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日常
第三百六十二話 ピーマンの肉詰め
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夏の日差しは、休日だろうと容赦がない。
家族総出でやってきたのは畑だ。遮るものはなく、日の光を一身に受けた作物たちが、目にまぶしい緑を放っている。
「春都、お茶飲んで」
「ん」
母さんから水筒を受け取る。冷たい麦茶と溶けて小さくなった氷が口に流れ込んできた。
じいちゃんとばあちゃんは店にいる。昨日から修理が立て続けに舞い込んで来たらしい。いつもはついてくるうめずも、さすがの暑さだったので、一緒に家で待機してもらっている。うめずは外に行きたがっていたけど、毛皮でこの灼熱は、だめだろう。
「はー……さて」
首にかけたタオルで汗をぬぐい、麦わら帽子をかぶりなおす。じいちゃんに何げなく麦わら帽子の話をしたら、もらった。今度なんかあったら学校に持って行こう。
ぶちぶちと草をただただむしっていく。頬を伝って汗が流れ落ち、ぬぐってもぬぐってもきりがない。お茶を飲んではいるが、干からびてしまいそうだ。というか、背中が暑い。気温も日差しも、申し分ない夏だった。
「うわ、唐辛子めっちゃできてる」
「ししとうもあるよ~」
と、父さんがざる一杯のししとうを持ってきた。袋に移し替えてはいるが、その袋ももうパンパンだ。
「唐辛子触った手で目とかこすらないようにね」
「分かった」
「さて、次はピーマン見てみようかね~」
父さんはこういう外での作業をしているときが一番生き生きしているように思う。
「休み休みしなさいね。ばてるよ」
母さんはプチトマトを収穫してきたようだ。真っ赤に熟れていて、うまそうである。酸っぱくないといいなあ。
唐辛子、ずっと収穫してるとどれが唐辛子で、葉っぱで、茎か分からなくなってきそうだ。
「こんなもんでいいかなあ」
「ああ、いいんじゃない? はい、袋」
母さんが開けた袋に唐辛子を入れる。唐辛子の醤油漬け、辛いけどいいアクセントになってうまいんだよなあ。めっちゃ辛いけど。味噌漬けもいい。例にももれず、辛いけど。
「そろそろ帰ろうか」
ピーマンもしこたま収穫したところで帰路に着く。
「ただいまー」
あー、クーラー。文明って偉大だよなあ。
「わふっ」
「うめず、留守番ありがとな」
「仕事もある程度落ち着いたし、お昼ご飯にしようか」
昼飯は、塩の効いたおにぎりに卵焼き、切って冷やしてあった床漬けだ。そこに豆腐とわかめのみそ汁も添えられる。
「いただきます」
濃い塩味のおにぎりがうまい。きゅうりの床漬けは独特の風味とみずみずしさがたまらない。大根もしんなりしていておいしい。このしょっぱさがいいんだ。
卵焼きは打って変わって甘い。疲れた体に染みるなあ。
そんでもって、夏のみそ汁の楽しみといえば、これだ。
「春都。これが一番大きいぞ」
「いい?」
「おお、タネには気をつけろ」
じいちゃんが皿にのせてくれたのは、少しあぶった青唐辛子。これを割いて、みそ汁にくぐらせるのがうまいんだ。
味噌のまろやかさが唐辛子できりっと締まる。豆腐もわかめもこっくりといい味だ。鼻に抜ける青い風味が食欲を増進させる。
「……食べたら辛いかな」
「醤油つけて食うと、うまいぞ」
じいちゃんに勧められ、ちまっと唐辛子を食む。
「辛い! ……けど、ご飯進みそう」
「だろう?」
「あ、でも口の中ひりひりする」
種をよければ食べられないこともない。しかし、少しでも種を噛むともう大変だ。唐辛子、恐ろしい食べ物だ。
「ごちそうさまでした」
直射日光に当たり続けるって、こんなにも疲れるんだなあ。
「あー……寝てた」
少し休もうと裏の部屋で横になっていたら、ずいぶん寝てしまっていたようだ。時計を見れば、針はもう六時をさそうとしていた。
