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日常
第三百七十四話 ズッキーニときのこのスパゲティ
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自室で、報告会に持っていくもののリストを見ながら準備をする。
明日は学校指定のバックじゃなくてもいいらしいので、リュックサックに必要なものを詰め込んでいく。着ていくのは制服でいいとして、室内はクーラーがかなり効いているらしいから上着を持って来ておくといい、と先生が言っていた。
それにしても先生、昨日はひどく疲れていたなあ。
結局あの後、原稿が出来上がったのは飯食って三十分後。その時にはすでに疲労困ぱいって感じで、着ていたカーディガンがずり落ちていた。
まあ、疲れたのは先生だけじゃないか。
練習もしたのだが、俺たちや漆原先生としては「当日の流れを確認できれば良し」という感じだったのに、違う先生も来たかと思えば、あれこれ注文を付けてきたのだ。やれ感情をのせろだの、伝わりづらいだの、声が出てないだの、スライドのタイミングがなってないだのと。
こっちとしても適当にやっているわけではないので、そんなふうに文句つけられるとやる気が揺らぐ。
「ああいう、根性論的な指摘、一番困る」
と、早瀬が虚無を映した目で言うほどだ。表情は笑っていたが、その後の放送部の練習に支障が出そうであった。
まあ、報告会の確認が終わるころにはすっかりいつも通りだったわけだが。
「こんなもんか」
多少の忘れ物は向こうで何とかなる、と先生は言っていた。とりあえず財布と学生証、原稿、常備薬さえ持って来ておけば、あとは何とかできるだろう、と。
まあ都会だもんな。コンビニもたくさんあるだろうし。
「ん?」
スマホの画面が点灯する。咲良だ。
「もしもし?」
『あ、もしもし、春都。今大丈夫?』
「まあ、よっぽど長時間じゃなければ」
電話の向こうで、咲良がへらっと笑ったように思える。咲良は言った。
『明日の準備してんだけどさー、なんか一人でやってると不安で。一緒に確認して!』
「はあ? どうやって」
『今からリュックに入れていくもの言ってくから、確認してほしいわけ』
それは確認になるのだろうか。まあ、それでこいつが納得するならいいか。
「分かった」
『サンキュー。えっとな、まず、お菓子』
「ちょっと待て」
『えー、何?』
本気で不思議そうに言うな。
「お菓子の前に、まず、必要なものを入れろ。まず、原稿」
『あー、それもそっか』
「持っていくもののリスト、あったろ」
『ぐちゃぐちゃになって、よく分からんくなった』
何だそれは。
まあ、こいつの言うことにいちいち反応していたらきりがない。
「……次」
『えーっと、筆箱。あ、やべ、シャー芯あったっけ? えっと……ああ、あったあった』
「次。学生証は」
『あ、そうそう。それだ』
まったく、この調子で大丈夫か。ずいぶんかかりそうだぞ。
自分の準備が終わっているだけ、まあいいか。
電話って、なんでこんなに疲れるんだろう。液晶が触れていた頬が熱い。
明日になって忘れ物があったとか言ったらもう、俺の努力は何だったんだ。もっかい、自分の持ち物確認しとこう。
確認し終わったら居間に向かう。
「お、準備、終わったか?」
ソファでくつろいでいた父さんが声をかけてくる。駆け寄ってきたうめずの相手をしながら、テレビ前に向かった。
「うん。終わった」
「忘れ物あると、パニックになるからなあ。ま、行った先で揃うものもあるだろうけど」
「先生も言ってた。試験でもないし、ご飯食べに行くとでも思っておけって」
「あはは、いい先生だね」
母さんは食卓でスマホを見ていたが、顔を上げると言った。
「この間会った先生でしょ? そういえば、もう一人いたよね。あっちも先生なの?」
「先生っていうか……事務室の人。漆原先生の腐れ縁だって」
