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日常
第三百七十六話 からあげ
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ショッピングモール内にはスーパーもある。スーパーといっても花丸スーパーとは様子が違う。おしゃれで、都会って感じだ。いや別に花丸スーパーが悪いというわけではないのだ。そう、決してそういうわけではない。
そのスーパーの近くに土産物屋の並びがある。新しい雰囲気の店から老舗まで、賑やかな雰囲気だ。
「おお、これ、テレビで見たことある!」
咲良が箱詰めのお菓子を手に取る。黄色い包装紙で、確かに見覚えがあった。というか、地元の有名なお菓子だな、これ。
「うまいよなー。めったに買わないし、そもそも家の近くにある店じゃ見ないけど」
早瀬は言って、違う店のお菓子を見に行った。
「お、イチゴだ。これなんだ? 餅? うまそう」
「それ、もらったことある。ほとんど甥っ子に食われたけど、うまかったよ」
と、朝比奈が言う。治樹か。あいつ、容赦なく食いそうだもんなあ。
どれもうまそうだが、どれもそこそこの値段だ。うーん、お土産、何にしよう。
「これにするか」
きな粉がたっぷりかかったわらび餅みたいなやつ。付属の黒蜜をかけて食うとうまいんだ、これ。きな粉、ちょっと食べづらいけど。
じいちゃんとばあちゃんもこれ好きなんだよな。
「春都、買ったー?」
「おう」
「ああ、それうまいよねー。きな粉をどううまく食うかが腕の見せ所なんだよ」
咲良は咲良でいろいろ買ったようだった。
「お、うまそうなもん売ってるぞ」
先生が示した先には、何やら屋台のようなものがあった。期間限定で出店しているらしいその店では変わったアイスを売っていた。
「小粒のアイスだと」
「へえ~、カラフルっすねぇ~」
ラインナップも店の外観もポップで賑やかだ。レインボー、チョコバナナ、ソーダ、イチゴ……
「うまそう……」
思わず四人、声がそろう。
口の中は昼飯食った後でなんかしょっぱいし、何より暑い。入ってすぐは冷房効いているなあと思ったが、今じゃもう、人の熱気で蒸し暑いのだ。
「はは、素直だなあ」
漆原先生はそう言って笑うと、店の方に向かった。
「どれ。せっかくだし、買ってあげよう。どれがいい?」
「えっ、いいんすか」
咲良が聞くと、漆原先生は頼もしく頷いた。
「今日は頑張ってくれたからな。そのご褒美と思ってくれ」
「ありがとうございます!」
悩みに悩んだ結果、みんなしてレインボーを頼んだ。粒々のアイスはスコップのようなものですくわれ、小さめのカップに入れられる。先生も食べるつもりらしい。
「いただきます」
うわ、冷たい。口に張り付いて大変だ。ベリーのような味と、シトラスのような香りに、シュワッとソーダのような甘さ。シャキッとしたかと思えば、さらっと溶ける。シャーベットを細かい粒にした感じなのかな。
「これさ、サイダーとか入れてもうまそうじゃね?」
早瀬が、ひらめいた、というように真剣な表情で言った。
「色もきれいだし、絶対いいと思うんだけど」
「うん、うまいと思う」
「な? 絶対流行るぜ。タピオカに次ぐ勢力」
何だそれは。しかし、自信満々な早瀬を見るとそうも言えなくて笑ってしまった。
「うん、これはなかなか食後にいいな」
先生も気に入ったらしい。
持ち帰り、できたらいいのになあ、これ。
「ごちそうさまでした」
「ただいまー」
「おかえり」
楽しかったが、疲れてしまった。家の香りが落ち着く。
「お疲れさま」
「わうっ」
父さんと母さん、それにうめずが迎えてくれる。
「これ、お土産」
「あら。ありがとねー。お小遣いも少ないのに」
「こっちはじいちゃんとばあちゃんの分ね」
それにしても腹減った。昼も少しだったし、長いこと車に揺られるのにも慣れてないし、かといって車内で眠ることができない質なので、体力使うんだ。
「お風呂入っておいで。晩ご飯にしよう」
「うん」
風呂から上がってみれば、何かめっちゃいい匂いがする。なんだなんだ、子の香ばしい香りは。
ササッと着替えて居間に向かう。と、テーブルに置いてあったのは、山盛りのからあげではないか。
「からあげだ」
「今日頑張ったでしょ」
「揚げたてのうちに食べよう」
それはもう、喜んで。
「いただきます」
やっぱり最初はこのまま食おう。
カリッとした衣に歯を入れれば、ジュワアッとうま味たっぷりの脂が口に広がる。次いで、皮の香ばしさ、ぷりっぷりの肉、滲み出す肉汁。
ああ、今日頑張っといてよかったあー!
