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日常
第三百六十九話 たらこスパゲティ
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終業式前最後の土曜課外、夏休みの宿題が配られた。相変わらず多いなあ。数学のプリントとか、恐ろしく分厚い。
「やっば。なんかもう多すぎて笑いが出て来るわー」
と、プリント集を掲げるのは勇樹だ。
「体、鍛えられそーだな」
「他の教科もやばい」
山積みになったプリントの山に顎をのせ、遠い目をして宮野は言った。
「何なの? 課外も部活もあるっていうのに、この量。体壊しにかかってる? 答えが一緒に閉じ合わせられてるわけじゃないんだよな?」
「答えは別だな」
「ないわぁ」
こりゃ持って帰るのも一苦労の量だなあ。そんで、夏休み半ばごろになったら、咲良が助けを求めてくるだろう。これで求めてこなかったら大したもんだ。
宿題の一覧表を見ながら抜けがないか確認する。その一覧表には、夏休みこそ成長のチャンス! だの、夏休みは夏休みじゃない! だの書いてある。夏休みじゃないなら、夏休みの宿題だすなよなあ。
「これリュックサック入るかな?」
「入れるしかないでしょ」
ただでさえ荷物が多い勇樹と宮野の鞄は、パンパンに膨れ上がっている。
夏休み初日じゃなくて今配布してくれたのは、先生たちのせめてもの情けか。今のうちからちょこちょこやってくかなあ。
短い盆休みはゆっくりしたいし、夏休み最後の方に焦ってやるのもいやだからな。
「春都、助けて!」
「早いんだよ。助けを求めるのがよ」
授業が終わって帰る準備をしていたら、さっそく咲良が来た。まさか夏休みが始まる前から助けを求めて来るとは。これはちょっと予想してなかった。
咲良は情けなく言ったものである。
「あの量はしんどいって! な、分かるだろ?」
「しんどいのは分かるが、多少自分で頑張ってみるのもいいと思う」
「頑張らなくても見たら分かる、あれは無理。どうせ無理なら、早めに助けてもらった方が傷が浅いだろ!」
ここまでくるとすがすがしいな。
しかし助けろって、こっちも宿題に一つも手を付けていないというのにどうしろってんだ。
「どう助けろと」
「答えを見せろとは言わねーからぁ。時々一緒にやろうぜ」
「それくらいならよし」
基本一人で勉強したいが、まあ、たまにならいい。
教えるのも案外、勉強になるのである。特にこいつに教えるときは基本から説明するので、土台というものがますます盤石になる。
咲良は「よっしゃ!」とすがすがしく笑った。
「いやー、それなら不安なくなるわ! 春都と一緒にするなら、どうにかなるっしょ」
「自分でも頑張れよ」
外に出ると空は真っ青で、真っ白な入道雲がどっしり鎮座している。降り注ぐ日差しは強く、じりじりと肌が焼けるようだ。
「あっついなあ。プール行きてえ~」
咲良は伸びをしながら言った。
「夏休み、みんなでどっか行こうぜ。プールか、海か」
「お前さっき宿題やばいって話してたじゃねえか」
「だってさあ、楽しむこと楽しまないと、頑張ることも頑張れないって」
「まあ、一理ある」
駐輪場に並ぶ自転車は少ない。この暑さじゃなあ。
「あーっついねぇ! いやー、夏本番! って感じ!」
「お、百瀬。お前自転車で来てたのか」
自転車を押しながら、駐輪場からやってきた百瀬に咲良が声をかける。百瀬は実に生き生きと、楽しそうな表情をしていた。
「暑いと夏! って感じがしていいよね~。楽しい~」
「よく言うよ、お前……」
一方、心底嫌そうな顔をしてやってくるのは朝比奈だ。恨めし気に空を見上げ、細いため息をつく。
