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日常
第五百六十五話 おにぎり
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翌日も朝からいい天気だった。せっかくなのでうめずの散歩に出かけたら、公園で田中さんに会った。日課のランニング中らしい。
「最近は暖かくなって、気持ちがいいね」
何かのCMかな、と思うほど爽やかな笑みで、田中さんは言った。
「そうですね。早いとこ春になってほしいです」
「はは、そうだなあ」
「わうっ!」
「お、うめずも元気そうだなあ」
この人に会うと思いっきり走れる、と知っているうめずは、尻尾をぶんぶんと振り回しながら田中さんにじゃれついた。おう、うめず、飼い主に尻尾バシバシ当たってるぞ。引っ張るな引っ張るな。
「うめず、何やってる。落ち着け~」
「はは、一緒に走るか?」
「わふ!」
うめずのテンションが上がって仕方がないので、厚意に甘えて、リードを田中さんに託す。
「じゃ、ひとっ走り行ってくる」
「お気をつけて」
「わうっ」
「うめずもあんまり暴れんなよー」
田中さんとうめずが颯爽と走り去った後、近くにあった遊具に座る。この遊具、何に使うんだろう。似たような丸太が等間隔にいくつもあるが……ああ、飛び乗っていくのか。
さわさわと草木を揺らした風は湖面を滑り、日光をきらめかせてどこかへ過ぎ去る。穏やかだなあ。陽は出ているが、まぶしくない。この時期にしかない、優しい日差しだ。存分に楽しんでおくとしよう。
遊具の色は、最近塗り替えられたのだろう。明るい色合いで、いかにも、自分は遊具ですと主張しているようだ。
ブランコ、いいな。うんていは苦手だし跳び箱も高い平均台みたいなのも苦手だった俺は、もっぱら滑り台かブランコで遊んでいた。ブランコは座るところがゴム製なんだよな。俺が座っても大丈夫かな……まあ、大人が座ってんだし、大丈夫だろ。
周りに子どもも誰もいないことを確認して、座る。おお、視線が低い。ゆらゆらと揺れてみる。これこれ、この浮遊感。
「足が引っかかるな……」
父さんや母さんに背中を押してもらって、一回転するんじゃないかってくらい勢いつけてブランコ漕いでたなあ。今はもう無理か。
ブランコといえば、小さい頃父さんが留守の日は、店に泊まることも多くて、そん時に布団にのって、両端を母さんとばあちゃんに持ってもらって揺らしてもらったなあ。あれ、結構重かったんじゃなかろうか。でも楽しかったんだよなあ。
「父さんとじいちゃんじゃねぇんだよな……」
うちはなぜか、パワフルな遊びを担当するのは母さんとばあちゃんだ。父さんとじいちゃんがなんもやらないわけじゃないけど、母さんとばあちゃん率高かったなあ。
「おおっ」
ちょっとコツがわかってきた。こう、足だけじゃなくて体で動かせば、おお、いい感じいい感じ。
「怖っ」
子どもの頃の数倍は怖いぞ、ブランコ。こんなに怖い遊具だっただろうか。ああ、どうやって止めるんだっけ。
「……っふー」
止まった。やっぱ遊具は、恐れを知らないあの頃が、一番楽しめるかもしれない。あの頃はあの頃で怖かったものもあるけどな。
何かしらの動物の形を模した、前後左右にビヨンビヨン揺れる遊具も、体重が重くなった今やると、たぶん地面すれすれになる。
「はーっ、ただいま!」
「あ、おかえりなさい」
滑り台の上で体育座りしていたら、田中さんとうめずが帰ってきた。つくづく、笑顔と汗が絵になる人である。
ついーっと滑り降り、田中さんの元へ行く。
「一条君は何やってたんだ?」
「遊具で遊んでました」
「楽しかった?」
「大きくなってやると、怖いものも多いですね」
俺にはやっぱり、滑り台くらいがちょうどいいようだ。
「ただいまー」
「おう、おかえり」
じいちゃんが自転車の修理をしている横を通り過ぎ、いい香りが漂ってくる家の中に入る。何でもないことのようで、それでいて幸福な瞬間だ。
「おかえりなさい」
「ただいま」
「ご飯、もうすぐできるからね」
ばあちゃんが台所で手際よく調理を進めていく。足を洗ってすっきりしたらしいうめずは、ソファに丸まって座った。
今日の昼飯は何かなあ。
じいちゃんも呼んで、昼飯の時間だ。
「いただきます」
おにぎりにきんぴらごぼう、肉の天ぷらときたかあ。いいねえ、お弁当っぽいラインナップ、たまらないな。公園から帰って来てちょっと遠足気分だったから、余計にうれしい。
塩気の強いおにぎりはやっぱり俵型。この味わい、ばあちゃんが握ってくれたおにぎりでしか味わえないものだ。米の甘味と塩気のバランスがちょうどよく、のりの風味がいい。しんなりとしたのりは、風味豊かなのだ。
きんぴらごぼう、ごぼうの風味がしっかり感じられるがくどくない。甘辛い味付けもおにぎりによく合うし、振りかけられたごまが香ばしい。ニンジンの細切り、均等なのがすごいよなあ。ほのかなほくほく感と甘み、いいね。
そんで肉の天ぷら。ほわほわの表面にサクッとした歯ごたえがいい。にじみ出る、肉のうま味とにんにく醤油の風味が最高だ。肉の天ぷらって、どうしてこんなにうまいんだろう。冷めてもうまいが、揚げたてって、やっぱりうまい。
