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日常
第三百六十三話 豚骨ラーメン
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父さんと母さんが帰ってきたときの日曜日は外食率が高い。選挙の投票日とかだと、投票のついでに行く。そんで、行くところはたいていうどん屋なのだが、たまには違うところにも行く。
「ラーメン、久々に食べたいなあ」
食器を洗いながらぽつりとつぶやいたその言葉を父さんも母さんも聞き逃さなかった。
「よし、それじゃあ今日はラーメン屋に行こう」
「え、ほんとに?」
「最近行ってないもんねえ。それに、この辺のラーメンはよそじゃ食べられないから」
母さんは洗濯を干しながら笑う。
「同じような店はあるんだけど、やっぱりなんか違うのよ。この辺にしかないチェーン店もあるし」
「そうそう」
父さんは空になったペットボトルをつぶして、袋に入れる。そろそろ山盛りになったなあ。次の不燃物回収いつだっけ。
「おいしくないわけじゃないんだけど、やっぱこっちの味が無性に食べたくなるんだよね」
「ふーん、そんなもんなんだ。よそで食べたことないから分からん」
食器乾燥機に洗い終わった食器を入れ、スイッチを入れる。父さんは居間に向かい、テーブルに置いていたはがきを手に取った。
「投票した後行こうか。えっと、それなら何時だろう」
「人が多くなる前がいいよね」
ラーメンかあ、何にしようかなあ。きくらげとか、トッピングしたいなあ。
父さんと母さんが投票に行っている間、車でゲームをして待つ。
昔やっていたゲームだ。前やったときはできなかったことが簡単にできたり、怖かった敵が全然脅威じゃなかったり。なんか、面白い。
あ、でもラスボスは苦手だなあ。見た目とか動きが不気味だ。
なのでやることといえば、全クリしたデータの、序盤のステージで残機を増やしまくること。敵は弱いし、中ボス戦もないし、途中で遭遇する敵は剣でぶった切っておけば何とかなるし。そんでステージの途中で残機が一つ増えるアイテムゲットできる。お得なステージだ。
ラスボス戦前はここで残機増やしたなあ。ライフが満タンになる回復アイテムもあるから、敵を蹴散らして回復しに行ったっけ。
「お待たせー」
「あ、春都それ、久々にやってるんじゃない? 面白い?」
「面白い」
車が走り出したら止める。
楽しいけど酔うんだ、あれ。飯食う前に気分悪くなるのだけは避けたいな。
おや、見ないうちに店が建て替わっている。カフェみたいだ。まだ人も多くなる前みたいで、店内も空いている。お客さん同士の距離が開いていて、気が楽……
「げっ」
入り口付近のカウンターに座って談笑している二人に見覚えがあったのだが、まさかの漆原先生と石上先生だった。
「おや、一条君じゃないか」
漆原先生は、父さんと母さんを見ると立ち上がって、愛想のいい笑みを浮かべた。
「こんにちは。いつもお世話になっております。高校の図書館で司書をしています、漆原です」
この先生、こんなまともな挨拶ができたのか。と驚く俺をよそに、父さんと母さんも頭を下げる。
「いえ、こちらの方がお世話になっています」
「文化祭の時もいろいろとお世話になって……ありがとうございました」
愛想のいい漆原先生の陰で、石上先生が必死に笑いをこらえている。
「対人スイッチ入ったなあ」
「なんです、それ」
「あいつ、外面だけはいいんだよ」
たまにバグることもあるけど、と石上先生はコップに水を注いだ。
「ああ、そういえば」
漆原先生は思い出したように言う。
「今度、図書委員の集まりで、また一条君にはお世話になります。よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
やっとそこで会話を切り上げ、テーブル席に座る。
「え、春都。お世話してんの?」
席に着くなり、母さんが聞いてくる。
「あー、うん、まあ。お世話してるっていうか、なんていうか……」
「先生にあそこまでお礼言われるなんてすごいなあ」
父さんはセットメニューをどれにしようか見ながら、のんびりと言った。
さて、切り替えて、何を食うか決めないと。当然、ラーメンは頼むが……やっぱきくらげトッピングしよう。それと、ご飯とホルモンセット。
「餃子はみんなで分けようか。十二個でいい?」
「うん」
「麺はバリカタね」
ラーメンはその提供スピードも魅力的だ。
「いただきます」
まずはラーメンから。
白濁したスープにはチャーシューが二枚とネギ、そしてたっぷりのきくらげがのっている。箸を入れてすくい上げれば、極細のバリカタ麺が現れる。
