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日常
第三百九十三話 紅鮭弁当
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さて、それではさっそく図書カードを使いに、いざ、本屋へ。
気になる本は山ほどある。しかし、いくら図書カードの金額がそこそこあるとはいえ、すべて買っていては全く足りない。
というわけで、厳選しなければならないのだが……悩むなあ。
「どれを買うかな……」
「おっ、一条君がいる~」
「あ、山下さん。お疲れ様です。先日はありがとうございました」
山下さんはすっかり日焼けしていて、健康的な見た目になっていた。大量の本を抱え、山下さんはにぱっと笑った。歯が白いのが際立つ。
「一条君、だいぶ日焼けしてるねー」
「山下さんも真っ黒ですよ」
「だよねえ。幸輔なんてもう、アスリートみたいな見た目だよ」
「ああ……」
確かにあの体格で日焼けしたら、アスリートっぽくなりそうだ。
山下さんは本をテーブルに置くと聞いてきた。
「そういえばさ、一条君。あの後、大丈夫だった? 海行った後」
「大丈夫……とは?」
何かあったのだろうかと身構えるが、山下さんは眉を下げて笑い、首を回して肩に手を当てた。
「俺、あの後筋肉痛でさぁ。完全に回復すんのに丸一日かかったよ」
「ああ、そういうことですか」
「調子に乗ってはしゃぎ過ぎたなあ」
まあ、バイトもしてあんだけ遊び倒して……そしたらまあ、疲れるだろうな。
「次の日はものすごく眠かったんですけど、まあ、それくらいですね」
「若いとやっぱ違うねえ」
何を言う。山下さんだって十分若いだろうに。大学生って、数日徹夜しても大丈夫なんじゃないのか。
こちらの考えていることを察したかのように、山下さんは乱暴に俺の頭をなでて言った。
「大学生でもなあ、疲れるやつは疲れるんだよ。みんながみんな、遊び慣れてるわけじゃないの」
「はあ、そういうものですか」
「そうそう」
まあ、それもそうか。
山下さんは手際よく本のビニールかけをしながら話を続ける。客は少ないので、他の店員も山下さんをとがめることはない。
「で、今日はなんかお目当ての本でもあったの?」
「あー、新刊出てたので。それと、図書カードを誕生日にもらったので、使おうかと」
「誕生日だったんだ。おめでとー」
「ありがとうございます」
誕生日プレゼント代わりに、と山下さんにおすすめされた本のうち、特に気になったものを買って、帰ることにした。
通り道に花丸スーパーがあるので、ふと思い立って、家に電話してみる。
「昼ごはん、何にしようか~って言ってなかったけ。なんか買ってこようか」
『ほんと? ありがとう、助かる~。お弁当でもなんでもいいから、買ってきてくれる?』
「分かった」
今日は父さんも母さんも忙しい。何か作ってもいいが、作っている間にまた仕事が入って食いっぱぐれる可能性がある。それなら、出来合いのものを買っていった方がよさそうだ。
花丸スーパーは相変わらず、寒い。
「こんにちは。田中さん」
総菜コーナーに向かう途中、青果コーナーで田中さんに会った。確かに、アスリートみたいだ。エプロンはめたアスリート。なんか、微笑ましい。
「やあ、一条君」
「先日はありがとうございました。楽しかったです」
「それはよかった。この時間に来るとは、珍しいな」
「お昼ご飯買いに来ました」
そう答えれば、田中さんは爽やかに笑って教えてくれた。
「総菜コーナーで、新商品が出たみたいだぞ。弁当だったか。見ていくといい」
「そうなんですか、ありがとうございます」
行ってみれば、確かに様変わりしているようだった。ほう、紅鮭弁当にのり弁、洋風弁当はちょっと豪華になっている。和風御膳も、季節の弁当も勢ぞろいだ。
うーん、これは悩む。
食べ応えをとって洋風弁当にすべきか、はたまた豪快な紅鮭か。父さんは和風ハンバーグが好きだろうなあ。母さんはのり弁。
何だこれ、ガパオライス? ほう、いろんな国の料理があるのか。ううむ、こういう一癖二癖ありそうなご飯は当たりはずれがすごいんだ。とても腹が減っている今、この賭けに出るのは……今日はやめておこう。また今度、挑戦してみよう。
よし、決めた。紅鮭弁当にしよう。一番分厚そうな鮭を選んで……うん、うまそうだな。
「あら、おいしそうね」
ちょうど仕事の区切りがついたところで、母さんがやってきた。次いで、父さんもやってくる。
「どこで買ったんだ?」
「花丸スーパー。新商品だって」
「へえ、こんなのも最近はあるのね~」
お茶を入れて、箸は、もらった割りばしで。
「いただきます」
でっかい紅鮭に、卵焼き、ちくわの天ぷらそして、ひじきと漬物。
まずは鮭から。塩が強めで、分厚く、食べ応えがある。これはご飯が進むなあ。皮はしっとりしていて魚の匂いが強いが、うまい。身と一緒に食うのがいいな。冷めているが、ほくほくした食感。これで正解だった。
ちくわの天ぷらはポテトサラダが中に詰められているのでどっしりしている。もこもこ、ミルキーなポテトサラダにプリプリのちくわ。ポテトサラダの具は少なめだが、ニンジンの存在感がすごい。衣がしっとりとしていて食べやすい。
「おいしいね、これ」
父さんが満足したように言うと、母さんも頷いた。
「うん、おいしい」
「うまい」
ひじきは甘めの味付けで、漬物はつぼ漬けか。やわやわとしてほのかに温い大根は弁当らしい。
鮭、ご飯との配分が難しいな。でかいので、ご飯が先に無くなりそうだ。
