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日常
第四百四十九話 手作り餃子
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ケーキを持って家に帰る、という行為は、どうしてこうワクワクするんだろう。手元に、帰宅後の楽しみがあるというのはケーキに限らず楽しいものだが、ケーキはなんか、特別感がある。
駅のホームにあるベンチに座って電車を待っていると、席を一つ開けて、親子連れが座った。小さな男の子と母親だ。男の子はじっと、俺の手元を見つめている。
いかにも、ケーキが入っていますよ、という形の箱だもんなあ。ドールハウスみたいな形で、店のロゴが入っている。しかし、そんなに見られるとなんだか落ち着かない。少年よ、気になるのは分かるが、他のところに意識をやってはくれないか。
「お母さん、ケーキ食べたい」
「ケーキ?」
母親は、俺がケーキの箱を持っているのを横目で確認すると苦笑した。
「また今度にしようか、電車来るよ」
「やだー、ケーキ食べるぅ」
「うーん、どうしよっか」
男の子が駄々をこねるので、母親は困っているようである。こちらもなんだかいたたまれない。これをやるわけにはいかんからな。
ふと視線をよそに逸らす。少年が意識をそらさないのであれば、こちらが気にしないようにするほかない。ずらりと並ぶ自動販売機の数々が目に入り、どんなものがあるだろうと眺める。
ジュースはもちろん、お菓子の自販機もある。なんだ、あれ。冷凍食品の自動販売機もできているのか。なるほど、ここで買って帰って、レンチンすればすぐ飯が食えると言ったところか。便利だな。
「あ」
思わずこぼれた声に、背後で男の子が反応したのが分かった。そのまま視線を感じながら立ち上がり、見つけた自販機に近寄る。これは、ケーキの自販機だ。
冷凍ケーキか。ショートケーキ、チョコ、抹茶、モンブランにティラミス。タルトもあるんだなあ。冷凍ケーキって結構うまいんだ、これが。へえ、こんなんできてたのか。アレルギー対応のケーキまである。
ちらっと視線だけで男の子を見る。男の子もこちらをじっと見ていたが、母親を振り返ると「ケーキ!」と元気良く叫び、自販機を指さした。
母親もこちらを見ると、「あら、本当」とつぶやいた。
「あれでいいの?」
「うん、あれ食べたい! 買って!」
「よーし、じゃあ、何にしようかな」
親子がこちらに来たのを確認して、再びベンチに座る。これでやっと、落ち着いていられそうだ。
間もなくして電車がホームに滑り込んで来た。あの親子も、この電車に乗るらしい。
大事そうにケーキの箱を抱えた男の子の表情は、実に明るいものであった。
「ただいまー」
「あっ、おかえりー」
母さんがやけに上機嫌だ。何だろう。
「はい、これお土産」
「なにこれ、ケーキ? ありがとう~」
おお、さらに機嫌よく。うんうん、家族の機嫌がいいのはいいことだ。
「ちょうどいいところに帰って来たねー。手伝って!」
「手伝うって……何を?」
手伝いの内容は居間に行けば分かった。なるほど、餃子を包むのか。先ほど作り始めたようで、肉ダネも皮もたっぷりあった。
「おかえりー」
父さんはテーブルで、ちまちまと餃子を包んでいた。録画していたらしい映画をお供に、優雅とは程遠いがなんとも穏やかな時間である。こういう時間もいいものだなあ。
早速、手を洗って餃子を包もう。
「テレビ、変えてもいいよ」
「いや、大丈夫」
「ケーキは晩ご飯の後のデザートにしようね」
母さんが父さんの隣に座る。
皮に肉ダネをのせ、縁に水をつけて、ひだを作りながら包んでいく。久しぶりに餃子作ったなあ。なんか楽しい。つい夢中になってしまう。変な包み方をしてもいいが、今日はいわゆる餃子らしい形にしたい。
「こんな食うか?」
半分ほど作ったところで聞けば、母さんは言った。
