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日常
第四百三十七話 つくね鍋
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「う~……」
夜中、寒さに目が覚める。身震いするような寒さというより染みるような冷たさだ。寝るときは暑かったから窓を開けて網戸にして、タオルケットをかぶって寝たのだが、夜は冷えるなあ。
「んん~」
タオルケットもひんやり冷え切ってしまって、くるまっても温かくない。風も吹きこんでくるし、寒さは増すばかりだ。
仕方ない。窓閉めよう。
「おぉ、寒い寒い」
フローリングもひんやりしている。こういうひんやりを今の時期にとっておいて、夏に使えないものだろうか。逆もまたしかりだ。なんか、夏もそんなこと考えていたような気がする。
そろそろTシャツに短パンって格好も厳しいかな。今日の晩からは、薄手の長袖長ズボンにするか。
「おっ」
窓を閉めるとき、ふと空に目をやると、ずいぶんすっきりと晴れているのに気が付いた。月明かりがまぶしく、建物の影が思いのほかくっきりと出ている。月に照らされた町は実に静かで、まるで海の底にでも沈んだようにも見えた。
星もよく見えるなあ。やっぱり、夏真っ盛りの頃とは見え方が違う気がする。
ひゅう、と風が吹く。
「寝よう寝よう」
窓を閉めると幾分か寒さが和らいだ。布団も出しといてよかったなあ。ひんやりした中で布団にくるまるの、気持ちいいんだなあ。
朝になっても寒さは健在だった。よし、今日はジャージを着ておこう。温度調節できるように下は半袖でいいかなあ。
「今日一日寒いんかな~……」
朝飯を食った後テレビを見る。うーん、どのチャンネルでも天気予報はやっていない。データ放送で見るかぁ。
えーっと……そんなに暑くはならないみたいだな。うわ、来週から結構冷えるんだ。日も短くなってきたし、なんかさみしいよなあ。まあ、過ごしやすいといえば過ごしやすいのでいいのだが。
『さて、今日は……今月末まで開催されています、秋の味覚フェアのご紹介です』
あ、あれか。電車の駅に貼ってあったポスターの。うわあ、人多いなあ。でも並んでいる食べ物はキラッキラしていて、うまそうに見える。秋は寒さが増す季節だが、暖色があふれているので寒々しさがあまりないように思う。
『こちらのお店では飲食スペースもあって、限定スイーツが食べられるんです。それでは、お願いします!』
しかし、値段がお手頃ではないなあ。ま、そりゃデパ地下でやってんだもんな。お安いわけがないのだ。
と、ぼんやりテレビを見ていたらスマホが鳴った。咲良だ。
ベランダに出て、通話ボタンを押す。涼しい風が吹いてはいるが、夜ほどではない。心地いいくらいだ。
「もしもし?」
『よーっす、春都。今大丈夫?』
「ああ。どうかしたのか?」
『そういや明日、何時に行くかなーと思って』
あ、そっか。明日はうめずを連れて道の駅に行くんだった。時間決めてなかったな、そういや。
「早い時間なら、いつでも大丈夫」
『そんなに早くは開いてねーよ』
咲良は笑うと、『んー、そうだなあ』とつぶやいてから言った。
『道の駅が十時開店だから……十時ごろ現地集合、って感じでいい?』
「おー、いいぞ」
『橘にも言っとくな』
そうか、橘も来るのか。色々忘れてたなあ。
「よろしく頼む」
『おう。じゃ、また明日~』
通話を切り、室内に戻る。
「さっきの電話、誰からだったの?」
母さんに聞かれ、先ほどの話をする。母さんは「十時ね」と頷き、ソファに座ってスマホを見た。
「じゃあ、何時に出発すればいいかな~……」
うめずと一緒に行くなら、バスでは行けない。そこで、父さんたちが送ってくれるということだ。道の駅にいる間は、久々に二人で、仕事抜きでいろんなところをドライブするつもりらしい。迎えにも来てくれるというので、ありがたい話だ。
「よかったなーうめず。いっぱい走れるぞ~」
父さんがそう言ってうめずをわしゃわしゃと撫でてやれば、うめずは「わふっ!」としっぽを振った。
道の駅行ったら、何食おう。ああいうところって割高なイメージあるけど、たまのお出かけ、楽しまなければもったいないというもの。
シャインマスカットはおごってもらうとして、昼飯は何にしようかなあ。楽しみだ。
今日は一日冷えたので、晩飯は鍋になった。手作りのつくねは、俺も一緒に作った。
「いただきます」
白菜、豆腐、しいたけにえのき、それと鶏肉。つくねも鶏肉だ。豚もいいけど、鍋に入れる肉っていったら、鶏肉のイメージが強い。
