一条春都の料理帖

藤里 侑

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日常

第五百二十六話 いちごあめ

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 年が明けて早一週間、すっかり日常が戻ってきた。連休ってのも悪くないが、学校行ってからの休み、ってのもまたいい。頑張っとくと休みやすい。
「よいしょっと」
 ゲームとジュースをもってこたつにもぐりこむ。うめずは尻尾を揺らしながらソファに飛び乗って落ち着いた。父さんと母さんはそろそろ出発だからと、準備をしている。
「なんかテレビやってっかな」
「わうっ」
「なー、アニメ以外よく分からんよなあ」
 番組編成もいつも通りに戻った。年末年始特番のダイジェストがニュースの芸能コーナーで流れている。年末に音楽番組が集中するのは何なのだろうか。演歌縛りとか、グループ縛りとか、いろいろあるよなあ。縛りって言い方はなんか変かな。
『続いては、今年行きたいグルメスポットを紹介します』
 こういうグルメスポットって、都会であることが多いから、なかなか行かないんだよなあ。あとシンプルに高い。でも、見てるだけでも楽しいんだ。
『まずは食べ歩きにうってつけの……』
「食べ歩きかぁ」
 普段見ない景色見ながら食う飯ってのは、やっぱ味わいが違うんだよなあ。でも正直いうと、家でこうやってのんびりしながら普段食わない飯を食うの、好き。だからつい、テイクアウトにしてしまうんだなあ。
『こちら、いちごあめ! 串にささっていて……』
 おっ、これネットで見たことある。うまそうだなあって思ってたんだ。写真じゃわかりづらかったけど、結構いちご、大きいんだなあ。なんか値段に納得いった。高いものにはそれなりの理由があるんだな。
 大ぶりのいちご四つが串にささっていて、透明の飴が薄くかかっていて、パリパリでジューシーで……
「うまそうだな」
「わう」
「な」
 でも、ちょっと買いに行くには遠いなあ。うちで再現できないかな。そりゃお店の味みたいにはなんないけどさ、雰囲気は味わえそうだし。
 ちょっと調べてみよ。
「スマホスマホ……どこだ、あった」
 うめずの下敷きにされていたスマホを取り出し、レシピサイトで検索してみる。おお、いっぱい出てきた。そんなにレシピがあるんだ。へえ、知らなかった。ぶどうの飴とかもあるんだ。シャインマスカットの飴、うまそう。今年作ってみようかな。いざシャインマスカットを目の前にして飴掛け、できるだろうか。
 てかそもそもうちに、いちごないじゃん。買いに行くしかないかあ。寒いなあ、今日。もういいかなあ……
「……とりあえずゲームしよ」
 テレビを消し、こたつに深くもぐりこんでゲームを起動する。ああ、新しいコントローラーいいねえ。色合いもいいし、何より、勝手に動かない。でも今まで勝手に動く中でやってきたから、逆に変な感じがする。
 あっ、そういえばコントローラー、梱包しただけで送ってないや。早めに出しに行かないと、見積もりも来ないからなあ。
「うーん、行くかあ」
 ずっとじーっとしてるのもあれだし、うめずの散歩ついでに行こうかな。

「思ったより寒くないな」
 太陽の光も差し、風も穏やかで、まるで春先のようである。気持ちいいなあ。
「わーうっ」
「な、気持ちいいな」
「わう」
 運送会社の営業所までは遠いと思っていたが、そうでもないようだ。散歩にはちょうどいい距離である。自転車で行くともっと早いんだろうな。道も広いし、歩きやすい。道路としっかり離れているのはいいな。
 宅配便なんてそうそう出さないから、ちょっと手間取る。でも受付してくれた人が親切にしてくれたし、他にお客さんも待っていなかったから、焦らずにできてよかった。
 帰り道は行きと少し違う道を通る。車の通りが少ない道で、結構この雰囲気、好きなんだ。図書館に寄りたいが、それはまた今度にしよう。
 そしてこの道は途中で花丸スーパーの前を通る。
「……いちご、売ってると思うか?」
 うめずに話しかけると、うめずは首を傾げた。そして飼い主の言葉が分からないなりに「わうっ」と言った。
「ありがとな」
「わう」
「売ってるよな」
 よし、買おう。気になるもんは一度、食ってみるに限る。

 えーっと、いちごあめを作るのに必要な物は……グラニュー糖に水、それといちごか。シンプルだけど、でも、ちょっと難しそうだ。
 砂糖と水を薄い鍋に入れ、かき混ぜることなく火にかける。えっ、いいのこれで。焦げないの? いやでもレシピいくつか見て全部そうだったし、きっと大丈夫なんだろうなあ。なんか怖いな。
 いちごは串にさしておく。よし、煮詰まったな。そしたら鍋を火からおろして、いちごをつけていく。
 くるくる回して、きれいにつけて、つけたらクッキングシートの上にのせる。冷蔵庫に入れて、冷やしたら完成だ。
 待っている間は少し、ゲームでもしようかな。

「いちごあめ作ったんだ?」
 荷造りを終えた父さんと母さんがやってくる。
「おいしそうねぇ」
「二人の分もあるよ」
 うめずには切り分けたバナナを。安かったんだ、今日。間食にもちょうどいいし。
「いただきます」
 さて、どうかなあ。
 パリッと香ばしく砕ける飴、はじけるいちごの酸味と程よい甘み。これはうまい。初めて作った割にはうまくいったなあ。イチゴが甘いばっかりじゃなくて、酸味もそれなりにあるやつでよかった。
 飴のカリカリしたところ、うまい。べっこう飴だな、これ。
「おいしいじゃない、これ」
「うんうん、おいしい」
 ちょっとねっとり、かたまりきってないところというか、分厚いところもうまい。いちごあめ、うまいな。
 お店のはまた違うんだろうなあ。そっちも食べてみたい。
 でも、うちでも作れるもんだ。また作ろう。

「ごちそうさまでした」
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