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日常
第五百六十九話 鍋パーティ
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鍋用の野菜を切り、肉を準備し、鍋とガスコンロをこたつに出す。そんで次は布団を。
「よいしょ」
客間に三組目の布団を運んだところで、インターホンが鳴った。
「はいはい、っと」
ああ、来た来た。満面の笑みで、咲良が楽しそうに言った。
『来たぜー、開けてくれー』
「おう」
間もなくして、玄関のインターホンが鳴った。扉を開け、三人を迎え入れる。
「よぉ、来たな」
「おじゃましまーっす!」
咲良と百瀬は遠慮など知らず、そそくさと家に上がる。朝比奈は「急に悪いな」と言って、持ってきたらしい土産を差し出してきた。
「お前は律儀だなあ。ありがたくもらうよ」
「結構日持ちするお菓子だし、家族で食べてくれ」
「おっ、そりゃ嬉しいな」
今度緑茶でも入れてのんびり食おう。
「おーっ、鍋の準備できてる!」
居間に行ってそう歓声を上げるのは咲良だ。咲良は手に持っていた黒い袋を掲げて言った。
「な、な。俺さ、映画借りてきたんだ~。見ながら食おうぜ! あ、それとも風呂が先?」
「落ち着け。風呂は今準備してるから」
「あ、うめず~」
百瀬はうめずに吸い寄せられていく。うめずはたじろぐことも飛びつくこともなく、「苦しゅうない、近う寄れ」とでも言わんばかりの態度でソファに座っている。
「じゃあー、風呂入って~、映画見ながら飯食おうな!」
咲良は心底楽しそうに笑って、うめずの隣に座った。百瀬はその反対隣に座って、うめずを撫でまわした。そんな二人と一匹を見て、朝比奈がぼそりとつぶやいた。
「……大富豪みたいな貫禄があるな」
「石油王とか?」
「うん、あとは殿様とか」
確かに、そう言われればそう見えてくるなあ。
風呂も済ませ、もろもろの準備も済ませ、揃ってこたつにもぐりこむ。うめずも今日は近くで一緒に食うことにした。
「そろそろいいかな」
やけどしないように、火にかけた土鍋のふたを開ける。おお、いい感じだ。豆腐に長ネギ、白菜、鶏肉、ぶなしめじ。いかにも鍋、って感じの具材だが、これがいいんだよなあ。
「おぉ……」
「うまそう!」
「いいねー!」
たれはポン酢とごまで。
「いただきます」
食べ始めと同時に、映画も再生する。
まずはとりあえず全部よそって、ポン酢からかなあ。白菜は葉の部分から食べよう。ポン酢のさっぱりした酸味と風味に、シャキシャキとほんの少し食感の残った白菜の葉がよく合う。芯の方はトロットロでうまいなあ。
豆腐はプルプルしている。熱々で、すぐやけどしてしまいそうである。白菜でくるんで食うのもうまい。ぶなしめじはきのこらしい風味がして、食べ応えがある。食感が好きなんだよなあ、ぶなしめじ。
鶏肉、ほろほろとほどいて、ひたひたにして食うのがいい。もちもちしつつ、淡白な口当たりで、皮はプルプルだ。臭みはなく、ポン酢とよく合う。少し冷めたら一口で食うのもいいんだなあ。
長ネギはしゃきっとトロッとしていて、甘い。
鍋はおかずにならない、などと言う人もいるかもしれないが、俺は、おかずになると思う派だ。
ごまだれで食うと、もっとおかずっぽい。ごまの風味と香ばしさ、食べ応えが加わって、ご飯が進むんだなあ。
「んー、やっぱ春都の飯はうめぇな」
咲良が鶏肉を食いながら言った。
「別に、白だし入れて煮ただけだ」
「でも俺作れないもん」
「鍋ってさ~、いざ作るとなると分かんないもんだよね~」
百瀬は白菜をおかわりしている。
「……調理実習ですらまともに作れなかったし、えらそうなことは言えない」
と、朝比奈はのんびりと豆腐を箸で切り分けながら言った。
そんなもんかねえ。まあ、うまいならいいか。鶏の味わいが滲み出してきた出汁は、白だしだけとはまた違って、コクと深みがある。
ポン酢とごまだれを合わせたやつが何気にうまいなあ。ポン酢の酸味とさっぱり感、ごまだれのコクと深みがうまく合わさって、一番うまい。