「うんまい」
「よかった。味、よく染みてるでしょ」
「うんうん」
確かに、身にはしっかりにんにく醤油の味が染みている。
「はい、春都。マヨネーズもいるだろう?」
「ありがとう」
父さんからマヨネーズを受け取って、皿に絞りだす。
鶏の脂とマヨネーズの相性は言わずもがな最高なのだが、からあげとなるとさらに想像しているうまさを超えてくる。香ばしさが際立ち、まったりとした口当たりと鶏のうま味がしっかり舌に残って、そこにご飯をかきこむ。っはあー、うまい。
マヨネーズに柚子胡椒を混ぜて、からあげにつける。ピリッとした刺激と柚子の薫り高い風味、そして、マヨネーズのまろやかさがからあげによくなじむ。
レモンをかけると一転、さわやかな味わいになる。俺の中での「ザ・からあげ」って味だ。からあげにレモンは……という人もいるらしい。それはそれでいいと思う。でも、俺は好きだ。
そんでもって、キャベツで小休止を挟む。ドレッシングが爽やかなキャベツは、からあげの味を引き立たせてくれるのだ。
そんでまたそのままでからあげを一つ。
あー、これこれ。うんまいなあ。からあげってなんでこう、こんなにうまいんだろう。うちのからあげは特に、いくらでも食べられる。満腹中枢ぶっ壊れてんじゃないかっていうくらい、底なしに入るのだ。
今度の俺の誕生日、絶対、からあげリクエストしよう。
「ごちそうさまでした」
そのスーパーの近くに土産物屋の並びがある。新しい雰囲気の店から老舗まで、賑やかな雰囲気だ。
「おお、これ、テレビで見たことある!」
咲良が箱詰めのお菓子を手に取る。黄色い包装紙で、確かに見覚えがあった。というか、地元の有名なお菓子だな、これ。
「うまいよなー。めったに買わないし、そもそも家の近くにある店じゃ見ないけど」
早瀬は言って、違う店のお菓子を見に行った。
「お、イチゴだ。これなんだ? 餅? うまそう」
「それ、もらったことある。ほとんど甥っ子に食われたけど、うまかったよ」
と、朝比奈が言う。治樹か。あいつ、容赦なく食いそうだもんなあ。
どれもうまそうだが、どれもそこそこの値段だ。うーん、お土産、何にしよう。
「これにするか」
きな粉がたっぷりかかったわらび餅みたいなやつ。付属の黒蜜をかけて食うとうまいんだ、これ。きな粉、ちょっと食べづらいけど。
じいちゃんとばあちゃんもこれ好きなんだよな。
「春都、買ったー?」
「おう」
「ああ、それうまいよねー。きな粉をどううまく食うかが腕の見せ所なんだよ」
咲良は咲良でいろいろ買ったようだった。
「お、うまそうなもん売ってるぞ」
先生が示した先には、何やら屋台のようなものがあった。期間限定で出店しているらしいその店では変わったアイスを売っていた。
「小粒のアイスだと」
「へえ~、カラフルっすねぇ~」
ラインナップも店の外観もポップで賑やかだ。レインボー、チョコバナナ、ソーダ、イチゴ……
「うまそう……」
思わず四人、声がそろう。
口の中は昼飯食った後でなんかしょっぱいし、何より暑い。入ってすぐは冷房効いているなあと思ったが、今じゃもう、人の熱気で蒸し暑いのだ。
「はは、素直だなあ」
漆原先生はそう言って笑うと、店の方に向かった。
「どれ。せっかくだし、買ってあげよう。どれがいい?」
「えっ、いいんすか」
咲良が聞くと、漆原先生は頼もしく頷いた。
「今日は頑張ってくれたからな。そのご褒美と思ってくれ」
「ありがとうございます!」