まあ、食べ応えのあるおかずだ。ご飯がなくとも、腹は膨れるだろう。
「ごちそうさまでした」
気になる本は山ほどある。しかし、いくら図書カードの金額がそこそこあるとはいえ、すべて買っていては全く足りない。
というわけで、厳選しなければならないのだが……悩むなあ。
「どれを買うかな……」
「おっ、一条君がいる~」
「あ、山下さん。お疲れ様です。先日はありがとうございました」
山下さんはすっかり日焼けしていて、健康的な見た目になっていた。大量の本を抱え、山下さんはにぱっと笑った。歯が白いのが際立つ。
「一条君、だいぶ日焼けしてるねー」
「山下さんも真っ黒ですよ」
「だよねえ。幸輔なんてもう、アスリートみたいな見た目だよ」
「ああ……」
確かにあの体格で日焼けしたら、アスリートっぽくなりそうだ。
山下さんは本をテーブルに置くと聞いてきた。
「そういえばさ、一条君。あの後、大丈夫だった? 海行った後」
「大丈夫……とは?」
何かあったのだろうかと身構えるが、山下さんは眉を下げて笑い、首を回して肩に手を当てた。
「俺、あの後筋肉痛でさぁ。完全に回復すんのに丸一日かかったよ」
「ああ、そういうことですか」
「調子に乗ってはしゃぎ過ぎたなあ」
まあ、バイトもしてあんだけ遊び倒して……そしたらまあ、疲れるだろうな。
「次の日はものすごく眠かったんですけど、まあ、それくらいですね」
「若いとやっぱ違うねえ」
何を言う。山下さんだって十分若いだろうに。大学生って、数日徹夜しても大丈夫なんじゃないのか。
こちらの考えていることを察したかのように、山下さんは乱暴に俺の頭をなでて言った。
「大学生でもなあ、疲れるやつは疲れるんだよ。みんながみんな、遊び慣れてるわけじゃないの」
「はあ、そういうものですか」
「そうそう」
まあ、それもそうか。
山下さんは手際よく本のビニールかけをしながら話を続ける。客は少ないので、他の店員も山下さんをとがめることはない。
「で、今日はなんかお目当ての本でもあったの?」
「あー、新刊出てたので。それと、図書カードを誕生日にもらったので、使おうかと」
「誕生日だったんだ。おめでとー」
「ありがとうございます」
誕生日プレゼント代わりに、と山下さんにおすすめされた本のうち、特に気になったものを買って、帰ることにした。
通り道に花丸スーパーがあるので、ふと思い立って、家に電話してみる。
「昼ごはん、何にしようか~って言ってなかったけ。なんか買ってこようか」
『ほんと? ありがとう、助かる~。お弁当でもなんでもいいから、買ってきてくれる?』
「分かった」
今日は父さんも母さんも忙しい。何か作ってもいいが、作っている間にまた仕事が入って食いっぱぐれる可能性がある。それなら、出来合いのものを買っていった方がよさそうだ。
花丸スーパーは相変わらず、寒い。
「こんにちは。田中さん」
総菜コーナーに向かう途中、青果コーナーで田中さんに会った。確かに、アスリートみたいだ。エプロンはめたアスリート。なんか、微笑ましい。
「やあ、一条君」
「先日はありがとうございました。楽しかったです」
「それはよかった。この時間に来るとは、珍しいな」
「お昼ご飯買いに来ました」
そう答えれば、田中さんは爽やかに笑って教えてくれた。
「総菜コーナーで、新商品が出たみたいだぞ。弁当だったか。見ていくといい」
「そうなんですか、ありがとうございます」
行ってみれば、確かに様変わりしているようだった。ほう、紅鮭弁当にのり弁、洋風弁当はちょっと豪華になっている。和風御膳も、季節の弁当も勢ぞろいだ。
うーん、これは悩む。
食べ応えをとって洋風弁当にすべきか、はたまた豪快な紅鮭か。父さんは和風ハンバーグが好きだろうなあ。母さんはのり弁。
何だこれ、ガパオライス? ほう、いろんな国の料理があるのか。ううむ、こういう一癖二癖ありそうなご飯は当たりはずれがすごいんだ。とても腹が減っている今、この賭けに出るのは……今日はやめておこう。また今度、挑戦してみよう。
よし、決めた。紅鮭弁当にしよう。一番分厚そうな鮭を選んで……うん、うまそうだな。
「あら、おいしそうね」
ちょうど仕事の区切りがついたところで、母さんがやってきた。次いで、父さんもやってくる。
「どこで買ったんだ?」
「花丸スーパー。新商品だって」
「へえ、こんなのも最近はあるのね~」
お茶を入れて、箸は、もらった割りばしで。
「いただきます」
でっかい紅鮭に、卵焼き、ちくわの天ぷらそして、ひじきと漬物。
まずは鮭から。塩が強めで、分厚く、食べ応えがある。これはご飯が進むなあ。皮はしっとりしていて魚の匂いが強いが、うまい。身と一緒に食うのがいいな。冷めているが、ほくほくした食感。これで正解だった。
ちくわの天ぷらはポテトサラダが中に詰められているのでどっしりしている。もこもこ、ミルキーなポテトサラダにプリプリのちくわ。ポテトサラダの具は少なめだが、ニンジンの存在感がすごい。衣がしっとりとしていて食べやすい。
「おいしいね、これ」
父さんが満足したように言うと、母さんも頷いた。
「うん、おいしい」
「うまい」
ひじきは甘めの味付けで、漬物はつぼ漬けか。やわやわとしてほのかに温い大根は弁当らしい。
鮭、ご飯との配分が難しいな。でかいので、ご飯が先に無くなりそうだ。
まあ、食べ応えのあるおかずだ。ご飯がなくとも、腹は膨れるだろう。
「ごちそうさまでした」
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