397 / 854
日常
第三百八十話 ドライカレー
しおりを挟む
放課後、帰り支度をしていたら、いつものように咲良がやってきた。普段より薄っぺらい鞄にリュックサック。こいつ、ちゃんと勉強してるんだろうな?
「帰ろうぜ~」
「お前なんか荷物少ないな」
「夏休みなんてそんなもんだろ」
うーん、そうなのだろうか。
確かに教科書類も少ないし、そもそも授業数が少ないからそうか。空いた時間に宿題進めようと持って来ているから、俺の荷物が多いだけか。
「お前、ちゃんと宿題やっとけよ。終盤に助け求められても、知らんからな」
「ひでえや。大丈夫だって、ちゃんとやってるよ」
ならいいけど。
リュックサックを背負い、鞄を抱えて教室を出ようとした時だった。見覚えのあるやつが飛び込んで来た。
「あっ、一条、井上! ちょうどよかった。いや、ちょうどいいかどうかは分かんねえや。今帰り? なんか用事ある?」
教室に飛び込んできて早々、まくしたてるように言うのは早瀬だ。
汗だくの早瀬を見、咲良は愛想よく笑って言った。
「俺は別にないけど。春都は?」
「俺もまあ……特には」
そう答えれば、早瀬は渡りに船といわんばかりの表情を浮かべた。
「ちょっと手伝ってくんねえ? 人手が足りなくてさぁ。お礼はする!」
「部活か?」
咲良の問いに、早瀬は頷いた。
「機材が届いたんだけど、今日に限って休みが多くてさあ。ただでさえ人数少ないってのに、これじゃ、運ぶのも一苦労なんだ。手伝ってもらえると助かる!」
「おー、いいぞ」
「運ぶくらいなら、まあ」
早瀬はそれを聞いて、顔の前で両手を合わせた。
「ありがとう! じゃ、さっそく来てくれ!」
視聴覚室に荷物を置かせてもらい、向かったのは来客用の玄関だ。あ、石上先生もいる。
「こんにちはー」
「おう、君たちか」
石上先生は言うと、頬を伝う汗を手の甲で拭って笑った。
「手伝いに来てくれたのか?」
「はい。先生もですか?」
「結構な機材だからなあ。生徒だけで運ばせるわけにはいかんだろう」
「そんなに立派なんすか」
咲良が聞けば、石上先生はにやりと笑って、無言で外を指さした。
そちらに視線を向ける。そこには、夏の日差しに照らされて黒光りする、実に立派なスピーカーやら何やらが鎮座していた。
「おおー」
「確かにこれは、運ぶのにも骨が折れそうだ」
早瀬に呼ばれ、表に出る。動作テストをするらしく、いろいろな機能がついているらしい音響機材の一つにCDを入れていた。
「鳴らしまーす」
早瀬の言葉の後、聞き覚えのある……というか、よく聞く音楽が流れてきた。アニメの主題歌じゃん。
物がいいからなのか、音が体に直接響いてくるようだ。うわー、なんか、テンション上がるー。ライブって、こんな感じなのかなあ。
それからいくつか曲を流して、確認は終わった。
「うん、問題なしね。それじゃあ運ぼうか」
放送部の顧問の先生が言うと、部員たちは手際よく配置に着いた。
「俺らどーすりゃいいの?」
咲良が早瀬に声をかける。
「こっちこっち。これ、一人一つずつ運んでくれ」
「おー、スピーカーな」
「持てるのか、これ……あ、思ったより軽い」
「あ、壊さないように気を付けてくれよ」
石上先生が軽く忠告するが、知らされた金額は目ん玉飛び出るほどだった。こんなん、一人一つずつ運ばせんなよ。
「どこまで運ぶんです」
「靴箱のとこの倉庫」
「遠いっ」
咲良と一緒に叫べば、石上先生は楽しそうに笑ったのだった。
肉体的に、というより、精神的に疲れた。
結局あのあともう一往復したが、それはすごく重くて、手を滑らせて落としてしまいそうになった。何とか耐えたが、心臓がヒュッてなった。
「はーすっきりした」
汗だくだったので、いつも以上に風呂が気持ちよかった。すっきりさっぱり、今日はなんかよく眠れそうだ。
と、その前に、飯だ。
「はい、これ持ってって!」
「うーす」
母さんに渡された皿には、野菜たっぷりのドライカレーとご飯が盛られていた。カレーの香りは、疲れた体の腹も鳴らす。
「いただきます」
汁気の少ないカレーは、ナンも合うがご飯も合う。
フードプロセッサーで細かくした玉ねぎ、にんじん、ピーマンがたっぷりのルーはうま味もたっぷりだ。口いっぱいにカレーの味と野菜のうま味が満ちていく。鼻に抜ける香辛料の風味が心地いい。
「あー、おいしい」
「春都は、普通のカレーよりこっちのカレーの方が好きだよね」
父さんに言われ、ふと考える。
「そうかな?」
「うん、まあ、どっちもおいしそうに食べてるけどね」
「それは、そうだ」
野菜が好きだからな。ドライカレーの方が野菜を目一杯食って感じがしていいんだ。まあ、普通のカレーのジャガイモもニンジンも好きだけど。
にんにくもフードプロセッサーで細かくしたらしい。風味がいいなあ。
ご飯とカレーをどういう配分で食うか、っていうのでも味わいが違う。カレーたっぷりにすると辛みがあるし、ご飯多めだと食べ応えがある。
じわじわくる辛さに汗がにじみだす。ドライカレー、やっぱ好きだなあ。
カレー食った日って、そういえば寝つきがいいような気がする。今日は途中で起きることなく眠れそうかな。
あっ、そうだ。今度は温泉卵も買ってもらっとこ。
「ごちそうさまでした」
「帰ろうぜ~」
「お前なんか荷物少ないな」
「夏休みなんてそんなもんだろ」
うーん、そうなのだろうか。
確かに教科書類も少ないし、そもそも授業数が少ないからそうか。空いた時間に宿題進めようと持って来ているから、俺の荷物が多いだけか。
「お前、ちゃんと宿題やっとけよ。終盤に助け求められても、知らんからな」
「ひでえや。大丈夫だって、ちゃんとやってるよ」