悩みに悩んだ結果、みんなしてレインボーを頼んだ。粒々のアイスはスコップのようなものですくわれ、小さめのカップに入れられる。先生も食べるつもりらしい。
「いただきます」
うわ、冷たい。口に張り付いて大変だ。ベリーのような味と、シトラスのような香りに、シュワッとソーダのような甘さ。シャキッとしたかと思えば、さらっと溶ける。シャーベットを細かい粒にした感じなのかな。
「これさ、サイダーとか入れてもうまそうじゃね?」
早瀬が、ひらめいた、というように真剣な表情で言った。
「色もきれいだし、絶対いいと思うんだけど」
「うん、うまいと思う」
「な? 絶対流行るぜ。タピオカに次ぐ勢力」
何だそれは。しかし、自信満々な早瀬を見るとそうも言えなくて笑ってしまった。
「うん、これはなかなか食後にいいな」
先生も気に入ったらしい。
持ち帰り、できたらいいのになあ、これ。
「ごちそうさまでした」
「ただいまー」
「おかえり」
楽しかったが、疲れてしまった。家の香りが落ち着く。
「お疲れさま」
「わうっ」
父さんと母さん、それにうめずが迎えてくれる。
「これ、お土産」
「あら。ありがとねー。お小遣いも少ないのに」
「こっちはじいちゃんとばあちゃんの分ね」
それにしても腹減った。昼も少しだったし、長いこと車に揺られるのにも慣れてないし、かといって車内で眠ることができない質なので、体力使うんだ。
「お風呂入っておいで。晩ご飯にしよう」
「うん」
風呂から上がってみれば、何かめっちゃいい匂いがする。なんだなんだ、子の香ばしい香りは。
ササッと着替えて居間に向かう。と、テーブルに置いてあったのは、山盛りのからあげではないか。
「からあげだ」
「今日頑張ったでしょ」
「揚げたてのうちに食べよう」
それはもう、喜んで。
「いただきます」
やっぱり最初はこのまま食おう。
カリッとした衣に歯を入れれば、ジュワアッとうま味たっぷりの脂が口に広がる。次いで、皮の香ばしさ、ぷりっぷりの肉、滲み出す肉汁。
ああ、今日頑張っといてよかったあー!
「うんまい」
「よかった。味、よく染みてるでしょ」
「うんうん」
確かに、身にはしっかりにんにく醤油の味が染みている。
「はい、春都。マヨネーズもいるだろう?」
「ありがとう」
父さんからマヨネーズを受け取って、皿に絞りだす。
鶏の脂とマヨネーズの相性は言わずもがな最高なのだが、からあげとなるとさらに想像しているうまさを超えてくる。香ばしさが際立ち、まったりとした口当たりと鶏のうま味がしっかり舌に残って、そこにご飯をかきこむ。っはあー、うまい。
マヨネーズに柚子胡椒を混ぜて、からあげにつける。ピリッとした刺激と柚子の薫り高い風味、そして、マヨネーズのまろやかさがからあげによくなじむ。
レモンをかけると一転、さわやかな味わいになる。俺の中での「ザ・からあげ」って味だ。からあげにレモンは……という人もいるらしい。それはそれでいいと思う。でも、俺は好きだ。
そんでもって、キャベツで小休止を挟む。ドレッシングが爽やかなキャベツは、からあげの味を引き立たせてくれるのだ。
そんでまたそのままでからあげを一つ。
あー、これこれ。うんまいなあ。からあげってなんでこう、こんなにうまいんだろう。うちのからあげは特に、いくらでも食べられる。満腹中枢ぶっ壊れてんじゃないかっていうくらい、底なしに入るのだ。
今度の俺の誕生日、絶対、からあげリクエストしよう。
「ごちそうさまでした」
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