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日常
第三百九十一話 からあげと茶碗蒸し
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「誕生日おめでとう!」
いつも通りの時間に目を覚まし、居間に向かって早々、父さんと母さんにそう言われ、まず、言葉の意味を理解するのに時間がかかった。
誕生日……あ、ああ。
「今日、誕生日か」
「忘れてたの?」
母さんは「そんな気はしてたけど」と笑った。
あれ、覚えてた気がしたんだけどな。いろいろ忙しくて、いつの間にか頭から抜け落ちていたようだ。そうか、今日、八月十四日か。
「ありがとう」
身支度を済ませ、朝食の席に着く。ご飯に漬物、ハムエッグだ。
「いただきます」
まずはハムエッグから食おう。半熟とかた焼の狭間の焼き加減の黄身を割る。醤油をかけ、ハムにくるんで、白身も一緒に食べて……塩気のあるハムからまろやかな黄身があふれ出す。醤油のコク深さもいい。これだけで丼一杯食ってしまう。
「晩ご飯は何がいい?」
おかわりのご飯をよそった丼を渡しながら母さんが聞く。
「え、からあげと茶碗蒸し」
「分かった。それじゃあ、しいたけ戻しとかないとね」
さて、次は高菜をのせて、麦茶をかける。
高菜そのものについた味付けは幾分かやわらぎ、辛みが抑えられるが、うま味は変わらず滲み出す。温かいご飯で冷たい麦茶が生ぬるくなり、高菜の風味が際立つ。これこれ、うまいんだよなあ。
「お寿司とかじゃなくていいのか?」
父さんに聞かれ、少し考える。
「寿司もいいけど……今日は、からあげの気分」
「そうか」
誕生日のご飯は特別な気分だ。だからこそ、普段食べないようなものを食べるのもいいものだが……そこに大好物があれば、それでよし、だよな。
「ごちそうさまでした」
昼間は店に行った。
「はい、これ。誕生日プレゼントね」
じいちゃんとばあちゃんから渡されたのは小さな封筒だった。薄い青色で、金色のシールが貼ってある。
「ありがとう」
開けてみれば、それは図書カードだった。
「色々考えたんだけどね、これが一番かなと思って」
ふふ、とばあちゃんは笑った。じいちゃんは、貝殻が詰まった瓶をテーブルに置き、言った。
「本、よく読んでいるだろう。足しにしてくれ」
「ありがとう、助かる」
自分の小遣いの使い道で大半を占めているのは飯と本なのだ。こっちの店になければ、都会の方まで買いに行くようなこともあるし、これはうれしい。現金ではなく図書カード、というのもなんかいい。
図書カードって、なんかこう、すごくうれしいんだよ。特別な感じがして、心が浮き立つ。
しかしすごい金額だな。参加賞とかでもらう金額とは桁が違う。何買おうかなあ。あとでじっくり考えよう。
「あっ、それじゃあ私たちも」
母さんがそう言って取り出したのは、小さな箱だった。
「はいこれ。お父さんと二人で買ったのよ」
「大事に使ってくれ」
「これは……」
ラッピングを開ける。お、おお。ワイヤレスイヤホンだ。
しかも前にスマホで見てた時に、何気なく欲しいって言ってたやつと同じデザインだ。限定版で、予約がいるんじゃなかったか。
「ありがとう。大事にする」
オレンジと緑のコントラストがかっこいいワイヤレスイヤホンと、ファンシーな動物たちが描かれた図書カード。
あとで並べて、写真撮ろう。
ワイヤレスイヤホンは充電して使うんだな。ケースもかっこいい。黒に、蛍光色のオレンジと緑のラインが入っている。
説明書を見て何とかつなげた。めっちゃ音がいい。
「うわー、テンション上がるー」
重低音がいつもより響く。両耳につけたら最高だな。風呂から上がり、クーラーの効いた部屋でお気に入りの音楽を聞きながら、図書カードの使い道を考える。何とぜいたくな時間なのだろう。
