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日常
第五百三十六話 朝ごはん
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課題を済ませなければならない咲良とバス停で別れ、俺はその足で花丸スーパーへ向かう。さんざん買い出しをしておいたというのに、すぐなくなってしまうのは何だろう。
「ふぁ……眠い」
人に会った後というのは、どうにも眠くなる。えーっと、何買うんだったか。とりあえず肉だ、肉。豚肉、鶏肉っと。牛肉、安くなってないかなあ。日曜日は半額になってんだよなあ。もう昼過ぎだし、売り切れてるかな。
「鶏と……豚と……あっ、卵」
ちょっと値は張るが、卵かけご飯にするとうまい卵があるんだよな。それ買おう。
「野菜も買っとくか……」
お、なんだこれ。漬物? へえ、寒干し大根。味付けとかはないんだ。あ、これであれ作れねぇかな。たくあん炒めたやつ。ご飯のお供にいいんだなあ。作ってみるか。一本あったら足りるかな。
「やっぱり、一条君だ」
「ん?」
「やっほー、久しぶり~」
「あ、山下さん。こんにちは」
「こんにちはぁ」
山下さんはひらひらと手を振って、愛想よく笑った。
「バイトはお休みですか」
「そ、昼から幸輔と映画行くから、迎えに来た」
「なるほど」
田中さんは仕事中か。それにしても二人、仲いいなあ。なんか田中さんと山下さんって、正反対な感じするのに。
山下さんは俺の買い物かごの中身を見て言った。
「ちゃんと買い物してんだねぇ。インスタントばっかりとか、そういうことはないんだ」
「インスタントって楽ですけど、続くと体調崩すんですよね。体質なのかな」
「あーなるほど」
と、しばらく野菜コーナーで山下さんと話をしていたら、田中さんがやってきた。まだエプロンをつけているあたり、仕事中なのだろう。「こんにちは」と会釈すると、田中さんは愛想よく笑って「こんにちは」と返してくれた。そして田中さんは山下さんに視線を移した。
「来てたのか」
「うん。迎えに来た」
「もうちょっとあるぞ」
「だいじょぶ」
山下さんは頼もしく笑うと、俺の肩に手を置いた。
「一条君と話してるから」
「……迷惑かけんなよ」
「迷惑なんかじゃないよねえ?」
楽しそうに笑う山下さんと、困ったような表情をする田中さんの双方に目を向けられ、何と答えればいいのか分からない。別にこの後用事ないし、漬物を炊く時間さえあれば、まあ、うん……
「別に、迷惑では……」
「ほらねぇ」
得意げに笑う山下さんをちらっと見た後、田中さんは真剣な表情で言ってきた。
「何かあったらすぐに言うんだぞ。ほんとに、遠慮しなくていいからな」
「えっと……はい!」
「そんな人を不審者のように……」
山下さんがへらっと笑いながら言った。
会計を済ませて外に出る。山下さんもなんか買ったらしい。花丸スーパーの外には、ベンチが設けられている。ちょうど空いていたので、二人で並んで座った。
「はい、これ。話し相手になってもらうお礼」
と、山下さんが差し出してきたのは缶のコーンスープだった。
「ありがとうございます。いただきます」
「寒い時には温かいものに限るよねぇ」
口が広くなっているので、粒もしっかり飲める。飲みやすいなあ。甘くて、ホカホカだ。さっきもファミレスで飲んだけど、また違っていい。ああ、かじかんだ手が温まる。
「最近、学校はどう? 先生たち元気?」
「あ、はい。そういえば体育の先生が代わって……」
それから、田中さんが来るまで、だらだらと話をした。こういう時間も、悪くない。
「……確かに、たくあんとは違うな」
生の大根より大根の風味するな、これ。歯ごたえがいい。
これを細切りにして、味付けは……ごま油で炒めたところに、醤油とみりん、それに砂糖と少しの酒。で、最後に炒ったごまを振りかける。帰りがけにレシピ聞いてよかった。
「どうかなあ」
……うん、うん。ばあちゃんが作ったやつには勝てそうにないが、なかなかいける。うまい。
こりゃ弁当にもよさそうだな。味がなじんだら、もうちょっとうまくなりそうだ。明日の朝が、楽しみだなあ。
炊き立てご飯をラップにのせて、漬物をのせて、握る。今日の昼飯はこれに決定。四つぐらい、でかいの作っとけばいいだろ。……漬物だけじゃあんまりかな。うーん、あとで考えよう。とりあえず、漬物のを二個、握る。
そんで朝も食う。味噌玉溶かして、ご飯をどんぶりによそって……漬物、漬物。卵かけご飯は、また今度ということで。
「いただきます」
とりあえず、まずはみそ汁を飲もう。ふんわりと香る味噌の香りに、つるんとしたわかめの食感、ねぎの風味。うん、いいね。これからの飯への期待が膨らむってもんだ。
それじゃ早速、漬物を。
「ん、うまい」
出来立ての時よりも味がなじんでいてうまい。甘辛く、でも塩辛さはなく、程よい塩梅でご飯が進む。何より歯ごたえがいい。ポリポリ、コリコリとした食感で、次々食べたくなるんだなあ。歯ごたえって、料理の中でも結構大事な要素だよな。
古漬けで作るのもいいが、なるほど、こういう大根で作るのもいいもんだ。いつも売ってるわけじゃないし、また今度買っとこう。醤油とかも合うらしい。いろいろ試してみたいな。
ご飯に漬物を山盛りのせて、ご飯と一緒にかきこむ。
ごまの風味がダイレクトに感じられて、食感もすごい。醤油の香ばしさと、みりんの甘さがご飯に少しだけ移って、漬物は少し温かくなって、うまい。
