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日常
第四百七十四話 ナポリタン
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フードコートを出た後、あとは帰るだけだとのんびりフロアを歩いていたら、気になるものを見つけたからと、咲良と早瀬が店に吸い込まれて行ってしまった。洋服屋か。あいつら、金あんのかな。
店近くのベンチが空いていたので、朝比奈と並んで座る。
手元にあるのは、フードコートにいったん戻って買ったジュースだ。ジュース専門店が目に入り、思いのほか安かったのでつい、買ってしまった。
「ん、うまいな、このジュース」
朝比奈が楽しそうに言った。
「何買ったんだ、朝比奈」
「イチゴ。一条は?」
「オレンジ」
この店のジュースは果肉がたっぷり入ってて、氷も細かく一緒に砕かれているから、ちょっとシャーベットっぽい感じもある。酸味が強く爽やかなオレンジが、疲れた体に染み入るようだ。太めのストローなので飲みやすい。
「そういえば、そろそろ期末だな」
ふと思い立って言うと、朝比奈が「ああ、そうだなあ」とぼんやり相槌を打った。
「まあ別に、今更、急いでやんないといけないこともないけどね」
「だなあ。提出物とかはやんないとだけど」
そう言うと、朝比奈は気だるげな表情を浮かべる。
「丸付けが面倒なんだよなー、あれ」
最後までジュースをすすって、カップを捨てる。
ちょうどそのタイミングで二人が戻ってきたので、帰ることにした。
「なんか買えたか」
「おー、ばっちり!」
ほくほくと満足感に満ちた表情で咲良は言った。早瀬も買い物袋を引っ提げているところを見るあたり、二人とも、いいもんが買えたんだろうな。
「で、二人とも、何話してたんだ?」
早瀬がそう聞いてくる。朝比奈が「期末の話」と答えると、咲良は「うへえ」といわんばかりの表情を浮かべた。
「もうそんな時期かあ、やだなあ、勉強漬けじゃん」
「お前の場合、普段があんまり勉強してないんだし、たまにはいいだろ」
「まあ確かにそうかもしんないけどさあ」
むぅっ、と納得いかないような表情を咲良は浮かべる。早瀬は早瀬で困ったような表情をした。
「俺、ノートの提出がやだなー。知らないうちに落書きしてそうだから、見直しとかないと」
「落書きしてなくても、勉強するなら見直すだろ」
朝比奈が言えば、早瀬はあっけらかんと笑って言った。
「やー、だって自分のノートなんてなあ、ほんとに正しいこと書いてるか分かんねーし?」
「落書きよりそっちを見直した方がいいんじゃないか?」
「そこまで見ねーよ、先生たち。目立つ落書きがあった方が問題だろ」
「そう……なのか?」
人混みの流れに逆らうようにして外に出ると、すっかり日が暮れていた。ちょっと冷えるな。上着、着といたほうがよさそうだ。
「日暮れが早いなあ」
早瀬が空を見上げて言う。吐く息がうっすらと白く、ゆらゆらとゆれて、空気に溶けていく。空は真っ赤で、うろこ雲がくっきりと見える。下の方は紺色に染まり始めていた。
「俺、夏至が好き」
咲良が言うと、早瀬が「分かるわあ」と笑った。
「……冬至はかぼちゃだっけ?」
朝比奈が聞いてくるので、頷いて返す。
「かぼちゃで柚子湯だな。まあ、かぼちゃじゃなくても、「ん」がつく食いもん食ったらいいって聞くな」
「よく知ってるな」
「調べたことがある。諸説あるだろうけど、俺が覚えてんのはそういう感じのやつだ」
「えーでもかぼちゃって、「ん」ついて無くね?」
咲良が首をひねるので、その質問に答えてやる。
「南瓜、って言うだろ」
「ははぁ、なるほど」
「夏至は何食うんだっけ? あんまり聞かないよな」
早瀬の問いに、少し悩む。確かに夏至は、冬至より取り立てて騒がれることはないなあ。何だっけ、なんか聞いたことあるような……
「あっ、たこ」
「たこ? たこって、八本足のたこ?」
咲良がそう聞き返してくる。そのジェスチャーは、たこを表しているのか?
