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日常
第四百三十三話 総菜パン
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ゆっくり寝ていいときに限って、妙な時間に起きてしまう。この現象は何だろう。
「ん~……」
もう一度寝ようにもなんか目が冴えてしまった。仕方ない。ここは悪あがきするよりも素直に起きた方が身のためだ。
「ふぁ……」
「あら、おはよう。早いね」
先に起きていた父さんと母さんは居間にいた。
「おはよう……」
「まだ寝ててもいいんじゃないの? 今日、テストでしょ」
「なんか目が覚めた」
身支度を済ませ、ソファに座ってぼんやりとテレビ画面を眺める。まあいい。朝飯、ゆっくり食べよう。
『今日は全国的に晴れ間が広がり、過ごしやすい天気となるでしょう。それでは、各地の詳しい天気です』
テレビではこの辺りの地域の、今日一日の天気を気象予報士が伝えている。どうやら今日は一日晴れるみたいだ。傘を持って行かなくていいのは楽だなあ。
「朝ごはんはもう作っていい?」
「あ、はい。お願いします」
「目玉焼きでいいかな」
自分で料理をするのも嫌ではないが、やはり、作ってもらえるのはすごくうれしい。自分が何気なく単語帳を眺めている間に、あるいは、学校に行く準備をしている間にいいにおいが漂ってくるのはとても幸せなことだと思う。
「はい、できたよ」
今日の朝食はハムエッグにみそ汁。みそ汁の具はえのきだ。
「いただきます」
ハムエッグにはキャベツとキュウリも添えられている。自分じゃ絶対やんない。うれしいな。
ご飯の上にハムエッグをぜいたくにのせ、プチリと黄身を割る。とろりと溶けだしたところに醤油をかけて、白身とご飯も一緒にハムで巻いて食べる。
これこれ、このまろやかなうま味と白身の食感。醤油の香ばしさもいいけど、ハムの塩気もまたいい。噛みしめるほどにうま味が染み出して、ご飯もほろほろでたまらない。
みそ汁はえのきのうま味が出ていていい。
「ごちそうさまでした」
「はーい」
さて、今日は昼で帰れることだし、頑張るとしますか。
テストというものは余裕をもって終わらせたいものであるが、時間が異様に余ってしまうと逆に不安になる。
その不安は、選択肢の問題で同じものばかりになってしまうのにも似ている。何かしらの罠にかかっているんじゃないかとか、よく考えてないのではとか、気になって見直しどころじゃなくなるし、先に進むのもためらってしまう。
そもそも、そんな思考回路に陥らせることこそ罠なのではないかとも思う。学校の定期テストは特に、心理戦って感じのところがある。テストに、先生の影がちらつく。
「はい、そこまでー」
三度目の見直しが終わって少しして、テストが終わった。
試験監督の先生があんまり厳しい先生じゃなかったので、途端に教室がざわめきだす。厳しい先生だとすっげえ静かなままなんだよな。あの圧迫感は苦手だ。
後ろの席から回ってきた解答用紙に自分の分を重ね、前に回す。
「はい、はい……よーし、それじゃ、号令~」
とりあえず今日はこれでしまいだ。明日はもっと早く帰れるし、テスト期間は気分がいいなあ。
「なー、一条」
廊下に出たところで宮野に声をかけられる。気だるげな雰囲気で、一つあくびをして宮野は言った。
「放送部ってこれから部活ある?」
「いや……無いと思うけど」
そもそも週一ぐらいしか行ってないから何とも言えないのだが。宮野は深いため息をつくと、人波にもまれながら言ったものだ。
「俺らさあ、なんでか今日、部活あんだよね」
「テスト期間中って、部活やっていいんだ」
いつかどこかで、「テスト期間中は部活禁止」と聞いた気がするのだが。あれ、中学の話だったか?
