮の方へ行くと連絡していたので、ばあちゃんはそう聞いてきた。
「楽しかったよ」
「そう、よかった」
「これお土産」
「ありがとう。ちょっと期待してたのよ」
期待されてたか。せんべいも一緒に入れておいてよかった。
「晩ご飯は?」
「いや、まだ思いつかなくて」
「また色々食べ歩いてきたんでしょう?」
へへ、ばあちゃんにはバレてるみたいだ。ばあちゃんは笑うと、台所に向かった。
「食べるのは食べるでしょ」
「それはもちろん」
「じゃあ、作るね」
やった。めっちゃうれしい。
何作ってくれるんだろうなあ。作っている様子を見るのも楽しいけど、何ができるか楽しみにしながら待つのもいい。待っている間に、ばあちゃんは風呂まで準備してくれた。
「お風呂入っちゃいなさい。疲れたでしょ」
「はーい」
熱々の風呂に入り、身も心もホッカホカになって居間に向かう。
あ、なんか甘辛い匂いがする。何だろう。
「どう? おなかは空いた?」
「空いたー」
「元気ねぇ」
とっぷりと陽が沈むころには、腹にたまっていたものもすっかり消化されてしまった。どんぶりに山盛りご飯。いい光景だ。
「いただきます」
牛肉とこんにゃくを甘辛く炊いたものに、トマトのざく切り、それとキムチだな。あー、なんかじいちゃんとばあちゃんの家で飯食ってるみたいだ。
まずは牛肉だなあ。たっぷりご飯にのせて、こんにゃくものせて、つゆだくにする。薄切りの牛肉は、やわらかい。しっかり噛み応えのあるところもありつつ、とろけるようである。絶妙な甘辛い味付けのおかげでもあるのだろう。脂身も甘くてうまいなあ。
牛肉のうま味は、白米に合う。これは牛丼とはまた違う味わいで、白米の風味を感じつつも肉の濃いうま味と味わいが強く感じられる。
こんにゃくの食感もたまらないなあ。ギュッギュッとしているような、味が染み染みのこんにゃく。つい無心で食べてしまう。
少し一味が入っているから、辛さで味が引き締まるんだな。
キムチもうまい。白菜のサラダ、って感じの和風キムチだ。辛いだけではなくうま味もあり、赤色は控えめだ。どちらかというとオレンジっぽい。うちのキムチは、いつもこれだ。
トマトも爽やかだなあ。塩を少しかけたり、マヨネーズをつけたりして食べる。塩だと甘みが際立ち、マヨネーズはサラダっぽさが増す。
そんでまた、牛肉に。甘辛い汁が口いっぱいに広がって、うまいなあ。
なんか少し寂しい気分がしていたけど、すっかりどこかへ行ってしまったようだ。
うまい飯って、偉大だなあ。
「ごちそうさまでした」
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