ならいいけど。
リュックサックを背負い、鞄を抱えて教室を出ようとした時だった。見覚えのあるやつが飛び込んで来た。
「あっ、一条、井上! ちょうどよかった。いや、ちょうどいいかどうかは分かんねえや。今帰り? なんか用事ある?」
教室に飛び込んできて早々、まくしたてるように言うのは早瀬だ。
汗だくの早瀬を見、咲良は愛想よく笑って言った。
「俺は別にないけど。春都は?」
「俺もまあ……特には」
そう答えれば、早瀬は渡りに船といわんばかりの表情を浮かべた。
「ちょっと手伝ってくんねえ? 人手が足りなくてさぁ。お礼はする!」
「部活か?」
咲良の問いに、早瀬は頷いた。
「機材が届いたんだけど、今日に限って休みが多くてさあ。ただでさえ人数少ないってのに、これじゃ、運ぶのも一苦労なんだ。手伝ってもらえると助かる!」
「おー、いいぞ」
「運ぶくらいなら、まあ」
早瀬はそれを聞いて、顔の前で両手を合わせた。
「ありがとう! じゃ、さっそく来てくれ!」
視聴覚室に荷物を置かせてもらい、向かったのは来客用の玄関だ。あ、石上先生もいる。
「こんにちはー」
「おう、君たちか」
石上先生は言うと、頬を伝う汗を手の甲で拭って笑った。
「手伝いに来てくれたのか?」
「はい。先生もですか?」
「結構な機材だからなあ。生徒だけで運ばせるわけにはいかんだろう」
「そんなに立派なんすか」
咲良が聞けば、石上先生はにやりと笑って、無言で外を指さした。
そちらに視線を向ける。そこには、夏の日差しに照らされて黒光りする、実に立派なスピーカーやら何やらが鎮座していた。
「おおー」
「確かにこれは、運ぶのにも骨が折れそうだ」
早瀬に呼ばれ、表に出る。動作テストをするらしく、いろいろな機能がついているらしい音響機材の一つにCDを入れていた。
「鳴らしまーす」
早瀬の言葉の後、聞き覚えのある……というか、よく聞く音楽が流れてきた。アニメの主題歌じゃん。
物がいいからなのか、音が体に直接響いてくるようだ。うわー、なんか、テンション上がるー。ライブって、こんな感じなのかなあ。
それからいくつか曲を流して、確認は終わった。
「うん、問題なしね。それじゃあ運ぼうか」
放送部の顧問の先生が言うと、部員たちは手際よく配置に着いた。
「俺らどーすりゃいいの?」
咲良が早瀬に声をかける。
「こっちこっち。これ、一人一つずつ運んでくれ」
「おー、スピーカーな」
「持てるのか、これ……あ、思ったより軽い」
「あ、壊さないように気を付けてくれよ」
石上先生が軽く忠告するが、知らされた金額は目ん玉飛び出るほどだった。こんなん、一人一つずつ運ばせんなよ。
「どこまで運ぶんです」
「靴箱のとこの倉庫」
「遠いっ」
咲良と一緒に叫べば、石上先生は楽しそうに笑ったのだった。
肉体的に、というより、精神的に疲れた。
結局あのあともう一往復したが、それはすごく重くて、手を滑らせて落としてしまいそうになった。何とか耐えたが、心臓がヒュッてなった。
「はーすっきりした」
汗だくだったので、いつも以上に風呂が気持ちよかった。すっきりさっぱり、今日はなんかよく眠れそうだ。
と、その前に、飯だ。
「はい、これ持ってって!」
「うーす」
母さんに渡された皿には、野菜たっぷりのドライカレーとご飯が盛られていた。カレーの香りは、疲れた体の腹も鳴らす。
「いただきます」
汁気の少ないカレーは、ナンも合うがご飯も合う。
フードプロセッサーで細かくした玉ねぎ、にんじん、ピーマンがたっぷりのルーはうま味もたっぷりだ。口いっぱいにカレーの味と野菜のうま味が満ちていく。鼻に抜ける香辛料の風味が心地いい。
「あー、おいしい」
「春都は、普通のカレーよりこっちのカレーの方が好きだよね」
父さんに言われ、ふと考える。
「そうかな?」
「うん、まあ、どっちもおいしそうに食べてるけどね」
「それは、そうだ」
野菜が好きだからな。ドライカレーの方が野菜を目一杯食って感じがしていいんだ。まあ、普通のカレーのジャガイモもニンジンも好きだけど。
にんにくもフードプロセッサーで細かくしたらしい。風味がいいなあ。
ご飯とカレーをどういう配分で食うか、っていうのでも味わいが違う。カレーたっぷりにすると辛みがあるし、ご飯多めだと食べ応えがある。
じわじわくる辛さに汗がにじみだす。ドライカレー、やっぱ好きだなあ。
カレー食った日って、そういえば寝つきがいいような気がする。今日は途中で起きることなく眠れそうかな。
あっ、そうだ。今度は温泉卵も買ってもらっとこ。
「ごちそうさまでした」
23
お気に入りに追加
253
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

妻を蔑ろにしていた結果。
下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。
主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。
小説家になろう様でも投稿しています。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

だってお義姉様が
砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。
ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると……
他サイトでも掲載中。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる