一条春都の料理帖

藤里 侑

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日常

番外編 嶋田観月のつまみ食い③

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 朝早いレールバスに人は少ない。同じ学校に向かう生徒も、もう一つ後のやつに乗るからこの時間はほぼ貸し切り状態なのだ。
「えーっと、今日は……」
 動き出したところで、手帳を取り出す。
 今日は文化祭準備がある。とりあえず学校についたら生徒会室に行って、今日の詳しい予定を確認して、クラスで朝のホームルームを終えたらまた生徒会室行って、見回りしに行かないと。
 放課後は部活がない代わりに、リハーサルがあるんだったなあ。衣装合わせもするらしいし、今日は忙しいぞ。
 何事もないことを祈りながら、手帳を閉じる。
 天気がいいのは、幸いだったなあ。

「おはようございまーす」
「おっ、嶋田。おはよー」
 生徒会室にはもう生徒会長がいた。
「早いね、会長」
「頭は一番に来るもんだろ」
「かっこいいねえ」
 いろんな書類で散らかったテーブルの上に、今日の予定表が置かれている。一部だけ取って、パイプ椅子に座った。
「あ、見回りのペア、会長なんだ」
「おう。楽させてもらうぜー」
「なんで~」
「嶋田に任せたほうが確実じゃん」
 そう言いながらも会長はちゃんと仕事をするから、心配はしていない。話慣れない後輩とやる方が、結構気を使うからなあ。むしろちょっと安心だ。
 間もなくみんな集まって、申し送りがあってから、各々の教室へ向かう。
 朝のホームルームをつつがなく終わり、さっそく、見回りだ。
「最初どこ?」
 会長に聞かれて、バインダーに挟まれたマップとリストを確認する。
「えーっと……校門だね」
「りょーかい」
 校門には事前に作ってあった門を設置する。手作りでよくもまあこれだけ立派なものを作れるもんだなあ、と思う。
「うんうん、順調そうだな」
「今日も明日も雨は降らないみたいだから、よかったね」
「ホントだよ」
 次の行き先である教室棟に向かいながら、会長はため息をついた。
「雨降るってなったら、屋外の出し物、調整しないといけないからさ~」
「結構大変だよね~」
 準備期間が長かったおかげで、みんなスムーズに設置ができているようだ。
「よし、一通り見て回ったな」
「そうだね。特に問題なし」
「よかったよかった」
 生徒会室に戻り、つかの間の休憩を取る。
 あとは放課後のリハーサルだけだなあ。衣装班がめっちゃ気合入ってたから、どんな衣装になることやら。気がかりなのは、それだけかなあ。

「……これは」
 白ベースに、出演者それぞれに割り振られた色がアクセントになっている、タキシードにも似た衣装。しかも、出演者によって微妙にデザインが違うという、異様にこだわりのある衣装となっている。
「設計図からは想像もつかないね?」
 衣装班の一人に聞けば、得意げに胸を張って頷かれた。
「イラストは微妙でも、衣装づくりは慣れている」
「慣れてるの? なんで?」
「まあ……いろいろと」
 へえ、やっぱり人って、分からないものだなあ。決して十分とはいいがたい予算内に収めつつ、これだけのクオリティの衣装を作れるとは。恐れ入る。
「じゃ、着てみるか」
 会長の言葉に、出演者六人、着替えに向かう。サイズがぴったりなのも驚いた。まあ、かなりしっかり採寸されたからなあ……衣装が出来上がるまでは時間がかかるので、その間、大きく体形が変わるようなことがないように、と釘を刺されたほどだ。
「おー、いいね、動きやすい」
「立派なもんだなあ」
「すげーな」
 衣装に問題がないことを確認したところで、さっそく、舞台でリハーサルだ。音響も光の演出も、全部を本番通りにするらしい。
 さあ、頑張るぞー。

 疲れた。非常に疲れた。
 結局リハーサルは通しで三回やって、曲ごとに場所どりを何度もやった。帰る時間も、いつも以上に遅くなるほどだ。
「あー……早く寝たい」
 明日も朝早いからなあ……それにしても、おなかすいた。
 こういう時にコンビニの明かりを見つけると、ものすごくほっとする。普段は何気なく見ているものも、状況によってはこうも変わって見えるんだなあ。
 同じことを考えている生徒が他に何人もいたようで、コンビニは混んでいた。さっと買い物を済ませて、駅のホームで電車を待ちながら食べることにする。
「いただきます」
 肉まん、年中食べられるんだけど、冬になると妙にうれしいんだなあ、これが。
 もちもちでふわふわの生地はほんのり甘い。これだけでもうまいんだけど、肉ダネも食べたいよなあ。濃い目の味付けで、肉だけじゃなくて他の具材の食感も楽しめる。
 酢醤油とか、からしをつけて味変するのも楽しい。
 明日は、春都と井上に会えるといいなあ。席の場所が分かれば、ファンサもしやすいからなあ。
 帰ったらアイドルのファンサ、調べてみようかな。ここまでみんなが頑張って、衣装も作ってくれて、リハーサルもしてくれたんだし、僕も頑張らないと。
 ふふふ、明日が楽しみだなあ。

「ごちそうさまでした」
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