しかしまだ日は高い。最近は八時前になっても随分空が明るいのだ。
「……なんかいいにおいする」
居間に向かえば、台所でばあちゃんと母さんが料理をしていた。
「春都起きた? ちょうどよかった、手伝って」
「ん、んー」
母さんに頼まれたのは、今日収穫したばかりのピーマンをひたすら半分に切って、種を取って洗って皿にのせていく、という作業だった。
ばあちゃんたちは肉団子を作っているようだ。
「はい、完成。手伝ってくれてありがとうね」
出来上がったのは山盛りの肉団子、その横には緑がまぶしいピーマンがこれまたうず高く。
「いただきます」
これはあれだ。ピーマンの肉詰めだ。肉を詰めて焼くのではなく、生のピーマンに肉団子を詰めて食べるというやつだ。
これがうまいんだよなあ。
さて、まずは焼肉のたれをかけよう。パリッといい食感のピーマンにふわふわっとした肉団子。青くみずみずしい味と肉のにじみ出る脂とうま味が口の中で合わさり、焼き肉のたれでガツンとスパイスが効くのだ。たれもばあちゃんの手作りだし、これはうまい。
ご飯が進むなあ。
さて次は醤油で。うん、これもさっぱり、いい感じだ。いかにもピーマンの肉詰め、って感じの味わい。ピーマンの苦みが際立つかな。
「たくさん収穫してもらったし、いろいろ持って帰ってね」
ばあちゃんは肉団子をピーマンに詰め込みながら言う。
「ありがとう。助かる~」
母さんはビールとともに食していた。合うんだろうなあ。減りが早い。
今度はオーロラソースで食う。
あ、これうまい。ハンバーグっぽい食べ応えと、ピーマンのさっぱりとした味わいがいい感じで味わえる。酸味がほのかなオーロラソースは、ピーマンの苦みをばっちり消すわけでも、際立たせるわけでもなく、程よく味を引き立たせる。
一番おいしい食べ方、見つけてしまったのではなかろうか。
とはいいながらも、別の味も食べたいところである。うん、どれか一つにこだわるのも悪くないが、いろいろ楽しむのも、またよいものだ。
また家で作ろう。
「ごちそうさまでした」
家族総出でやってきたのは畑だ。遮るものはなく、日の光を一身に受けた作物たちが、目にまぶしい緑を放っている。
「春都、お茶飲んで」
「ん」
母さんから水筒を受け取る。冷たい麦茶と溶けて小さくなった氷が口に流れ込んできた。
じいちゃんとばあちゃんは店にいる。昨日から修理が立て続けに舞い込んで来たらしい。いつもはついてくるうめずも、さすがの暑さだったので、一緒に家で待機してもらっている。うめずは外に行きたがっていたけど、毛皮でこの灼熱は、だめだろう。
「はー……さて」
首にかけたタオルで汗をぬぐい、麦わら帽子をかぶりなおす。じいちゃんに何げなく麦わら帽子の話をしたら、もらった。今度なんかあったら学校に持って行こう。
ぶちぶちと草をただただむしっていく。頬を伝って汗が流れ落ち、ぬぐってもぬぐってもきりがない。お茶を飲んではいるが、干からびてしまいそうだ。というか、背中が暑い。気温も日差しも、申し分ない夏だった。
「うわ、唐辛子めっちゃできてる」
「ししとうもあるよ~」
と、父さんがざる一杯のししとうを持ってきた。袋に移し替えてはいるが、その袋ももうパンパンだ。
「唐辛子触った手で目とかこすらないようにね」
「分かった」
「さて、次はピーマン見てみようかね~」
父さんはこういう外での作業をしているときが一番生き生きしているように思う。
「休み休みしなさいね。ばてるよ」
母さんはプチトマトを収穫してきたようだ。真っ赤に熟れていて、うまそうである。酸っぱくないといいなあ。
唐辛子、ずっと収穫してるとどれが唐辛子で、葉っぱで、茎か分からなくなってきそうだ。
「こんなもんでいいかなあ」
「ああ、いいんじゃない? はい、袋」
母さんが開けた袋に唐辛子を入れる。唐辛子の醤油漬け、辛いけどいいアクセントになってうまいんだよなあ。めっちゃ辛いけど。味噌漬けもいい。例にももれず、辛いけど。
