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日常
第五百四十四話 焼鮭
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「なんかこのまま帰るのも、もったいないなあ」
食後にチョコミントアイスを食べながら、咲良が言った。
「よく食うな、お前」
「なんか腹減ってさあ」
「俺はこのまま帰っていいと思うけど」
そう言えば咲良は「そうかなあ」と言って、食べ終えたアイスのごみをクシャッと丸めた。
「なんか見て回ろうぜ」
「少しだけな」
まあ、さっきより人少ないし、少しなら楽しめそうだ。宝飾品から安い雑貨まで、幅広い店があるからなあ。それに、昔来た時とはまた、店もだいぶ変わってるだろうし。
「でもこんな人少なかったっけ、ここ」
本当に人の少ない道を行きながら、ふと思ったことをつぶやく。咲良は「そーだなあ」とのんびり言った。
「近くに、映画館もあるショッピングモールがあるんだし、客も分散するんじゃね?」
「あ、なるほど」
「こっちは映画館とかないからなあ……若者は少ないけど、それなりの年代の人たちが多いよな。だから落ち着いた雰囲気なんじゃね?」
「なんかすげぇ納得した」
「な?」
得意げな様子はなんか悔しいが、咲良の言うことは的を射ているかもしれない。見受けられる店も、若者向けだとはいいがたい。値段もそれなりだし、でもその分、いい物って感じだ。そういえば、ばあちゃんとか母さんも昔ここで買った服、いまだに着てるよな。
「見ろよ春都。ここ、めっちゃモフモフしてるぜ」
咲良が指さした先の店には、確かにモフモフしたものが勢ぞろいしていた。動物モチーフのものも多い。
「部屋着だってー。あ、買えそうな値段」
「着ぐるみみてぇだな……」
でも温かそうだ。それに、楽そう。部屋着かあ……人に会わないならいいかもな、これ。最近小遣い使ってないし、手持ちには余裕がある。
「お、春都買うのか?」
「部屋着、生地が薄くなってて寒いんだよな」
「いいじゃん、買いなよ。俺もなんか買おー」
そう言って咲良は自分の買い物を見に行ってしまった。
買うにしてもデザインがだな……あんまりメルヘンチックなのは似合わんからなあ。うーん、どれにしたものか……
「お、これ……」
うめずの毛並みに似たもふもふの、ジャージ上下セット。フードに耳はついているが、目立つほどではない。胸元に紫の糸で刺しゅうされてるから、引き締まった感じがしてちょっとかっこいい。裏起毛で暖かそうである。
「これにしよう」
「決めた?」
「おぉ」
「俺も決めたー。見て見て」
咲良が嬉しそうに持ってきたのは、濃い茶色のもふもふジャージ上下セットだった。ところどころに、焦げ茶色のもふもふがある。フードには耳もついているし、これはもしや……
「アンデスとおそろい~」
「やっぱり」
「春都もうめずとおそろいだろ」
「ばれたか」
まあ、部屋着だし。うめず、どんな反応するかなあ。
夜、布団にもぐりこんで、洗濯して干してある部屋着を眺める。じいちゃん、ばあちゃんにも評判良かったし、うめずは興味津々って感じだった。うん、いい買い物した。
試しに着てみたけど、かなり暖かいぞ、これ。新品でまだ生地が厚いからか、あるいは物がいいのか。どちらにしても、買ってよかった。
「明日が楽しみだなあ」
「わう」
「うめずとおそろいだな」
枕元にやってきたうめずの毛並みは、確かに、今日買ってきたジャージと同じ色をしていた。
新しい服を着る時っていうのは、なんかワクワクする。新しい靴を履く時と似ているだろうか。俺の場合、靴は「足に合うといいけど」っていう心配もあるから、どっちかっていうと、服の方が、気が楽かもしれない。
「おお、いい感じ」
