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日常
第五百二十三話 からあげとポテト
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「春都ー、図書館」
「おう」
教室まで迎えに来た咲良と一緒に、図書館へ向かう。今日は冬休み中の開館日なので、案の定、カウンター当番を頼まれたのだ。まあ、何も用事ないからいいんだけど。
「失礼しまーす」
「やあ、二人とも。今年もよろしく頼むぞ」
先生のその言葉には、新年のあいさつ以上のなにかが含まれているように思う。今年もこき使われんのかなあ。
「先生って、正月、何してたんすか?」
図書館が開いてすぐは生徒があまり来ない。咲良は椅子にだらりと座り、漆原先生に聞いた。先生はカウンターに置いてある配布物や掲示物を取り換えながら答える。
「俺はずっと家にいたぞ。外は人が多くてなあ、出る気になれなかった」
「引きこもりっすか」
「初詣に、近くの神社に行ったくらいだ」
なんとなくそれは、想像のつく答えだった。咲良も同じようなことを思ったらしく「あ~、なるほどっすねぇ~」と間延びした声で相槌を打った。しばらく話をしていると、ちらほら生徒がやってきた。
「やっぱ今のうちに返すやつ、多いんだなあ」
作業の合間に、咲良がつぶやく。返却されていく本は確かに多い。しかも一つ一つが分厚くて、片付けが大変だ。
「授業やってるときは荷物多いからな」
「そりゃそうだ」
本棚にも続々と返却本がたまっていくが、咲良の目の前にもうず高く本が積まれていく。借りるときはどうしようもないが、返すときはバーコード通すだけでいいからな。並ぶ必要ないと思ってるやつもいるんだろう。上級生がそういうことやり続けて、どれがだれの本か判別がつかなくなってくると、一年生も置き始めるからキリがない。
「あー、もう。また忘れもの!」
いらだった様子で、咲良はしおりをカウンターにたたきつける。さっきからずっとあるんだよなあ、しおりの忘れ物。長編を借りたものだから一日では当然読み切れなくて、しおりを挟んでいたけど、そのままになっていた、という感じか。
こういうのがあるから、借りたやつには残っていてもらいたいんだよなあ。
「え、なにこれ。捨てていいかな」
咲良が困惑した声をあげるので、何事かと思えば、その手には紅白の箸袋があった。
「しおり代わりにしたんだろうけどさ、これ、捨てていいよな?」
「……うん、たぶん」
「あーもう、誰だよこれ~。地味に捨てづらいもん挟むんじゃねぇよ~」
結局捨てずに、しおりと一緒に取っておくことにしたらしい。分かる。正月用の箸の袋って、捨てづらいよな。妙に立派で、きれいだから。
正月ってのは結構気合入れて準備する割には、あっという間に過ぎていくんだよなあ。だからこう、忘れ去られる何かしらが存在する。この箸袋みたいに。お節料理も食べきれなくて……なんてこともあり得るだろう。ま、俺にかかれば正月三が日の内に食い終わってしまうがな。ははは。
「やあ、お疲れ様」
生徒の波が一段落したところで、石上先生がやってきた。
「まだ仕事は、たんと残っているがな」
漆原先生がため息交じりに苦笑する。返却作業が済んだ本は、本棚からあふれてカウンターまで積み上げられている。石上先生はそれを見ると「おお、すごいな」と笑った。
「あっ、石上先生は正月休み、何してたんすか?」
半ば現実逃避のように咲良は聞きながら、返却作業を進めていく。もはやしおりごときではイライラする様子もなく、ただ淡々と、ペッとカウンターにしおりを放り投げていく。
尋ねられた石上先生は、ふっと遠い目をして答える。
「正月ね……休めたらよかったんだけどな」
「なんかあったんすか?」
「俺は実家に住んでいるんだが、年末年始は親戚が次々やって来てな」
「ああー……」
親戚同士のつながりが強いところは、大変だよなあ。年末年始に限らず、盆とか、ことあるごとにやってくるだろうからな。確か朝比奈のところもそんな感じだって言ってたっけ。
「そんだけ親戚が集まるってことは、結構でかい家なんすか?」
咲良は聞く。確かに、親戚が集まる家といえばそういうイメージがある。ん? それを言うなら咲良の家もなかなか大きいと思うのだが?
