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日常
第三百七十七話 カツオのたたき
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「はい、これ。お土産」
「ありがとねえ」
昨日買ったお土産を渡すと、じいちゃんとばあちゃんはとても喜んでくれた。
「あとで、ありがたくいただこう」
と、じいちゃんはいったん仏壇に供える。
ばあちゃんは台所に立っていたが、何やら豪快な音がする。重いような、腹に響くような音だ。何を切っているんだろう。かぼちゃか?
「みやちゃん、お皿とって~」
「はーい」
ばあちゃんは母さんをみやちゃんと呼ぶ。それを聞くたびに、なんだか不思議な気分になる。
「春都は塩出してくれる?」
「あ、うん」
なるほど、スイカか。そういや畑で育ってたな。丸々していて、そろそろ食べごろかなあと思っていたのだ。
きれいに等分されたスイカ、緑と赤、黒のコントラスト。ああ、夏だなあ。
「いただきます」
最初はそのままで食べる。
ひんやりした手触り。果肉はシャキッとみずみずしく、爽やかな甘さだ。種を出すのが苦手だが、このうまさを前にすれば些末なことである。皮の近くはなんとなくキュウリっぽく感じる。
塩をかけるとみずみずしさが増す気がする。塩気でスイカの風味が際立ち、ここまで食うとやっと、スイカ食ったなあ、という気分になる。
「お店で買うスイカより、甘くないけどねえ」
ばあちゃんは言って、爪楊枝で種を取った。
「おいしいよ」
「そう? ならよかった。春都、いっぱい食べなさいね」
「うん」
「スイカはやっぱり、このままがおいしいよね」
母さんは二つ目のスイカに手を伸ばしながら言った。父さんも隣で頷いている。
「お菓子もいろいろ出てるけど、あれは、癖があるから」
「そうなの。まずいってわけじゃないけど、好き嫌い分かれるよねえ」
ああ、それはよく分かる。
スイカフレーバーのお菓子は結構独特なんだよな。まずいってほどじゃないけど、自分で買うことは少ない。
俺的にも、スイカはそのまま食べるのが一番好きだ。
「春都、これ、甘いと思うぞ。食べるといい」
「ありがとう」
じいちゃんに勧められたスイカの一切れは少し小さめだが、確かに甘い。スイカは中心の方、切ったら先端になる部分が一番甘いよな。少しトロッとした口当たりのスイカもあるけど、このシャキシャキがたまらないな。
「ごちそうさまでした」
ふー、たらふく食べた。スイカを食った後って、水たっぷり飲んだ感じになる。そりゃほとんど水分だもんなあ。
と、家の電話が鳴った。
「ああ、はいはい」
ばあちゃんが電話に出たその時、チャイムも鳴った。じいちゃんがさっと表に出る。
どちらもお客さんらしい。忙しいなあ。
「ま、ありがたいわ。それじゃあ、ちょっと行ってくるね」
「私運転するよ」
母さんはばあちゃんに着いて行くらしい。じいちゃんもいったん上がってくる。
「すまん、手を貸してくれるか」
「それじゃあ僕、行きますよ」
表には父さんが向かった。母さんと結婚したとき、じいちゃんに教えてもらって父さんも自転車整備士とかの免許を取ったとか言ってたなあ。母さんも随分前に、ばあちゃんに勧められて取ってるし、俺もいつかは取りたいとぼんやり思ってはいるが……とれるだろうか。
「……急に静かになったな」
洗い物を終え、裏の部屋のソファに座る。くつろいでいたうめずが音に反応して立ち上がり、足元にやってくる。
「散歩行くにしても、暑いもんな」
「わふっ」
「いっそのこと、休むか」
その言葉が通じたかどうかわからないが、うめずは尻尾を振って「賛成!」というように頷いた。
「ははっ、そうだな」
昨日はずいぶん頑張ったし、ちょっとくらい、休んでもいいだろう。
さて、それじゃあカーテンを閉めて、ブランケットを用意して……ソファに横になろう。うめずはもう昼寝をする態勢になっている。
ま、昼寝しないにしても、こうやって涼しい部屋でのんびりできるのは、夏休みの醍醐味だよなあ。