「暑いとしんどい。それだけだ」
「えー? 太陽の光は、元気をくれるよ?」
「吸い取っていくの間違いだろう。人間の元気を吸い取ってるから、毎年暑さに磨きがかかってんだ」
「はは、言えてる」
咲良はセミの抜け殻を見つけ、取ろうかどうか少し悩んで、結局諦めた。
小学生の頃はセミの抜け殻集めてたなあ。あれ、結局どうしたんだっけ。何をするでもないのに、集めまくって、満足したもんだ。今はもう、一つも集めようとは思わない。
あ、夏休みっつったら、報告会があるんだった。
それはちょっと、楽しみだなあ。
午前中、暑い中勉強を頑張ってからの昼飯はうまい。家族が見ているテレビの音を聞きながら、涼しい部屋で飯を食う。何と手ごろな贅沢だろう。
「いただきます」
今日はたらこスパゲティ。揺れる細切りのりがワクワクする。
フォークでくるくると巻いて、一口。この塩気とまろやかさがいいんだ。つるんとしたスパゲティの口当たりと相性よしである。ざらっと、ぷちっとした舌触りのたらこソースは、スパゲティ以外にも使えるし、それだけでもうまいが、やはりスパゲティとの組み合わせがうまい。
のりも一緒に食べると、磯の香りが強くなる。たらこの塩気とのりの風味、合う。
「パン食べる? 春都」
「食べる」
母さんからロールパンを受け取る。中にバターが入っているタイプのようだ。
半分にちぎって、ソースをぬぐいながら食べる。たらこバターだ。パンそのものも甘みが控えめでうまい。だから味の濃いソースと合うんだな。明太フランスっぽいけど、やはり味わいは違う。これはこれでうまい。
スパゲティをパンに埋め込んで食ってみる。んふふ、これもうまい。口いっぱいに小麦の風味があるのが面白いな。そこにやってくる、たらことのりの風味。パンとスパゲティの食感の違いもいい。
夏休みの課題も課外はしんどいが、こういう楽しい昼飯が食えるのは、ちょっとそわそわするな。
なんだかんだいって、夏、かなり楽しみだな。
「ごちそうさまでした」
「やっば。なんかもう多すぎて笑いが出て来るわー」
と、プリント集を掲げるのは勇樹だ。
「体、鍛えられそーだな」
「他の教科もやばい」
山積みになったプリントの山に顎をのせ、遠い目をして宮野は言った。
「何なの? 課外も部活もあるっていうのに、この量。体壊しにかかってる? 答えが一緒に閉じ合わせられてるわけじゃないんだよな?」
「答えは別だな」
「ないわぁ」
こりゃ持って帰るのも一苦労の量だなあ。そんで、夏休み半ばごろになったら、咲良が助けを求めてくるだろう。これで求めてこなかったら大したもんだ。
宿題の一覧表を見ながら抜けがないか確認する。その一覧表には、夏休みこそ成長のチャンス! だの、夏休みは夏休みじゃない! だの書いてある。夏休みじゃないなら、夏休みの宿題だすなよなあ。
「これリュックサック入るかな?」
「入れるしかないでしょ」
ただでさえ荷物が多い勇樹と宮野の鞄は、パンパンに膨れ上がっている。
夏休み初日じゃなくて今配布してくれたのは、先生たちのせめてもの情けか。今のうちからちょこちょこやってくかなあ。
短い盆休みはゆっくりしたいし、夏休み最後の方に焦ってやるのもいやだからな。
「春都、助けて!」
「早いんだよ。助けを求めるのがよ」
授業が終わって帰る準備をしていたら、さっそく咲良が来た。まさか夏休みが始まる前から助けを求めて来るとは。これはちょっと予想してなかった。
咲良は情けなく言ったものである。
「あの量はしんどいって! な、分かるだろ?」
「しんどいのは分かるが、多少自分で頑張ってみるのもいいと思う」
「頑張らなくても見たら分かる、あれは無理。どうせ無理なら、早めに助けてもらった方が傷が浅いだろ!」
