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日常
第四百四十一話 コンビニおでん
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連休って、いいよなあ。特に月曜日が休みってのはいい。日曜日にどっか出かけて疲れたり、土日ともに勉強でつぶれたりしても、あと一日休みがあるから有意義に過ごせるというか。
今回の休みはゆっくり家で過ごそうとでも思っていたが、思いのほか疲れが残っていなかったので、図書館に行くことにした。空いた電車に揺られるのは心地いい。
駅に降り立つ。ずいぶん涼しくなったものだ。ひんやりとした電車の駅は、どことなく寂しげで、なんとなく懐かしい感じがするけど、どうして懐かしいのかがわからないような、そんな感じがする。
駅構内はそれなりに人通りも多く、大荷物を持った人も見えた。旅行にでも行っていたのだろうか、それとも、近くにあるホテルから出てきた人だろうか。入院施設が整っている病院も近くにはあるから、そこに向かう人かもしれないし、帰る人かもしれない。
周辺にいろいろな施設が整っている町は賑やかで楽しいし便利だが、その分、いろいろな想いが交錯するようでちょっと切ない。
「店もまだ開いていないか……」
図書館の開館時間に合わせて家を出ると、たいていの店はまだ開店準備中で賑わいがあまりない。その辺も、切なさを増幅させる一因かもしれない。
相変わらず、商店街は静かだなあ。うちの町のアーケードもなかなかだが、どこにでもそういう商店街はあるもんだ。発展の流れに置いて行かれたような廃墟、空き店舗、錆びて固く閉ざされたシャッター。そんな中にも新たな店が入っているようではあるが、なんだか浮いた感じがする。
うちの町にもそういう店がある。きっと都会から引っ越してきた人なんだろうなあ、と感じる店。時がたてば風景の一部になってしまうのだろうが、それはいったい、どれだけの時間が必要なのだろう。
あ、図書館。ちょうど開いたようだ。入り口に置いてある『閉館』の札を司書に人が片付けている。
「おはようございます」
その人に、にこやかにあいさつをされて少し驚く。ちゃんと挨拶してくれるんだ。
「おはようございます」
「冷え込んできましたね」
「そうですね」
中庭から何か音が聞こえてきて、ふと見れば、掃除をしている人がいた。落ち葉かあ、そういや、店の庭も、今の季節は落ち葉がこんもり積もっている。うちのは紅葉だったかなあ。色合いはきれいだけど、ばあちゃんは言っていた。
「朝掃除したと思ったら、昼にはもう落ちてんのよ。だからね、もう、ほうきで木を揺さぶって落としてるの。早く落ちてほしいじゃない?」
情緒のかけらも何もないような言い方だったのを覚えている。こういうきれいな景色とかっていうのは、少し離れて見るからきれいなのであって、近くにいれば億劫なことも多いのかもしれない。
返す本はないので、そのまま本棚に向かう。スポーツの秋、芸術の秋、いわずもがな、読書の秋。秋は色んな名前を付けられがちだ。
「すげー、人がいねえ……」
小声のつぶやきも響くほど、人がいない。実にすがすがしく、古い紙の匂いが混ざった秋の涼しい空気は、図書館全体から、本を読めと言われているような気分にさせる。
あ、そうだ。子どもがいない今のうちに、児童書コーナーを見て回ろう。いや別に子どもがいてもいいのだが、視線が痛いし、走り回ってぶつかられるから物理的にも痛いし、何より、子どもが読む本を取り上げている気分になっていたたまれなくなるのだ。
小学生の頃に借りていた児童書、ぼろいけどまだあるんだなあ。読みたいな。借りよう。
絵本も結構そろってるんだなあ。あ、これ、覚えてる。お菓子がたくさん出てくるやつだ。簡単な絵なのに妙にうまそうで、読むたびに腹が減ってたなあ。初めて読んだのはたぶん幼稚園の頃だろうけど、覚えてんだよなあ。母さんにフルーツポンチを作ってくれと何度もお願いしたものだ。
あまりたくさん借りても重いし、これくらいにしておこう。
「貸し出し、お願いします」
「はい」
人の少ない図書館に、ピッピッとバーコードを読み込む音がこだまする。
返却期限日を確認してから、図書館を出る。さて、どうしようか。素直に帰るか、それとも少し歩くか。
せっかく時間あるし、歩こう。
いつもとは違う道を通ってみようか。こっちは住宅街っぽい雰囲気だ。歩いて行くと間もなく、古い店が建ち並ぶ通りに出る。飲み屋さんが多いのか、通り全体が眠りについているような錯覚に陥る。
そんな中に、明かりの灯る店が一つあった。コンビニだ。なんとなくほっとするのは何だろう。
