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日常
第五百五話 ちゃんぽんと餃子
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休日の郊外型ショッピングセンターは、人が多い。主に親子連ればかりだが、友人同士で集まってきている人たちもいる。うちの町のプレジャスとは大違いだ。あそこ、日用品売り場以外は、休みの日でも人が少ないんだよなあ。
「そろそろお正月の準備しないとねぇ」
入ってすぐのところに設営されていた正月コーナーの前で立ち止まって母さんが言う。
大小さまざまなしめ縄に餅各種、干支の飾り物とかカレンダーもある。あ、小さい門松。なんかかわいい。ドールハウスとかの玄関にでも飾れそうだ。
「しめ縄、結構な値段するなあ」
中くらいのしめ縄を手に取って父さんが言う。
「去年……じゃなかった、今年か。今年はどんど焼きがなかったからな。結構大きめのしめ縄してたし、ちょっと大変だったな」
どんど焼きか。しめ縄とか、正月飾りを火にくべて燃やすやつだな。小さい頃はじいちゃんとかと一緒にしめ飾りを置きに行ったっけなあ。実際に燃えてるところは一度くらいしか見たことないけど。
「何でなかったんだっけ」
聞けば、父さんはしめ縄を置いて答えた。
「数が少なかったんだって。もう、しめ縄を飾る家も少ないだろうからね」
「そもそも人が少ないでしょ、うちの町は」
あっけらかんと母さんが言う。
そうだなあ、そもそも人がいなけりゃ、売れるもんも売れないし、飾るもんも飾られないよなあ。そうなると、どんど焼きに集まる正月飾りも減るわけだ。
「まあ、また今度買いましょ」
正月飾りのコーナーを後にし、再び歩き始める。
最近できたばかりというこのショッピングセンター。確かに、どこもかしこもピカピカしているように思う。おもちゃ売り場には子どもがたくさんいる。クリスマスプレゼントだろうか、きれいに包装された大きな何かを抱えている大人もいた。
店内に流れている音楽はクリスマスソングだ。明るく、楽しげな旋律を聞いていると足取りも軽くなるが、人ごみで相殺され、いつも通りのテンションに戻る。
「お、ゲーセン発見」
広いなあ、きっと景品もいろいろあるんだろうなあ。
「見てきていいよ。父さんたち、買い物してるから」
「荷物持ちは?」
「気にしないで、楽しんでらっしゃい」
父さんと母さんに促され、人であふれるゲームセンターに向かう。
光の強さは最大出力、音楽はどこもかしこも最大。耳と目がくたびれそうな空間だ。まるで、音の膜で耳が覆われているようにも感じる。
でもやっぱ、並んでいる商品が違うなあ。毒々しいほどの色合いの海外のお菓子が並ぶ小さなクレーンゲーム、ゆったりと回る景品群をすくい上げて、前後に動く台にタイミングよく落として景品を押し出すタイプのやつには、化粧品もある。
でかいぬいぐるみコーナーも当然ある。そういや前に映画見に行ったとき、運良く取れたよなあ。ベッドの上にあるけど、あれ、触り心地抜群なんだよなあ。
「あれー、一条?」
お、何だ。けたたましい音楽にまぎれて、俺の名前が聞こえた気がした。気のせいだろうか。
「やっぱり一条じゃん。こっちこっち」
「ん? あ、山崎」
「やっほー」
「よぉ」
「中村も」
聞き間違いじゃなかったか。目の前に現れたのは学校でよく見る顔だった。私服だと印象変わるなあ。
「奇遇だねぇ。一人?」
「いや、親と一緒だ」
「そっかあ。俺らはねえ、家が近くだから、遊びに来たんだぁ」
「家でのんびりしてたら、連れ出された」
と、中村はぼやく。ああ、なんか想像つくなあ。
「なんかほしいもんでもあったのか」
中村に聞かれ、首を横に振る。
「いや、さっき来たからよく分からん」
「そっか。まあ、ゲーセンって、いくら使うかって決めとかないとキリないもんな」
「そうそう。見るだけで満足しとかないと」
景品って、実際あんま使わないものが多いんだよなあ。ガチャポンもそうだけど。娯楽を買いに来てるところあるよなあ。
「あ、そろそろお目当ての店、開くんじゃない? 雪ちゃん」
山崎がスマホを確認しながら言った。
「外でその呼び方すんな」
そう言いながらも、中村はスマホを確認し「あ、ほんとだ」とつぶやいた。
「わりぃ、俺ら行くとこあるんだ。じゃあな」
「おー、また学校で」