晩ご飯は、午前中のうちにばあちゃんが作っておいたらしいおかずと、母さんとばあちゃんが配達の帰りに買ってきたカツオのたたきだ。にんにくのスライスもある。
「いただきます」
まずはカツオのたたきを食べたい。
分厚くて大きい。にんにくのスライスをのせて、ポン酢につけて、食べる。一口じゃ入らないな。半分ずつ食おう。
香ばしい香りにカツオのうま味、ポン酢のさわやかさがいい感じに合わさっておいしい。にんにくは少し辛くて、口がひりひりするようだ。でも風味がいい。生のにんにくって、なんか元気出るよなあ。
そんでカツオのたたきとよく合うんだ。
大人たちは酒のあてにいいと言うが、ご飯のおかずとしてもいいんだ。濃いカツオのうま味とニンニクの香り、ポン酢の酸味が口にあるうちに、白米をかきこむ。これがうまい。
「春都、こっちも食べてみて」
「ん、食べる」
ばあちゃんが差し出した皿に盛りつけられているこれは、ナスの味噌煮だ。夏になると、ばあちゃんがよく作ってくれる。
味噌の塩気が夏の暑さにいいんだ。ナスは畑で取れたもので、甘いような青いような、夏らしい味がする。ジュワッと水分が染み出し、おいしさが口いっぱいに広がる。
キュウリとトマトを切っただけってのもいい。マヨネーズをつけて食べる。
口の中がさっぱりするなあ。キュウリの食感がよく、トマトは程よく酸味があってうまい。マヨネーズに一味をかけるとピリッと味が引き締まる。
キュウリは、山笠期間中は食べられないからなあ。神社の紋がキュウリの切り口と似ているから、だったかな。
じゃこもある。冷蔵庫で冷えていたのでカリッカリだ。ちょっとねっとりした感じのところもうまい。
「あとで春都が持って来てくれたお土産、食べるか」
じいちゃんが言うと、ばあちゃんも楽し気に「そうね」と笑った。
「私たちはもう食べてるから、二人で食べてよ」
「ええ、よかったら」
父さんと母さんがそう言うと、じいちゃんもばあちゃんも頷いた。
いつも買ってきてもらうばっかりだから、こうやって喜んでくれてる姿を見るのは新鮮だ。
買ってきといてよかったなあ。
「ごちそうさまでした」
「ありがとねえ」
昨日買ったお土産を渡すと、じいちゃんとばあちゃんはとても喜んでくれた。
「あとで、ありがたくいただこう」
と、じいちゃんはいったん仏壇に供える。
ばあちゃんは台所に立っていたが、何やら豪快な音がする。重いような、腹に響くような音だ。何を切っているんだろう。かぼちゃか?
「みやちゃん、お皿とって~」
「はーい」
ばあちゃんは母さんをみやちゃんと呼ぶ。それを聞くたびに、なんだか不思議な気分になる。
「春都は塩出してくれる?」
「あ、うん」
なるほど、スイカか。そういや畑で育ってたな。丸々していて、そろそろ食べごろかなあと思っていたのだ。
きれいに等分されたスイカ、緑と赤、黒のコントラスト。ああ、夏だなあ。
「いただきます」
最初はそのままで食べる。
ひんやりした手触り。果肉はシャキッとみずみずしく、爽やかな甘さだ。種を出すのが苦手だが、このうまさを前にすれば些末なことである。皮の近くはなんとなくキュウリっぽく感じる。
塩をかけるとみずみずしさが増す気がする。塩気でスイカの風味が際立ち、ここまで食うとやっと、スイカ食ったなあ、という気分になる。
「お店で買うスイカより、甘くないけどねえ」
ばあちゃんは言って、爪楊枝で種を取った。
「おいしいよ」
「そう? ならよかった。春都、いっぱい食べなさいね」
「うん」
「スイカはやっぱり、このままがおいしいよね」
母さんは二つ目のスイカに手を伸ばしながら言った。父さんも隣で頷いている。
「お菓子もいろいろ出てるけど、あれは、癖があるから」
「そうなの。まずいってわけじゃないけど、好き嫌い分かれるよねえ」
ああ、それはよく分かる。
スイカフレーバーのお菓子は結構独特なんだよな。まずいってほどじゃないけど、自分で買うことは少ない。
俺的にも、スイカはそのまま食べるのが一番好きだ。
「春都、これ、甘いと思うぞ。食べるといい」
「ありがとう」