ああ、これこれ。この香りと味。つるんと、というより、するっと入る感じなんだよなあ。
豚骨スープも臭みはなく、うま味が強い。当然豚骨特有の香りというものはあるが、これじゃなきゃ、豚骨ラーメンじゃないだろう。まあ、癖がないのも嫌いじゃないけど、今はこの豚骨を味わいたい。
麺も小麦の香りが強いわけではないが、確かに香る。豚骨の味を邪魔しないどころか、うま味を引き立てるのだ。
「あー、これ、久しぶりにうまいなあ」
父さんが満足したように言うと、母さんも頷いた。
「やっぱりこの味よねえ」
「あ、餃子。たれにラー油入れてもいい?」
「いいよ」
餃子は小さ目ながらも肉のうま味たっぷりだ。カリッカリに焼けていて、ラーメンと合う。
ご飯にはたくあんをのせる。甘めの細切りたくあんは、いい箸休めになるのだ。黄色が移ったご飯もなんか愛おしい。
ホルモンは茹でられていて、噛み応えがある。特製たれは甘辛く、唐辛子をつけて食べるとピリリとして食が進むのだ。
さて、そろそろチャーシューをいただこうか。脂身が少なく、スープをたっぷり吸ったチャーシューはとてもジューシーだ。ネギのほのかな爽やかさも相まってうまい。
きくらげのコリコリ食感。たまらんなあ。
そんで、スープも麺も一緒に口に。そうだよ、これが食いたかった。口いっぱいに広がる豚骨のうま味と麺の口当たり。咀嚼してしっかり味わい、飲み込む。舌に残るうま味が鼻に抜け、ラーメン食ってるって実感する。
特製の薬味を溶かせば、スープに辛味が加わり、違った味を楽しめる。
「替え玉頼んでいい?」
「いいよ。父さんも頼もうかな」
「私はいいよ」
替え玉には替え玉のたれをかけ、よく和えてスープに入れる。
ほぐす前に、スープにつかっていないところを食べてみる。この麺の感じ、好きなんだよね。
替え玉は最初の麺よりかために感じる。それがいい。いろんな味わいが楽しめて最高だ。替え玉用のたれはほのかに甘く、コクがあり、おいしい。スープも少し冷めているので、一緒に味わいやすいのだ。
紅しょうがを入れればすっきり辛い。
はー、おいしかった。なんか食べ終わるのが惜しいようだ。でも、食べないというわけにもいかない。無限に入る胃袋があれば、と少し思ってしまう。
でも、こういう満足感、満腹感を味わえるのは幸せだから、胃袋は有限でいいのかもしれないな。
……でもなんか、甘いものも食べたいかも。
「ごちそうさまでした」
「ラーメン、久々に食べたいなあ」
食器を洗いながらぽつりとつぶやいたその言葉を父さんも母さんも聞き逃さなかった。
「よし、それじゃあ今日はラーメン屋に行こう」
「え、ほんとに?」
「最近行ってないもんねえ。それに、この辺のラーメンはよそじゃ食べられないから」
母さんは洗濯を干しながら笑う。
「同じような店はあるんだけど、やっぱりなんか違うのよ。この辺にしかないチェーン店もあるし」
「そうそう」
父さんは空になったペットボトルをつぶして、袋に入れる。そろそろ山盛りになったなあ。次の不燃物回収いつだっけ。
「おいしくないわけじゃないんだけど、やっぱこっちの味が無性に食べたくなるんだよね」
「ふーん、そんなもんなんだ。よそで食べたことないから分からん」
食器乾燥機に洗い終わった食器を入れ、スイッチを入れる。父さんは居間に向かい、テーブルに置いていたはがきを手に取った。
「投票した後行こうか。えっと、それなら何時だろう」
「人が多くなる前がいいよね」
ラーメンかあ、何にしようかなあ。きくらげとか、トッピングしたいなあ。
父さんと母さんが投票に行っている間、車でゲームをして待つ。
昔やっていたゲームだ。前やったときはできなかったことが簡単にできたり、怖かった敵が全然脅威じゃなかったり。なんか、面白い。
あ、でもラスボスは苦手だなあ。見た目とか動きが不気味だ。
なのでやることといえば、全クリしたデータの、序盤のステージで残機を増やしまくること。敵は弱いし、中ボス戦もないし、途中で遭遇する敵は剣でぶった切っておけば何とかなるし。そんでステージの途中で残機が一つ増えるアイテムゲットできる。お得なステージだ。
ラスボス戦前はここで残機増やしたなあ。ライフが満タンになる回復アイテムもあるから、敵を蹴散らして回復しに行ったっけ。
「お待たせー」
「あ、春都それ、久々にやってるんじゃない? 面白い?」
「面白い」
車が走り出したら止める。
楽しいけど酔うんだ、あれ。飯食う前に気分悪くなるのだけは避けたいな。
