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日常
第三百八十八話 バーベキュー
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すごい日差しだ。水着とラッシュガードに着替え、更衣室の外に出る。サンダル越しに感じる砂浜の熱が心地よい。
海の家へ向かった田中さんと山下さんは、もうせっせと働き始めている。
「咲良遅いな……」
日陰に移動して海を眺める。ざざぁ、ざざぁ……と、等間隔のようなそうでもないようなペースで波の音が聞こえてくる。何人か他にも海水浴客が来ているようである。
「待たせたな!」
「あぁ……」
勢いのいい声に振り返って見れば、これまた全身で喜びを表現しているといっても過言ではない格好の咲良が立っていた。
ビタミンカラーの水着に、派手な浮き輪。小脇に抱えているのはスイカ柄のビーチボールだ。頭にはゴーグル、目にはサングラス、右手にでかい水鉄砲、左手に小型水鉄砲二丁。サンダルは動きやすそうな形で、水着と色をそろえているようだ。あ、よく見りゃ、もう一個浮き輪抱えてんな。
浮かれている、の一言に尽きるな、この格好は。
「なんだぁ、春都。そんなんで楽しめんのか~?」
「逆にお前はその恰好で楽しめるのか? 欲張り過ぎじゃねえか」
「夏は欲張ってなんぼだろ!」
よく分からん理論を堂々と言うやつである。
咲良はサングラスをとると、持って来ていた荷物入れにしまった。
「使わねぇなら持ってこなくてもいいんじゃねえの」
「雰囲気も大事だろ」
海の家からパラソルを一つ借りて、基地を作る。荷物を置いたところで咲良が浮き輪を一つよこしてきた。
「じゃ、行くぞ!」
「おー」
この浮き輪は落ち着いた色でちょっと安心した。咲良は全速力で、海に向かって走り出す。おーおー、元気なこった。
「春都~、早く~」
「ちょっと待て。すぐ来る」
「あっ、結構冷たい」
波打ち際では一瞬足が止まってしまう。しかしそこを乗り越えると、気持ちのいい塩水が広がっているのだ。
「結構きれいだな」
浮き輪を使えるような深さのところまで進む。やっぱり、プールとかとは全然違う。浮き輪なんて使うの久しぶりだから、どう使うのか一瞬考えてしまう。えーっと、輪の中に入って……
「うわ、めっちゃ気持ちいい」
さわさわと風が髪をなで、さざ波に揺れる。日差しは強く焼けるようだが、海に浸かっているところはひんやりする。この温度差がいい。
「あ~……いい~……」
「風呂入ってるみてぇ。泳がねーの?」
「浮いてるだけで十分……」
「もったいねーな!」
うわっ、なんだ。水降ってきた。
振り返って見れば、ずいぶんでかくて立派な水鉄砲を持った咲良がにやっと笑っていた。浮き輪でぷかぷか揺れながら、銃口をこちらに向けている。
「こーゆーのは、はっちゃけたもん勝ちだろ?」
「てめぇ……」
「ほれ」
咲良が放り投げ、海面にパシャンと着水したのは小さな水鉄砲二丁だった。それを手に取りもう一度咲良を見れば、挑発するように水鉄砲を構えなおした。
「はっ、余裕そうにしてられんのも今のうちだけだぞ、咲良」
水を充填し、打ちやすいように両手に銃を構える。
「上等だ。受けて立つぜ、春都」
こうして、仁義なき水鉄砲対決が開幕したのである。
パラソルの下に座り、海を眺める。
「あはは、髪きっしきし」
隣に座る咲良は笑う。確かに、一度海水にぬれて乾いた髪はなんかギシギシしている。帰りにちゃんとシャワー浴びないとなあ。塩素ではなく、海水の香りが体から漂ってくる。
「で、結局どっちの勝ちなんだ。勝負は」
「んー、引き分け」
