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日常
第五百四十七話 サラダ
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朝のテレビのグルメコーナー。何気に楽しみなんだよな。
『今朝は、肉料理の特集です』
「肉料理かあ」
学校に行く準備も終わり、ソファに座ってテレビを眺める。大丈夫大丈夫、まだまだ時間はある。
『一軒目はこちらの焼肉店――』
焼肉、焼肉なあ。久しく食ってねぇなあ。最後に焼き肉屋に行ったの、いつだっけ。小さいころから行っていた店がなくなってから、行ってないよなあ。たれも肉もうまいし、値段も高すぎず、雰囲気もいい店だったんだけどなあ。店主が高齢でやめたんだっけ。
そういえば、その店のドレッシングがめちゃくちゃうまかったんだよな。ドレッシング専用の容器に詰め替えられてたから、なんていうドレッシングか分かんねぇ。
何度か似たようなドレッシングを見かけたが、やっぱりなんか違うんだよなあ。いまだに見つけられていない。
手作りならどうしようもないが、たぶん、市販のやつだと思うんだよなあ。ああいう大きめの店って、業務用使ってるはずだからな。
「……なんなんだろうなぁ、あれ」
「わう」
隣に座るうめずが、首をかしげてこちらを見上げた。
『――以上、今日の特集でした~』
あ、いかん。もうこんな時間か。学校行かないと。
「ドレッシング?」
昼休み、咲良になんとなく話をすると、何やら思い当たる節があったようで、かじりかけのメロンパン片手に、記憶をたどるようにしながら言った。
「そういやこないだ、花丸スーパーに行ったとき、そんな感じのドレッシング見たなあ」
「まじか」
「帰りがけにさぁ、親から連絡来て。なんか調味料がいくつか足りねーから買って来いって言われてな?」
咲良は牛乳を一口すすって続けた。
「そん時にドレッシングのある棚のとこ通りがかったんだけどさ、そん時にめっちゃ派手な色のドレッシング見つけて。すげー色だなぁって思ったもん」
「……まじか。まだあるかな」
「あるんじゃねーの? 結構大量に置いてあったし、てか、売り切れるんかなあ、あれ」
咲良が苦笑して言った言葉がよく分からず「どういう意味だ?」と聞くと、咲良は楽しそうに身を乗り出して言った。
「あれさあ、業務用っつーの? でかかったぜ~。だから覚えてるってところあるもん」
「……業務用。どれくらいのサイズか分かるか?」
「まあ、食堂にあってもおかしくないくらいのサイズではあったな」
もし買ったとして、食いきれるだろうか。野菜はしょっちゅう食べてるし、ちょこちょこ買っているドレッシングの量を考えても、まあ、食いきれるだろうな。
……帰りに寄ってみるか。
買ってしまった。今、俺の目の前にはどでかいドレッシングのボトルがある。確かに色味は似ているな。
「とりあえず食ってみるか」
まずはドレッシングだけで。スプーンにちょっとのせて、食ってみる。
「うん、うん……ああ、似てる」
今まで試してきた中で一番似ている気がする。でもちょっと酸味が強いんだよなあ……やっぱり野菜と一緒に食うとまた違うのかな。
よし、じゃあとりあえずキャベツを千切りしていこう。それとレタス。トマトも切って添える。本当はベビーコーンやホワイトアスパラものせたいところだが、売ってなかったのと予算の都合上、今日はこれで。
とりあえずそのままかけてみる。
「いただきます」
キャベツはどうだろうか。
……おお、近い近い。すりおろしにんじんの風味にオイルの口当たり、香味野菜のほのかな香りが確かにそれっぽい。玉ねぎの風味もいいな。
レタスも食ってみる。シャキシャキとみずみずしく、店で食った味に似ている。
一番店っぽいのはトマトかな。トマトの酸味が加わって、風味豊かである。
「でもなんか違うんだよなあ……」
十分うまいんだが、なにかこう、いまいち足りない。なんかこう……甘味? 甘みが足りないのか。砂糖じゃ……ないよなあ。酸味を飛ばしつつ、甘味も加えて、でもくどくなくて肉と一緒に食ってさっぱりしそうな……
「あ、これか?」
リンゴ。
別の容器にドレッシングを出して、リンゴの皮をむいて、切る。リンゴ、ドレッシングにつけて食ってみようか。
