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日常
第四百八十二話 差し入れおでん
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昨日とは打って変わって、なんだかどんよりした天気である。
「さて、まずは……」
掃除だな。それに洗濯も。台所もちょっと片付けときたいし、うめずの散歩にもいかないと。自分の部屋は昨日片づけたからいい。……テスト前って、どうして片付けがしたくなるんだろう。結局昨日は昼から、部屋の片付けにいそしんでしまったんだなあ。
「そしたら昼飯の準備と……」
頭の中で予定を立てていたら、スマホが鳴った。
「はいはいっと」
何だ、母さんか。
「もしもーし」
『あっ、よかった。春都起きてた』
「起きてるよ」
母さんは早々に用件を伝えた。
『今週の中ごろに帰ってくるから。それだけ言っとこうと思って。今日は仕事が立て込んでて、今しか連絡できそうにないの』
「そっか、分かった。気を付けて」
それからいくつか言葉を交わして、通話を切り、カレンダーに視線を向ける。ちょうどテスト明けに帰ってくるのか。いいタイミングだな。帰ってくるといっても仕事はあるらしく、俺の作る飯を非常に楽しみにしていらした。頑張らないとなあ。テスト最終日に、買い出しにでも行くかあ。
やることいっぱいだな。さあ、どうこなしていく?
と、今度はインターホンが鳴った。おいおい、今日は忙しいなあ。
「はいよーっと……お?」
「それじゃあ、家のことは私に任せて」
やってきたのは、ばあちゃんだった。俺がテストだということを覚えていてくれたらしく、差し入れを持って来てくれたのだ。
ばあちゃんはエプロンを身にまとい、三角巾を頭にはめる。これが、ばあちゃんのいつもの格好だ。三角巾は青色で、白い音符が散りばめられており、エプロンは日によって違うが、今日は落ち着いた薄桃色の割烹着風のものだ。
「勉強、頑張ってね。昼ご飯ができたら声かけるから」
「助かります」
部屋の掃除を先にすると言っていたので、とりあえず自分の部屋に戻る。うめずもこちらに追いやられたようで、どこにいようかと少し悩んでから、俺のベッドに飛び乗った。
「わうぅ……」
「くつろいでんなあ」
「わふっ」
ちくしょう、うらやましいな。横になりながら教科書を読んでもいいが、今やったら絶対寝る気がする。
うめずの心地よさそうな呼吸音を聞きながら、ワークとノートを開く。日本史、ちょっと怪しいとこあるんだよなあ。文化とかは大丈夫なんだけど、どうにも政治方面がなあ……
おっ、掃除機の音。扉の向こうに誰かいるって分かっているだけでも、落ち着くものだ。
さて……頑張るとしますかねえ。
「はーると、調子はどう?」
ばあちゃんの声に、ハッとする。
「うん?」
「昼ご飯できたけど」
「食べる」
勉強があまりキリがよくないけど……と思いながらそう答えると、ばあちゃんは「分かった」と言って、何かを持ってきた。お盆にのったそれは、おにぎりと麦茶、それにからあげと卵焼きだ。つまようじが刺さっている。
「これだと、食べながらでも勉強できるでしょ。どう?」
「ありがとう。助かる」
ばあちゃん、鋭いな。
「じゃ、掃除の続きしてくるね」
ばあちゃんはさっそうと居間に戻って行ってしまった。おお……パワフル。今年でばあちゃん、いくつだったっけ。
「いただきます」
おにぎりは俵型で、ちゃんとのりが巻いてある。塩気が結構きいていてうまいんだなあ。ばあちゃんは三角のおにぎりをあまりつくらない。だから、俺の中で思い起こされるおにぎりはいつも俵の形をしている。
卵焼きは甘くて、疲れた頭に染み入るようだ。からあげは少し冷えているが、カリサクッとしていて、身は柔らかく、ジューシーだ。にんにく醤油が香ばしくてうまい。あ、皮。かりもちっとした食感、いいね。
「ごちそうさまでした」
うん、うまかった。これはまた頑張れそうだ。
……晩飯は何かなあ。