「いらっしゃいませー」
はっ、しまった。特に買う物はないのについ入ってしまった。
とりあえず店内を見て回るとするか。同じ系列のコンビニはうちの町にも山ほどあるが、並ぶ商品の顔触れが少しずつ違う。これがコンビニの面白いところだよなあ。
お、なんだこのお菓子。見たことない。アイスの品ぞろえも見事なものだ。それに、取り扱われている日用品の幅が広い。ティッシュが山積みだ。歯ブラシもあるし、何なら、パジャマっぽいのまである。ん? この水、冷えてないんだ。この小さいサイズで冷えてないのは初めて見るかもしれない。……あ、なるほど。薬とか飲むのに便利なのか。さすが病院近くのコンビニ。
しかし、変わらないものもある。レジ横の総菜だ。今の時期になると、肉まんやおでんも並ぶようになるのだ。出始めのおでんは、そそられる。
「すみません、おでんをいいですか」
「はい。何にしましょう」
感じのいい、てきぱきとした店員さんでよかった。
せっかくなので、近くの公園で食べることにする。
「いただきます」
なんか見事に串物がそろってしまった。つくね、牛筋、それとたこ。ちょっと奮発してしまった。
まずはつくねから食べよう。大ぶりのものが二つ刺さっている。そのままで食べてみるかなあ。……うん、うん。ほわっとした歯ごたえにジュワッと染み出す出汁と肉そのもののうま味。軟骨が入っているから程よくコリコリで、食べ応えがある。
二つ目は柚子胡椒をつけてみる。このしょっぱさとピリ辛さ、やっぱり合うなあ。からしもヒリヒリしてうまいし、薬味ってのはほんと、いいよなあ。
今度は牛筋を。うわ、トロットロだぁ。どんだけ煮込まれてたんだ、お前。出汁をたっぷり吸って、そりゃもう、口に入れて舌でつぶしただけでほどけるようだ。これも、柚子胡椒がよく合うのである。
さあ、たこだ。たこはそのままがうまいと思う。
あ、これもやわらかい。もうちょっとかたいのを想像してたけど、たこってこんなにやわらかくなるんだなあ。出汁の香りとたこの香りが相まって、何ともいえないうま味となっている。吸盤もほどけるようだ。
そんでだしをすする。いろいろな食材のうま味が染み出した出汁はうまいに決まっている。これだけでご飯が進みそうだ。のどを抜け、胃に収まる温かさが愛おしい。
あ、飲み干してしまった。まあ少なかったし、いいか。
気候もいいし、時間もある。腹も落ち着いたし、本を読むのにちょうどいい。
もう少しゆっくりしてから帰ろうかな。俺にとって秋は、迷うことなく、食欲の秋だ。
「ごちそうさまでした」
今回の休みはゆっくり家で過ごそうとでも思っていたが、思いのほか疲れが残っていなかったので、図書館に行くことにした。空いた電車に揺られるのは心地いい。
駅に降り立つ。ずいぶん涼しくなったものだ。ひんやりとした電車の駅は、どことなく寂しげで、なんとなく懐かしい感じがするけど、どうして懐かしいのかがわからないような、そんな感じがする。
駅構内はそれなりに人通りも多く、大荷物を持った人も見えた。旅行にでも行っていたのだろうか、それとも、近くにあるホテルから出てきた人だろうか。入院施設が整っている病院も近くにはあるから、そこに向かう人かもしれないし、帰る人かもしれない。
周辺にいろいろな施設が整っている町は賑やかで楽しいし便利だが、その分、いろいろな想いが交錯するようでちょっと切ない。
「店もまだ開いていないか……」
図書館の開館時間に合わせて家を出ると、たいていの店はまだ開店準備中で賑わいがあまりない。その辺も、切なさを増幅させる一因かもしれない。
相変わらず、商店街は静かだなあ。うちの町のアーケードもなかなかだが、どこにでもそういう商店街はあるもんだ。発展の流れに置いて行かれたような廃墟、空き店舗、錆びて固く閉ざされたシャッター。そんな中にも新たな店が入っているようではあるが、なんだか浮いた感じがする。
うちの町にもそういう店がある。きっと都会から引っ越してきた人なんだろうなあ、と感じる店。時がたてば風景の一部になってしまうのだろうが、それはいったい、どれだけの時間が必要なのだろう。
あ、図書館。ちょうど開いたようだ。入り口に置いてある『閉館』の札を司書に人が片付けている。
「おはようございます」
その人に、にこやかにあいさつをされて少し驚く。ちゃんと挨拶してくれるんだ。
「おはようございます」
「冷え込んできましたね」
「そうですね」
中庭から何か音が聞こえてきて、ふと見れば、掃除をしている人がいた。落ち葉かあ、そういや、店の庭も、今の季節は落ち葉がこんもり積もっている。うちのは紅葉だったかなあ。色合いはきれいだけど、ばあちゃんは言っていた。
