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日常
第四百五十八話 弁当
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「……うん」
なんかすっきり目覚めたなあ。ぐっすり眠れたというか、こんなすんなり布団から出られたのはいつぶりだろうか。朝課外もなく、集合時間は朝課外がない日よりさらに一時間遅いし、現地集合現地解散だし、めっちゃ時間あるなあ。
せっかくだし、弁当、しっかり作るか。
「何作るかなあ」
からあげは作るつもりで昨日の晩から下味付けておいたし、ある程度の食材はある。卵焼きと、ハム巻きと……せっかく揚げ物するなら、たこ焼きと餃子も揚げるか。冷凍たこ焼き、中途半端に余ってたんだよな。
サンドイッチ用のパンもあるし、ぐるぐる巻きにするか。
「よっしゃ」
まずはサンドイッチからだな。パンにハム、マヨネーズというシンプルなものだが、これがうまいんだなあ。ぐるぐるっと巻いて、アルミホイルで包んで両端をキュッとひねる。いくつか作ったところで、余ったハムでハム巻きを作る。
キュウリはいちょう切り。ハムを半分に切って巻いて……いつも思うけど、この形、メガホンっぽいよなあ。
ハムをつまようじに二つずつ刺したらマヨネーズを絞り入れて、キュウリを添える、というか刺す。刺しこみが甘いとぽろぽろ落ちて食べづらいんだ。
ここまで終わったら揚げ物だ。
まずはからあげから。うーん、いい音。食う時の音もいいけど、揚げるときの音も心躍るなあ。しかも今日は念入りに前の日から味付けをしている鶏だぞ? しかも、まっさらな脂だぞ?
よし、からあげが終わったら揚げたこと餃子だな。たこ焼きも餃子も、揚げるとなかなかに攻撃力が上がる。かたかったり、熱かったり。うまいけどな。
「おーし、こんなもんか」
ご飯はどうするかな。おかずに気合入れたし、白米詰めるだけでいいかな。いや、塩おにぎりにしよう。やっぱりからあげには白米だよな。サンドイッチもあるし、こんなもんで。
「……にしても」
作り過ぎたな。からあげなんて山盛りだ。こりゃ、晩飯まで苦労しねえ。
さー、とりあえず弁当箱。どれにすっかな。
なんか、運動会みたいになっちゃったな。今日がリュックサックでよかった。学校の鞄だったら入らなかった。
集合場所は、うめずとの散歩でもたまに来る公園だ。小学生の頃はここで持久走大会やってたっけ。
「はー。先生の話、長くね?」
出欠確認の後、咲良と合流する。ここから夕方までは絵を描く時間だ。まあ、自由時間ともいえる。中にはもう、ピクニック気分のやつらもいる。まあ俺らも例外じゃないか。この過ごしやすい気温、自然、自由、ジャージ。緩まない方がおかしいだろう。
「長かったな。芸術がどうとか」
「知ったこっちゃねーっつーの。俺らはピクニックのつもりで来てんだしさあ」
「ピクニックではないけどな」
「じゃあその荷物は何だよ」
眠そうな目をした咲良にリュックサックを指される。
「弁当に決まってんだろ」
「気合入ってんねえ~。一口ちょうだい」
「作り過ぎたから、むしろ食え」
ピクニック気分だが、まあ、絵は提出しないと成績に響くので描いとかないと。弁当が食いやすそうなところを見つけて、そこで見える景色を書けばいいだろう。屋外ステージみたいなところは、風通しもいいし飯食うのにも困らなさそうだったので、そこの観客席っぽいところにした。石でできている椅子なので、ひんやりとする。
「正直さあ、俺らが描く意味あんの?」
やる気のない体勢で、だらだらと咲良は下描きをする。
「さあ、知らん」
俺も描かないとなあ。できれば今のうちに色まで塗っておきたい。家に帰って続き描くとか、しんど過ぎる。
「賞取るやつっていつも決まってんじゃん。今更俺らみたいな素人が描いてもねえ~」
「引き立て役みたいなもんだろ。比べるものがあると、付加価値高くなるんだ」
「付加価値ねえ……」
時々、先生が巡回に来る度、咲良は体勢を立て直し、先生の姿がなくなると再びだらける。なんか、そうやって気を張っている方が疲れそうだ。