まずは白菜から。鍋の白菜、好きなんだよな。
今日はまず、ポン酢で。芯の部分から食べる。サクッとした歯触りだ、と思えば、とろんとした口当たりがやってくる。甘みは濃く、白だしの風味をまとって優しい味わいになっている。汁をたっぷり含んだ白菜の芯は、うまいんだよなあ。ポン酢の酸味もさっぱりしていい。
そんで、ポン酢が合うのは葉の部分であると、俺は思う。しゃっきりとした歯ごたえは残しつつも程よく柔らかく、出汁はもちろんだが、白菜そのもののみずみずしさも味わえる。この食感にポン酢が合うことこの上ない。
豆腐は木綿。熱いので、割って、しっかり冷まして食べる。それでもまだ熱い。だが、それがうまい。胃に入っても熱々は残っているようで、また次、次、と食べたくなるものだ。味の主張はそこまでないが、ほのかに香る大豆の風味と食感がうまい。ポン酢、合う。プルプルかつ、しっかりとした歯触りがいいんだなあ。
さあ、つくねはどうだ。うんうん、ほろっとしつつもしっかり食べ応えがある。ジュワッと染み出す出汁と鶏肉のあっさりとしたうま味、ご飯に合うなあ。崩してポン酢と出汁に浸して、ご飯にのせて、かきこむ。たまんねえな。たまに巻き込まれた白菜があるのが、おいしい。
鶏肉もうまい。皮はとろとろで、身はもちもち。細かく切ってポン酢と出汁につけるのもうまいし、丸ごとがっつり食べるのもいい。
しいたけの食感とうま味もいい。傘の部分のプリトロッとした感じ、軸の部分のぎゅっぎゅっとした感じ。両方ともうまい。えのきはのどにつっかえないようにして食べないとなあ。じゃきじゃきしたような食感がたまらないんだ。それに、えのきはポン酢も出汁もよく絡むので、ジューシーなのだ。きのこはほんと、いい味出すなあ。
柚子胡椒をつけるとピリッとした風味で味が引き締まり、塩気でうま味が増す。醤油は香ばしさが際立って、ポン酢とはまた違った味わいになるのだ。
なんか、長袖長ズボンだと暑くなってきた。汗もかいたし、またあとで着替えないと。
ああ、温かいもののおいしさや魅力が増す季節になったんだなあ。
いろいろな食材のうま味が染み出した出汁をご飯にかけ、醤油を垂らして、かきこむ。雑炊風で、コロッと入ってくる鶏肉のかけらやつくねのかけらがなんだかうれしい。
はあ、堪能した。うまかった。
「ごちそうさまでした」
夜中、寒さに目が覚める。身震いするような寒さというより染みるような冷たさだ。寝るときは暑かったから窓を開けて網戸にして、タオルケットをかぶって寝たのだが、夜は冷えるなあ。
「んん~」
タオルケットもひんやり冷え切ってしまって、くるまっても温かくない。風も吹きこんでくるし、寒さは増すばかりだ。
仕方ない。窓閉めよう。
「おぉ、寒い寒い」
フローリングもひんやりしている。こういうひんやりを今の時期にとっておいて、夏に使えないものだろうか。逆もまたしかりだ。なんか、夏もそんなこと考えていたような気がする。
そろそろTシャツに短パンって格好も厳しいかな。今日の晩からは、薄手の長袖長ズボンにするか。
「おっ」
窓を閉めるとき、ふと空に目をやると、ずいぶんすっきりと晴れているのに気が付いた。月明かりがまぶしく、建物の影が思いのほかくっきりと出ている。月に照らされた町は実に静かで、まるで海の底にでも沈んだようにも見えた。
星もよく見えるなあ。やっぱり、夏真っ盛りの頃とは見え方が違う気がする。
ひゅう、と風が吹く。
「寝よう寝よう」
窓を閉めると幾分か寒さが和らいだ。布団も出しといてよかったなあ。ひんやりした中で布団にくるまるの、気持ちいいんだなあ。
朝になっても寒さは健在だった。よし、今日はジャージを着ておこう。温度調節できるように下は半袖でいいかなあ。
「今日一日寒いんかな~……」
朝飯を食った後テレビを見る。うーん、どのチャンネルでも天気予報はやっていない。データ放送で見るかぁ。
えーっと……そんなに暑くはならないみたいだな。うわ、来週から結構冷えるんだ。日も短くなってきたし、なんかさみしいよなあ。まあ、過ごしやすいといえば過ごしやすいのでいいのだが。
『さて、今日は……今月末まで開催されています、秋の味覚フェアのご紹介です』
あ、あれか。電車の駅に貼ってあったポスターの。うわあ、人多いなあ。でも並んでいる食べ物はキラッキラしていて、うまそうに見える。秋は寒さが増す季節だが、暖色があふれているので寒々しさがあまりないように思う。
『こちらのお店では飲食スペースもあって、限定スイーツが食べられるんです。それでは、お願いします!』
