一条春都の料理帖

藤里 侑

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日常

第四百六十話 文化祭飯

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 レールバスに乗って、途中、電車に乗り換えて数駅。駅から五分ほど歩いたところに、その高校はある。
「おー……」
「これが私立の学校ってやつかあ」
 隣にいる咲良が校舎を見上げ、つぶやいた。
 なんというか、全体的にでかいし広いし、建物が多い。そして今日は、実に華やかだ。校門にはでかでかと手作りのアーチが置いてあり、出入りする人の数も多い。私立の文化祭って、こんななのか。
「うちの学校とは大違いだなー」
「なんか、規模がな」
「自由な感じするわ」
 さっそく受付に向かうとする。招待券を出し、来場記念の品であるポケットティッシュをもらい、おっかなびっくり歩き始める。
 おお……屋台がいっぱいだ。飯の屋台がほとんどだが、雑貨を販売しているような店もある。ほおぉ……これが私立。いや、私立じゃなくてもこういう学校はあるのかもしれないが、そうか、よその学校の文化祭はこういうこともできるんだなあ。
「なんか、歩くだけでも楽しいな!」
 咲良が楽しそうに笑ってそう言った。しかし、歩いて楽しむだけというのもあれだし、ということで、食券を買ってなんか食うことにした。
「色々あるなー、焼き鳥とかフライドポテトとか。焼きそばもある。春都、どれにする?」
「うーん……朝飯食ってきたからなあ」
「そうだよなあ。あ、向こうにデザートの屋台があるっぽい」
 咲良はもらった校内マップを見ながら道の先を指さした。こういうマップを見るのは苦手なので、こいつがいると助かる。
「迷子にならないように、着いてきてくれよ」
「分かってるよ」
 お、確かにこの辺は甘い匂いで満ちている。しかしメインストリート、長いな。大学っぽい。行ったことないけど。
「クレープかぁ……」
 なんか一番目を引かれる。よし、それにしよう。
 生クリームとわずかな果物だけだが、十分にうまそうだ。咲良もそれにしたらしい。
「いただきまーす」
 食べ歩きできるのも、文化祭ならではって感じだ。ホットケーキミックスの風味がする皮はもちっとしていて、たっぷりの生クリームとシロップ漬けの果物が甘くてうまい。
「どこ見に行く? 嶋田に会えたら一番いいんだけどなー」
「生徒会、なんかやってねーの」
 マップを見れば、校内でもたくさんの出し物をやっているようだった。
 クレープを完食し、校内に入る。おー、賑やかだ。なになに……一階はバザー、二階は展示、三階はアトラクション系といったところか。
「ここで靴を履き替えて……あっ!」
 目的の人物には早々に出会えた。観月は昇降口で来訪客の案内をしているようだった。なるほど、ヘルプセンターか。腕には、生徒会の腕章がある。
「よぉ、観月。来たぞ」
「わー来てくれたんだ~。ようこそ、わが校の文化祭へ」
「すげー、ちゃんと生徒会やってんねえ、嶋田」
「へへ、まあね」
 観月もそろそろ出し物の時間らしく、他の生徒会の人たちに促されて体育館へと向かう。俺らはそれに着いて行く感じだ。
「入り口でペンライトの貸し出しやってるから、青、選んでね~」
「観月は青なのか」
「そう、応援してねー。ブロマイドも展示されるから、見ていってよ」
 やけに本格的だなあ……というか、金あるなあ。ブロマイドって、何それ。
 招待券をもらった人たちは結構いい席に通されるらしい。おおー、よく見える。
「着ぐるみはいなかったな」
 こそこそっと咲良がささやいてくる。あ、確かに。
「そこは勝ったな!」
「何がだよ」
 お、照明が落ちた。いよいよ本格的だなあ。
『お待たせいたしました。これより……』
 こういう放送するのは放送部の役目なんだろうなあ、準備も、大変なんだろうなあ。
 多分今までだったら思わなかったであろうことを頭の隅で思いながら、舞台に視線をやった。さて、観月のアイドル姿をしっかり見届けようじゃないか。

「すごかったなー!」
「ああ、すごかった」
 体育館を出てもなんだかテンションが上がったままだ。何せ、クオリティがすごかったものだから。ライブとか行ったことないけど、きっと本当のライブもこんな感じなのかなって思うくらいには、音響も、出演者のクオリティもすごかった。知ってる曲も流れるし、アニソンの時は観月センターでこっちにめっちゃファンサするし。
「嶋田、かっこよかったなー」
「歌唱力がすごかった」
「な、ホントそれ」
 観月のお父さんも大学の頃とか歌を歌っていたみたいで、上手らしいから遺伝だろうか。いやあ……それにしてもすごかった。観月はあの後、また生徒会の仕事に戻ったらしい。午後からも公演あるんだったか、大変だなあ。
「あとでブロマイド見に行こうな」
「そうだな」
 さあ、その前にまず腹ごしらえだ。テンション上がったら腹が減った。笑うって、腹が減るんだなあ。
 いろいろ悩んだ結果、学食で弁当が出ているらしいという情報を聞きつけてそれを買うことにした。よその学校の学食、めっちゃ気になる。
「いただきます」
 人の少ない中庭のテーブルで食べることにする。使い捨ての弁当箱ってのがまた雰囲気あるなあ。
「おー、焼肉弁当かあ。いいなあ」
「肉多いな」
 キャベツともやしもたっぷりだが、一緒に炒めてある薄切りの牛肉もたっぷりだ。これは、文化祭仕様なのだろうか。それとも普段からこんな感じなのだろうか。
 特製のたれで炒められた野菜は、肉に負けず劣らず食べ応えがある。ちょっとピリ辛なんだな、このたれ。ご飯が進む味だ。キャベツは程よく甘く、もやしのみずみずしさも損なわれていない。ほんのり温かいのは、さっき出来立てを詰めてくれたからだろう。
 肉もかたくなく、むしろやわらかくてうま味もたっぷりだ。口いっぱいにほおばっても、まだまだある。
「ここの学食もうまいんだなー」
「ああ、うまいな」
 付け合わせのサラダでさっぱりしたら、今度は、添えられた肉団子を食べる。
 えっ、なにこれ、めっちゃうまい。しかも中にうずらの卵入ってるし。黒酢のソースだろうか、コクがありながらもさっぱりとしていて、うずらのプチッとはじける甘みもたまらない。
 黒ゴマが振りかかったご飯も弁当らしくていい。
「まだ食券余ってるしさー、後でなんか食べようぜ」
 咲良の言葉に頷いて同意を示す。と、ふと思いつく。
「観月になんか差し入れに行くか」
「あっ、いいねえ。そろそろ人も落ち着く頃だろうし、行ってみようぜ」
 確か、ブロマイドが展示してある教室の隣にいるっつってたな。生徒会室。
 あいつ、何でも食うけど、今何が食いたいんだろう。
 俺はフライドポテトが食いたい。あと、焼き鳥も。イベントって、いつも以上に腹が減る。

「ごちそうさまでした」
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