一条春都の料理帖

藤里 侑

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日常

第五百七十話 朝ごはん

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 夜も更けて眠気が色濃くなってきたころ、普段見ない深夜のバラエティ番組を大して見もしないのになんとなく流しながらだらだらと過ごしていたら、咲良が言った。
「明日はどうするよ?」
「どうするって……帰るんだろ?」
「え~? せっかく泊りなのにぃ」
 咲良が不満げに言えば、百瀬もこたつにもぐりこんだまま言った。
「どっか遊び行きたいよね」
「そうなんだよ~。ちょっと足伸ばしてさ、天満宮まで行こうぜ!」
「急だなあ……」
 二人はすっかり乗り気のようで、着々と計画を進めている。まあ別に予定もないし、いいんだけどさあ……
「おい、朝比奈。なんか勝手に決まってるぞ」
 すっかりおやすみモードになってしまい、近くのクッションをしっかり枕にして眠っていた朝比奈に言う。朝比奈は起きてんだか寝てんだか分からない様子で言った。
「んぇ……任せる……」
「任せていいのか」
「んん……」
 もぞもぞと朝比奈は寝返りをうった。咲良と百瀬はすでにバスや電車をスマホで探しているようだった。
「何時出発にする? 早すぎるのもしんどいよねぇ」
「遅すぎてもなあ」
 ああ、もう行くのは決定か。
「おい、朝比奈がもう限界だぞ」
 言えば、咲良と百瀬はちらっと朝比奈を確認し、おもむろに立ち上がった。
「ありゃ、じゃあもう寝るか。明日早いし」
「結局何時になったんだ」
「んー、九時出発ぐらいかなー。なあ、百瀬」
「それくらいでいいんじゃない?」
 それじゃあ朝はそこまであわてなくてよさそうだ。どうせ六時前には目が覚める。
「ほらー、貴志~。こたつで寝るなよー」
 百瀬が、こたつから朝比奈を引っ張り出す。その様子を見て咲良が笑った。
「朝比奈の収穫だ」
「収穫……」
「回収の方が近いかな」
「ああ、そっちの方がしっくりくる。水族館のアザラシって、たまにこうやって引っ張られてるな」
 朝比奈は立ち上がり、ペタペタと歩き始めた。ああ、ペンギンにも見えるなあ。

 やっぱり、六時前には目が覚めた。身支度を整え廊下に出ると、客間の方からうっすらと寝息が聞こえてきてびっくりした。ああ、そっか。人いたんだ。三人ともまだ寝てるんだな。
「ふぁ……あ」
 顔を洗い歯磨きも済ませて居間に戻る。うめずもまだ夢の中だ。さて、今のうちに朝飯の仕込みをするかね。
 朝早く、どこかに出かけるために朝飯の準備をするっていうのは好きだ。眠いし、ゆっくりしたい気分もあるが、なんだかワクワクそわそわして落ち着かない感じ。皆が起きてくる前の、少しの静かな時間に淡々と一日の始まりの準備をする。その行為がなんともいえず、好きなのだ。
 薄暗い部屋に常夜灯、台所には明るくて白い光をともす。
「ああ、いいにおい」
 炊き立てご飯の香りがいいにおいだと思えるのは、幸せだ。俺にとって、自分がいま健康だという指標になるから。体調悪いと飯の匂いがしんどいんだよなあ。あと、出汁の匂い。
 まずはおにぎりからだな。ラップで俵型に握っていき、あらかじめ塩をふっておいた皿にのせていく。今日は塩をきつめに、のりを巻こうかな。
 おかずは……ウインナーと卵焼き、それとなんか野菜でいいか。
 ウインナーは三等分くらいにして焼く。カリッとした感じになるまで焼いた方がうまいと、俺は思っている。卵焼きはいつものごとく甘めで。あいつら、甘い卵焼き食えるやつらでよかった。
 ウインナーを炒めた後のフライパンで、千切りキャベツを炒める。これがうまいんだよなあ。
 そろそろ常夜灯から普通の明かりにしよう。あいつらが起きてくるまでに片付けまで済ませておきたい。
「あ、春都おはよぉ。早いねえ」
 洗濯を干していたところで、咲良が起きてきた。
「おう、おはよう。お前が最初か」
「二人もそろそろ起きてくると思うよ」
 咲良はぼんやりと笑うと、テーブルの上を見て「すげえ、朝飯だ」と言った。
「なんかワクワクすんなあ。こう……はじまり! って感じ」
「なんだそれは」
 咲良の話に苦笑していると、朝比奈と百瀬も起きてきた。
「おっはよー……あっ、朝ごはんできてるー!」
「うまそうだな……」
 寝起き早々、食欲旺盛だな。まあ、それは俺もか。
 取り皿と箸と麦茶を人数分用意して、さっそく朝飯だ。
「いただきます」
 まずはキャベツから。ほんのり温かく、しんなりとしたキャベツはうまい。塩こしょうの味わいも程よく、ウインナーのうま味が染みている。そうそう、これがいいんだ。ウインナーそのものはないけど、その気配のある塩こしょう味。
 ウインナーもぷりっぷりだ。このジューシーさがいいんだよ。程よい香辛料の風味に、カリカリのところは香ばしく、食感もいい。
「こういう朝飯っていいよなー。なんか、お出かけって感じ!」
 咲良が楽しそうに言って、おにぎりをほおばった。
「いい塩加減~」
 うん、やっぱりおにぎりにしたときは、塩はきつめの方がいいみたいだ。のりの風味も程よくたって、米の甘味もよく分かる。
「運動会の朝って感じでもあるよね」
 と、百瀬は卵焼きを気に入ったのか、次々食べている。
「優太、俺たちも卵焼き食いたい」
 朝比奈が言うと、百瀬は「ごめんごめん」と言いながら、もう一つ卵焼きを取った。
「あはは。ついおいしくて」
 甘さ、ちょうどよかったみたいだな。卵の風味と砂糖の甘さ、このバランスがいいと、今日一日がうまくいくような気がしてくる。
 我ながら、完璧な朝ごはんだったな。

「ごちそうさまでした」
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