ここまでくるとすがすがしいな。
しかし助けろって、こっちも宿題に一つも手を付けていないというのにどうしろってんだ。
「どう助けろと」
「答えを見せろとは言わねーからぁ。時々一緒にやろうぜ」
「それくらいならよし」
基本一人で勉強したいが、まあ、たまにならいい。
教えるのも案外、勉強になるのである。特にこいつに教えるときは基本から説明するので、土台というものがますます盤石になる。
咲良は「よっしゃ!」とすがすがしく笑った。
「いやー、それなら不安なくなるわ! 春都と一緒にするなら、どうにかなるっしょ」
「自分でも頑張れよ」
外に出ると空は真っ青で、真っ白な入道雲がどっしり鎮座している。降り注ぐ日差しは強く、じりじりと肌が焼けるようだ。
「あっついなあ。プール行きてえ~」
咲良は伸びをしながら言った。
「夏休み、みんなでどっか行こうぜ。プールか、海か」
「お前さっき宿題やばいって話してたじゃねえか」
「だってさあ、楽しむこと楽しまないと、頑張ることも頑張れないって」
「まあ、一理ある」
駐輪場に並ぶ自転車は少ない。この暑さじゃなあ。
「あーっついねぇ! いやー、夏本番! って感じ!」
「お、百瀬。お前自転車で来てたのか」
自転車を押しながら、駐輪場からやってきた百瀬に咲良が声をかける。百瀬は実に生き生きと、楽しそうな表情をしていた。
「暑いと夏! って感じがしていいよね~。楽しい~」
「よく言うよ、お前……」
一方、心底嫌そうな顔をしてやってくるのは朝比奈だ。恨めし気に空を見上げ、細いため息をつく。
「暑いとしんどい。それだけだ」
「えー? 太陽の光は、元気をくれるよ?」
「吸い取っていくの間違いだろう。人間の元気を吸い取ってるから、毎年暑さに磨きがかかってんだ」
「はは、言えてる」
咲良はセミの抜け殻を見つけ、取ろうかどうか少し悩んで、結局諦めた。
小学生の頃はセミの抜け殻集めてたなあ。あれ、結局どうしたんだっけ。何をするでもないのに、集めまくって、満足したもんだ。今はもう、一つも集めようとは思わない。
あ、夏休みっつったら、報告会があるんだった。
それはちょっと、楽しみだなあ。
午前中、暑い中勉強を頑張ってからの昼飯はうまい。家族が見ているテレビの音を聞きながら、涼しい部屋で飯を食う。何と手ごろな贅沢だろう。
「いただきます」
今日はたらこスパゲティ。揺れる細切りのりがワクワクする。
フォークでくるくると巻いて、一口。この塩気とまろやかさがいいんだ。つるんとしたスパゲティの口当たりと相性よしである。ざらっと、ぷちっとした舌触りのたらこソースは、スパゲティ以外にも使えるし、それだけでもうまいが、やはりスパゲティとの組み合わせがうまい。
のりも一緒に食べると、磯の香りが強くなる。たらこの塩気とのりの風味、合う。
「パン食べる? 春都」
「食べる」
母さんからロールパンを受け取る。中にバターが入っているタイプのようだ。
半分にちぎって、ソースをぬぐいながら食べる。たらこバターだ。パンそのものも甘みが控えめでうまい。だから味の濃いソースと合うんだな。明太フランスっぽいけど、やはり味わいは違う。これはこれでうまい。
スパゲティをパンに埋め込んで食ってみる。んふふ、これもうまい。口いっぱいに小麦の風味があるのが面白いな。そこにやってくる、たらことのりの風味。パンとスパゲティの食感の違いもいい。
夏休みの課題も課外はしんどいが、こういう楽しい昼飯が食えるのは、ちょっとそわそわするな。
なんだかんだいって、夏、かなり楽しみだな。
「ごちそうさまでした」
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