「おーわった」
開始から三時間もしないうちに咲良は全工程を終わらせてしまった。嘘だろ。俺まだ色塗り途中なんだけど。
「見て、それっぽくない?」
見せられた絵は確かに、手抜きしたようには見えない。器用だなあ、こいつ。
「春都どんぐらいで終わりそう?」
「あと三十分」
「じゃ、待とう」
咲良は軽やかにステージに近づいていくと、クルクル回ったりお辞儀をしたり、役者のまねごとをし始めた。その様子に、たまに気を取られながら、何とか絵を描き上げる。
「っし、終わり」
「終わったー?」
咲良がまた軽やかにこちらに戻ってくる。
「終わった」
「じゃ、飯にしよう」
絵具も片づけて、気兼ねなく飯が食える。ああ、腹減った。
「いただきます」
まずはからあげだろう。このしっとりとした衣は、弁当ならではの口当たりだ。しっかり味が染みていて香ばしく、うま味もたっぷりだ。肉は噛み応えがありつつもほろほろっと崩れるようでもあり、やはり、白米が合う。
「からあげ、一個ちょうだい」
「おー、食え」
皮もうまいなあ。ジュワーッと脂が染み出してきて最高だ。
はっ、いかんいかん。からあげだけじゃなく、他のも食べないと。次は……ハム巻き。塩気とマヨネーズのまろやかさ、キュウリのみずみずしさ、このバランスが素晴らしいおかずなんだなあ。これあると弁当って感じが増す。
揚げたこはもう熱々ではないが、トロトロは健在だ。カリサクッとした香ばしい衣に紅しょうがの風味、小さなタコはうま味があって、熱々では味わえない風味がいい。
揚げ餃子は口をケガしないように。中身がうま味たっぷりなので、たれはいらない。このままサクサクもちもちと食べるのがうまい。香ばしい、おいしい。
「この銀紙は何?」
「サンドイッチ」
「あー、あのぐるぐる」
フワフワのパンは圧縮されているが、もちもちしてうまい。ハムのプチッと食感がきたと思えば、マヨネーズがあふれ出す。これは、普段だとなかなか味わえないやつだ。今度は生クリームとフルーツでも作ってみるかなあ。それはそれでうまいんだ。
「さて、次はこれー」
ひとしきり弁当を食べて、咲良が鞄から取り出したのは、昨日買ったチョコエッグだ。
「なにが出るかなー」
「んじゃ、俺も」
またあとで腹減るだろうし、弁当の残りはそん時に食おう。自由に食っていいらしいからな。
さて、何が出るかな。
「お、プライヤー? だっけ、こっちが出たかー」
「俺は……金づちだ」
見事にお互い、欲しいのが出たな。
少しの沈黙の後、どちらからともなくキーホルダーを差し出し合う。
チョコレートは歯が溶けそうなほど甘かったが、結構うまかった。
「ごちそうさまでした」
なんかすっきり目覚めたなあ。ぐっすり眠れたというか、こんなすんなり布団から出られたのはいつぶりだろうか。朝課外もなく、集合時間は朝課外がない日よりさらに一時間遅いし、現地集合現地解散だし、めっちゃ時間あるなあ。
せっかくだし、弁当、しっかり作るか。
「何作るかなあ」
からあげは作るつもりで昨日の晩から下味付けておいたし、ある程度の食材はある。卵焼きと、ハム巻きと……せっかく揚げ物するなら、たこ焼きと餃子も揚げるか。冷凍たこ焼き、中途半端に余ってたんだよな。
サンドイッチ用のパンもあるし、ぐるぐる巻きにするか。
「よっしゃ」
まずはサンドイッチからだな。パンにハム、マヨネーズというシンプルなものだが、これがうまいんだなあ。ぐるぐるっと巻いて、アルミホイルで包んで両端をキュッとひねる。いくつか作ったところで、余ったハムでハム巻きを作る。
キュウリはいちょう切り。ハムを半分に切って巻いて……いつも思うけど、この形、メガホンっぽいよなあ。
ハムをつまようじに二つずつ刺したらマヨネーズを絞り入れて、キュウリを添える、というか刺す。刺しこみが甘いとぽろぽろ落ちて食べづらいんだ。
ここまで終わったら揚げ物だ。
まずはからあげから。うーん、いい音。食う時の音もいいけど、揚げるときの音も心躍るなあ。しかも今日は念入りに前の日から味付けをしている鶏だぞ? しかも、まっさらな脂だぞ?