「あ、この俳優、この映画出てたんだ」
咲良の言葉でテレビに目を向ける。昔っていうほどでもないが、結構前の作品だな、これ。一時期話題になってたし、ドラマも面白かったんだよなあ。推理もので、どろどろしてなくて、楽しいんだ。
「誰」
「ドラマで主演やってる。水曜だっけ?」
「あー、あの人ね。出てたんだぁ」
百瀬はピンときたようだが、朝比奈と俺はいまいちわからない。
「分かるか、朝比奈」
「うーん……原作しか知らない」
「あ、原作は分かる。最近新作出たよな」
原作小説も面白いんだよなあ。
映画が一本終わる頃には、片付けも済んだ。あっという間に食い終わったな。あれだけの量がなくなるとは。
「ね、一条。耐熱のお皿貸してよ」
ああ、そういや百瀬がなんか作るっつってたな。
「おーいいぞ。この辺の白い皿は耐熱だから」
「ありがとー」
鍋もガスコンロも片付いたテーブルには、マシュマロとクッキーがあった。
百瀬が準備したのは、トロトロに溶けたチョコレートだった。
「簡易版チョコレートフォンデュ!」
「おおー」
簡易版と言うが、とても豪華だ。
二本目の映画……今度はアニメのやつを流しながら食う。コメディというよりギャグという表現が似合う作品だ。
しょっぱい口に、チョコレートの甘さが染みる。マシュマロにたっぷりチョコレートをつけて食べる。なんて贅沢なおやつだろう。もふもふ、ねっとりとしたマシュマロの食感にチョコレートのほんのりとした苦みがたまらなく合う。チョコレートが入ったマシュマロとはまた違うおいしさがあるな。
クッキーもうまい。コーティングされたチョコレートがかたまったクッキーは食ったことあるけど、トロトロなのはあんまりない。サクッとしつつ、とろりととろける感じがなんともいえないなあ。
クッキーでマシュマロ挟んで、チョコレートたっぷり浸して食うのもいい。ジュワジュワに染みたチョコレートがクッキーからあふれ出して、たまらん。
「はー、食った食った」
満腹だ。まさかこんなことになるとはなあ。
まだまだ夜は長そうだし、寝る頃には消化するだろう。
「ごちそうさまでした」
「よいしょ」
客間に三組目の布団を運んだところで、インターホンが鳴った。
「はいはい、っと」
ああ、来た来た。満面の笑みで、咲良が楽しそうに言った。
『来たぜー、開けてくれー』
「おう」
間もなくして、玄関のインターホンが鳴った。扉を開け、三人を迎え入れる。
「よぉ、来たな」
「おじゃましまーっす!」
咲良と百瀬は遠慮など知らず、そそくさと家に上がる。朝比奈は「急に悪いな」と言って、持ってきたらしい土産を差し出してきた。
「お前は律儀だなあ。ありがたくもらうよ」
「結構日持ちするお菓子だし、家族で食べてくれ」
「おっ、そりゃ嬉しいな」
今度緑茶でも入れてのんびり食おう。
「おーっ、鍋の準備できてる!」
居間に行ってそう歓声を上げるのは咲良だ。咲良は手に持っていた黒い袋を掲げて言った。
「な、な。俺さ、映画借りてきたんだ~。見ながら食おうぜ! あ、それとも風呂が先?」
「落ち着け。風呂は今準備してるから」
「あ、うめず~」
百瀬はうめずに吸い寄せられていく。うめずはたじろぐことも飛びつくこともなく、「苦しゅうない、近う寄れ」とでも言わんばかりの態度でソファに座っている。
「じゃあー、風呂入って~、映画見ながら飯食おうな!」
咲良は心底楽しそうに笑って、うめずの隣に座った。百瀬はその反対隣に座って、うめずを撫でまわした。そんな二人と一匹を見て、朝比奈がぼそりとつぶやいた。
「……大富豪みたいな貫禄があるな」
「石油王とか?」
「うん、あとは殿様とか」
確かに、そう言われればそう見えてくるなあ。
風呂も済ませ、もろもろの準備も済ませ、揃ってこたつにもぐりこむ。うめずも今日は近くで一緒に食うことにした。
「そろそろいいかな」
やけどしないように、火にかけた土鍋のふたを開ける。おお、いい感じだ。豆腐に長ネギ、白菜、鶏肉、ぶなしめじ。いかにも鍋、って感じの具材だが、これがいいんだよなあ。