よし、テスト勉強も一区切り、明日の準備も終わったし、あとは飯食って寝るだけだ。
昼間のうちにばあちゃんと散歩に行っていたうめずは帰って来てから、また俺の部屋にやって来てのんびりしていた。まるで、あくせく勉強している俺に見せつけるかのごとく。
「はー疲れた……」
風呂に入ったらごっとりきた。しかし、まだ晩飯が待っている。
みそ汁やお吸い物、うどんとはまた違う出汁の香りが漂う。これは、あれだ。おでんだ。もうすでに作ってきてくれていたらしく、温め直してくれているところだ。ばあちゃんがおでんを作るときは、金色の大きな鍋を使う。そこからいくつか持ってこられた具材たちは、今は一人用鍋でことこと揺れている。
「はーい、できたよ」
「ありがとう。いただきます」
うーん、どれから食べよう。大根かな。
芯までしっかりだしが染みている。ほくっとした歯触りに、とろりとした口当たり。熱々で、すごくジューシーだ。
次は卵。これはからしをつけて……これこれ、この食感。プチッとはじけるような、プリプリとしているような、そんな白身の食感が癖になる。それに、黄身のコクとまろやかさ。からしがうまく味を引き締める。
牛筋には柚子胡椒かな。プリッとしていながらとろとろで、臭みはなく、うまい。柚子胡椒が牛のうま味を際立たせるようだ。
出汁もうまい。昆布とカツオから丁寧に取った出汁は、うま味が強く、ごくごく飲んでしまいそうだ。
うちでおでんを食う時はそれこそ、俵のおにぎりが出てくる。汁にちょっとずつつけながら食べるもよし、がっつり浸すのもよし、である。
こんにゃく。小さいころ、おでんの具の中で一番好きだったやつ。今も好き。今は何でも好きだから、一番は決め難いけど、かなり好きだ。食感がいいなあ。出汁が染みなさそうだが、今、口に含んでいるこんにゃくからはうま味がこれでもかと染み出してくる。あっ、白滝もある。麺みたいな感じで、出汁が絡んでうまいんだ。普通のこんにゃくとはまた違った感じの食感なのもいい。
厚揚げはレンジで温めた時よりも柔らかく、プルプルで、まろやかな感じがする。これも俺は、柚子胡椒が好きだなあ。
餃子巻。初めて食った時は衝撃的だった。モチモチの皮に魚のすり身の食感、肉のうま味、少々濃い目の味付け。出汁を含んでほろほろで……うまいんだなあ、これが。
餅巾着も最近は好きだな。揚げのほのかな大豆のうま味にトロットロの餅。結んであるかんぴょうがまた、出汁を含んで、何気にうまいし何より食感がいい。
おでんは冬らしい食べ物だが、なかなか作らないんだ。食いたいけど、手間を考えるとなあ……家族がいれば作るかもしれないけど、一人だともう、コンビニでいいかなって思う。
出汁に具材突っ込むだけ、ってわけにもいかないもんな。このばあちゃんのおでんのおいしさは、丁寧な仕込みの結果というわけだ。
「ああ、うまかった」
「よかった」
体も気分もポッカポカになった。よく眠れそうだ。
テスト、頑張らないとなあ。
「ごちそうさまでした」
「さて、まずは……」
掃除だな。それに洗濯も。台所もちょっと片付けときたいし、うめずの散歩にもいかないと。自分の部屋は昨日片づけたからいい。……テスト前って、どうして片付けがしたくなるんだろう。結局昨日は昼から、部屋の片付けにいそしんでしまったんだなあ。
「そしたら昼飯の準備と……」
頭の中で予定を立てていたら、スマホが鳴った。
「はいはいっと」
何だ、母さんか。
「もしもーし」
『あっ、よかった。春都起きてた』
「起きてるよ」
母さんは早々に用件を伝えた。
『今週の中ごろに帰ってくるから。それだけ言っとこうと思って。今日は仕事が立て込んでて、今しか連絡できそうにないの』
「そっか、分かった。気を付けて」
それからいくつか言葉を交わして、通話を切り、カレンダーに視線を向ける。ちょうどテスト明けに帰ってくるのか。いいタイミングだな。帰ってくるといっても仕事はあるらしく、俺の作る飯を非常に楽しみにしていらした。頑張らないとなあ。テスト最終日に、買い出しにでも行くかあ。
やることいっぱいだな。さあ、どうこなしていく?