宮野は眠そうな目で言った。
「テスト前はだめだけど、テスト実施日になると、そうでもないらしい」
「はぁー、そりゃ災難」
「まあ家帰っても特にすることはねーけど、疲れるし」
宮野が再び深いため息をついたところで、すっかり荷物を準備した勇樹がやってきた。
「おい、健太。もうすぐOB来るってよ」
「げ、まじか」
「じゃあ、春都。お疲れ!」
「うん、お疲れ……」
宮野も慌てて荷物を片付け、二人はあっという間に立ち去ってしまった。
さて、理系のテストが始まる前に、俺も帰るとするか。今日の昼飯何かなあ。
家に帰ると、テーブルの上にはラップで包まれたいくつもの総菜パンが山積みになっていた。
「なにこれ」
「安かったからつい。食べるでしょ?」
「まあ、食べる」
頭も使って腹が減っている。余裕で食えるだろう。
「いただきます」
まずはこのカツサンドみたいなやつ。白身魚のカツが、ホットドッグのパンに挟まってるやつだ。
サクサクのフライに酸味控えめで具だくさんのタルタルソースがよく合う。淡白ながら食べ応えばっちりの白身のフライは、素朴なパンと相性がいいのだ。少しのせられているレタスとトマトも合間に食べるとちょうどいい。
今度はナポリタンのやつ。これはちょっと小ぶりだなあ。あ、このナポリタン、甘味が強いやつだ。これもうまいんだよなあ。ソースたっぷりで、ぱさっとしたパンによく合う。
合わせる飲み物はオレンジジュース。酸味が口の中をすっきりさせてくれる。
えーっとこれは……オニオンマヨか。これ、たまに無性に食いたくなるんだよなあ。マヨの酸味とまろやかさ、玉ねぎのシャキシャキ、そして散りばめられているのはシーチキンだ。このコンビはご飯とも合うが、ふわふわでつやつやのパンともよく合う。
そんな調子で次々パンを平らげていたら、向かいに座る父さんがコーヒーをすすって言った。
「よく入るなあ。見ていて気持ちいいくらいだ」
「腹減ってたもん」
「はは、たくさん食べるといい」
甘いパンもある。チョココロネだ。もっちり感が抜群の巻貝型のパンにたっぷりのチョコクリームが詰まっている。かためのクリームは食べ応えあって、ほろ苦く、そしてちゃんと甘い。クリームだけでもうまいが、パンと合わせると最高にうまい。
はあ、食った食った。
うまかったし、なんか楽しかったな、今日の昼飯。
「ごちそうさまでした」
「ん~……」
もう一度寝ようにもなんか目が冴えてしまった。仕方ない。ここは悪あがきするよりも素直に起きた方が身のためだ。
「ふぁ……」
「あら、おはよう。早いね」
先に起きていた父さんと母さんは居間にいた。
「おはよう……」
「まだ寝ててもいいんじゃないの? 今日、テストでしょ」
「なんか目が覚めた」
身支度を済ませ、ソファに座ってぼんやりとテレビ画面を眺める。まあいい。朝飯、ゆっくり食べよう。
『今日は全国的に晴れ間が広がり、過ごしやすい天気となるでしょう。それでは、各地の詳しい天気です』
テレビではこの辺りの地域の、今日一日の天気を気象予報士が伝えている。どうやら今日は一日晴れるみたいだ。傘を持って行かなくていいのは楽だなあ。
「朝ごはんはもう作っていい?」
「あ、はい。お願いします」
「目玉焼きでいいかな」
自分で料理をするのも嫌ではないが、やはり、作ってもらえるのはすごくうれしい。自分が何気なく単語帳を眺めている間に、あるいは、学校に行く準備をしている間にいいにおいが漂ってくるのはとても幸せなことだと思う。
「はい、できたよ」
今日の朝食はハムエッグにみそ汁。みそ汁の具はえのきだ。
「いただきます」
ハムエッグにはキャベツとキュウリも添えられている。自分じゃ絶対やんない。うれしいな。
ご飯の上にハムエッグをぜいたくにのせ、プチリと黄身を割る。とろりと溶けだしたところに醤油をかけて、白身とご飯も一緒にハムで巻いて食べる。
これこれ、このまろやかなうま味と白身の食感。醤油の香ばしさもいいけど、ハムの塩気もまたいい。噛みしめるほどにうま味が染み出して、ご飯もほろほろでたまらない。
みそ汁はえのきのうま味が出ていていい。
「ごちそうさまでした」
「はーい」