「あー! これ、近い!」
うん、甘さはこれだな。砂糖じゃなくてリンゴだ。あ、もしかしてあの赤色はリンゴの皮だったのか? むいちゃったよ。ま、今度試してみよう。
でもリンゴ丸ごと食うと、リンゴの風味が勝るなあ。すりおろしてみようか。
量には気を付けないとな……
……しかし俺、どうしてここまでドレッシングに執着しているのだろう。焼肉屋のドレッシングに。焼肉屋のたれを再現する、ってなるとまあ、そうかな、って思う。でも、ドレッシングだぞ。
いったい何が俺を突き動かしているのだろうか。
いかんいかん、冷静になっては終わりだ。こういうのは、なんかおかしくない? みたいなことから目を背け、何やってるんだろう、という感情に気づかないふりをしながら、
「こんなもんか……」
すりおろしたリンゴを混ぜてみる。……粘度もそれっぽくなったな。さらさらしすぎない感じ。
では、食べてみよう。
……うん、うん。すりおろして正解だ。リンゴの風味はドレッシングの酸味で穏やかになり、その酸味もリンゴの甘さで程よい塩梅になっている。でもうま味はあって、ニンジンの風味がさっきよりも感じられず、すべてがうまい感じで合わさっている。玉ねぎの味わいが、よく分かるようになった。
キャベツの青さを合わせると、より、あの味に近づく。レタスもいいな。
トマトもうまい。というか、トマト食った時が一番近い。やっぱトマト、入ってたんだろうな、あのドレッシング。
「でもやっぱ違うなあ……」
うまいけど、あの味に近いけど、違う。
ああいう、肉を焼いている空間で食うから、また違うのだろうか。そういうのもありそうだよなあ。
実はもう一個気になってる商品があるんだよな。ネット販売で、一本売りしてなくて、業務用だからなかなか買う勇気出ないけど。
今度小遣い貯めて買ってみようかなあ。
でも、これもうまいもんだ。野菜ベースのドレッシングだから、たいていのものに合いそうだし、さっぱりしていていくらでも野菜が食えそうだ。ああ、温野菜もいいかもな。
他にもいろいろアレンジしてみようかな。たっぷりあることだし。それこそ、焼いた肉をのせてみるのもありかもしれないな。
まあ、今日の研究はとりあえずこの辺で。
「ごちそうさまでした」
『今朝は、肉料理の特集です』
「肉料理かあ」
学校に行く準備も終わり、ソファに座ってテレビを眺める。大丈夫大丈夫、まだまだ時間はある。
『一軒目はこちらの焼肉店――』
焼肉、焼肉なあ。久しく食ってねぇなあ。最後に焼き肉屋に行ったの、いつだっけ。小さいころから行っていた店がなくなってから、行ってないよなあ。たれも肉もうまいし、値段も高すぎず、雰囲気もいい店だったんだけどなあ。店主が高齢でやめたんだっけ。
そういえば、その店のドレッシングがめちゃくちゃうまかったんだよな。ドレッシング専用の容器に詰め替えられてたから、なんていうドレッシングか分かんねぇ。
何度か似たようなドレッシングを見かけたが、やっぱりなんか違うんだよなあ。いまだに見つけられていない。
手作りならどうしようもないが、たぶん、市販のやつだと思うんだよなあ。ああいう大きめの店って、業務用使ってるはずだからな。
「……なんなんだろうなぁ、あれ」
「わう」
隣に座るうめずが、首をかしげてこちらを見上げた。
『――以上、今日の特集でした~』
あ、いかん。もうこんな時間か。学校行かないと。
「ドレッシング?」
昼休み、咲良になんとなく話をすると、何やら思い当たる節があったようで、かじりかけのメロンパン片手に、記憶をたどるようにしながら言った。
「そういやこないだ、花丸スーパーに行ったとき、そんな感じのドレッシング見たなあ」
「まじか」
「帰りがけにさぁ、親から連絡来て。なんか調味料がいくつか足りねーから買って来いって言われてな?」
咲良は牛乳を一口すすって続けた。
「そん時にドレッシングのある棚のとこ通りがかったんだけどさ、そん時にめっちゃ派手な色のドレッシング見つけて。すげー色だなぁって思ったもん」
「……まじか。まだあるかな」
「あるんじゃねーの? 結構大量に置いてあったし、てか、売り切れるんかなあ、あれ」
咲良が苦笑して言った言葉がよく分からず「どういう意味だ?」と聞くと、咲良は楽しそうに身を乗り出して言った。
