一条春都の料理帖

藤里 侑

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日常

第五百二十七話 そぼろピーマン

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「次の仕事はいつから?」
 たらふくいちごあめを食った後、ゲーム片手に聞くと父さんはスマホを確認しながら言った。
「明後日の朝からだね」
「あー、学校行くぐらい?」
「そう。一緒に出るかな~」
 と、母さんも言う。ということは……
「晩酌は今日まで?」
 聞くと二人はそろって頷いた。だったら今日は酒の肴で飯か。うん、いいな。酒の肴になるものは味が濃いことが多いから、おかずにちょうどいいんだなあ。
「じゃあ何食べたい? 俺、作るよ」
 その言葉に父さんも母さんも、ふふふ、と笑った。うちの両親に、遠慮という二文字は似合わない。
「お母さんはね、なんか野菜、食べたいな。もういっそ、ざく切りでもいいよ」
「父さんは……そうだなあ。肉かな」
 野菜に肉。素材名で言われるとは。まあ、そんな気はしたけど。野菜に肉かあ……うちにあるものでなんか作れるかね。
 冷蔵庫を見てみる。うーん、全体的に野菜が足りない。
「買いに行くか」

 野菜と肉かあ。なににしようかなあ。
「まず、キャベツ」
 父さんが押すカートにかごをのせ、そこにキャベツを入れる。一玉あれば、なんかできるだろ。
「母さん、どの野菜が食べたいの」
「えっとねー、ピーマンとか?」
「ピーマンね」
 二袋……三袋にするか。
 ジャガイモとかニンジンとかも買っておくか。ぜいたくな数日を過ごすと、無性に健康的な生活をしたくなる。というか、野菜を体が欲するんだな。
 しかし野菜だけだと栄養偏るからな。他のものも必要だ。
「さて、父さん。肉はどれがいい」
「これとか?」
 父さんが示したのは霜降りの分厚いステーキ肉だった。えーっと、金額が……
「予算オーバーです」
「あはは。冗談、冗談」
 牛肉コーナーを通り抜け、鶏肉と豚肉が並ぶコーナーに向かう。
「豚肉は疲労回復だっけ? 春都」
「うん、そう聞くね」
「じゃあ豚肉と、鶏もいいね」
 豚肉は冷凍しておけば一カ月はもつな。鶏肉は砂ずりとか薬研軟骨を。あっ、そうだ。ピーマンあるならひき肉も買っとくか。ひき肉は豚もいいが、今日は鶏にしようか。脂が少なくてさっぱりしていいんだ。
「ピーマンの肉詰めを作るの?」
 母さんが聞いてくる。
「うーん、そうとも言える。鶏肉炒めて味付けして、生ピーマンと一緒に」
「あっ、すてき」
「砂ずりと薬研軟骨はからあげかな」
「おっいいねぇ」
 父さんも楽しそうに笑った。
 そうと決まれば、砂ずりをさばかなければ。
 さあ、忙しくなるぞ。

 砂ずりをさばく前に、まずはピーマンを。半分に切って、種を取って洗って、皿にのせる。どれくらい必要だろうか。結構食うだろうなあ。よし、二袋分準備しよう。足りなければもう一袋、余ったら明日の朝、ということにしようか。
 こんなもんか。わあ、壮観。でもいい匂い。ちょっと一つ拝借して、ドレッシングとマヨネーズを付けて、食べる。んふふ、このほのかな苦みとさわやかさ、生ピーマン、やっぱ好きだなあ。
 キャベツもざく切りにしようか。ポン酢をかけておくと、食べるときにはちょうどいい塩梅になっているだろう。
 砂ずりを淡々と捌いていく。細切れの部分は別にしておいて、明日にでも炒めよう。塩こしょうで炒めるといいんだ。
「ふー……」
 砂ずりをさばくのはなかなかに骨が折れる。結構力いるんだ、これ。はあ、疲れた。薬研軟骨はボウルに移しておくとする。
 鶏のミンチ肉は醤油、砂糖、酒、にんにく、しょうがで味付けをして炒める。少々濃い目の方がいいだろう。ピーマンと合わせるんだし。
 よし、こんなもんか。からあげの味付けは揚げる前にしよう。濃い目の味はいいもんだが、あんまり濃すぎてもだめだからな。ほどほどって、簡単にいうけど結構難しいのだ。
 さて、飯までもうひと頑張り。

 なんか今日、砂ずりも薬研軟骨もうまく揚げられたぞ。やるじゃん、俺。
「いただきます」
 まずはキャベツを食べてみる。うん、程よい味わい。すっきりと酸味のあるポン酢に癖のあまりないキャベツ。癖になりそうだ。
 揚げたてのうちにからあげを。まずは砂ずり。サクッとした衣、にんにく醤油の香り、ザグッとした歯ごたえの砂ずり。噛むほどにジュワジュワとうま味が染み出してきて、最高にうまい。
 薬研軟骨はこりっこりだ。塩こしょうのシンプルな味付けが、淡白な味わいの骨とわずかばかりの肉によく合う。これは確か、ささみ肉だったかな。歯ごたえ、いいなあ。このかたい歯ごたえがたまらなく愛おしくなる時があるのだ。
 さて、ピーマンはどうかな。ピーマンの上にそぼろをのせて、こぼれないように食べる。パリッとしたピーマンの食感に、みずみずしさ、そして青さ、ほろ苦い風味。そこに鶏肉のうま味と甘辛い味わい。やっぱりうまい。米にも合う。
「おいしいね、これ。つくねじゃないのもいいものねぇ」
 と、母さんが満足げにピーマンをほおばる。
「からあげもおいしいよ」
 父さんは言って、からあげをほおばった。
「それはよかった」
 ピーマンに鶏肉、そしてラー油で味変をしてみる。あっ、これ、タンタンメンみたい。今度家でタンタンメン、作ってみようか。
 マヨネーズをつけてもうまい。まろやかで、ピーマンのみずみずしさが際立つようだ。
 やっぱり、酒の肴って白米に合うなあ。それにしても、鶏肉、準備しすぎたか。ま、明日の朝、ご飯にかけて食ってもいいか。
 またピーマン、切ろうかな。

「ごちそうさまでした」
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