「引き分けか」
「楽しけりゃ、それでよし、だ」
確かに、あれで勝敗をはっきり決めるのは難しいな。咲良の言う通り、楽しけりゃいいって感じだな。
「なんか腹減ったな~」
「そうだな」
海の家の方を見れば、店先で何か焼いているのが見えた。とうもろこしに魚介類、おにぎり、肉の串……
「うまそうだな」
「あれ、買いに行くか!」
いろいろ悩んだ結果、肉と野菜が串にささったやつ、バーベキューを買うことにした。咲良も同じのにしたらしい。田中さんと山下さんは中でせわしなく働いていた。
「いただきます」
パラソルの下に戻り、まずは串を眺める。
大ぶりの牛肉に、ピーマン、玉ねぎ、パプリカ、トウモロコシが刺さってカラフルだ。うまそうだなー。
やっぱ一口目は肉だろう。やわらかくて、こしょうは濃い目で、香ばしいタレは少し甘い。肉汁が口いっぱいにあふれ出し、鼻に抜ける風味がいい。
ピーマンは苦いが、それがいい。濃い肉の味によく合う。
「牛肉うまいな! 正直、海の家の飯ってあんまり期待してなかったけど、うめぇ」
「ひどい言い様だな。……まあ、分からんでもないけど」
「うまー」
咲良は嬉々として肉にかぶりつく。
玉ねぎの火の通り具合が絶妙だ。生でもなければ火が通り過ぎてもいない。程よくしゃくしゃくで、甘く、爽やかである。
パプリカは甘い。ジューシーで、果物にも似た風味だ。
とうもろこしの甘さがたまらない。ぱしゅッとはじける水気がどこまでも薫り高く、夏らしい甘みを含んでいる。
そんでまた肉。あー、やっぱうまい。この味、この食べ応え。動き疲れた身に染みる。あと二切れもあるのがうれしい。
「この後どーすんだ」
聞けば咲良は、ビーチボールを片手で取る。
「これで遊ぶ」
「元気だな」
「明日はぐったりだろうな!」
豪快に笑う咲良につられて、笑ってしまう。
遊び疲れたら涼しい部屋で寝る。しかも次の日、起きる時間を考えなくていい。
それこそ、夏休みの醍醐味だよなあ。
「ごちそうさまでした」
海の家へ向かった田中さんと山下さんは、もうせっせと働き始めている。
「咲良遅いな……」
日陰に移動して海を眺める。ざざぁ、ざざぁ……と、等間隔のようなそうでもないようなペースで波の音が聞こえてくる。何人か他にも海水浴客が来ているようである。
「待たせたな!」
「あぁ……」
勢いのいい声に振り返って見れば、これまた全身で喜びを表現しているといっても過言ではない格好の咲良が立っていた。
ビタミンカラーの水着に、派手な浮き輪。小脇に抱えているのはスイカ柄のビーチボールだ。頭にはゴーグル、目にはサングラス、右手にでかい水鉄砲、左手に小型水鉄砲二丁。サンダルは動きやすそうな形で、水着と色をそろえているようだ。あ、よく見りゃ、もう一個浮き輪抱えてんな。
浮かれている、の一言に尽きるな、この格好は。
「なんだぁ、春都。そんなんで楽しめんのか~?」
「逆にお前はその恰好で楽しめるのか? 欲張り過ぎじゃねえか」
「夏は欲張ってなんぼだろ!」
よく分からん理論を堂々と言うやつである。
咲良はサングラスをとると、持って来ていた荷物入れにしまった。
「使わねぇなら持ってこなくてもいいんじゃねえの」
「雰囲気も大事だろ」
海の家からパラソルを一つ借りて、基地を作る。荷物を置いたところで咲良が浮き輪を一つよこしてきた。
「じゃ、行くぞ!」
「おー」
この浮き輪は落ち着いた色でちょっと安心した。咲良は全速力で、海に向かって走り出す。おーおー、元気なこった。
「春都~、早く~」
「ちょっと待て。すぐ来る」
「あっ、結構冷たい」
波打ち際では一瞬足が止まってしまう。しかしそこを乗り越えると、気持ちのいい塩水が広がっているのだ。