「あれさあ、業務用っつーの? でかかったぜ~。だから覚えてるってところあるもん」
「……業務用。どれくらいのサイズか分かるか?」
「まあ、食堂にあってもおかしくないくらいのサイズではあったな」
もし買ったとして、食いきれるだろうか。野菜はしょっちゅう食べてるし、ちょこちょこ買っているドレッシングの量を考えても、まあ、食いきれるだろうな。
……帰りに寄ってみるか。
買ってしまった。今、俺の目の前にはどでかいドレッシングのボトルがある。確かに色味は似ているな。
「とりあえず食ってみるか」
まずはドレッシングだけで。スプーンにちょっとのせて、食ってみる。
「うん、うん……ああ、似てる」
今まで試してきた中で一番似ている気がする。でもちょっと酸味が強いんだよなあ……やっぱり野菜と一緒に食うとまた違うのかな。
よし、じゃあとりあえずキャベツを千切りしていこう。それとレタス。トマトも切って添える。本当はベビーコーンやホワイトアスパラものせたいところだが、売ってなかったのと予算の都合上、今日はこれで。
とりあえずそのままかけてみる。
「いただきます」
キャベツはどうだろうか。
……おお、近い近い。すりおろしにんじんの風味にオイルの口当たり、香味野菜のほのかな香りが確かにそれっぽい。玉ねぎの風味もいいな。
レタスも食ってみる。シャキシャキとみずみずしく、店で食った味に似ている。
一番店っぽいのはトマトかな。トマトの酸味が加わって、風味豊かである。
「でもなんか違うんだよなあ……」
十分うまいんだが、なにかこう、いまいち足りない。なんかこう……甘味? 甘みが足りないのか。砂糖じゃ……ないよなあ。酸味を飛ばしつつ、甘味も加えて、でもくどくなくて肉と一緒に食ってさっぱりしそうな……
「あ、これか?」
リンゴ。
別の容器にドレッシングを出して、リンゴの皮をむいて、切る。リンゴ、ドレッシングにつけて食ってみようか。
「あー! これ、近い!」
うん、甘さはこれだな。砂糖じゃなくてリンゴだ。あ、もしかしてあの赤色はリンゴの皮だったのか? むいちゃったよ。ま、今度試してみよう。
でもリンゴ丸ごと食うと、リンゴの風味が勝るなあ。すりおろしてみようか。
量には気を付けないとな……
……しかし俺、どうしてここまでドレッシングに執着しているのだろう。焼肉屋のドレッシングに。焼肉屋のたれを再現する、ってなるとまあ、そうかな、って思う。でも、ドレッシングだぞ。
いったい何が俺を突き動かしているのだろうか。
いかんいかん、冷静になっては終わりだ。こういうのは、なんかおかしくない? みたいなことから目を背け、何やってるんだろう、という感情に気づかないふりをしながら、
「こんなもんか……」
すりおろしたリンゴを混ぜてみる。……粘度もそれっぽくなったな。さらさらしすぎない感じ。
では、食べてみよう。
……うん、うん。すりおろして正解だ。リンゴの風味はドレッシングの酸味で穏やかになり、その酸味もリンゴの甘さで程よい塩梅になっている。でもうま味はあって、ニンジンの風味がさっきよりも感じられず、すべてがうまい感じで合わさっている。玉ねぎの味わいが、よく分かるようになった。
キャベツの青さを合わせると、より、あの味に近づく。レタスもいいな。
トマトもうまい。というか、トマト食った時が一番近い。やっぱトマト、入ってたんだろうな、あのドレッシング。
「でもやっぱ違うなあ……」
うまいけど、あの味に近いけど、違う。
ああいう、肉を焼いている空間で食うから、また違うのだろうか。そういうのもありそうだよなあ。
実はもう一個気になってる商品があるんだよな。ネット販売で、一本売りしてなくて、業務用だからなかなか買う勇気出ないけど。
今度小遣い貯めて買ってみようかなあ。
でも、これもうまいもんだ。野菜ベースのドレッシングだから、たいていのものに合いそうだし、さっぱりしていていくらでも野菜が食えそうだ。ああ、温野菜もいいかもな。
他にもいろいろアレンジしてみようかな。たっぷりあることだし。それこそ、焼いた肉をのせてみるのもありかもしれないな。
まあ、今日の研究はとりあえずこの辺で。
「ごちそうさまでした」
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