石上先生は苦笑した。
「うーん、大きい……そうだなあ。古い家だよ」
「俺は悠々自適に過ごさせてもらったよ」
未返却で貸出日数を過ぎている本を確認しながら、漆原先生は言った。
「酒を飲み、飯を食い、本を読んでテレビを見、こたつでまどろむ。いい休日だった」
「実家には帰ったのか」
石上先生が聞くと、漆原先生は「うん」と頬杖をつく。
「うちは親戚とか来ないけど、正月はそれなりにちゃんとするからな。しこたま酒を飲んできた」
「それは正月関係ないだろ」
なんかその会話が大人っぽいというか、学生の間ではできないような感じで、ちょっとそわそわした。
いやあ、それにしたって疲れた。冬休み中の学校で、ここまでの激務に見舞われるとは。
しかしいいのだ。今日は、何せ、からあげだから。
「あっ、ポテトもある」
「冷凍だけどね。あっ、からあげはうちで作ったよ」
「ビールに合いそうなおかずだなあ」
冷凍だろうとなんだろうと、細切りポテトにからあげとは、テンション上がる。
「いただきます」
やっぱりまずは揚げたてのからあげからだろう。今日は……もも肉かぁ。いいね。
あっつあつの衣には、歯を入れるのさえ難しい。しかしここはがっつり食うべきだろう。やけどしないように……おお、熱い。でもうまい。サクサク、カリカリの外側を噛めば、途端に香ばしさが広がる。
ジュワッとあふれ出るのは鶏のうま味と脂。そして、味付けのにんにく醤油。塩味もいいもんだが、やっぱり俺は、にんにく醤油のからあげが一番好きだ。
皮、カリッカリのサックサクで、たまらなくうまい。もちっとした食感もあり、最高だ。肉はもちもちのプリップリでたまらん。ああ、しみこんだ味付けが、肉汁が、ジュワジュワとあふれ出す。
マヨネーズがよく合う。まろやかでなあ、いいんだなあ。あっ、ポテト用のマスタードがついた。ま、いっか。
……お、これはうまいじゃないか。マヨネーズでまろやかになった口の中が、マスタードの酸味と薄く広がる辛さですっきりするんだ。なるほど、柚子胡椒以外でもさっぱりいける食べ方があったとは。たまたまついただけだったけど、ラッキーだったな。
ポテトは塩気が強めでうまい。サクッと、ほくっとしていて、いもの甘味もちゃんとわかる。ケチャップとかマヨネーズにつけるともう、無限にいけるな。マスタードはさっぱりするから、これでまた食欲加速する。
ドレッシングのかかったキャベツの千切りですっきりしたら、またからあげに。このキャベツ、歯ごたえいつもよりあったけど、食べ応えあってよかったな。ああー、鶏肉の脂を米で追いかけるって最高。
やっぱ俺、からあげ好きだなあ。
「ごちそうさまでした」
「おう」
教室まで迎えに来た咲良と一緒に、図書館へ向かう。今日は冬休み中の開館日なので、案の定、カウンター当番を頼まれたのだ。まあ、何も用事ないからいいんだけど。
「失礼しまーす」
「やあ、二人とも。今年もよろしく頼むぞ」
先生のその言葉には、新年のあいさつ以上のなにかが含まれているように思う。今年もこき使われんのかなあ。
「先生って、正月、何してたんすか?」
図書館が開いてすぐは生徒があまり来ない。咲良は椅子にだらりと座り、漆原先生に聞いた。先生はカウンターに置いてある配布物や掲示物を取り換えながら答える。
「俺はずっと家にいたぞ。外は人が多くてなあ、出る気になれなかった」
「引きこもりっすか」
「初詣に、近くの神社に行ったくらいだ」
なんとなくそれは、想像のつく答えだった。咲良も同じようなことを思ったらしく「あ~、なるほどっすねぇ~」と間延びした声で相槌を打った。しばらく話をしていると、ちらほら生徒がやってきた。
「やっぱ今のうちに返すやつ、多いんだなあ」
作業の合間に、咲良がつぶやく。返却されていく本は確かに多い。しかも一つ一つが分厚くて、片付けが大変だ。
「授業やってるときは荷物多いからな」
「そりゃそうだ」
本棚にも続々と返却本がたまっていくが、咲良の目の前にもうず高く本が積まれていく。借りるときはどうしようもないが、返すときはバーコード通すだけでいいからな。並ぶ必要ないと思ってるやつもいるんだろう。上級生がそういうことやり続けて、どれがだれの本か判別がつかなくなってくると、一年生も置き始めるからキリがない。
「あー、もう。また忘れもの!」
いらだった様子で、咲良はしおりをカウンターにたたきつける。さっきからずっとあるんだよなあ、しおりの忘れ物。長編を借りたものだから一日では当然読み切れなくて、しおりを挟んでいたけど、そのままになっていた、という感じか。
こういうのがあるから、借りたやつには残っていてもらいたいんだよなあ。
「え、なにこれ。捨てていいかな」