「結構きれいだな」
浮き輪を使えるような深さのところまで進む。やっぱり、プールとかとは全然違う。浮き輪なんて使うの久しぶりだから、どう使うのか一瞬考えてしまう。えーっと、輪の中に入って……
「うわ、めっちゃ気持ちいい」
さわさわと風が髪をなで、さざ波に揺れる。日差しは強く焼けるようだが、海に浸かっているところはひんやりする。この温度差がいい。
「あ~……いい~……」
「風呂入ってるみてぇ。泳がねーの?」
「浮いてるだけで十分……」
「もったいねーな!」
うわっ、なんだ。水降ってきた。
振り返って見れば、ずいぶんでかくて立派な水鉄砲を持った咲良がにやっと笑っていた。浮き輪でぷかぷか揺れながら、銃口をこちらに向けている。
「こーゆーのは、はっちゃけたもん勝ちだろ?」
「てめぇ……」
「ほれ」
咲良が放り投げ、海面にパシャンと着水したのは小さな水鉄砲二丁だった。それを手に取りもう一度咲良を見れば、挑発するように水鉄砲を構えなおした。
「はっ、余裕そうにしてられんのも今のうちだけだぞ、咲良」
水を充填し、打ちやすいように両手に銃を構える。
「上等だ。受けて立つぜ、春都」
こうして、仁義なき水鉄砲対決が開幕したのである。
パラソルの下に座り、海を眺める。
「あはは、髪きっしきし」
隣に座る咲良は笑う。確かに、一度海水にぬれて乾いた髪はなんかギシギシしている。帰りにちゃんとシャワー浴びないとなあ。塩素ではなく、海水の香りが体から漂ってくる。
「で、結局どっちの勝ちなんだ。勝負は」
「んー、引き分け」
「引き分けか」
「楽しけりゃ、それでよし、だ」
確かに、あれで勝敗をはっきり決めるのは難しいな。咲良の言う通り、楽しけりゃいいって感じだな。
「なんか腹減ったな~」
「そうだな」
海の家の方を見れば、店先で何か焼いているのが見えた。とうもろこしに魚介類、おにぎり、肉の串……
「うまそうだな」
「あれ、買いに行くか!」
いろいろ悩んだ結果、肉と野菜が串にささったやつ、バーベキューを買うことにした。咲良も同じのにしたらしい。田中さんと山下さんは中でせわしなく働いていた。
「いただきます」
パラソルの下に戻り、まずは串を眺める。
大ぶりの牛肉に、ピーマン、玉ねぎ、パプリカ、トウモロコシが刺さってカラフルだ。うまそうだなー。
やっぱ一口目は肉だろう。やわらかくて、こしょうは濃い目で、香ばしいタレは少し甘い。肉汁が口いっぱいにあふれ出し、鼻に抜ける風味がいい。
ピーマンは苦いが、それがいい。濃い肉の味によく合う。
「牛肉うまいな! 正直、海の家の飯ってあんまり期待してなかったけど、うめぇ」
「ひどい言い様だな。……まあ、分からんでもないけど」
「うまー」
咲良は嬉々として肉にかぶりつく。
玉ねぎの火の通り具合が絶妙だ。生でもなければ火が通り過ぎてもいない。程よくしゃくしゃくで、甘く、爽やかである。
パプリカは甘い。ジューシーで、果物にも似た風味だ。
とうもろこしの甘さがたまらない。ぱしゅッとはじける水気がどこまでも薫り高く、夏らしい甘みを含んでいる。
そんでまた肉。あー、やっぱうまい。この味、この食べ応え。動き疲れた身に染みる。あと二切れもあるのがうれしい。
「この後どーすんだ」
聞けば咲良は、ビーチボールを片手で取る。
「これで遊ぶ」
「元気だな」
「明日はぐったりだろうな!」
豪快に笑う咲良につられて、笑ってしまう。
遊び疲れたら涼しい部屋で寝る。しかも次の日、起きる時間を考えなくていい。
それこそ、夏休みの醍醐味だよなあ。
「ごちそうさまでした」
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