「へえ、そうなの」
明日引率してくれるのが漆原先生でよかったとつくづく思う。他の先生なら、ちょっと……いや、だいぶ、気が重いもんなあ。あ、石上先生でも大丈夫かな。
まあその二人の先生じゃなかったら、そもそも、頼まれても断ってたかもな。
この時期になると、ズッキーニをよく食べるようになった。一度、でかいキュウリとズッキーニを間違えたことがあるが、全然違うんだな。見た目が似ていたからあれだけど、味、かなり違う。スパゲティの具材にして、少々コメントに困る味になったのを思い出す。
ズッキーニの調理法もいろいろあるが、俺はスパゲティが好きだなあ。出汁と合わせるといいんだ、あれ。
「はい、お待たせねー」
今日の晩飯はまさしく、ズッキーニのスパゲティだ。きのこも入って、ネギが散らされている。
「いただきます」
白だしのスープでひたひたになったズッキーニ、一緒に入っているきのこはエリンギだ。エリンギ、癖が少ないからいろいろな食材と合わせやすいんだ。
ズッキーニは控えめな味わいながら、うま味をたっぷり含んでいてうまい。エリンギもうま味たっぷりで、何より食感がいい。ズッキーニと一緒に食うのがいいなあ。
麺もつるつるで、程よい茹で加減である。
「あ、そうそう。お昼ご飯に昨日ね、あれ使わせてもらったよ。レンジでチンする、スパゲティ茹でるの」
「そうなんだ。楽でしょ」
「ちょっと食べたいときなんかは良いね」
母さんが言うと、父さんも「あれなら、父さんも使える」と隣で頷いた。
スパゲティとズッキーニ、エリンギを一緒に食べてみる。そうそう、ネギも忘れちゃいけない。
まず感じるのはスパゲティの歯ごたえ、そして、ズッキーニからあふれ出す白だしとズッキーニそのものの味。エリンギのうま味と食感が加わり、ネギのさわやかさがそれらを引き立てる。
白だしってすげえよなあ。いろんな食材に合うんだ。いろんな料理に少し加えるとうま味が爆発的に増すし、こうやってスパゲティのスープにもなる。
ズッキーニ、今年もたくさん食べるだろうなあ。
「ごちそうさまでした」
明日は学校指定のバックじゃなくてもいいらしいので、リュックサックに必要なものを詰め込んでいく。着ていくのは制服でいいとして、室内はクーラーがかなり効いているらしいから上着を持って来ておくといい、と先生が言っていた。
それにしても先生、昨日はひどく疲れていたなあ。
結局あの後、原稿が出来上がったのは飯食って三十分後。その時にはすでに疲労困ぱいって感じで、着ていたカーディガンがずり落ちていた。
まあ、疲れたのは先生だけじゃないか。
練習もしたのだが、俺たちや漆原先生としては「当日の流れを確認できれば良し」という感じだったのに、違う先生も来たかと思えば、あれこれ注文を付けてきたのだ。やれ感情をのせろだの、伝わりづらいだの、声が出てないだの、スライドのタイミングがなってないだのと。
こっちとしても適当にやっているわけではないので、そんなふうに文句つけられるとやる気が揺らぐ。
「ああいう、根性論的な指摘、一番困る」
と、早瀬が虚無を映した目で言うほどだ。表情は笑っていたが、その後の放送部の練習に支障が出そうであった。
まあ、報告会の確認が終わるころにはすっかりいつも通りだったわけだが。
「こんなもんか」
多少の忘れ物は向こうで何とかなる、と先生は言っていた。とりあえず財布と学生証、原稿、常備薬さえ持って来ておけば、あとは何とかできるだろう、と。
まあ都会だもんな。コンビニもたくさんあるだろうし。
「ん?」
スマホの画面が点灯する。咲良だ。
「もしもし?」
『あ、もしもし、春都。今大丈夫?』
「まあ、よっぽど長時間じゃなければ」
電話の向こうで、咲良がへらっと笑ったように思える。咲良は言った。
『明日の準備してんだけどさー、なんか一人でやってると不安で。一緒に確認して!』
「はあ? どうやって」
『今からリュックに入れていくもの言ってくから、確認してほしいわけ』
それは確認になるのだろうか。まあ、それでこいつが納得するならいいか。
「分かった」
『サンキュー。えっとな、まず、お菓子』
「ちょっと待て」
『えー、何?』
本気で不思議そうに言うな。
「お菓子の前に、まず、必要なものを入れろ。まず、原稿」
『あー、それもそっか』
「持っていくもののリスト、あったろ」
『ぐちゃぐちゃになって、よく分からんくなった』
何だそれは。
まあ、こいつの言うことにいちいち反応していたらきりがない。
「……次」
『えーっと、筆箱。あ、やべ、シャー芯あったっけ? えっと……ああ、あったあった』
「次。学生証は」
『あ、そうそう。それだ』
まったく、この調子で大丈夫か。ずいぶんかかりそうだぞ。
自分の準備が終わっているだけ、まあいいか。
電話って、なんでこんなに疲れるんだろう。液晶が触れていた頬が熱い。
明日になって忘れ物があったとか言ったらもう、俺の努力は何だったんだ。もっかい、自分の持ち物確認しとこう。
確認し終わったら居間に向かう。
「お、準備、終わったか?」
ソファでくつろいでいた父さんが声をかけてくる。駆け寄ってきたうめずの相手をしながら、テレビ前に向かった。
「うん。終わった」
「忘れ物あると、パニックになるからなあ。ま、行った先で揃うものもあるだろうけど」
「先生も言ってた。試験でもないし、ご飯食べに行くとでも思っておけって」
「あはは、いい先生だね」
母さんは食卓でスマホを見ていたが、顔を上げると言った。
「この間会った先生でしょ? そういえば、もう一人いたよね。あっちも先生なの?」
「先生っていうか……事務室の人。漆原先生の腐れ縁だって」
「へえ、そうなの」
明日引率してくれるのが漆原先生でよかったとつくづく思う。他の先生なら、ちょっと……いや、だいぶ、気が重いもんなあ。あ、石上先生でも大丈夫かな。
まあその二人の先生じゃなかったら、そもそも、頼まれても断ってたかもな。
この時期になると、ズッキーニをよく食べるようになった。一度、でかいキュウリとズッキーニを間違えたことがあるが、全然違うんだな。見た目が似ていたからあれだけど、味、かなり違う。スパゲティの具材にして、少々コメントに困る味になったのを思い出す。
ズッキーニの調理法もいろいろあるが、俺はスパゲティが好きだなあ。出汁と合わせるといいんだ、あれ。
「はい、お待たせねー」
今日の晩飯はまさしく、ズッキーニのスパゲティだ。きのこも入って、ネギが散らされている。
「いただきます」
白だしのスープでひたひたになったズッキーニ、一緒に入っているきのこはエリンギだ。エリンギ、癖が少ないからいろいろな食材と合わせやすいんだ。
ズッキーニは控えめな味わいながら、うま味をたっぷり含んでいてうまい。エリンギもうま味たっぷりで、何より食感がいい。ズッキーニと一緒に食うのがいいなあ。
麺もつるつるで、程よい茹で加減である。
「あ、そうそう。お昼ご飯に昨日ね、あれ使わせてもらったよ。レンジでチンする、スパゲティ茹でるの」
「そうなんだ。楽でしょ」
「ちょっと食べたいときなんかは良いね」
母さんが言うと、父さんも「あれなら、父さんも使える」と隣で頷いた。
スパゲティとズッキーニ、エリンギを一緒に食べてみる。そうそう、ネギも忘れちゃいけない。
まず感じるのはスパゲティの歯ごたえ、そして、ズッキーニからあふれ出す白だしとズッキーニそのものの味。エリンギのうま味と食感が加わり、ネギのさわやかさがそれらを引き立てる。
白だしってすげえよなあ。いろんな食材に合うんだ。いろんな料理に少し加えるとうま味が爆発的に増すし、こうやってスパゲティのスープにもなる。
ズッキーニ、今年もたくさん食べるだろうなあ。
「ごちそうさまでした」
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