「そろそろ帰ろうか」
ピーマンもしこたま収穫したところで帰路に着く。
「ただいまー」
あー、クーラー。文明って偉大だよなあ。
「わふっ」
「うめず、留守番ありがとな」
「仕事もある程度落ち着いたし、お昼ご飯にしようか」
昼飯は、塩の効いたおにぎりに卵焼き、切って冷やしてあった床漬けだ。そこに豆腐とわかめのみそ汁も添えられる。
「いただきます」
濃い塩味のおにぎりがうまい。きゅうりの床漬けは独特の風味とみずみずしさがたまらない。大根もしんなりしていておいしい。このしょっぱさがいいんだ。
卵焼きは打って変わって甘い。疲れた体に染みるなあ。
そんでもって、夏のみそ汁の楽しみといえば、これだ。
「春都。これが一番大きいぞ」
「いい?」
「おお、タネには気をつけろ」
じいちゃんが皿にのせてくれたのは、少しあぶった青唐辛子。これを割いて、みそ汁にくぐらせるのがうまいんだ。
味噌のまろやかさが唐辛子できりっと締まる。豆腐もわかめもこっくりといい味だ。鼻に抜ける青い風味が食欲を増進させる。
「……食べたら辛いかな」
「醤油つけて食うと、うまいぞ」
じいちゃんに勧められ、ちまっと唐辛子を食む。
「辛い! ……けど、ご飯進みそう」
「だろう?」
「あ、でも口の中ひりひりする」
種をよければ食べられないこともない。しかし、少しでも種を噛むともう大変だ。唐辛子、恐ろしい食べ物だ。
「ごちそうさまでした」
直射日光に当たり続けるって、こんなにも疲れるんだなあ。
「あー……寝てた」
少し休もうと裏の部屋で横になっていたら、ずいぶん寝てしまっていたようだ。時計を見れば、針はもう六時をさそうとしていた。
しかしまだ日は高い。最近は八時前になっても随分空が明るいのだ。
「……なんかいいにおいする」
居間に向かえば、台所でばあちゃんと母さんが料理をしていた。
「春都起きた? ちょうどよかった、手伝って」
「ん、んー」
母さんに頼まれたのは、今日収穫したばかりのピーマンをひたすら半分に切って、種を取って洗って皿にのせていく、という作業だった。
ばあちゃんたちは肉団子を作っているようだ。
「はい、完成。手伝ってくれてありがとうね」
出来上がったのは山盛りの肉団子、その横には緑がまぶしいピーマンがこれまたうず高く。
「いただきます」
これはあれだ。ピーマンの肉詰めだ。肉を詰めて焼くのではなく、生のピーマンに肉団子を詰めて食べるというやつだ。
これがうまいんだよなあ。
さて、まずは焼肉のたれをかけよう。パリッといい食感のピーマンにふわふわっとした肉団子。青くみずみずしい味と肉のにじみ出る脂とうま味が口の中で合わさり、焼き肉のたれでガツンとスパイスが効くのだ。たれもばあちゃんの手作りだし、これはうまい。
ご飯が進むなあ。
さて次は醤油で。うん、これもさっぱり、いい感じだ。いかにもピーマンの肉詰め、って感じの味わい。ピーマンの苦みが際立つかな。
「たくさん収穫してもらったし、いろいろ持って帰ってね」
ばあちゃんは肉団子をピーマンに詰め込みながら言う。
「ありがとう。助かる~」
母さんはビールとともに食していた。合うんだろうなあ。減りが早い。
今度はオーロラソースで食う。
あ、これうまい。ハンバーグっぽい食べ応えと、ピーマンのさっぱりとした味わいがいい感じで味わえる。酸味がほのかなオーロラソースは、ピーマンの苦みをばっちり消すわけでも、際立たせるわけでもなく、程よく味を引き立たせる。
一番おいしい食べ方、見つけてしまったのではなかろうか。
とはいいながらも、別の味も食べたいところである。うん、どれか一つにこだわるのも悪くないが、いろいろ楽しむのも、またよいものだ。
また家で作ろう。
「ごちそうさまでした」
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