こりゃ、昼ご飯も楽しみだ。ちょっとあごは、疲れそうだけどな。
「ごちそうさまでした」
「ふぁ……眠い」
人に会った後というのは、どうにも眠くなる。えーっと、何買うんだったか。とりあえず肉だ、肉。豚肉、鶏肉っと。牛肉、安くなってないかなあ。日曜日は半額になってんだよなあ。もう昼過ぎだし、売り切れてるかな。
「鶏と……豚と……あっ、卵」
ちょっと値は張るが、卵かけご飯にするとうまい卵があるんだよな。それ買おう。
「野菜も買っとくか……」
お、なんだこれ。漬物? へえ、寒干し大根。味付けとかはないんだ。あ、これであれ作れねぇかな。たくあん炒めたやつ。ご飯のお供にいいんだなあ。作ってみるか。一本あったら足りるかな。
「やっぱり、一条君だ」
「ん?」
「やっほー、久しぶり~」
「あ、山下さん。こんにちは」
「こんにちはぁ」
山下さんはひらひらと手を振って、愛想よく笑った。
「バイトはお休みですか」
「そ、昼から幸輔と映画行くから、迎えに来た」
「なるほど」
田中さんは仕事中か。それにしても二人、仲いいなあ。なんか田中さんと山下さんって、正反対な感じするのに。
山下さんは俺の買い物かごの中身を見て言った。
「ちゃんと買い物してんだねぇ。インスタントばっかりとか、そういうことはないんだ」
「インスタントって楽ですけど、続くと体調崩すんですよね。体質なのかな」
「あーなるほど」
と、しばらく野菜コーナーで山下さんと話をしていたら、田中さんがやってきた。まだエプロンをつけているあたり、仕事中なのだろう。「こんにちは」と会釈すると、田中さんは愛想よく笑って「こんにちは」と返してくれた。そして田中さんは山下さんに視線を移した。
「来てたのか」
「うん。迎えに来た」
「もうちょっとあるぞ」
「だいじょぶ」
山下さんは頼もしく笑うと、俺の肩に手を置いた。
「一条君と話してるから」
「……迷惑かけんなよ」
「迷惑なんかじゃないよねえ?」
楽しそうに笑う山下さんと、困ったような表情をする田中さんの双方に目を向けられ、何と答えればいいのか分からない。別にこの後用事ないし、漬物を炊く時間さえあれば、まあ、うん……
「別に、迷惑では……」
「ほらねぇ」
得意げに笑う山下さんをちらっと見た後、田中さんは真剣な表情で言ってきた。
「何かあったらすぐに言うんだぞ。ほんとに、遠慮しなくていいからな」
「えっと……はい!」
「そんな人を不審者のように……」
山下さんがへらっと笑いながら言った。
会計を済ませて外に出る。山下さんもなんか買ったらしい。花丸スーパーの外には、ベンチが設けられている。ちょうど空いていたので、二人で並んで座った。
「はい、これ。話し相手になってもらうお礼」
と、山下さんが差し出してきたのは缶のコーンスープだった。
「ありがとうございます。いただきます」
「寒い時には温かいものに限るよねぇ」
口が広くなっているので、粒もしっかり飲める。飲みやすいなあ。甘くて、ホカホカだ。さっきもファミレスで飲んだけど、また違っていい。ああ、かじかんだ手が温まる。
「最近、学校はどう? 先生たち元気?」
「あ、はい。そういえば体育の先生が代わって……」
それから、田中さんが来るまで、だらだらと話をした。こういう時間も、悪くない。
「……確かに、たくあんとは違うな」
生の大根より大根の風味するな、これ。歯ごたえがいい。
これを細切りにして、味付けは……ごま油で炒めたところに、醤油とみりん、それに砂糖と少しの酒。で、最後に炒ったごまを振りかける。帰りがけにレシピ聞いてよかった。
「どうかなあ」
……うん、うん。ばあちゃんが作ったやつには勝てそうにないが、なかなかいける。うまい。
こりゃ弁当にもよさそうだな。味がなじんだら、もうちょっとうまくなりそうだ。明日の朝が、楽しみだなあ。
炊き立てご飯をラップにのせて、漬物をのせて、握る。今日の昼飯はこれに決定。四つぐらい、でかいの作っとけばいいだろ。……漬物だけじゃあんまりかな。うーん、あとで考えよう。とりあえず、漬物のを二個、握る。
そんで朝も食う。味噌玉溶かして、ご飯をどんぶりによそって……漬物、漬物。卵かけご飯は、また今度ということで。
「いただきます」
とりあえず、まずはみそ汁を飲もう。ふんわりと香る味噌の香りに、つるんとしたわかめの食感、ねぎの風味。うん、いいね。これからの飯への期待が膨らむってもんだ。
それじゃ早速、漬物を。
「ん、うまい」
出来立ての時よりも味がなじんでいてうまい。甘辛く、でも塩辛さはなく、程よい塩梅でご飯が進む。何より歯ごたえがいい。ポリポリ、コリコリとした食感で、次々食べたくなるんだなあ。歯ごたえって、料理の中でも結構大事な要素だよな。
古漬けで作るのもいいが、なるほど、こういう大根で作るのもいいもんだ。いつも売ってるわけじゃないし、また今度買っとこう。醤油とかも合うらしい。いろいろ試してみたいな。
ご飯に漬物を山盛りのせて、ご飯と一緒にかきこむ。
ごまの風味がダイレクトに感じられて、食感もすごい。醤油の香ばしさと、みりんの甘さがご飯に少しだけ移って、漬物は少し温かくなって、うまい。
こりゃ、昼ご飯も楽しみだ。ちょっとあごは、疲れそうだけどな。
「ごちそうさまでした」
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