洗濯したので、ふわっと洗剤のいい香りがする。この服を買った店に置いてあった、アロマか何かの甘い香りとは違う、爽やかで控えめな、清潔感のある香りだ。
「似合うか、うめず」
「わふっ」
居間ではばあちゃんが朝ごはんの準備をしてくれていた。
「やっぱり、よく似合ってる。その服」
「そうかな、よかった」
「暖かそうだな」
と、じいちゃんがフードをもふもふしてきた。
「二人のサイズもあったと思うよ」
「でも、仕事には不向きねぇ」
「そうだなあ」
そっか、二人は仕事のことも考えないといけないのか。大変だなあ。
「さあ、朝ごはんにしよう」
今日の朝食のメニューは、定番でありながら、実際はなかなかお目にかかることのないものだ。豚汁に、焼鮭、炊き立てご飯に漬物。うまそうだ。
「いただきます」
まずは焼鮭から。わあ、肉厚だなあ。ほくっとした感覚が、箸から伝わってくる。程よい塩気に鮭の香りとうま味、ジュワッと染み出す脂が香ばしい。これはご飯に合うこと間違いなしだ。
表面が少しパリッとしてるのもいい。皮と一緒に食べるのも好きだなあ。皮はしっかり焼けていて、でも焦げは少なく、パリパリ、もちもちとした食感だ。魚の香りが強いから好き嫌い分かれるけど、俺は好きだなあ。マヨネーズつけて食うのが一番うまい。
一日経った豚汁は味がなじんでいて、野菜の甘味がより感じられる。豚肉が少しかたいのがいい。うま味も申し分ない。にじみ出る豚の味、ほくほくのにんじん、トロットロの大根、白菜。くぅ、染みるなあ。
漬物は……たくあんかあ。甘めのたくあんだ。薄黄色いのがいいよな。食感もぽりぽりで、うまい。塩気のある食べ物の合間にちょうどいい味だ。
鮭の細いところは、脂が凝縮している。ジュワアッとジューシーで、ちょっとうれしい部分だ。
一人で気ままに食う飯も悪くないけど、やっぱ、じいちゃんとかばあちゃんと一緒に食う朝飯はうまいなあ。
さて、今日は何しよう。そんな、ワクワクした気分にさせてくれるんだ。
「ごちそうさまでした」
食後にチョコミントアイスを食べながら、咲良が言った。
「よく食うな、お前」
「なんか腹減ってさあ」
「俺はこのまま帰っていいと思うけど」
そう言えば咲良は「そうかなあ」と言って、食べ終えたアイスのごみをクシャッと丸めた。
「なんか見て回ろうぜ」
「少しだけな」
まあ、さっきより人少ないし、少しなら楽しめそうだ。宝飾品から安い雑貨まで、幅広い店があるからなあ。それに、昔来た時とはまた、店もだいぶ変わってるだろうし。
「でもこんな人少なかったっけ、ここ」
本当に人の少ない道を行きながら、ふと思ったことをつぶやく。咲良は「そーだなあ」とのんびり言った。
「近くに、映画館もあるショッピングモールがあるんだし、客も分散するんじゃね?」
「あ、なるほど」
「こっちは映画館とかないからなあ……若者は少ないけど、それなりの年代の人たちが多いよな。だから落ち着いた雰囲気なんじゃね?」
「なんかすげぇ納得した」
「な?」
得意げな様子はなんか悔しいが、咲良の言うことは的を射ているかもしれない。見受けられる店も、若者向けだとはいいがたい。値段もそれなりだし、でもその分、いい物って感じだ。そういえば、ばあちゃんとか母さんも昔ここで買った服、いまだに着てるよな。
「見ろよ春都。ここ、めっちゃモフモフしてるぜ」
咲良が指さした先の店には、確かにモフモフしたものが勢ぞろいしていた。動物モチーフのものも多い。
「部屋着だってー。あ、買えそうな値段」
「着ぐるみみてぇだな……」
でも温かそうだ。それに、楽そう。部屋着かあ……人に会わないならいいかもな、これ。最近小遣い使ってないし、手持ちには余裕がある。
「お、春都買うのか?」
「部屋着、生地が薄くなってて寒いんだよな」
「いいじゃん、買いなよ。俺もなんか買おー」