じいちゃんに勧められたスイカの一切れは少し小さめだが、確かに甘い。スイカは中心の方、切ったら先端になる部分が一番甘いよな。少しトロッとした口当たりのスイカもあるけど、このシャキシャキがたまらないな。
「ごちそうさまでした」
ふー、たらふく食べた。スイカを食った後って、水たっぷり飲んだ感じになる。そりゃほとんど水分だもんなあ。
と、家の電話が鳴った。
「ああ、はいはい」
ばあちゃんが電話に出たその時、チャイムも鳴った。じいちゃんがさっと表に出る。
どちらもお客さんらしい。忙しいなあ。
「ま、ありがたいわ。それじゃあ、ちょっと行ってくるね」
「私運転するよ」
母さんはばあちゃんに着いて行くらしい。じいちゃんもいったん上がってくる。
「すまん、手を貸してくれるか」
「それじゃあ僕、行きますよ」
表には父さんが向かった。母さんと結婚したとき、じいちゃんに教えてもらって父さんも自転車整備士とかの免許を取ったとか言ってたなあ。母さんも随分前に、ばあちゃんに勧められて取ってるし、俺もいつかは取りたいとぼんやり思ってはいるが……とれるだろうか。
「……急に静かになったな」
洗い物を終え、裏の部屋のソファに座る。くつろいでいたうめずが音に反応して立ち上がり、足元にやってくる。
「散歩行くにしても、暑いもんな」
「わふっ」
「いっそのこと、休むか」
その言葉が通じたかどうかわからないが、うめずは尻尾を振って「賛成!」というように頷いた。
「ははっ、そうだな」
昨日はずいぶん頑張ったし、ちょっとくらい、休んでもいいだろう。
さて、それじゃあカーテンを閉めて、ブランケットを用意して……ソファに横になろう。うめずはもう昼寝をする態勢になっている。
ま、昼寝しないにしても、こうやって涼しい部屋でのんびりできるのは、夏休みの醍醐味だよなあ。
晩ご飯は、午前中のうちにばあちゃんが作っておいたらしいおかずと、母さんとばあちゃんが配達の帰りに買ってきたカツオのたたきだ。にんにくのスライスもある。
「いただきます」
まずはカツオのたたきを食べたい。
分厚くて大きい。にんにくのスライスをのせて、ポン酢につけて、食べる。一口じゃ入らないな。半分ずつ食おう。
香ばしい香りにカツオのうま味、ポン酢のさわやかさがいい感じに合わさっておいしい。にんにくは少し辛くて、口がひりひりするようだ。でも風味がいい。生のにんにくって、なんか元気出るよなあ。
そんでカツオのたたきとよく合うんだ。
大人たちは酒のあてにいいと言うが、ご飯のおかずとしてもいいんだ。濃いカツオのうま味とニンニクの香り、ポン酢の酸味が口にあるうちに、白米をかきこむ。これがうまい。
「春都、こっちも食べてみて」
「ん、食べる」
ばあちゃんが差し出した皿に盛りつけられているこれは、ナスの味噌煮だ。夏になると、ばあちゃんがよく作ってくれる。
味噌の塩気が夏の暑さにいいんだ。ナスは畑で取れたもので、甘いような青いような、夏らしい味がする。ジュワッと水分が染み出し、おいしさが口いっぱいに広がる。
キュウリとトマトを切っただけってのもいい。マヨネーズをつけて食べる。
口の中がさっぱりするなあ。キュウリの食感がよく、トマトは程よく酸味があってうまい。マヨネーズに一味をかけるとピリッと味が引き締まる。
キュウリは、山笠期間中は食べられないからなあ。神社の紋がキュウリの切り口と似ているから、だったかな。
じゃこもある。冷蔵庫で冷えていたのでカリッカリだ。ちょっとねっとりした感じのところもうまい。
「あとで春都が持って来てくれたお土産、食べるか」
じいちゃんが言うと、ばあちゃんも楽し気に「そうね」と笑った。
「私たちはもう食べてるから、二人で食べてよ」
「ええ、よかったら」
父さんと母さんがそう言うと、じいちゃんもばあちゃんも頷いた。
いつも買ってきてもらうばっかりだから、こうやって喜んでくれてる姿を見るのは新鮮だ。
買ってきといてよかったなあ。
「ごちそうさまでした」
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