しかし、今はこれぐらいにしておこう。ケースにイヤホンをしまう。お、なるほど。ケースそのものが充電されているので、こうやってしまったときにイヤホンが充電されるんだな。
さあ、飯の時間だ。
「はーい、できたよ」
テーブルの上には山盛りのからあげとキャベツ、それに、さっきできあがった茶碗蒸しが並んでいる。
うわあ、夢のようだ。
「いただきます」
まずはそのままからあげを一つ。
ああ、これこれ。カリッとした衣を噛めば、うま味たっぷりの肉汁があふれてくる。鶏の脂はこっくりと味わい深く、それでいてほかのどの肉にもないあっさりした感じがある。肉はぷりっぷりで、濃いにんにく醤油味でご飯が進む。
「おいしい?」
「おいしい、すごく」
次はマヨネーズをつける。からあげにマヨネーズ、これ、最強。鶏の脂にマヨネーズというのはどうしてこんなに合うのだろう。うま味がより際立つようである。
レモンをかけるとあっさり、すっきりする。
柚子胡椒もマヨネーズに混ぜて……ああ、このピリッとした刺激、辛味、柚子の香り。間違いなくうまい。これならパンでも合いそうだが……今日は米がうまい。
「茶碗蒸しもうまいぞ」
父さんに言われ、ハッとする。母さんも笑った。
「温かいうちに食べて」
「うん」
プルプルと薄黄色い生地は、口に含めば出汁の香りが膨らみ、ジュワアッと口に温かさが広がる。しいたけのうま味が計り知れない。噛みしめるとジュワジュワ染み出すしいたけの味、かまぼこのほのかに甘い風味、小さな鶏肉はほろほろだ。
さあ、もう一つからあげを。
うーん……悩むが、やっぱりこのままで。やっぱりうまい。一口で食えば口いっぱいに、いや、体中においしさと香ばしさが駆け巡るようである。少しずつ食うとまた、じっくり味わえていい。
やっぱからあげ、好きだなあ。茶碗蒸しもうまい。
ああ、なんて最高な誕生日だろう。
「ごちそうさまでした」
いつも通りの時間に目を覚まし、居間に向かって早々、父さんと母さんにそう言われ、まず、言葉の意味を理解するのに時間がかかった。
誕生日……あ、ああ。
「今日、誕生日か」
「忘れてたの?」
母さんは「そんな気はしてたけど」と笑った。
あれ、覚えてた気がしたんだけどな。いろいろ忙しくて、いつの間にか頭から抜け落ちていたようだ。そうか、今日、八月十四日か。
「ありがとう」
身支度を済ませ、朝食の席に着く。ご飯に漬物、ハムエッグだ。
「いただきます」
まずはハムエッグから食おう。半熟とかた焼の狭間の焼き加減の黄身を割る。醤油をかけ、ハムにくるんで、白身も一緒に食べて……塩気のあるハムからまろやかな黄身があふれ出す。醤油のコク深さもいい。これだけで丼一杯食ってしまう。
「晩ご飯は何がいい?」
おかわりのご飯をよそった丼を渡しながら母さんが聞く。
「え、からあげと茶碗蒸し」
「分かった。それじゃあ、しいたけ戻しとかないとね」
さて、次は高菜をのせて、麦茶をかける。
高菜そのものについた味付けは幾分かやわらぎ、辛みが抑えられるが、うま味は変わらず滲み出す。温かいご飯で冷たい麦茶が生ぬるくなり、高菜の風味が際立つ。これこれ、うまいんだよなあ。
「お寿司とかじゃなくていいのか?」
父さんに聞かれ、少し考える。
「寿司もいいけど……今日は、からあげの気分」
「そうか」
誕生日のご飯は特別な気分だ。だからこそ、普段食べないようなものを食べるのもいいものだが……そこに大好物があれば、それでよし、だよな。
「ごちそうさまでした」
昼間は店に行った。
「はい、これ。誕生日プレゼントね」
じいちゃんとばあちゃんから渡されたのは小さな封筒だった。薄い青色で、金色のシールが貼ってある。
「ありがとう」