「じゃあねぇ~」
二人が立ち去っても、耳は賑やかなままだ。
一回だけ、ユーフォーキャッチャー、やってみるか。昔っからやってるゲームのキャラクターで、まん丸くて引っかかるところがなさそうなうえにバカでかいぬいぐるみだ。取れそうにもないが、一度、挑戦してみるかな。
「で、取れたってわけね」
フードコートの座席で、で向かいに座る母さんが大笑いする。母さんの隣に座る父さんもにこにこしていた。
「無欲の勝利というやつだ」
「……やってしまった」
持っていた百円玉は一枚で、それ一回でやめようと思ったら、その一回で取れてしまった。おかげで今、俺の隣にはどでかいぬいぐるみが座っている。
「よかったじゃない。せっかくだし、飾ればいい」
「そうだなあ……」
そう言ったところで、テーブルの上の呼び出し機器が鳴った。この振動、いつ聞いてもビビる。
頼んだのはちゃんぽんの餃子セットだ。いろいろな店があって目移りしたが、なんか、吸い寄せられてしまった。
周囲の視線を感じなくもないが、今は飯の時間である。
「いただきます」
まずはスープから。豚骨ベースだが、ラーメンほどこってりしていない。野菜たっぷりで肉も少し入っているから、うま味は十分だ。ほんのり甘いのは野菜だろうな。これこれ、これが食いたかった。
麺はつるっといい口当たりだ。もちもちしているような食感の麺は、ちゃんぽん麺らしい香りがして、スープとよく合う。
キャベツは甘く、もやしがみずみずしい。さやえんどうはポリッとみずみずしく、ニンジンはほろほろである。この野菜たっぷりなのが、ちゃんぽんのいいところだ。少し紛れている小エビもまた、噛みしめるといい味出る。
かまぼこはつるんと甘い。濃いピンクと白のコントラストがきれいな長方形のかまぼこだ。
餃子は特製のたれにつけて。酸味が少ないたれは、小さめの餃子によく合う。肉のうま味はもちろん、皮のモチモチや香ばしさもいい。柚子胡椒を少しつけて食べると、うま味が倍増するようだ。
そんでちゃんぽん麺を少したれにつけて食うのもうまい。
スープまで飲み干してしまいたいほど、ちゃんぽんは大好きだ。食欲ないときでも食えるんだよなあ、これ。食欲ある時に食ったら底なしに食える気がするほどだ。
そういやこのキャラクター、大食いだったよなあ。
こいつ取ったおかげで、うまい飯にありつけたのかな。なんてな。
「ごちそうさまでした」
「そろそろお正月の準備しないとねぇ」
入ってすぐのところに設営されていた正月コーナーの前で立ち止まって母さんが言う。
大小さまざまなしめ縄に餅各種、干支の飾り物とかカレンダーもある。あ、小さい門松。なんかかわいい。ドールハウスとかの玄関にでも飾れそうだ。
「しめ縄、結構な値段するなあ」
中くらいのしめ縄を手に取って父さんが言う。
「去年……じゃなかった、今年か。今年はどんど焼きがなかったからな。結構大きめのしめ縄してたし、ちょっと大変だったな」
どんど焼きか。しめ縄とか、正月飾りを火にくべて燃やすやつだな。小さい頃はじいちゃんとかと一緒にしめ飾りを置きに行ったっけなあ。実際に燃えてるところは一度くらいしか見たことないけど。
「何でなかったんだっけ」
聞けば、父さんはしめ縄を置いて答えた。
「数が少なかったんだって。もう、しめ縄を飾る家も少ないだろうからね」
「そもそも人が少ないでしょ、うちの町は」
あっけらかんと母さんが言う。
そうだなあ、そもそも人がいなけりゃ、売れるもんも売れないし、飾るもんも飾られないよなあ。そうなると、どんど焼きに集まる正月飾りも減るわけだ。
「まあ、また今度買いましょ」
正月飾りのコーナーを後にし、再び歩き始める。
最近できたばかりというこのショッピングセンター。確かに、どこもかしこもピカピカしているように思う。おもちゃ売り場には子どもがたくさんいる。クリスマスプレゼントだろうか、きれいに包装された大きな何かを抱えている大人もいた。
店内に流れている音楽はクリスマスソングだ。明るく、楽しげな旋律を聞いていると足取りも軽くなるが、人ごみで相殺され、いつも通りのテンションに戻る。
「お、ゲーセン発見」
広いなあ、きっと景品もいろいろあるんだろうなあ。
「見てきていいよ。父さんたち、買い物してるから」
「荷物持ちは?」
「気にしないで、楽しんでらっしゃい」
父さんと母さんに促され、人であふれるゲームセンターに向かう。