しかし、値段がお手頃ではないなあ。ま、そりゃデパ地下でやってんだもんな。お安いわけがないのだ。
と、ぼんやりテレビを見ていたらスマホが鳴った。咲良だ。
ベランダに出て、通話ボタンを押す。涼しい風が吹いてはいるが、夜ほどではない。心地いいくらいだ。
「もしもし?」
『よーっす、春都。今大丈夫?』
「ああ。どうかしたのか?」
『そういや明日、何時に行くかなーと思って』
あ、そっか。明日はうめずを連れて道の駅に行くんだった。時間決めてなかったな、そういや。
「早い時間なら、いつでも大丈夫」
『そんなに早くは開いてねーよ』
咲良は笑うと、『んー、そうだなあ』とつぶやいてから言った。
『道の駅が十時開店だから……十時ごろ現地集合、って感じでいい?』
「おー、いいぞ」
『橘にも言っとくな』
そうか、橘も来るのか。色々忘れてたなあ。
「よろしく頼む」
『おう。じゃ、また明日~』
通話を切り、室内に戻る。
「さっきの電話、誰からだったの?」
母さんに聞かれ、先ほどの話をする。母さんは「十時ね」と頷き、ソファに座ってスマホを見た。
「じゃあ、何時に出発すればいいかな~……」
うめずと一緒に行くなら、バスでは行けない。そこで、父さんたちが送ってくれるということだ。道の駅にいる間は、久々に二人で、仕事抜きでいろんなところをドライブするつもりらしい。迎えにも来てくれるというので、ありがたい話だ。
「よかったなーうめず。いっぱい走れるぞ~」
父さんがそう言ってうめずをわしゃわしゃと撫でてやれば、うめずは「わふっ!」としっぽを振った。
道の駅行ったら、何食おう。ああいうところって割高なイメージあるけど、たまのお出かけ、楽しまなければもったいないというもの。
シャインマスカットはおごってもらうとして、昼飯は何にしようかなあ。楽しみだ。
今日は一日冷えたので、晩飯は鍋になった。手作りのつくねは、俺も一緒に作った。
「いただきます」
白菜、豆腐、しいたけにえのき、それと鶏肉。つくねも鶏肉だ。豚もいいけど、鍋に入れる肉っていったら、鶏肉のイメージが強い。
まずは白菜から。鍋の白菜、好きなんだよな。
今日はまず、ポン酢で。芯の部分から食べる。サクッとした歯触りだ、と思えば、とろんとした口当たりがやってくる。甘みは濃く、白だしの風味をまとって優しい味わいになっている。汁をたっぷり含んだ白菜の芯は、うまいんだよなあ。ポン酢の酸味もさっぱりしていい。
そんで、ポン酢が合うのは葉の部分であると、俺は思う。しゃっきりとした歯ごたえは残しつつも程よく柔らかく、出汁はもちろんだが、白菜そのもののみずみずしさも味わえる。この食感にポン酢が合うことこの上ない。
豆腐は木綿。熱いので、割って、しっかり冷まして食べる。それでもまだ熱い。だが、それがうまい。胃に入っても熱々は残っているようで、また次、次、と食べたくなるものだ。味の主張はそこまでないが、ほのかに香る大豆の風味と食感がうまい。ポン酢、合う。プルプルかつ、しっかりとした歯触りがいいんだなあ。
さあ、つくねはどうだ。うんうん、ほろっとしつつもしっかり食べ応えがある。ジュワッと染み出す出汁と鶏肉のあっさりとしたうま味、ご飯に合うなあ。崩してポン酢と出汁に浸して、ご飯にのせて、かきこむ。たまんねえな。たまに巻き込まれた白菜があるのが、おいしい。
鶏肉もうまい。皮はとろとろで、身はもちもち。細かく切ってポン酢と出汁につけるのもうまいし、丸ごとがっつり食べるのもいい。
しいたけの食感とうま味もいい。傘の部分のプリトロッとした感じ、軸の部分のぎゅっぎゅっとした感じ。両方ともうまい。えのきはのどにつっかえないようにして食べないとなあ。じゃきじゃきしたような食感がたまらないんだ。それに、えのきはポン酢も出汁もよく絡むので、ジューシーなのだ。きのこはほんと、いい味出すなあ。
柚子胡椒をつけるとピリッとした風味で味が引き締まり、塩気でうま味が増す。醤油は香ばしさが際立って、ポン酢とはまた違った味わいになるのだ。
なんか、長袖長ズボンだと暑くなってきた。汗もかいたし、またあとで着替えないと。
ああ、温かいもののおいしさや魅力が増す季節になったんだなあ。
いろいろな食材のうま味が染み出した出汁をご飯にかけ、醤油を垂らして、かきこむ。雑炊風で、コロッと入ってくる鶏肉のかけらやつくねのかけらがなんだかうれしい。
はあ、堪能した。うまかった。
「ごちそうさまでした」
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