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日常
第四百五話 アジフライ
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「あ、ちょっと涼しい」
窓を開け、吹きこんできた風が少し冷たい。なんなら、クーラーが少し寒いと思うくらいだ。
「来週はまた暑いみたいよ」
弁当をテーブルに置いて、母さんが言った。
「ありがとう」
「うん。昼も晴れるみたいだから、つかの間の涼しさね」
「あー、そうなんだ」
父さんが見ている天気予報では「まだまだしばらく、暑さが続くでしょう」と言っている。
「そろそろ行ってくる」
今日は始業式、朝課外はないが二学期が始まると思っただけで気分が萎える。
「気を付けてね」
「うん、行ってきます」
「わふっ」
「うめず、お前は留守番だ」
ついて来ようとするうめずをなだめ、通路に出る。
猛暑の気配は確かにあるが、やはり今朝は涼しい。突然秋が来たみたいだ。もうちょっと、のんびり来てくれてもいいのだがなあ。
夏休み中の課外と今日の教室、何かが決定的に変わったわけでもないのになんとなく雰囲気が違うのは何だろう。やっぱり、通常授業が始まるとなると心なしか、教室の空気が重いように感じる。
「おはよー、春都」
「ああ、勇樹。おはよう」
さっそく大荷物を抱えた勇樹が、隣の席に座る。荷物を下ろし、息をつくと、机にもたれかかった。
「なんかさー、こないだまで会ってたのに、久しぶりーって言いたくなる」
「それ分かる」
「な? 何だろうな、これ」
それから間もなくして宮野もやってきた。
「健太はそーでもないかな」
「なんだ、よく分からんが失敬な」
自分の席に向かう道すがら、勇樹の頭をはたく宮野。「あいてっ」とは言っているが、大して痛くはないのだろう、勇樹は笑っていた。
「別に悪い意味じゃねーよ。久しぶりに会った気がしないってだけで」
「それを言うなら、みんなそうじゃないのか」
「いや、そーなんだけど、なんか違うじゃん」
懇切丁寧に勇樹は宮野に説明を始めた。
「ふぁ……」
課外中はそうでもなかったのに、今日はなんか眠い。付きまとう睡魔にゆらゆらしていたら、咲良が来た。
「おーっす、春都。眠そうだな」
「俺の場合は、お前だな」
「え、何が?」
咲良はそう尋ねながら、すぐに話題を変えた。
「それよりさー、こないだ春都からもらった飴なんだけど、あれうまかったなあ」
「あー、綿あめとかの」
そうそう、と咲良は俺の筆箱を漁りながら話を続けた。
「チョコバナナが一番うまかった」
「えっ、めっちゃ甘くなかったか?」
「それがいいんだよ」
やっぱりこいつはかなりの甘党だ。どこまでの甘さなら大丈夫なのか、気になってくる。俺が一口で精一杯のものでも、甘いけどうまいよ、とでも言って笑いそうだ。
「あれ、どこで売ってんの?」
「花丸スーパーのワゴンセール」
「えー、じゃあもう売ってないかもしんないってこと?」
「夏祭り仕様だったし、期間限定かもな」
不満げな表情をしていた咲良だったが、それもつかの間、すぐに楽しげな表情になる。
「そういや花火大会、楽しかったなー。これから他に、祭り何かないかなあ」
この切り替えの早さを勉強にも生かしていただきたいものである。
しかしそんなことを言っても大して意味をなさないので、思いながらも別のことを聞く。
「どうだろうな。よその花火大会とか、調べたことない」
「祭りじゃなくても、どっか遊びに行きたいよな。体育祭の打ち上げとかで」
「げぇ、体育祭があったか」
すっかり忘れていた。ああ、この憂鬱の正体は体育祭だったか。嫌すぎて記憶の外にやってしまっていた。咲良は面白そうに笑うと言った。