よし、からあげが終わったら揚げたこと餃子だな。たこ焼きも餃子も、揚げるとなかなかに攻撃力が上がる。かたかったり、熱かったり。うまいけどな。
「おーし、こんなもんか」
ご飯はどうするかな。おかずに気合入れたし、白米詰めるだけでいいかな。いや、塩おにぎりにしよう。やっぱりからあげには白米だよな。サンドイッチもあるし、こんなもんで。
「……にしても」
作り過ぎたな。からあげなんて山盛りだ。こりゃ、晩飯まで苦労しねえ。
さー、とりあえず弁当箱。どれにすっかな。
なんか、運動会みたいになっちゃったな。今日がリュックサックでよかった。学校の鞄だったら入らなかった。
集合場所は、うめずとの散歩でもたまに来る公園だ。小学生の頃はここで持久走大会やってたっけ。
「はー。先生の話、長くね?」
出欠確認の後、咲良と合流する。ここから夕方までは絵を描く時間だ。まあ、自由時間ともいえる。中にはもう、ピクニック気分のやつらもいる。まあ俺らも例外じゃないか。この過ごしやすい気温、自然、自由、ジャージ。緩まない方がおかしいだろう。
「長かったな。芸術がどうとか」
「知ったこっちゃねーっつーの。俺らはピクニックのつもりで来てんだしさあ」
「ピクニックではないけどな」
「じゃあその荷物は何だよ」
眠そうな目をした咲良にリュックサックを指される。
「弁当に決まってんだろ」
「気合入ってんねえ~。一口ちょうだい」
「作り過ぎたから、むしろ食え」
ピクニック気分だが、まあ、絵は提出しないと成績に響くので描いとかないと。弁当が食いやすそうなところを見つけて、そこで見える景色を書けばいいだろう。屋外ステージみたいなところは、風通しもいいし飯食うのにも困らなさそうだったので、そこの観客席っぽいところにした。石でできている椅子なので、ひんやりとする。
「正直さあ、俺らが描く意味あんの?」
やる気のない体勢で、だらだらと咲良は下描きをする。
「さあ、知らん」
俺も描かないとなあ。できれば今のうちに色まで塗っておきたい。家に帰って続き描くとか、しんど過ぎる。
「賞取るやつっていつも決まってんじゃん。今更俺らみたいな素人が描いてもねえ~」
「引き立て役みたいなもんだろ。比べるものがあると、付加価値高くなるんだ」
「付加価値ねえ……」
時々、先生が巡回に来る度、咲良は体勢を立て直し、先生の姿がなくなると再びだらける。なんか、そうやって気を張っている方が疲れそうだ。
「おーわった」
開始から三時間もしないうちに咲良は全工程を終わらせてしまった。嘘だろ。俺まだ色塗り途中なんだけど。
「見て、それっぽくない?」
見せられた絵は確かに、手抜きしたようには見えない。器用だなあ、こいつ。
「春都どんぐらいで終わりそう?」
「あと三十分」
「じゃ、待とう」
咲良は軽やかにステージに近づいていくと、クルクル回ったりお辞儀をしたり、役者のまねごとをし始めた。その様子に、たまに気を取られながら、何とか絵を描き上げる。
「っし、終わり」
「終わったー?」
咲良がまた軽やかにこちらに戻ってくる。
「終わった」
「じゃ、飯にしよう」
絵具も片づけて、気兼ねなく飯が食える。ああ、腹減った。
「いただきます」
まずはからあげだろう。このしっとりとした衣は、弁当ならではの口当たりだ。しっかり味が染みていて香ばしく、うま味もたっぷりだ。肉は噛み応えがありつつもほろほろっと崩れるようでもあり、やはり、白米が合う。
「からあげ、一個ちょうだい」
「おー、食え」
皮もうまいなあ。ジュワーッと脂が染み出してきて最高だ。
はっ、いかんいかん。からあげだけじゃなく、他のも食べないと。次は……ハム巻き。塩気とマヨネーズのまろやかさ、キュウリのみずみずしさ、このバランスが素晴らしいおかずなんだなあ。これあると弁当って感じが増す。
揚げたこはもう熱々ではないが、トロトロは健在だ。カリサクッとした香ばしい衣に紅しょうがの風味、小さなタコはうま味があって、熱々では味わえない風味がいい。
揚げ餃子は口をケガしないように。中身がうま味たっぷりなので、たれはいらない。このままサクサクもちもちと食べるのがうまい。香ばしい、おいしい。
「この銀紙は何?」
「サンドイッチ」
「あー、あのぐるぐる」
フワフワのパンは圧縮されているが、もちもちしてうまい。ハムのプチッと食感がきたと思えば、マヨネーズがあふれ出す。これは、普段だとなかなか味わえないやつだ。今度は生クリームとフルーツでも作ってみるかなあ。それはそれでうまいんだ。
「さて、次はこれー」
ひとしきり弁当を食べて、咲良が鞄から取り出したのは、昨日買ったチョコエッグだ。
「なにが出るかなー」
「んじゃ、俺も」
またあとで腹減るだろうし、弁当の残りはそん時に食おう。自由に食っていいらしいからな。
さて、何が出るかな。
「お、プライヤー? だっけ、こっちが出たかー」
「俺は……金づちだ」
見事にお互い、欲しいのが出たな。
少しの沈黙の後、どちらからともなくキーホルダーを差し出し合う。
チョコレートは歯が溶けそうなほど甘かったが、結構うまかった。
「ごちそうさまでした」
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