おや、見ないうちに店が建て替わっている。カフェみたいだ。まだ人も多くなる前みたいで、店内も空いている。お客さん同士の距離が開いていて、気が楽……
「げっ」
入り口付近のカウンターに座って談笑している二人に見覚えがあったのだが、まさかの漆原先生と石上先生だった。
「おや、一条君じゃないか」
漆原先生は、父さんと母さんを見ると立ち上がって、愛想のいい笑みを浮かべた。
「こんにちは。いつもお世話になっております。高校の図書館で司書をしています、漆原です」
この先生、こんなまともな挨拶ができたのか。と驚く俺をよそに、父さんと母さんも頭を下げる。
「いえ、こちらの方がお世話になっています」
「文化祭の時もいろいろとお世話になって……ありがとうございました」
愛想のいい漆原先生の陰で、石上先生が必死に笑いをこらえている。
「対人スイッチ入ったなあ」
「なんです、それ」
「あいつ、外面だけはいいんだよ」
たまにバグることもあるけど、と石上先生はコップに水を注いだ。
「ああ、そういえば」
漆原先生は思い出したように言う。
「今度、図書委員の集まりで、また一条君にはお世話になります。よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
やっとそこで会話を切り上げ、テーブル席に座る。
「え、春都。お世話してんの?」
席に着くなり、母さんが聞いてくる。
「あー、うん、まあ。お世話してるっていうか、なんていうか……」
「先生にあそこまでお礼言われるなんてすごいなあ」
父さんはセットメニューをどれにしようか見ながら、のんびりと言った。
さて、切り替えて、何を食うか決めないと。当然、ラーメンは頼むが……やっぱきくらげトッピングしよう。それと、ご飯とホルモンセット。
「餃子はみんなで分けようか。十二個でいい?」
「うん」
「麺はバリカタね」
ラーメンはその提供スピードも魅力的だ。
「いただきます」
まずはラーメンから。
白濁したスープにはチャーシューが二枚とネギ、そしてたっぷりのきくらげがのっている。箸を入れてすくい上げれば、極細のバリカタ麺が現れる。
ああ、これこれ。この香りと味。つるんと、というより、するっと入る感じなんだよなあ。
豚骨スープも臭みはなく、うま味が強い。当然豚骨特有の香りというものはあるが、これじゃなきゃ、豚骨ラーメンじゃないだろう。まあ、癖がないのも嫌いじゃないけど、今はこの豚骨を味わいたい。
麺も小麦の香りが強いわけではないが、確かに香る。豚骨の味を邪魔しないどころか、うま味を引き立てるのだ。
「あー、これ、久しぶりにうまいなあ」
父さんが満足したように言うと、母さんも頷いた。
「やっぱりこの味よねえ」
「あ、餃子。たれにラー油入れてもいい?」
「いいよ」
餃子は小さ目ながらも肉のうま味たっぷりだ。カリッカリに焼けていて、ラーメンと合う。
ご飯にはたくあんをのせる。甘めの細切りたくあんは、いい箸休めになるのだ。黄色が移ったご飯もなんか愛おしい。
ホルモンは茹でられていて、噛み応えがある。特製たれは甘辛く、唐辛子をつけて食べるとピリリとして食が進むのだ。
さて、そろそろチャーシューをいただこうか。脂身が少なく、スープをたっぷり吸ったチャーシューはとてもジューシーだ。ネギのほのかな爽やかさも相まってうまい。
きくらげのコリコリ食感。たまらんなあ。
そんで、スープも麺も一緒に口に。そうだよ、これが食いたかった。口いっぱいに広がる豚骨のうま味と麺の口当たり。咀嚼してしっかり味わい、飲み込む。舌に残るうま味が鼻に抜け、ラーメン食ってるって実感する。
特製の薬味を溶かせば、スープに辛味が加わり、違った味を楽しめる。
「替え玉頼んでいい?」
「いいよ。父さんも頼もうかな」
「私はいいよ」
替え玉には替え玉のたれをかけ、よく和えてスープに入れる。
ほぐす前に、スープにつかっていないところを食べてみる。この麺の感じ、好きなんだよね。
替え玉は最初の麺よりかために感じる。それがいい。いろんな味わいが楽しめて最高だ。替え玉用のたれはほのかに甘く、コクがあり、おいしい。スープも少し冷めているので、一緒に味わいやすいのだ。
紅しょうがを入れればすっきり辛い。
はー、おいしかった。なんか食べ終わるのが惜しいようだ。でも、食べないというわけにもいかない。無限に入る胃袋があれば、と少し思ってしまう。
でも、こういう満足感、満腹感を味わえるのは幸せだから、胃袋は有限でいいのかもしれないな。
……でもなんか、甘いものも食べたいかも。
「ごちそうさまでした」
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