「残った分は冷凍しておけば、後で食べられるでしょ」
「なるほど」
揚げれば弁当にも入れることができそうだ。疲れて帰って来て、何食おうか考えるのは結構しんどいし、いいな、冷凍餃子。
それにしたって、家族そろって、うちで何かを作ると、どうしてこう、山盛りになるんだろうなあ。
うちだけか? これ。
ホットプレートで餃子を焼くのはいいが、この待ち時間は楽しいようで拷問のようでもある。フライパンよりも時間がかかるように感じるんだな、これが。
「まだ?」
「もうちょっとじゃない?」
父さんはビールを飲みながらのんびりしている。あまりの空腹に、準備していたタレにご飯をちょっとつけて食べる。うーん、餃子の香りをかぎながらすっぱいタレのついた飯を食う。余計に腹が減る。
「もう焼けるから、落ち着いて」
母さんが面白そうに笑った。
少しして、やっとふたが開かれる。もわっと上がる湯気、待ち望んだ熱気と香り。
「いただきます」
隣り合う餃子同士がくっついているので、ちぎって食べる。酢とポン酢とラー油を混ぜたタレにつけて、やけどしないように一口。
カリッカリのモチモチだ。売り物のように肉汁があふれ出るわけではないが、肉のうま味は手作り餃子の方がよく感じられる。にんにくの香りは食欲を増すが、濃すぎるわけでもない。程よい香りが、肉に合う。
ニラは入っていない。その代わりというか、キャベツがたっぷりだ。肉より多い気がする。だが、それがうちの餃子のうまいポイントなのだ。
キャベツの風味はほどほどに、みずみずしさとさっぱり感が楽しめる。この大量のキャベツのおかげで、たくさん食べられるのだ。ポン酢のさわやかさと酢の酸味、ラー油のピリッとした刺激がまた合うんだなあ。
しっかりタレをつけて、ご飯にバウンドさせて、食べる。たれのついたご飯を追いかけるようにしてかきこめば、最高にうまい。
やっぱり、餃子の風味をまとったタレ味のご飯はうまいなあ。餃子もあれば、なおさらうまい。
揚げ餃子には、何をかけようかなあ。餡かけとか、一回やってみたいんだよなあ。
大量に作ったのは、正解だったんだな。
「ごちそうさまでした」
駅のホームにあるベンチに座って電車を待っていると、席を一つ開けて、親子連れが座った。小さな男の子と母親だ。男の子はじっと、俺の手元を見つめている。
いかにも、ケーキが入っていますよ、という形の箱だもんなあ。ドールハウスみたいな形で、店のロゴが入っている。しかし、そんなに見られるとなんだか落ち着かない。少年よ、気になるのは分かるが、他のところに意識をやってはくれないか。
「お母さん、ケーキ食べたい」
「ケーキ?」
母親は、俺がケーキの箱を持っているのを横目で確認すると苦笑した。
「また今度にしようか、電車来るよ」
「やだー、ケーキ食べるぅ」
「うーん、どうしよっか」
男の子が駄々をこねるので、母親は困っているようである。こちらもなんだかいたたまれない。これをやるわけにはいかんからな。
ふと視線をよそに逸らす。少年が意識をそらさないのであれば、こちらが気にしないようにするほかない。ずらりと並ぶ自動販売機の数々が目に入り、どんなものがあるだろうと眺める。
ジュースはもちろん、お菓子の自販機もある。なんだ、あれ。冷凍食品の自動販売機もできているのか。なるほど、ここで買って帰って、レンチンすればすぐ飯が食えると言ったところか。便利だな。
「あ」
思わずこぼれた声に、背後で男の子が反応したのが分かった。そのまま視線を感じながら立ち上がり、見つけた自販機に近寄る。これは、ケーキの自販機だ。
冷凍ケーキか。ショートケーキ、チョコ、抹茶、モンブランにティラミス。タルトもあるんだなあ。冷凍ケーキって結構うまいんだ、これが。へえ、こんなんできてたのか。アレルギー対応のケーキまである。
ちらっと視線だけで男の子を見る。男の子もこちらをじっと見ていたが、母親を振り返ると「ケーキ!」と元気良く叫び、自販機を指さした。