さて、今日は昼で帰れることだし、頑張るとしますか。
テストというものは余裕をもって終わらせたいものであるが、時間が異様に余ってしまうと逆に不安になる。
その不安は、選択肢の問題で同じものばかりになってしまうのにも似ている。何かしらの罠にかかっているんじゃないかとか、よく考えてないのではとか、気になって見直しどころじゃなくなるし、先に進むのもためらってしまう。
そもそも、そんな思考回路に陥らせることこそ罠なのではないかとも思う。学校の定期テストは特に、心理戦って感じのところがある。テストに、先生の影がちらつく。
「はい、そこまでー」
三度目の見直しが終わって少しして、テストが終わった。
試験監督の先生があんまり厳しい先生じゃなかったので、途端に教室がざわめきだす。厳しい先生だとすっげえ静かなままなんだよな。あの圧迫感は苦手だ。
後ろの席から回ってきた解答用紙に自分の分を重ね、前に回す。
「はい、はい……よーし、それじゃ、号令~」
とりあえず今日はこれでしまいだ。明日はもっと早く帰れるし、テスト期間は気分がいいなあ。
「なー、一条」
廊下に出たところで宮野に声をかけられる。気だるげな雰囲気で、一つあくびをして宮野は言った。
「放送部ってこれから部活ある?」
「いや……無いと思うけど」
そもそも週一ぐらいしか行ってないから何とも言えないのだが。宮野は深いため息をつくと、人波にもまれながら言ったものだ。
「俺らさあ、なんでか今日、部活あんだよね」
「テスト期間中って、部活やっていいんだ」
いつかどこかで、「テスト期間中は部活禁止」と聞いた気がするのだが。あれ、中学の話だったか?
宮野は眠そうな目で言った。
「テスト前はだめだけど、テスト実施日になると、そうでもないらしい」
「はぁー、そりゃ災難」
「まあ家帰っても特にすることはねーけど、疲れるし」
宮野が再び深いため息をついたところで、すっかり荷物を準備した勇樹がやってきた。
「おい、健太。もうすぐOB来るってよ」
「げ、まじか」
「じゃあ、春都。お疲れ!」
「うん、お疲れ……」
宮野も慌てて荷物を片付け、二人はあっという間に立ち去ってしまった。
さて、理系のテストが始まる前に、俺も帰るとするか。今日の昼飯何かなあ。
家に帰ると、テーブルの上にはラップで包まれたいくつもの総菜パンが山積みになっていた。
「なにこれ」
「安かったからつい。食べるでしょ?」
「まあ、食べる」
頭も使って腹が減っている。余裕で食えるだろう。
「いただきます」
まずはこのカツサンドみたいなやつ。白身魚のカツが、ホットドッグのパンに挟まってるやつだ。
サクサクのフライに酸味控えめで具だくさんのタルタルソースがよく合う。淡白ながら食べ応えばっちりの白身のフライは、素朴なパンと相性がいいのだ。少しのせられているレタスとトマトも合間に食べるとちょうどいい。
今度はナポリタンのやつ。これはちょっと小ぶりだなあ。あ、このナポリタン、甘味が強いやつだ。これもうまいんだよなあ。ソースたっぷりで、ぱさっとしたパンによく合う。
合わせる飲み物はオレンジジュース。酸味が口の中をすっきりさせてくれる。
えーっとこれは……オニオンマヨか。これ、たまに無性に食いたくなるんだよなあ。マヨの酸味とまろやかさ、玉ねぎのシャキシャキ、そして散りばめられているのはシーチキンだ。このコンビはご飯とも合うが、ふわふわでつやつやのパンともよく合う。
そんな調子で次々パンを平らげていたら、向かいに座る父さんがコーヒーをすすって言った。
「よく入るなあ。見ていて気持ちいいくらいだ」
「腹減ってたもん」
「はは、たくさん食べるといい」
甘いパンもある。チョココロネだ。もっちり感が抜群の巻貝型のパンにたっぷりのチョコクリームが詰まっている。かためのクリームは食べ応えあって、ほろ苦く、そしてちゃんと甘い。クリームだけでもうまいが、パンと合わせると最高にうまい。
はあ、食った食った。
うまかったし、なんか楽しかったな、今日の昼飯。
「ごちそうさまでした」
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