咲良が困惑した声をあげるので、何事かと思えば、その手には紅白の箸袋があった。
「しおり代わりにしたんだろうけどさ、これ、捨てていいよな?」
「……うん、たぶん」
「あーもう、誰だよこれ~。地味に捨てづらいもん挟むんじゃねぇよ~」
結局捨てずに、しおりと一緒に取っておくことにしたらしい。分かる。正月用の箸の袋って、捨てづらいよな。妙に立派で、きれいだから。
正月ってのは結構気合入れて準備する割には、あっという間に過ぎていくんだよなあ。だからこう、忘れ去られる何かしらが存在する。この箸袋みたいに。お節料理も食べきれなくて……なんてこともあり得るだろう。ま、俺にかかれば正月三が日の内に食い終わってしまうがな。ははは。
「やあ、お疲れ様」
生徒の波が一段落したところで、石上先生がやってきた。
「まだ仕事は、たんと残っているがな」
漆原先生がため息交じりに苦笑する。返却作業が済んだ本は、本棚からあふれてカウンターまで積み上げられている。石上先生はそれを見ると「おお、すごいな」と笑った。
「あっ、石上先生は正月休み、何してたんすか?」
半ば現実逃避のように咲良は聞きながら、返却作業を進めていく。もはやしおりごときではイライラする様子もなく、ただ淡々と、ペッとカウンターにしおりを放り投げていく。
尋ねられた石上先生は、ふっと遠い目をして答える。
「正月ね……休めたらよかったんだけどな」
「なんかあったんすか?」
「俺は実家に住んでいるんだが、年末年始は親戚が次々やって来てな」
「ああー……」
親戚同士のつながりが強いところは、大変だよなあ。年末年始に限らず、盆とか、ことあるごとにやってくるだろうからな。確か朝比奈のところもそんな感じだって言ってたっけ。
「そんだけ親戚が集まるってことは、結構でかい家なんすか?」
咲良は聞く。確かに、親戚が集まる家といえばそういうイメージがある。ん? それを言うなら咲良の家もなかなか大きいと思うのだが?
石上先生は苦笑した。
「うーん、大きい……そうだなあ。古い家だよ」
「俺は悠々自適に過ごさせてもらったよ」
未返却で貸出日数を過ぎている本を確認しながら、漆原先生は言った。
「酒を飲み、飯を食い、本を読んでテレビを見、こたつでまどろむ。いい休日だった」
「実家には帰ったのか」
石上先生が聞くと、漆原先生は「うん」と頬杖をつく。
「うちは親戚とか来ないけど、正月はそれなりにちゃんとするからな。しこたま酒を飲んできた」
「それは正月関係ないだろ」
なんかその会話が大人っぽいというか、学生の間ではできないような感じで、ちょっとそわそわした。
いやあ、それにしたって疲れた。冬休み中の学校で、ここまでの激務に見舞われるとは。
しかしいいのだ。今日は、何せ、からあげだから。
「あっ、ポテトもある」
「冷凍だけどね。あっ、からあげはうちで作ったよ」
「ビールに合いそうなおかずだなあ」
冷凍だろうとなんだろうと、細切りポテトにからあげとは、テンション上がる。
「いただきます」
やっぱりまずは揚げたてのからあげからだろう。今日は……もも肉かぁ。いいね。
あっつあつの衣には、歯を入れるのさえ難しい。しかしここはがっつり食うべきだろう。やけどしないように……おお、熱い。でもうまい。サクサク、カリカリの外側を噛めば、途端に香ばしさが広がる。
ジュワッとあふれ出るのは鶏のうま味と脂。そして、味付けのにんにく醤油。塩味もいいもんだが、やっぱり俺は、にんにく醤油のからあげが一番好きだ。
皮、カリッカリのサックサクで、たまらなくうまい。もちっとした食感もあり、最高だ。肉はもちもちのプリップリでたまらん。ああ、しみこんだ味付けが、肉汁が、ジュワジュワとあふれ出す。
マヨネーズがよく合う。まろやかでなあ、いいんだなあ。あっ、ポテト用のマスタードがついた。ま、いっか。
……お、これはうまいじゃないか。マヨネーズでまろやかになった口の中が、マスタードの酸味と薄く広がる辛さですっきりするんだ。なるほど、柚子胡椒以外でもさっぱりいける食べ方があったとは。たまたまついただけだったけど、ラッキーだったな。
ポテトは塩気が強めでうまい。サクッと、ほくっとしていて、いもの甘味もちゃんとわかる。ケチャップとかマヨネーズにつけるともう、無限にいけるな。マスタードはさっぱりするから、これでまた食欲加速する。
ドレッシングのかかったキャベツの千切りですっきりしたら、またからあげに。このキャベツ、歯ごたえいつもよりあったけど、食べ応えあってよかったな。ああー、鶏肉の脂を米で追いかけるって最高。
やっぱ俺、からあげ好きだなあ。
「ごちそうさまでした」
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