弁当として外で食ってもおいしいものを家で出来立ての状態で食べる。そういうのもいいよなあ。
はあ、うまかった。
「ごちそうさまでした」
「最近は暖かくなって、気持ちがいいね」
何かのCMかな、と思うほど爽やかな笑みで、田中さんは言った。
「そうですね。早いとこ春になってほしいです」
「はは、そうだなあ」
「わうっ!」
「お、うめずも元気そうだなあ」
この人に会うと思いっきり走れる、と知っているうめずは、尻尾をぶんぶんと振り回しながら田中さんにじゃれついた。おう、うめず、飼い主に尻尾バシバシ当たってるぞ。引っ張るな引っ張るな。
「うめず、何やってる。落ち着け~」
「はは、一緒に走るか?」
「わふ!」
うめずのテンションが上がって仕方がないので、厚意に甘えて、リードを田中さんに託す。
「じゃ、ひとっ走り行ってくる」
「お気をつけて」
「わうっ」
「うめずもあんまり暴れんなよー」
田中さんとうめずが颯爽と走り去った後、近くにあった遊具に座る。この遊具、何に使うんだろう。似たような丸太が等間隔にいくつもあるが……ああ、飛び乗っていくのか。
さわさわと草木を揺らした風は湖面を滑り、日光をきらめかせてどこかへ過ぎ去る。穏やかだなあ。陽は出ているが、まぶしくない。この時期にしかない、優しい日差しだ。存分に楽しんでおくとしよう。
遊具の色は、最近塗り替えられたのだろう。明るい色合いで、いかにも、自分は遊具ですと主張しているようだ。
ブランコ、いいな。うんていは苦手だし跳び箱も高い平均台みたいなのも苦手だった俺は、もっぱら滑り台かブランコで遊んでいた。ブランコは座るところがゴム製なんだよな。俺が座っても大丈夫かな……まあ、大人が座ってんだし、大丈夫だろ。
周りに子どもも誰もいないことを確認して、座る。おお、視線が低い。ゆらゆらと揺れてみる。これこれ、この浮遊感。
「足が引っかかるな……」
父さんや母さんに背中を押してもらって、一回転するんじゃないかってくらい勢いつけてブランコ漕いでたなあ。今はもう無理か。
ブランコといえば、小さい頃父さんが留守の日は、店に泊まることも多くて、そん時に布団にのって、両端を母さんとばあちゃんに持ってもらって揺らしてもらったなあ。あれ、結構重かったんじゃなかろうか。でも楽しかったんだよなあ。
「父さんとじいちゃんじゃねぇんだよな……」
うちはなぜか、パワフルな遊びを担当するのは母さんとばあちゃんだ。父さんとじいちゃんがなんもやらないわけじゃないけど、母さんとばあちゃん率高かったなあ。
「おおっ」
ちょっとコツがわかってきた。こう、足だけじゃなくて体で動かせば、おお、いい感じいい感じ。
「怖っ」
子どもの頃の数倍は怖いぞ、ブランコ。こんなに怖い遊具だっただろうか。ああ、どうやって止めるんだっけ。
「……っふー」
止まった。やっぱ遊具は、恐れを知らないあの頃が、一番楽しめるかもしれない。あの頃はあの頃で怖かったものもあるけどな。
何かしらの動物の形を模した、前後左右にビヨンビヨン揺れる遊具も、体重が重くなった今やると、たぶん地面すれすれになる。
「はーっ、ただいま!」
「あ、おかえりなさい」
滑り台の上で体育座りしていたら、田中さんとうめずが帰ってきた。つくづく、笑顔と汗が絵になる人である。
ついーっと滑り降り、田中さんの元へ行く。
「一条君は何やってたんだ?」
「遊具で遊んでました」
「楽しかった?」
「大きくなってやると、怖いものも多いですね」
俺にはやっぱり、滑り台くらいがちょうどいいようだ。
「ただいまー」
「おう、おかえり」
じいちゃんが自転車の修理をしている横を通り過ぎ、いい香りが漂ってくる家の中に入る。何でもないことのようで、それでいて幸福な瞬間だ。
「おかえりなさい」
「ただいま」
「ご飯、もうすぐできるからね」
ばあちゃんが台所で手際よく調理を進めていく。足を洗ってすっきりしたらしいうめずは、ソファに丸まって座った。
今日の昼飯は何かなあ。
じいちゃんも呼んで、昼飯の時間だ。
「いただきます」
おにぎりにきんぴらごぼう、肉の天ぷらときたかあ。いいねえ、お弁当っぽいラインナップ、たまらないな。公園から帰って来てちょっと遠足気分だったから、余計にうれしい。
塩気の強いおにぎりはやっぱり俵型。この味わい、ばあちゃんが握ってくれたおにぎりでしか味わえないものだ。米の甘味と塩気のバランスがちょうどよく、のりの風味がいい。しんなりとしたのりは、風味豊かなのだ。
きんぴらごぼう、ごぼうの風味がしっかり感じられるがくどくない。甘辛い味付けもおにぎりによく合うし、振りかけられたごまが香ばしい。ニンジンの細切り、均等なのがすごいよなあ。ほのかなほくほく感と甘み、いいね。
そんで肉の天ぷら。ほわほわの表面にサクッとした歯ごたえがいい。にじみ出る、肉のうま味とにんにく醤油の風味が最高だ。肉の天ぷらって、どうしてこんなにうまいんだろう。冷めてもうまいが、揚げたてって、やっぱりうまい。
弁当として外で食ってもおいしいものを家で出来立ての状態で食べる。そういうのもいいよなあ。
はあ、うまかった。
「ごちそうさまでした」
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