「そうそう、スーパーで見たことある。夏至にはたこを食べよう! みたいな張り紙」
「へぇ~、いろいろあるんだなあ」
そこでいったん四人の間に静寂が広がり、周囲の騒がしさが際立つ。
「……じゃ、今日はお疲れー」
早瀬がそう言ったのを皮切りに、各々「お疲れー」と帰路に着く。
晩飯、何にすっかなあ。
今日はばあちゃんが晩飯を作りに来てくれると聞いていたので、気分良く家に帰る。
「ただいまー」
「おかえりなさい。遅くまでお疲れ様」
「わうっ」
一人で留守番しなくてよかったからか、うめずの機嫌もいい。
風呂に入り、ゆっくりした服に着替えると、一気に気が抜けた。思ったより気を張っていたんだな、と今、思い知る。
「はい、できてるよ」
「ありがとう」
おっ、ナポリタンだ。あんとき餃子食ったけど、帰る頃にはもう腹減ってたんだよなあ。嬉しいな、このボリューム。
「いただきます」
クルクルと麺を巻き、ソースが飛ばないように口に含む。
んー、ケチャップの酸味がしっかり飛んで、甘い。バターのコクがよく効いていて、うま味がたっぷりだ。トマトの風味も程よく、もちもちの麺にしっかり絡んでいておいしい。一緒に炒めてあるウインナーや野菜のうま味もしっかり出ている。
ウインナーのナポリタンって、なんかうれしいんだよなあ。プチッとはじける皮、プリプリの中身、程よい香辛料の風味と肉汁。これが合うんだ、ナポリタンに。
そんで、ナポリタンといえばピーマンだろう。このほろ苦さと食感がたまらなく好きだ。パリパリ、ポリポリとした食感のピーマンは、甘い味付けのナポリタンに、すっきりとした印象を与えるのだ。
玉ねぎはしんなりしている。ほのかな甘みと玉ねぎの香りは、なくても同じように思えるが、その実、いい働きをしている。この香りがないと、ナポリタンって感じがしないんだ。
やっぱり落ち着くなあ、うちのご飯。
落ち着いたら、眠くなってきた。今日は早めに休むとしよう。
「ごちそうさまでした」
店近くのベンチが空いていたので、朝比奈と並んで座る。
手元にあるのは、フードコートにいったん戻って買ったジュースだ。ジュース専門店が目に入り、思いのほか安かったのでつい、買ってしまった。
「ん、うまいな、このジュース」
朝比奈が楽しそうに言った。
「何買ったんだ、朝比奈」
「イチゴ。一条は?」
「オレンジ」
この店のジュースは果肉がたっぷり入ってて、氷も細かく一緒に砕かれているから、ちょっとシャーベットっぽい感じもある。酸味が強く爽やかなオレンジが、疲れた体に染み入るようだ。太めのストローなので飲みやすい。
「そういえば、そろそろ期末だな」
ふと思い立って言うと、朝比奈が「ああ、そうだなあ」とぼんやり相槌を打った。
「まあ別に、今更、急いでやんないといけないこともないけどね」
「だなあ。提出物とかはやんないとだけど」
そう言うと、朝比奈は気だるげな表情を浮かべる。
「丸付けが面倒なんだよなー、あれ」
最後までジュースをすすって、カップを捨てる。
ちょうどそのタイミングで二人が戻ってきたので、帰ることにした。
「なんか買えたか」
「おー、ばっちり!」
ほくほくと満足感に満ちた表情で咲良は言った。早瀬も買い物袋を引っ提げているところを見るあたり、二人とも、いいもんが買えたんだろうな。
「で、二人とも、何話してたんだ?」
早瀬がそう聞いてくる。朝比奈が「期末の話」と答えると、咲良は「うへえ」といわんばかりの表情を浮かべた。
「もうそんな時期かあ、やだなあ、勉強漬けじゃん」
「お前の場合、普段があんまり勉強してないんだし、たまにはいいだろ」
「まあ確かにそうかもしんないけどさあ」
むぅっ、と納得いかないような表情を咲良は浮かべる。早瀬は早瀬で困ったような表情をした。
「俺、ノートの提出がやだなー。知らないうちに落書きしてそうだから、見直しとかないと」