と、今度はインターホンが鳴った。おいおい、今日は忙しいなあ。
「はいよーっと……お?」
「それじゃあ、家のことは私に任せて」
やってきたのは、ばあちゃんだった。俺がテストだということを覚えていてくれたらしく、差し入れを持って来てくれたのだ。
ばあちゃんはエプロンを身にまとい、三角巾を頭にはめる。これが、ばあちゃんのいつもの格好だ。三角巾は青色で、白い音符が散りばめられており、エプロンは日によって違うが、今日は落ち着いた薄桃色の割烹着風のものだ。
「勉強、頑張ってね。昼ご飯ができたら声かけるから」
「助かります」
部屋の掃除を先にすると言っていたので、とりあえず自分の部屋に戻る。うめずもこちらに追いやられたようで、どこにいようかと少し悩んでから、俺のベッドに飛び乗った。
「わうぅ……」
「くつろいでんなあ」
「わふっ」
ちくしょう、うらやましいな。横になりながら教科書を読んでもいいが、今やったら絶対寝る気がする。
うめずの心地よさそうな呼吸音を聞きながら、ワークとノートを開く。日本史、ちょっと怪しいとこあるんだよなあ。文化とかは大丈夫なんだけど、どうにも政治方面がなあ……
おっ、掃除機の音。扉の向こうに誰かいるって分かっているだけでも、落ち着くものだ。
さて……頑張るとしますかねえ。
「はーると、調子はどう?」
ばあちゃんの声に、ハッとする。
「うん?」
「昼ご飯できたけど」
「食べる」
勉強があまりキリがよくないけど……と思いながらそう答えると、ばあちゃんは「分かった」と言って、何かを持ってきた。お盆にのったそれは、おにぎりと麦茶、それにからあげと卵焼きだ。つまようじが刺さっている。
「これだと、食べながらでも勉強できるでしょ。どう?」
「ありがとう。助かる」
ばあちゃん、鋭いな。
「じゃ、掃除の続きしてくるね」
ばあちゃんはさっそうと居間に戻って行ってしまった。おお……パワフル。今年でばあちゃん、いくつだったっけ。
「いただきます」
おにぎりは俵型で、ちゃんとのりが巻いてある。塩気が結構きいていてうまいんだなあ。ばあちゃんは三角のおにぎりをあまりつくらない。だから、俺の中で思い起こされるおにぎりはいつも俵の形をしている。
卵焼きは甘くて、疲れた頭に染み入るようだ。からあげは少し冷えているが、カリサクッとしていて、身は柔らかく、ジューシーだ。にんにく醤油が香ばしくてうまい。あ、皮。かりもちっとした食感、いいね。
「ごちそうさまでした」
うん、うまかった。これはまた頑張れそうだ。
……晩飯は何かなあ。
よし、テスト勉強も一区切り、明日の準備も終わったし、あとは飯食って寝るだけだ。
昼間のうちにばあちゃんと散歩に行っていたうめずは帰って来てから、また俺の部屋にやって来てのんびりしていた。まるで、あくせく勉強している俺に見せつけるかのごとく。
「はー疲れた……」
風呂に入ったらごっとりきた。しかし、まだ晩飯が待っている。
みそ汁やお吸い物、うどんとはまた違う出汁の香りが漂う。これは、あれだ。おでんだ。もうすでに作ってきてくれていたらしく、温め直してくれているところだ。ばあちゃんがおでんを作るときは、金色の大きな鍋を使う。そこからいくつか持ってこられた具材たちは、今は一人用鍋でことこと揺れている。
「はーい、できたよ」
「ありがとう。いただきます」
うーん、どれから食べよう。大根かな。
芯までしっかりだしが染みている。ほくっとした歯触りに、とろりとした口当たり。熱々で、すごくジューシーだ。
次は卵。これはからしをつけて……これこれ、この食感。プチッとはじけるような、プリプリとしているような、そんな白身の食感が癖になる。それに、黄身のコクとまろやかさ。からしがうまく味を引き締める。
牛筋には柚子胡椒かな。プリッとしていながらとろとろで、臭みはなく、うまい。柚子胡椒が牛のうま味を際立たせるようだ。
出汁もうまい。昆布とカツオから丁寧に取った出汁は、うま味が強く、ごくごく飲んでしまいそうだ。
うちでおでんを食う時はそれこそ、俵のおにぎりが出てくる。汁にちょっとずつつけながら食べるもよし、がっつり浸すのもよし、である。
こんにゃく。小さいころ、おでんの具の中で一番好きだったやつ。今も好き。今は何でも好きだから、一番は決め難いけど、かなり好きだ。食感がいいなあ。出汁が染みなさそうだが、今、口に含んでいるこんにゃくからはうま味がこれでもかと染み出してくる。あっ、白滝もある。麺みたいな感じで、出汁が絡んでうまいんだ。普通のこんにゃくとはまた違った感じの食感なのもいい。
厚揚げはレンジで温めた時よりも柔らかく、プルプルで、まろやかな感じがする。これも俺は、柚子胡椒が好きだなあ。
餃子巻。初めて食った時は衝撃的だった。モチモチの皮に魚のすり身の食感、肉のうま味、少々濃い目の味付け。出汁を含んでほろほろで……うまいんだなあ、これが。
餅巾着も最近は好きだな。揚げのほのかな大豆のうま味にトロットロの餅。結んであるかんぴょうがまた、出汁を含んで、何気にうまいし何より食感がいい。
おでんは冬らしい食べ物だが、なかなか作らないんだ。食いたいけど、手間を考えるとなあ……家族がいれば作るかもしれないけど、一人だともう、コンビニでいいかなって思う。
出汁に具材突っ込むだけ、ってわけにもいかないもんな。このばあちゃんのおでんのおいしさは、丁寧な仕込みの結果というわけだ。
「ああ、うまかった」
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体も気分もポッカポカになった。よく眠れそうだ。
テスト、頑張らないとなあ。
「ごちそうさまでした」
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