開けてみれば、それは図書カードだった。
「色々考えたんだけどね、これが一番かなと思って」
ふふ、とばあちゃんは笑った。じいちゃんは、貝殻が詰まった瓶をテーブルに置き、言った。
「本、よく読んでいるだろう。足しにしてくれ」
「ありがとう、助かる」
自分の小遣いの使い道で大半を占めているのは飯と本なのだ。こっちの店になければ、都会の方まで買いに行くようなこともあるし、これはうれしい。現金ではなく図書カード、というのもなんかいい。
図書カードって、なんかこう、すごくうれしいんだよ。特別な感じがして、心が浮き立つ。
しかしすごい金額だな。参加賞とかでもらう金額とは桁が違う。何買おうかなあ。あとでじっくり考えよう。
「あっ、それじゃあ私たちも」
母さんがそう言って取り出したのは、小さな箱だった。
「はいこれ。お父さんと二人で買ったのよ」
「大事に使ってくれ」
「これは……」
ラッピングを開ける。お、おお。ワイヤレスイヤホンだ。
しかも前にスマホで見てた時に、何気なく欲しいって言ってたやつと同じデザインだ。限定版で、予約がいるんじゃなかったか。
「ありがとう。大事にする」
オレンジと緑のコントラストがかっこいいワイヤレスイヤホンと、ファンシーな動物たちが描かれた図書カード。
あとで並べて、写真撮ろう。
ワイヤレスイヤホンは充電して使うんだな。ケースもかっこいい。黒に、蛍光色のオレンジと緑のラインが入っている。
説明書を見て何とかつなげた。めっちゃ音がいい。
「うわー、テンション上がるー」
重低音がいつもより響く。両耳につけたら最高だな。風呂から上がり、クーラーの効いた部屋でお気に入りの音楽を聞きながら、図書カードの使い道を考える。何とぜいたくな時間なのだろう。
しかし、今はこれぐらいにしておこう。ケースにイヤホンをしまう。お、なるほど。ケースそのものが充電されているので、こうやってしまったときにイヤホンが充電されるんだな。
さあ、飯の時間だ。
「はーい、できたよ」
テーブルの上には山盛りのからあげとキャベツ、それに、さっきできあがった茶碗蒸しが並んでいる。
うわあ、夢のようだ。
「いただきます」
まずはそのままからあげを一つ。
ああ、これこれ。カリッとした衣を噛めば、うま味たっぷりの肉汁があふれてくる。鶏の脂はこっくりと味わい深く、それでいてほかのどの肉にもないあっさりした感じがある。肉はぷりっぷりで、濃いにんにく醤油味でご飯が進む。
「おいしい?」
「おいしい、すごく」
次はマヨネーズをつける。からあげにマヨネーズ、これ、最強。鶏の脂にマヨネーズというのはどうしてこんなに合うのだろう。うま味がより際立つようである。
レモンをかけるとあっさり、すっきりする。
柚子胡椒もマヨネーズに混ぜて……ああ、このピリッとした刺激、辛味、柚子の香り。間違いなくうまい。これならパンでも合いそうだが……今日は米がうまい。
「茶碗蒸しもうまいぞ」
父さんに言われ、ハッとする。母さんも笑った。
「温かいうちに食べて」
「うん」
プルプルと薄黄色い生地は、口に含めば出汁の香りが膨らみ、ジュワアッと口に温かさが広がる。しいたけのうま味が計り知れない。噛みしめるとジュワジュワ染み出すしいたけの味、かまぼこのほのかに甘い風味、小さな鶏肉はほろほろだ。
さあ、もう一つからあげを。
うーん……悩むが、やっぱりこのままで。やっぱりうまい。一口で食えば口いっぱいに、いや、体中においしさと香ばしさが駆け巡るようである。少しずつ食うとまた、じっくり味わえていい。
やっぱからあげ、好きだなあ。茶碗蒸しもうまい。
ああ、なんて最高な誕生日だろう。
「ごちそうさまでした」
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