母親もこちらを見ると、「あら、本当」とつぶやいた。
「あれでいいの?」
「うん、あれ食べたい! 買って!」
「よーし、じゃあ、何にしようかな」
親子がこちらに来たのを確認して、再びベンチに座る。これでやっと、落ち着いていられそうだ。
間もなくして電車がホームに滑り込んで来た。あの親子も、この電車に乗るらしい。
大事そうにケーキの箱を抱えた男の子の表情は、実に明るいものであった。
「ただいまー」
「あっ、おかえりー」
母さんがやけに上機嫌だ。何だろう。
「はい、これお土産」
「なにこれ、ケーキ? ありがとう~」
おお、さらに機嫌よく。うんうん、家族の機嫌がいいのはいいことだ。
「ちょうどいいところに帰って来たねー。手伝って!」
「手伝うって……何を?」
手伝いの内容は居間に行けば分かった。なるほど、餃子を包むのか。先ほど作り始めたようで、肉ダネも皮もたっぷりあった。
「おかえりー」
父さんはテーブルで、ちまちまと餃子を包んでいた。録画していたらしい映画をお供に、優雅とは程遠いがなんとも穏やかな時間である。こういう時間もいいものだなあ。
早速、手を洗って餃子を包もう。
「テレビ、変えてもいいよ」
「いや、大丈夫」
「ケーキは晩ご飯の後のデザートにしようね」
母さんが父さんの隣に座る。
皮に肉ダネをのせ、縁に水をつけて、ひだを作りながら包んでいく。久しぶりに餃子作ったなあ。なんか楽しい。つい夢中になってしまう。変な包み方をしてもいいが、今日はいわゆる餃子らしい形にしたい。
「こんな食うか?」
半分ほど作ったところで聞けば、母さんは言った。
「残った分は冷凍しておけば、後で食べられるでしょ」
「なるほど」
揚げれば弁当にも入れることができそうだ。疲れて帰って来て、何食おうか考えるのは結構しんどいし、いいな、冷凍餃子。
それにしたって、家族そろって、うちで何かを作ると、どうしてこう、山盛りになるんだろうなあ。
うちだけか? これ。
ホットプレートで餃子を焼くのはいいが、この待ち時間は楽しいようで拷問のようでもある。フライパンよりも時間がかかるように感じるんだな、これが。
「まだ?」
「もうちょっとじゃない?」
父さんはビールを飲みながらのんびりしている。あまりの空腹に、準備していたタレにご飯をちょっとつけて食べる。うーん、餃子の香りをかぎながらすっぱいタレのついた飯を食う。余計に腹が減る。
「もう焼けるから、落ち着いて」
母さんが面白そうに笑った。
少しして、やっとふたが開かれる。もわっと上がる湯気、待ち望んだ熱気と香り。
「いただきます」
隣り合う餃子同士がくっついているので、ちぎって食べる。酢とポン酢とラー油を混ぜたタレにつけて、やけどしないように一口。
カリッカリのモチモチだ。売り物のように肉汁があふれ出るわけではないが、肉のうま味は手作り餃子の方がよく感じられる。にんにくの香りは食欲を増すが、濃すぎるわけでもない。程よい香りが、肉に合う。
ニラは入っていない。その代わりというか、キャベツがたっぷりだ。肉より多い気がする。だが、それがうちの餃子のうまいポイントなのだ。
キャベツの風味はほどほどに、みずみずしさとさっぱり感が楽しめる。この大量のキャベツのおかげで、たくさん食べられるのだ。ポン酢のさわやかさと酢の酸味、ラー油のピリッとした刺激がまた合うんだなあ。
しっかりタレをつけて、ご飯にバウンドさせて、食べる。たれのついたご飯を追いかけるようにしてかきこめば、最高にうまい。
やっぱり、餃子の風味をまとったタレ味のご飯はうまいなあ。餃子もあれば、なおさらうまい。
揚げ餃子には、何をかけようかなあ。餡かけとか、一回やってみたいんだよなあ。
大量に作ったのは、正解だったんだな。
「ごちそうさまでした」
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