「いざとなったら一緒に見学してやるよ。あ、放送部の手伝いとかいいかもな」
人のボールペンを無邪気に分解しながら言うな。
「頼まれもしないどころか、部員ですらないのにできんのか?」
「そこはいっそ、入部するとか。お手伝い限定で」
「……それも悪くないな」
そん時は俺も入ろ~、と軽く咲良は言い、落としたばねを拾って、ボールペンを組み立て直した。
あとで、壊れた文房具がないか、確認しとかないと。
晩飯の準備を手伝いながら今日の話をすれば、母さんは楽しそうに言った。
「いいじゃない、放送部。いっそ大会とか出たら?」
「練習しんどい」
「春都、いい声してるからぴったりだと思うんだがなあ」
父さんまでノリノリだ。手伝うだけならまだしも、大会となれば練習もしなきゃいけないだろうし、そしたら、飯食う時間が減ってしまうじゃないか。
「ま、とりあえず食べようか」
「いただきます」
今日の晩飯はアジフライだ。アジフライにはキャベツの千切り。これ、黄金コンビだよなあ。
まずは醤油で食べる。魚の味がよく分かるなあ。サクッとした衣にほろほろっと崩れるようなアジの口当たり。噛むとうま味が染み出して、魚らしさを味わえる。
キャベツにはマヨネーズを。
シャキシャキと青い香り。魚の風味の後に嬉しいみずみずしさだ。アジフライも一緒に食べると、さっぱりいただける。フィッシュバーガーとかの中身だけ、って感じだ。
次はウスターソースにからしをつけて。おっ、これは魚の臭みが目立たなくなるんだな。魚のうま味は、行き過ぎるとちょっとした臭みになってしまう。でもこれで食ったら、程よくうまみとして味わえながらも、しつこくなく、アジフライを楽しめる。
からしがまた効くなあ。ひりりとして、味が引き締まる。
ウスターソース、なんか入れ物が苦手で食わなかった時期もあるけど、うまいんだよなあ。
調味料や薬味の組み合わせってホント面白い。またいろいろ試してみよう。
「ごちそうさまでした」
窓を開け、吹きこんできた風が少し冷たい。なんなら、クーラーが少し寒いと思うくらいだ。
「来週はまた暑いみたいよ」
弁当をテーブルに置いて、母さんが言った。
「ありがとう」
「うん。昼も晴れるみたいだから、つかの間の涼しさね」
「あー、そうなんだ」
父さんが見ている天気予報では「まだまだしばらく、暑さが続くでしょう」と言っている。
「そろそろ行ってくる」
今日は始業式、朝課外はないが二学期が始まると思っただけで気分が萎える。
「気を付けてね」
「うん、行ってきます」
「わふっ」
「うめず、お前は留守番だ」
ついて来ようとするうめずをなだめ、通路に出る。
猛暑の気配は確かにあるが、やはり今朝は涼しい。突然秋が来たみたいだ。もうちょっと、のんびり来てくれてもいいのだがなあ。
夏休み中の課外と今日の教室、何かが決定的に変わったわけでもないのになんとなく雰囲気が違うのは何だろう。やっぱり、通常授業が始まるとなると心なしか、教室の空気が重いように感じる。
「おはよー、春都」
「ああ、勇樹。おはよう」
さっそく大荷物を抱えた勇樹が、隣の席に座る。荷物を下ろし、息をつくと、机にもたれかかった。
「なんかさー、こないだまで会ってたのに、久しぶりーって言いたくなる」
「それ分かる」
「な? 何だろうな、これ」
それから間もなくして宮野もやってきた。
「健太はそーでもないかな」
「なんだ、よく分からんが失敬な」
自分の席に向かう道すがら、勇樹の頭をはたく宮野。「あいてっ」とは言っているが、大して痛くはないのだろう、勇樹は笑っていた。
「別に悪い意味じゃねーよ。久しぶりに会った気がしないってだけで」
「それを言うなら、みんなそうじゃないのか」
「いや、そーなんだけど、なんか違うじゃん」