「おぉ……」
「うまそう!」
「いいねー!」
たれはポン酢とごまで。
「いただきます」
食べ始めと同時に、映画も再生する。
まずはとりあえず全部よそって、ポン酢からかなあ。白菜は葉の部分から食べよう。ポン酢のさっぱりした酸味と風味に、シャキシャキとほんの少し食感の残った白菜の葉がよく合う。芯の方はトロットロでうまいなあ。
豆腐はプルプルしている。熱々で、すぐやけどしてしまいそうである。白菜でくるんで食うのもうまい。ぶなしめじはきのこらしい風味がして、食べ応えがある。食感が好きなんだよなあ、ぶなしめじ。
鶏肉、ほろほろとほどいて、ひたひたにして食うのがいい。もちもちしつつ、淡白な口当たりで、皮はプルプルだ。臭みはなく、ポン酢とよく合う。少し冷めたら一口で食うのもいいんだなあ。
長ネギはしゃきっとトロッとしていて、甘い。
鍋はおかずにならない、などと言う人もいるかもしれないが、俺は、おかずになると思う派だ。
ごまだれで食うと、もっとおかずっぽい。ごまの風味と香ばしさ、食べ応えが加わって、ご飯が進むんだなあ。
「んー、やっぱ春都の飯はうめぇな」
咲良が鶏肉を食いながら言った。
「別に、白だし入れて煮ただけだ」
「でも俺作れないもん」
「鍋ってさ~、いざ作るとなると分かんないもんだよね~」
百瀬は白菜をおかわりしている。
「……調理実習ですらまともに作れなかったし、えらそうなことは言えない」
と、朝比奈はのんびりと豆腐を箸で切り分けながら言った。
そんなもんかねえ。まあ、うまいならいいか。鶏の味わいが滲み出してきた出汁は、白だしだけとはまた違って、コクと深みがある。
ポン酢とごまだれを合わせたやつが何気にうまいなあ。ポン酢の酸味とさっぱり感、ごまだれのコクと深みがうまく合わさって、一番うまい。
「あ、この俳優、この映画出てたんだ」
咲良の言葉でテレビに目を向ける。昔っていうほどでもないが、結構前の作品だな、これ。一時期話題になってたし、ドラマも面白かったんだよなあ。推理もので、どろどろしてなくて、楽しいんだ。
「誰」
「ドラマで主演やってる。水曜だっけ?」
「あー、あの人ね。出てたんだぁ」
百瀬はピンときたようだが、朝比奈と俺はいまいちわからない。
「分かるか、朝比奈」
「うーん……原作しか知らない」
「あ、原作は分かる。最近新作出たよな」
原作小説も面白いんだよなあ。
映画が一本終わる頃には、片付けも済んだ。あっという間に食い終わったな。あれだけの量がなくなるとは。
「ね、一条。耐熱のお皿貸してよ」
ああ、そういや百瀬がなんか作るっつってたな。
「おーいいぞ。この辺の白い皿は耐熱だから」
「ありがとー」
鍋もガスコンロも片付いたテーブルには、マシュマロとクッキーがあった。
百瀬が準備したのは、トロトロに溶けたチョコレートだった。
「簡易版チョコレートフォンデュ!」
「おおー」
簡易版と言うが、とても豪華だ。
二本目の映画……今度はアニメのやつを流しながら食う。コメディというよりギャグという表現が似合う作品だ。
しょっぱい口に、チョコレートの甘さが染みる。マシュマロにたっぷりチョコレートをつけて食べる。なんて贅沢なおやつだろう。もふもふ、ねっとりとしたマシュマロの食感にチョコレートのほんのりとした苦みがたまらなく合う。チョコレートが入ったマシュマロとはまた違うおいしさがあるな。
クッキーもうまい。コーティングされたチョコレートがかたまったクッキーは食ったことあるけど、トロトロなのはあんまりない。サクッとしつつ、とろりととろける感じがなんともいえないなあ。
クッキーでマシュマロ挟んで、チョコレートたっぷり浸して食うのもいい。ジュワジュワに染みたチョコレートがクッキーからあふれ出して、たまらん。
「はー、食った食った」
満腹だ。まさかこんなことになるとはなあ。
まだまだ夜は長そうだし、寝る頃には消化するだろう。
「ごちそうさまでした」
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