そう言って咲良は自分の買い物を見に行ってしまった。
買うにしてもデザインがだな……あんまりメルヘンチックなのは似合わんからなあ。うーん、どれにしたものか……
「お、これ……」
うめずの毛並みに似たもふもふの、ジャージ上下セット。フードに耳はついているが、目立つほどではない。胸元に紫の糸で刺しゅうされてるから、引き締まった感じがしてちょっとかっこいい。裏起毛で暖かそうである。
「これにしよう」
「決めた?」
「おぉ」
「俺も決めたー。見て見て」
咲良が嬉しそうに持ってきたのは、濃い茶色のもふもふジャージ上下セットだった。ところどころに、焦げ茶色のもふもふがある。フードには耳もついているし、これはもしや……
「アンデスとおそろい~」
「やっぱり」
「春都もうめずとおそろいだろ」
「ばれたか」
まあ、部屋着だし。うめず、どんな反応するかなあ。
夜、布団にもぐりこんで、洗濯して干してある部屋着を眺める。じいちゃん、ばあちゃんにも評判良かったし、うめずは興味津々って感じだった。うん、いい買い物した。
試しに着てみたけど、かなり暖かいぞ、これ。新品でまだ生地が厚いからか、あるいは物がいいのか。どちらにしても、買ってよかった。
「明日が楽しみだなあ」
「わう」
「うめずとおそろいだな」
枕元にやってきたうめずの毛並みは、確かに、今日買ってきたジャージと同じ色をしていた。
新しい服を着る時っていうのは、なんかワクワクする。新しい靴を履く時と似ているだろうか。俺の場合、靴は「足に合うといいけど」っていう心配もあるから、どっちかっていうと、服の方が、気が楽かもしれない。
「おお、いい感じ」
洗濯したので、ふわっと洗剤のいい香りがする。この服を買った店に置いてあった、アロマか何かの甘い香りとは違う、爽やかで控えめな、清潔感のある香りだ。
「似合うか、うめず」
「わふっ」
居間ではばあちゃんが朝ごはんの準備をしてくれていた。
「やっぱり、よく似合ってる。その服」
「そうかな、よかった」
「暖かそうだな」
と、じいちゃんがフードをもふもふしてきた。
「二人のサイズもあったと思うよ」
「でも、仕事には不向きねぇ」
「そうだなあ」
そっか、二人は仕事のことも考えないといけないのか。大変だなあ。
「さあ、朝ごはんにしよう」
今日の朝食のメニューは、定番でありながら、実際はなかなかお目にかかることのないものだ。豚汁に、焼鮭、炊き立てご飯に漬物。うまそうだ。
「いただきます」
まずは焼鮭から。わあ、肉厚だなあ。ほくっとした感覚が、箸から伝わってくる。程よい塩気に鮭の香りとうま味、ジュワッと染み出す脂が香ばしい。これはご飯に合うこと間違いなしだ。
表面が少しパリッとしてるのもいい。皮と一緒に食べるのも好きだなあ。皮はしっかり焼けていて、でも焦げは少なく、パリパリ、もちもちとした食感だ。魚の香りが強いから好き嫌い分かれるけど、俺は好きだなあ。マヨネーズつけて食うのが一番うまい。
一日経った豚汁は味がなじんでいて、野菜の甘味がより感じられる。豚肉が少しかたいのがいい。うま味も申し分ない。にじみ出る豚の味、ほくほくのにんじん、トロットロの大根、白菜。くぅ、染みるなあ。
漬物は……たくあんかあ。甘めのたくあんだ。薄黄色いのがいいよな。食感もぽりぽりで、うまい。塩気のある食べ物の合間にちょうどいい味だ。
鮭の細いところは、脂が凝縮している。ジュワアッとジューシーで、ちょっとうれしい部分だ。
一人で気ままに食う飯も悪くないけど、やっぱ、じいちゃんとかばあちゃんと一緒に食う朝飯はうまいなあ。
さて、今日は何しよう。そんな、ワクワクした気分にさせてくれるんだ。
「ごちそうさまでした」
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