懇切丁寧に勇樹は宮野に説明を始めた。
「ふぁ……」
課外中はそうでもなかったのに、今日はなんか眠い。付きまとう睡魔にゆらゆらしていたら、咲良が来た。
「おーっす、春都。眠そうだな」
「俺の場合は、お前だな」
「え、何が?」
咲良はそう尋ねながら、すぐに話題を変えた。
「それよりさー、こないだ春都からもらった飴なんだけど、あれうまかったなあ」
「あー、綿あめとかの」
そうそう、と咲良は俺の筆箱を漁りながら話を続けた。
「チョコバナナが一番うまかった」
「えっ、めっちゃ甘くなかったか?」
「それがいいんだよ」
やっぱりこいつはかなりの甘党だ。どこまでの甘さなら大丈夫なのか、気になってくる。俺が一口で精一杯のものでも、甘いけどうまいよ、とでも言って笑いそうだ。
「あれ、どこで売ってんの?」
「花丸スーパーのワゴンセール」
「えー、じゃあもう売ってないかもしんないってこと?」
「夏祭り仕様だったし、期間限定かもな」
不満げな表情をしていた咲良だったが、それもつかの間、すぐに楽しげな表情になる。
「そういや花火大会、楽しかったなー。これから他に、祭り何かないかなあ」
この切り替えの早さを勉強にも生かしていただきたいものである。
しかしそんなことを言っても大して意味をなさないので、思いながらも別のことを聞く。
「どうだろうな。よその花火大会とか、調べたことない」
「祭りじゃなくても、どっか遊びに行きたいよな。体育祭の打ち上げとかで」
「げぇ、体育祭があったか」
すっかり忘れていた。ああ、この憂鬱の正体は体育祭だったか。嫌すぎて記憶の外にやってしまっていた。咲良は面白そうに笑うと言った。
「いざとなったら一緒に見学してやるよ。あ、放送部の手伝いとかいいかもな」
人のボールペンを無邪気に分解しながら言うな。
「頼まれもしないどころか、部員ですらないのにできんのか?」
「そこはいっそ、入部するとか。お手伝い限定で」
「……それも悪くないな」
そん時は俺も入ろ~、と軽く咲良は言い、落としたばねを拾って、ボールペンを組み立て直した。
あとで、壊れた文房具がないか、確認しとかないと。
晩飯の準備を手伝いながら今日の話をすれば、母さんは楽しそうに言った。
「いいじゃない、放送部。いっそ大会とか出たら?」
「練習しんどい」
「春都、いい声してるからぴったりだと思うんだがなあ」
父さんまでノリノリだ。手伝うだけならまだしも、大会となれば練習もしなきゃいけないだろうし、そしたら、飯食う時間が減ってしまうじゃないか。
「ま、とりあえず食べようか」
「いただきます」
今日の晩飯はアジフライだ。アジフライにはキャベツの千切り。これ、黄金コンビだよなあ。
まずは醤油で食べる。魚の味がよく分かるなあ。サクッとした衣にほろほろっと崩れるようなアジの口当たり。噛むとうま味が染み出して、魚らしさを味わえる。
キャベツにはマヨネーズを。
シャキシャキと青い香り。魚の風味の後に嬉しいみずみずしさだ。アジフライも一緒に食べると、さっぱりいただける。フィッシュバーガーとかの中身だけ、って感じだ。
次はウスターソースにからしをつけて。おっ、これは魚の臭みが目立たなくなるんだな。魚のうま味は、行き過ぎるとちょっとした臭みになってしまう。でもこれで食ったら、程よくうまみとして味わえながらも、しつこくなく、アジフライを楽しめる。
からしがまた効くなあ。ひりりとして、味が引き締まる。
ウスターソース、なんか入れ物が苦手で食わなかった時期もあるけど、うまいんだよなあ。
調味料や薬味の組み合わせってホント面白い。またいろいろ試してみよう。
「ごちそうさまでした」
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