光の強さは最大出力、音楽はどこもかしこも最大。耳と目がくたびれそうな空間だ。まるで、音の膜で耳が覆われているようにも感じる。
でもやっぱ、並んでいる商品が違うなあ。毒々しいほどの色合いの海外のお菓子が並ぶ小さなクレーンゲーム、ゆったりと回る景品群をすくい上げて、前後に動く台にタイミングよく落として景品を押し出すタイプのやつには、化粧品もある。
でかいぬいぐるみコーナーも当然ある。そういや前に映画見に行ったとき、運良く取れたよなあ。ベッドの上にあるけど、あれ、触り心地抜群なんだよなあ。
「あれー、一条?」
お、何だ。けたたましい音楽にまぎれて、俺の名前が聞こえた気がした。気のせいだろうか。
「やっぱり一条じゃん。こっちこっち」
「ん? あ、山崎」
「やっほー」
「よぉ」
「中村も」
聞き間違いじゃなかったか。目の前に現れたのは学校でよく見る顔だった。私服だと印象変わるなあ。
「奇遇だねぇ。一人?」
「いや、親と一緒だ」
「そっかあ。俺らはねえ、家が近くだから、遊びに来たんだぁ」
「家でのんびりしてたら、連れ出された」
と、中村はぼやく。ああ、なんか想像つくなあ。
「なんかほしいもんでもあったのか」
中村に聞かれ、首を横に振る。
「いや、さっき来たからよく分からん」
「そっか。まあ、ゲーセンって、いくら使うかって決めとかないとキリないもんな」
「そうそう。見るだけで満足しとかないと」
景品って、実際あんま使わないものが多いんだよなあ。ガチャポンもそうだけど。娯楽を買いに来てるところあるよなあ。
「あ、そろそろお目当ての店、開くんじゃない? 雪ちゃん」
山崎がスマホを確認しながら言った。
「外でその呼び方すんな」
そう言いながらも、中村はスマホを確認し「あ、ほんとだ」とつぶやいた。
「わりぃ、俺ら行くとこあるんだ。じゃあな」
「おー、また学校で」
「じゃあねぇ~」
二人が立ち去っても、耳は賑やかなままだ。
一回だけ、ユーフォーキャッチャー、やってみるか。昔っからやってるゲームのキャラクターで、まん丸くて引っかかるところがなさそうなうえにバカでかいぬいぐるみだ。取れそうにもないが、一度、挑戦してみるかな。
「で、取れたってわけね」
フードコートの座席で、で向かいに座る母さんが大笑いする。母さんの隣に座る父さんもにこにこしていた。
「無欲の勝利というやつだ」
「……やってしまった」
持っていた百円玉は一枚で、それ一回でやめようと思ったら、その一回で取れてしまった。おかげで今、俺の隣にはどでかいぬいぐるみが座っている。
「よかったじゃない。せっかくだし、飾ればいい」
「そうだなあ……」
そう言ったところで、テーブルの上の呼び出し機器が鳴った。この振動、いつ聞いてもビビる。
頼んだのはちゃんぽんの餃子セットだ。いろいろな店があって目移りしたが、なんか、吸い寄せられてしまった。
周囲の視線を感じなくもないが、今は飯の時間である。
「いただきます」
まずはスープから。豚骨ベースだが、ラーメンほどこってりしていない。野菜たっぷりで肉も少し入っているから、うま味は十分だ。ほんのり甘いのは野菜だろうな。これこれ、これが食いたかった。
麺はつるっといい口当たりだ。もちもちしているような食感の麺は、ちゃんぽん麺らしい香りがして、スープとよく合う。
キャベツは甘く、もやしがみずみずしい。さやえんどうはポリッとみずみずしく、ニンジンはほろほろである。この野菜たっぷりなのが、ちゃんぽんのいいところだ。少し紛れている小エビもまた、噛みしめるといい味出る。
かまぼこはつるんと甘い。濃いピンクと白のコントラストがきれいな長方形のかまぼこだ。
餃子は特製のたれにつけて。酸味が少ないたれは、小さめの餃子によく合う。肉のうま味はもちろん、皮のモチモチや香ばしさもいい。柚子胡椒を少しつけて食べると、うま味が倍増するようだ。
そんでちゃんぽん麺を少したれにつけて食うのもうまい。
スープまで飲み干してしまいたいほど、ちゃんぽんは大好きだ。食欲ないときでも食えるんだよなあ、これ。食欲ある時に食ったら底なしに食える気がするほどだ。
そういやこのキャラクター、大食いだったよなあ。
こいつ取ったおかげで、うまい飯にありつけたのかな。なんてな。
「ごちそうさまでした」
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