「落書きしてなくても、勉強するなら見直すだろ」
朝比奈が言えば、早瀬はあっけらかんと笑って言った。
「やー、だって自分のノートなんてなあ、ほんとに正しいこと書いてるか分かんねーし?」
「落書きよりそっちを見直した方がいいんじゃないか?」
「そこまで見ねーよ、先生たち。目立つ落書きがあった方が問題だろ」
「そう……なのか?」
人混みの流れに逆らうようにして外に出ると、すっかり日が暮れていた。ちょっと冷えるな。上着、着といたほうがよさそうだ。
「日暮れが早いなあ」
早瀬が空を見上げて言う。吐く息がうっすらと白く、ゆらゆらとゆれて、空気に溶けていく。空は真っ赤で、うろこ雲がくっきりと見える。下の方は紺色に染まり始めていた。
「俺、夏至が好き」
咲良が言うと、早瀬が「分かるわあ」と笑った。
「……冬至はかぼちゃだっけ?」
朝比奈が聞いてくるので、頷いて返す。
「かぼちゃで柚子湯だな。まあ、かぼちゃじゃなくても、「ん」がつく食いもん食ったらいいって聞くな」
「よく知ってるな」
「調べたことがある。諸説あるだろうけど、俺が覚えてんのはそういう感じのやつだ」
「えーでもかぼちゃって、「ん」ついて無くね?」
咲良が首をひねるので、その質問に答えてやる。
「南瓜、って言うだろ」
「ははぁ、なるほど」
「夏至は何食うんだっけ? あんまり聞かないよな」
早瀬の問いに、少し悩む。確かに夏至は、冬至より取り立てて騒がれることはないなあ。何だっけ、なんか聞いたことあるような……
「あっ、たこ」
「たこ? たこって、八本足のたこ?」
咲良がそう聞き返してくる。そのジェスチャーは、たこを表しているのか?
「そうそう、スーパーで見たことある。夏至にはたこを食べよう! みたいな張り紙」
「へぇ~、いろいろあるんだなあ」
そこでいったん四人の間に静寂が広がり、周囲の騒がしさが際立つ。
「……じゃ、今日はお疲れー」
早瀬がそう言ったのを皮切りに、各々「お疲れー」と帰路に着く。
晩飯、何にすっかなあ。
今日はばあちゃんが晩飯を作りに来てくれると聞いていたので、気分良く家に帰る。
「ただいまー」
「おかえりなさい。遅くまでお疲れ様」
「わうっ」
一人で留守番しなくてよかったからか、うめずの機嫌もいい。
風呂に入り、ゆっくりした服に着替えると、一気に気が抜けた。思ったより気を張っていたんだな、と今、思い知る。
「はい、できてるよ」
「ありがとう」
おっ、ナポリタンだ。あんとき餃子食ったけど、帰る頃にはもう腹減ってたんだよなあ。嬉しいな、このボリューム。
「いただきます」
クルクルと麺を巻き、ソースが飛ばないように口に含む。
んー、ケチャップの酸味がしっかり飛んで、甘い。バターのコクがよく効いていて、うま味がたっぷりだ。トマトの風味も程よく、もちもちの麺にしっかり絡んでいておいしい。一緒に炒めてあるウインナーや野菜のうま味もしっかり出ている。
ウインナーのナポリタンって、なんかうれしいんだよなあ。プチッとはじける皮、プリプリの中身、程よい香辛料の風味と肉汁。これが合うんだ、ナポリタンに。
そんで、ナポリタンといえばピーマンだろう。このほろ苦さと食感がたまらなく好きだ。パリパリ、ポリポリとした食感のピーマンは、甘い味付けのナポリタンに、すっきりとした印象を与えるのだ。
玉ねぎはしんなりしている。ほのかな甘みと玉ねぎの香りは、なくても同じように思えるが、その実、いい働きをしている。この香りがないと、ナポリタンって感じがしないんだ。
やっぱり落ち着くなあ、うちのご飯。
落ち着いたら、眠くなってきた。今日は早めに休むとしよう。
「ごちそうさまでした」
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