一条春都の料理帖

藤里 侑

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日常

第四百三十一話 ハンバーガー

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 早朝、インターホンが鳴った。
「えー……こんな朝早くに誰……」
 やっと身支度を整えて朝飯の準備を始めようとしたところだったし、何よりこんな時間に来客なんてありえないし。もし、インターホンに誰も映ってなかったらどうしようとか、変な人だったらどうしようとか考えていたら、もう一度、軽快な音が鳴った。
「はいはい……」
 台所から居間に出ると、うめずのテンションがやけに高いことに気付く。
「どうした。なんかあったか」
「わうっ」
 廊下へと続く扉の前で座り、尻尾をパッタパッタとリズムよく揺らしている。
 ……うめずのこの反応、もしかして。
「あ、やっぱり」
 インターホンを確認し、玄関へ向かう。扉を開けた先には、楽しそうに笑った父さんと母さんがいた。
「おかえり」
「ただいま! 元気にしてた?」
「電話でも言った通り、元気だよ」
「わうっ!」
 うめず、よく分かったなあ。さすがだ。
 大荷物を抱え、居間に向かう。
「鍵は持ってるんじゃないの」
 聞けば父さんが笑って言った。
「出すのが面倒で。まあ、サプライズだ、サプライズ。びっくりした?」
「肝が冷えた」
「はは、すまんな」
 片づけをしながら、母さんが聞いてくる。
「朝ごはんは?」
「今から~」
「あ、それじゃあ……」
 母さんは荷物の中から、銀色の保冷バッグを取り出した。そこそこでかいが、何が入っているのだろうか。
「これ食べよう。私たちも朝ごはんはまだだから」
「ありがとう」
 どうやら中身はホッケの開きのようである。身が分厚い。一気に朝飯が豪華になったぞ。
 ホッケはグリルで焼いて、付け合わせにばあちゃんからもらった大根葉の漬物を切ろう。細かく切って、カボスも切って添える。一味も出すか。
「おお、焼けた焼けた」
 いい匂いだなあ。
「いただきます」
 パリッとした表面に箸を入れ、ほくっとした身をつまむ。おお、なんだか重量を感じるような気がする。
 ジュワッと染み出す塩気とうま味。香ばしく、臭みはない。これはおいしいなあ。ほぐしておにぎりにしてもうまそうだ。たっぷりと身をのせてご飯と一緒にかきこむ。うんうん、これはご飯が進むなあ。
「おいしいね、これ」
「よかった」
 大根葉にカボスと一味をかけて、醤油を垂らす。
 これもまたご飯が進む代物だ。カボスをかけることによって青さが程よくなり、みずみずしさと大根葉そのもののうま味、塩気をよく感じられる。
 思いがけず豪華な朝食となった。
「いただきます」
 勉強、頑張るかあ。

 父さんと母さんが帰ってきてくれたので、いつもより早く勉強に取り掛かることができた。スムーズに勉強できると、充実感が違うんだなあ、これが。
「……はい、では、今から」
 ソファで電話をしていた父さんは、通話を切ると言った。
「ちょっと出てくるね」
「あら、仕事?」
「いや、取引先ではあるんだけど、近くに寄ったから少し話でもどうだって。話し好きな人でね」
「それじゃあお昼はどうしようか」
 ちまちまと勉強を進めながら、会話の行方を聞く。
「向こうもこの後用事あるみたいだから、すぐ帰ってくるよ。何ならお昼、買ってこようか」
 待ち合わせ場所は、ファストフード店の近くのカフェらしい。ハンバーガーでも買ってこようという父さんの提案に、母さんは嬉しそうに賛成した。
「助かる。それじゃあ、何にしようかな……春都は何がいい?」
「調べてみる」
 スマホを取り出し、メニューを検索する。
 何にすっかなあ……これ、眺めてる間も楽しいよなあ。

 結局、ピリ辛ソースのビーフパテバーガーにした。それとポテトのセット。ジュースはコーラで、サイドメニューにチキンナゲットを追加した。ソースはバーベキューだ。
 ファストフードは、紙袋から出すのも楽しい。かさかさという音、紙の香りと混ざるジャンキーな匂い。
「いただきます」
 まずはハンバーガーから。レタスもたっぷりだ。
 ふかふかのパンにスパイスたっぷりの牛肉のパテ、ひりりと辛いソースは刺激的で、細かく刻まれた玉ねぎが甘く感じられるほどだ。思ったより刺激が強いが、うまい。レタスがうまいこと刺激を緩和し、みずみずしく、いいバランスだ。
 コーラのシュワシュワとした甘さが、よく合うなあ。
「人は多くなかった?」
 母さんが聞くと父さんは首を横に振った。
「混む前だったから」
 ドライブスルーは、時間によっては道路に車がはみ出すほど混むもんなあ。
 それじゃあ次、ポテト。塩気が強めだが、うまみのある塩なので程よく感じられる。サクサクとした食感は、次々食べ進んでしまう原因の一つだ。辛いソースにつけるとまた味わいが変わり、バーベキューソースもよく合う。イモの風味とバーベキューソースのスパイスや爽やかさが合うのだ。
 チキンナゲットはカリッとした衣がほんのり甘く、肉はじゅわりとうま味がある。ソースをつけるのもいいが、つけなくても、衣のスパイスで十分うまい。
 ハンバーガーを食べ終わるのは、なんかさみしい。しかし、食べ進めるのを止められない。
 今度は、二つ頼んでもいいかもなあ。違うハンバーガーも、いろいろ試したいものだな。
 決まったものを食い続けるのも悪くないが、違うものに挑戦するのも悪くない。

「ごちそうさまでした」
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