「朝掃除したと思ったら、昼にはもう落ちてんのよ。だからね、もう、ほうきで木を揺さぶって落としてるの。早く落ちてほしいじゃない?」
情緒のかけらも何もないような言い方だったのを覚えている。こういうきれいな景色とかっていうのは、少し離れて見るからきれいなのであって、近くにいれば億劫なことも多いのかもしれない。
返す本はないので、そのまま本棚に向かう。スポーツの秋、芸術の秋、いわずもがな、読書の秋。秋は色んな名前を付けられがちだ。
「すげー、人がいねえ……」
小声のつぶやきも響くほど、人がいない。実にすがすがしく、古い紙の匂いが混ざった秋の涼しい空気は、図書館全体から、本を読めと言われているような気分にさせる。
あ、そうだ。子どもがいない今のうちに、児童書コーナーを見て回ろう。いや別に子どもがいてもいいのだが、視線が痛いし、走り回ってぶつかられるから物理的にも痛いし、何より、子どもが読む本を取り上げている気分になっていたたまれなくなるのだ。
小学生の頃に借りていた児童書、ぼろいけどまだあるんだなあ。読みたいな。借りよう。
絵本も結構そろってるんだなあ。あ、これ、覚えてる。お菓子がたくさん出てくるやつだ。簡単な絵なのに妙にうまそうで、読むたびに腹が減ってたなあ。初めて読んだのはたぶん幼稚園の頃だろうけど、覚えてんだよなあ。母さんにフルーツポンチを作ってくれと何度もお願いしたものだ。
あまりたくさん借りても重いし、これくらいにしておこう。
「貸し出し、お願いします」
「はい」
人の少ない図書館に、ピッピッとバーコードを読み込む音がこだまする。
返却期限日を確認してから、図書館を出る。さて、どうしようか。素直に帰るか、それとも少し歩くか。
せっかく時間あるし、歩こう。
いつもとは違う道を通ってみようか。こっちは住宅街っぽい雰囲気だ。歩いて行くと間もなく、古い店が建ち並ぶ通りに出る。飲み屋さんが多いのか、通り全体が眠りについているような錯覚に陥る。
そんな中に、明かりの灯る店が一つあった。コンビニだ。なんとなくほっとするのは何だろう。
「いらっしゃいませー」
はっ、しまった。特に買う物はないのについ入ってしまった。
とりあえず店内を見て回るとするか。同じ系列のコンビニはうちの町にも山ほどあるが、並ぶ商品の顔触れが少しずつ違う。これがコンビニの面白いところだよなあ。
お、なんだこのお菓子。見たことない。アイスの品ぞろえも見事なものだ。それに、取り扱われている日用品の幅が広い。ティッシュが山積みだ。歯ブラシもあるし、何なら、パジャマっぽいのまである。ん? この水、冷えてないんだ。この小さいサイズで冷えてないのは初めて見るかもしれない。……あ、なるほど。薬とか飲むのに便利なのか。さすが病院近くのコンビニ。
しかし、変わらないものもある。レジ横の総菜だ。今の時期になると、肉まんやおでんも並ぶようになるのだ。出始めのおでんは、そそられる。
「すみません、おでんをいいですか」
「はい。何にしましょう」
感じのいい、てきぱきとした店員さんでよかった。
せっかくなので、近くの公園で食べることにする。
「いただきます」
なんか見事に串物がそろってしまった。つくね、牛筋、それとたこ。ちょっと奮発してしまった。
まずはつくねから食べよう。大ぶりのものが二つ刺さっている。そのままで食べてみるかなあ。……うん、うん。ほわっとした歯ごたえにジュワッと染み出す出汁と肉そのもののうま味。軟骨が入っているから程よくコリコリで、食べ応えがある。
二つ目は柚子胡椒をつけてみる。このしょっぱさとピリ辛さ、やっぱり合うなあ。からしもヒリヒリしてうまいし、薬味ってのはほんと、いいよなあ。
今度は牛筋を。うわ、トロットロだぁ。どんだけ煮込まれてたんだ、お前。出汁をたっぷり吸って、そりゃもう、口に入れて舌でつぶしただけでほどけるようだ。これも、柚子胡椒がよく合うのである。
さあ、たこだ。たこはそのままがうまいと思う。
あ、これもやわらかい。もうちょっとかたいのを想像してたけど、たこってこんなにやわらかくなるんだなあ。出汁の香りとたこの香りが相まって、何ともいえないうま味となっている。吸盤もほどけるようだ。
そんでだしをすする。いろいろな食材のうま味が染み出した出汁はうまいに決まっている。これだけでご飯が進みそうだ。のどを抜け、胃に収まる温かさが愛おしい。
あ、飲み干してしまった。まあ少なかったし、いいか。
気候もいいし、時間もある。腹も落ち着いたし、本を読むのにちょうどいい。
もう少しゆっくりしてから帰ろうかな。俺にとって秋は、迷うことなく、食欲の秋だ。
「ごちそうさまでした」
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