一条春都の料理帖

藤里 侑

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日常

第三百九十二話 冷やしうどん

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 今日はなんだか早起きだったので、うめずの散歩に行った。薄雲がかかって日差しはなく、それでも蒸し暑いが、風が心地いい。行きがけは少し暗かった空気も、歩みを進めるにつれて明るく染まっていく。
 児童公園には何人かもう人がいた。散歩や、ラジオ体操なんかのために来ているらしい。確かに、ここには運動器具がいくつかある。
 同じように犬の散歩をしている人もいた。小型犬が多い中、うめずはとても目立っていた。
「ただいま」
「おかえりー。朝ごはんできてるよ」
 朝ごはん、という母さんの言葉にうめずがいち早く反応する。足を洗う間もそわそわしていて、拭いてやると、そそくさと居間に向かった。
 今日の朝飯は卵かけごはんだ。それと、かぼちゃともやしのみそ汁。
「いただきます」
 卵はしっかりかき混ぜて、醤油を垂らしてさらに混ぜて、くぼみを作ったご飯にかける。そこへさらに醤油を垂らすのが好きだ。
 まったりとした口当たり、コクのある味わい、卵の風味。炊き立てご飯は少しだけぬるくなり、卵もほんのり温まる。半分食べたら、ふわふわになるようにかき混ぜるのもいい。のりで包んで食うのもうまいんだ。
 かぼちゃともやしのみそ汁はみその香りが引き立つようだ。かぼちゃはほくほくと甘く、ほろりと口の中でほどけ、もやしはジャキジャキとみずみずしい。
 うめずもがつがつとうまそうに朝飯を食べていた。カリカリコリコリ、いい音を立てて食べるなあ。
「今日も暑くなりそうだね」
 父さんが外を見て言う。すがすがしく晴れ渡った空はすでに明るく、態様も見え始めている。
「洗濯物がよく乾いて助かるわ」
 母さんがお茶を飲んで言った。夏場はかさばるような洗濯物が少ないが、汗もかくし、着替えも多く、量が多いのだ。
 卵かけごはんの最後の一口をかきこむ。うまかった。
「ごちそうさまでした」

 昼間はうめずも窓際にあまり近寄らない。涼しい居間のソファに優雅に座って、仕事やら勉強やらに追われる家族を眺めている。
 しかし今日は勉強の予定はない。うめずと一緒に座って、ゲームをする。
 外に視線をやっていたうめずが、テレビ画面に視線を移す。
「わうっ」
「ん、うめずもやりたいのか」
「わふぅ」
 一度クリアしたゲームではあるが、セーブデータがいくつか作れるので、新たに始めてみたのだ。主人公の見た目や能力、会話をどう進めるかとかでストーリーが少しずつ変わっていくゲームだ。一つ目のセーブデータは順当な感じで進めていって、トゥルーエンドだったから、せっかくなので、色々見てみたいな。
「よし。それならうめずに選択を託そう」
「わう」
 会話の選択肢やアイテム収集、進む順番なんかをうめずに決めてもらうとしよう。
「なんか気になる感じのところで吠えればいいぞ」
「わふっ」
「それじゃあさっそく……スタートだ」
 うめずがゲームを理解しているかはともかくとして、選択肢が出てきたらカーソルを移動させ、うめずが吠えたタイミングで指していたやつを選ぶ。道具はあちこちに隠されているが、そのエリアに入ったときにうめずが吠えた数だけ回収する。進む順番は、手を差し出した時、うめずが右足を上げたら右、左足を上げたら左、って感じにする。
 まあ、結構グダグダだし、うまくいくところもいかないところもあったけど、そこは適当にこなして進める。うんうん、何か目的があるわけじゃなく、ぼんやりとゲームを進めるにはちょうどいい感じだ。
「いいぞ、うめず。その調子だ」
「わうっ」
 明らかに自分だけでやっているときとはストーリーが違う。なんか、隠しキャラとか出てきたし。いったいどの選択肢でそうなったんだろう。あとで攻略本見直してみよう。
「次はどっちだ」
 手を差し出せば、うめずは右手を上げた。
「よーし。右だな」
「何やってるの」
 部屋で仕事をしていた父さんが戻ってきた。今やっていることを説明すれば「それは楽しそうだ」と笑った。
「一回セーブしときなさい。お昼できたよ」
「はーい」
 母さんに言われ、区切りのいいところでセーブをする。
「またあとでな」
「わうっ」
 うめずは尻尾をぶんぶんと振り回し、テーブルへ向かう俺についてくる。足元で伏せの態勢になり、椅子に座る俺を見上げていた。
「はい、春都のは大盛りね」
「ありがとう」
 お、冷やしうどんだ。シンプルに天かすとネギが盛り付けられている。野菜の天ぷらは別添えか。なんか、夏休みらしい昼飯だ。
「いただきます」
 麺つゆをたっぷりかけて、よく冷えたうどんをすする。
 甘みのある麺つゆは、カツオのうま味もたっぷりだ。つるつるとした口当たりのうどんと相性がよく、食欲を増してくれる。うどんもよく冷えて、やわらかいながらも食べ応えのある食感だ。
 うどんは、ネギのさわやかさがいい。これがあるのとないのとでは大違いなのだ。小さいながらも、いい仕事をしている。
 天かすはそこにうまみを加える。サクサクの食感からじわっとにじみ出るうま味。麺つゆでふやけたところもまたうまい。タプタプに浸して、うどんとしっかり絡めて食うのがいい。
「天ぷらも温かいうちに食べてみて」
「うん」
 ピーマンの天ぷらのほろ苦さがうまい。衣がつるりとはがれがちだが、それもまたいい。
 かぼちゃの天ぷらは、みそ汁以上にほくほくだ。どこかサツマイモの天ぷらをほうふつとさせるが、ねっとり感と、鮮やかな緑と黄色、すっきりとした甘みは間違いなくかぼちゃにしかないおいしさだ。
 玉ねぎのかき揚げは鼻に抜ける甘い香りがたまらない。
 どれも麺つゆで食ってうまいし、塩も味が引き立つし、醤油は香ばしさが増す。
 さっぱりながら、食べ応えがあり、力が沸いてくるようだ。
 よし、昼からもゲーム頑張るぞ。

「ごちそうさまでした」
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