一条春都の料理帖

藤里 侑

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日常

番外編 山下晃のつまみ食い③

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 平日の朝、今日はバイトもないし、レポートでも書くかなあ。
「えーっと、教科書と、レジュメとー……」
 机の上に散乱する荷物をとりあえず横に押しやって、パソコンを起動させて、その間に教科書をめくる。あ、付箋剥がれてるし。もー、どこに印付けてたか分かんなくなってんじゃん。
「おし、やるかあ」
 パソコンを触り始めた頃に比べたらタイピング速度も速くなったものだ。まあ、小学生の頃からちまちまやってたら否応にも早くなるか。完全に我流だけど。
「ん~……ここいるかなぁ……」
 レポートは情報の取捨選択が難しい。詳しく書けば書くだけいい、というようなシステムでもないからなー。記述式問題とかにもある「過不足なく」って、かなりの難題なように思われる。今はある程度知識が付いてるから見当つくけど、初めの頃は不合格ばかりだったよなあ。
 半分ぐらい終わったところでちょっと休憩。
「……」
 なんか急に、部屋の散らかり具合が気になり始めてしまった。漫画本出しっぱなし、ゲーム機ほったらかし、ブランケットはくしゃくしゃでクッションも散乱している。
 机の上もそうだ。いつ出したか覚えのない文房具の数々、袋から半分はみ出したルーズリーフ……
「片づけるか」
 とりあえず机の上だな。
 何だこのシャーペン、いつ出したっけ。これ中学の頃のやつじゃないか? めっちゃきれいだし、まだまだ使えそうだ。えーっと、筆箱筆箱……あったあった。この缶ペンケース、気に入ってたんだよなあ。
 文房具類はこれにしまっておこう。消しゴムと、物差しと……ホッチキスは入らないからこっちのペン立てに。
「あああ」
 山積みのプリントが雪崩を起こした。絶妙なバランスで成り立ってたんだなあ。いやいや、感心している場合ではない。クリップで留めていたからよかったものの、全部まぜこぜになっていたら大変なことだ。
「これ全部本棚入れとくべきものだよなあ」
 その本棚が散らかっているのだから世話ない。
 とりあえず横にやっといて、片づけられるものから片づけてしまおう。こっちの、ずっと前に雪崩が起きた現場だ。そろそろ救助活動しないと。これは……
「うわ、こんなとこにあったのかよ」
 ずっと探していたゲームのカセットだ。こんなとこれで、雪崩に巻き込まれていたのか。片づけ終わったら遊ぼ。
 とりあえずこっちの雪崩は、ほとんど必要ないものばかりだったので捨てるとして、さあ、本棚の整理だ。あっちこっちからプリントがはみ出している。ちゃんとしとかないと大変なのは自分だろー、過去の俺ぇ。
「うわー、ぎっちぎち」
 返却されたレポートをしまっていた三段ボックスが悲鳴を上げている。もうちょっと頑張ってなぁ。
 よし、本がきれいに片付いた。さっき雪崩を起こしたプリントたちを並べよう。うんうん、きれいだ。そしたら次はブランケットを片付けよう。
「……うーん」
 見た目はきれいだが、しばらく使っているからなあ……
 ふと窓の外を見る。うん、快晴。今日のうちに洗っとくか。そうと決まれば、部屋の隅に積んでおいた、一回着ただけだしまた着るかなと思ったけど結局着なかった洋服たちも洗ってしまおう。
 全部洗えるよね。てか、洗ったことあるからいけるだろう。
 ブランケットと洋服とを抱えて洗面所へ。洗濯機に放り込み、洗剤を入れてスタート。文明の利器ってありがたいよなあ。
 おお、洋服類を片付けただけでもずいぶんきれいになったな。あと床を占拠しているのはDVD関連だな。これは棚の上に……うひっ、棚の上もだいぶ散らかってんな。まあ、倒れたものを立てるだけでも十分スペースが空きそうだ。とりあえずそこに置いてっと……ゲーム機は枕元に、充電器につないで置いておく。
 そしたら仕上げに掃除機をかけよう。
「おー、立派なもんだ」
 俺の部屋って、こんなに広かったんだなあ。
 しかし、押入れがまだまだ散らかってんだよなー……魔窟というか、魔境というか。むかーしむかしの何かがあるんだろうなあ……ちょっと今日はもう疲れたし、また今度にしよう。
「あっ」
 しまった、レポートが途中だった。
 ……ま、いっか。別に急ぐものでもないし、午後から元気があったら続きをしよう。しかしどうして勉強をし始めると、周りの散らかり具合が気になるのだろう。きれいな中ですればいいのか。これをキープするの、結構大変なんだよなあ。
「お、洗濯終わったか」
 軽快な音が聞こえたので、洗面所へ向かう。うわ、水含むと重いなー。
「よ……っと」
 今日は天気がいいし、しっかり乾くだろう。夕方まで干しておけば十分か。太陽の熱を含んだ洗濯物は、気持ちいいんだよなあ。
「あー、いい匂い」
 きんもくせいの香りをはらむ、秋の風。洗剤の香りも相まってなんとも爽やかな心地だ。
 ぐうぅ……と音がして、何事かと思うが、腹の音だということに気付く。
「腹減ったな」
 なんかあったかな。うーん、何か作るのも面倒だし、カップ麺でいいや。
 カップラーメンは、醤油が好き。
「いただきます」
 黄色い麺をほぐし、ズズッとすする。うん、このジャンクな感じ、いいねえ。ふわふわの卵、プリプリ感皆無ながらしっかり味がするえび、わざとらしい味わいの肉のキューブ。スープもしょっぱくて、うまい。
 酒飲んだ後なら豚骨かなあ。そばとかうどんもいいんだよねー。でもやっぱ、カップラーメンといえば醤油のイメージなんだよねえ。
 あっ、冷凍のご飯あったな。チンしよ。
 これに卵味のふりかけをかけて食うのがなんかいいんだよなー。茶碗とかに移さず、ラップのままでな。それが、休みの日って感じしてさ。いいんだ。
 手の込んだ料理もうまいし、作ってもらう飯もいいけど、こういう、究極に手間を省きまくったご飯、無性に恋しくなる。
 そんで、カップ麺の底を漁るのが好きなんだぁ。最後まできれいに食えたら、なんかうれしいじゃん。
 さーて、昼から、もうひと頑張り、だな。

「ごちそうさまでした」
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