一条春都の料理帖

藤里 侑

文字の大きさ
上 下
393 / 843
日常

第三百七十六話 からあげ

しおりを挟む
 ショッピングモール内にはスーパーもある。スーパーといっても花丸スーパーとは様子が違う。おしゃれで、都会って感じだ。いや別に花丸スーパーが悪いというわけではないのだ。そう、決してそういうわけではない。
 そのスーパーの近くに土産物屋の並びがある。新しい雰囲気の店から老舗まで、賑やかな雰囲気だ。
「おお、これ、テレビで見たことある!」
 咲良が箱詰めのお菓子を手に取る。黄色い包装紙で、確かに見覚えがあった。というか、地元の有名なお菓子だな、これ。
「うまいよなー。めったに買わないし、そもそも家の近くにある店じゃ見ないけど」
 早瀬は言って、違う店のお菓子を見に行った。
「お、イチゴだ。これなんだ? 餅? うまそう」
「それ、もらったことある。ほとんど甥っ子に食われたけど、うまかったよ」
 と、朝比奈が言う。治樹か。あいつ、容赦なく食いそうだもんなあ。
 どれもうまそうだが、どれもそこそこの値段だ。うーん、お土産、何にしよう。
「これにするか」
 きな粉がたっぷりかかったわらび餅みたいなやつ。付属の黒蜜をかけて食うとうまいんだ、これ。きな粉、ちょっと食べづらいけど。
 じいちゃんとばあちゃんもこれ好きなんだよな。
「春都、買ったー?」
「おう」
「ああ、それうまいよねー。きな粉をどううまく食うかが腕の見せ所なんだよ」
 咲良は咲良でいろいろ買ったようだった。
「お、うまそうなもん売ってるぞ」
 先生が示した先には、何やら屋台のようなものがあった。期間限定で出店しているらしいその店では変わったアイスを売っていた。
「小粒のアイスだと」
「へえ~、カラフルっすねぇ~」
 ラインナップも店の外観もポップで賑やかだ。レインボー、チョコバナナ、ソーダ、イチゴ……
「うまそう……」
 思わず四人、声がそろう。
 口の中は昼飯食った後でなんかしょっぱいし、何より暑い。入ってすぐは冷房効いているなあと思ったが、今じゃもう、人の熱気で蒸し暑いのだ。
「はは、素直だなあ」
 漆原先生はそう言って笑うと、店の方に向かった。
「どれ。せっかくだし、買ってあげよう。どれがいい?」
「えっ、いいんすか」
 咲良が聞くと、漆原先生は頼もしく頷いた。
「今日は頑張ってくれたからな。そのご褒美と思ってくれ」
「ありがとうございます!」
 悩みに悩んだ結果、みんなしてレインボーを頼んだ。粒々のアイスはスコップのようなものですくわれ、小さめのカップに入れられる。先生も食べるつもりらしい。
「いただきます」
 うわ、冷たい。口に張り付いて大変だ。ベリーのような味と、シトラスのような香りに、シュワッとソーダのような甘さ。シャキッとしたかと思えば、さらっと溶ける。シャーベットを細かい粒にした感じなのかな。
「これさ、サイダーとか入れてもうまそうじゃね?」
 早瀬が、ひらめいた、というように真剣な表情で言った。
「色もきれいだし、絶対いいと思うんだけど」
「うん、うまいと思う」
「な? 絶対流行るぜ。タピオカに次ぐ勢力」
 何だそれは。しかし、自信満々な早瀬を見るとそうも言えなくて笑ってしまった。
「うん、これはなかなか食後にいいな」
 先生も気に入ったらしい。
 持ち帰り、できたらいいのになあ、これ。
「ごちそうさまでした」

「ただいまー」
「おかえり」
 楽しかったが、疲れてしまった。家の香りが落ち着く。
「お疲れさま」
「わうっ」
 父さんと母さん、それにうめずが迎えてくれる。
「これ、お土産」
「あら。ありがとねー。お小遣いも少ないのに」
「こっちはじいちゃんとばあちゃんの分ね」
 それにしても腹減った。昼も少しだったし、長いこと車に揺られるのにも慣れてないし、かといって車内で眠ることができない質なので、体力使うんだ。
「お風呂入っておいで。晩ご飯にしよう」
「うん」
 風呂から上がってみれば、何かめっちゃいい匂いがする。なんだなんだ、子の香ばしい香りは。
 ササッと着替えて居間に向かう。と、テーブルに置いてあったのは、山盛りのからあげではないか。
「からあげだ」
「今日頑張ったでしょ」
「揚げたてのうちに食べよう」
 それはもう、喜んで。
「いただきます」
 やっぱり最初はこのまま食おう。
 カリッとした衣に歯を入れれば、ジュワアッとうま味たっぷりの脂が口に広がる。次いで、皮の香ばしさ、ぷりっぷりの肉、滲み出す肉汁。
 ああ、今日頑張っといてよかったあー!
「うんまい」
「よかった。味、よく染みてるでしょ」
「うんうん」
 確かに、身にはしっかりにんにく醤油の味が染みている。
「はい、春都。マヨネーズもいるだろう?」
「ありがとう」
 父さんからマヨネーズを受け取って、皿に絞りだす。
 鶏の脂とマヨネーズの相性は言わずもがな最高なのだが、からあげとなるとさらに想像しているうまさを超えてくる。香ばしさが際立ち、まったりとした口当たりと鶏のうま味がしっかり舌に残って、そこにご飯をかきこむ。っはあー、うまい。
 マヨネーズに柚子胡椒を混ぜて、からあげにつける。ピリッとした刺激と柚子の薫り高い風味、そして、マヨネーズのまろやかさがからあげによくなじむ。
 レモンをかけると一転、さわやかな味わいになる。俺の中での「ザ・からあげ」って味だ。からあげにレモンは……という人もいるらしい。それはそれでいいと思う。でも、俺は好きだ。
 そんでもって、キャベツで小休止を挟む。ドレッシングが爽やかなキャベツは、からあげの味を引き立たせてくれるのだ。
 そんでまたそのままでからあげを一つ。
 あー、これこれ。うんまいなあ。からあげってなんでこう、こんなにうまいんだろう。うちのからあげは特に、いくらでも食べられる。満腹中枢ぶっ壊れてんじゃないかっていうくらい、底なしに入るのだ。
 今度の俺の誕生日、絶対、からあげリクエストしよう。

「ごちそうさまでした」
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

私の部屋で兄と不倫相手の女が寝ていた。

ほったげな
恋愛
私が家に帰ってきたら、私の部屋のベッドで兄と不倫相手の女が寝ていた。私は不倫の証拠を見つけ、両親と兄嫁に話すと…?!

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

【短編】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
 もうすぐ、赤ちゃんが生まれる。  誕生を祝いに、領地から父の辺境伯が訪ねてくるのを心待ちにしているアリシア。 でも、夫と赤髪メイドのメリッサが口づけを交わしているのを見てしまう。 「なぜ、メリッサもお腹に赤ちゃんがいるの!?」  アリシアは夫の愛を疑う。 小説家になろう様にも投稿しています。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...