368 / 854
日常
第三百五十三話 おつまみ各種
しおりを挟む
今日も今日とて図書館に向かう。涼しいから、というのはもちろんだが、学校の中で一番落ち着く場所なんだよな。
「テストの後の休みってさ、なんか特別な感じするよな~」
キャスター付きの椅子に座り、くるりと一周して咲良が言う。
「頑張った後のご褒美って感じ?」
「それは分かる」
「はあ~、午後を乗り越えたら休みだぁ~」
そう言って咲良が伸びをする。
午後か……午後の授業、なんだっけ。思い出そうとしたら、先に咲良が答えを言った。
「体育館だよな、集合場所。あっついだろうなあ~」
そうだった、思い出した。午後からは体育祭の係決めなんかがあるんだった。体育祭自体がただでさえ嫌だってのに、こんな日差しのある日に空調設備の一つもない体育館で人が集まるとか、考えただけで気分が悪くなりそうだ。
「お、お二人さん。今日はおそろいのようで」
「早瀬。お前何ブロック?」
だらりと背もたれに身を預け、咲良が聞く。早瀬は襟をパタパタとしながら答えた。
「俺? 俺は赤」
「なんだ、一緒か」
「あ、春都も赤?」
体育祭は気がのらないが、赤いハチマキは嫌いじゃない。なんか一番強そうな感じがする。
早瀬は「そっかあ」と笑うと、近くから椅子を引っ張ってきて座った。
「ま、俺はあんま係決めカンケーないけど」
「そうなのか?」
聞いた後で、そういえばこいつは放送部だったということを思い出した。放送部って行事の度に忙しそうにしてるもんなあ。
早瀬は少しくたびれたような笑みを浮かべた。
「一年の頃は一つぐらい、競技出てたんだけどな。二年からは出ない。その代わりというか、放送が大変でなあ」
「あー、毎年機材運ぶの大変そうだよな。雨降ったら特に」
「そうそう。それもある。でもさー、何がしんどいって……」
そこまで言うと、早瀬は周囲を見て、ちょいちょいと俺たちに手招きをした。顔を寄せ、早瀬は声をすぼめて言う。
「実行委員とか応援団とか、先生たちの無茶振りなわけ」
「あー……」
「期限ギリギリに原稿を提出してきたかと思えば、やっぱ変更したいとか。応援の時に使うCDの編集が無理だからやってくれとか、この競技の放送は放送部以外の人にやってもらうとか」
「何それ、すげーわがまま」
咲良が素直に感想を言えば、早瀬は苦笑して体勢を元に戻した。
「そうなんだよ。でも、お礼は言われない。むしろ文句の受け皿だよ」
大変そうだなあ、とは思っていたが、実際は想像以上に大変だな。
「自分たちの大会もあるんだろ?」
「うん。人数多いとこは、大会出るやつらと行事回すやつらとで役割分担できるみたいだけど、うちは少ないからなー。ま、顧問の先生が俺らの味方してくれるだけいいけど」
「それは……そうだな」
「怒ったらおっかねえけど」
早瀬は楽しそうに笑う。部活自体は楽しいらしい。
「二人は部活入ってないんだろ? なんか興味ある部活とかないわけ?」
「いやー、俺はもう部活とかいいかな~。今で十分楽しいし」
「一条は?」
「俺も同じようなもんだ。家でゆっくりしたい」
その気持ちは分かる、と早瀬は笑った。
「家でのんびりするのいいよなー。ゲームとか漫画とかに埋もれてさ。小学生の時の夏休みなんて、毎日十二時間ぐらいゲームしてたもん。今もたまにやるけど」
十二時間。それはとても疲れそうだ。
しかし俺も人のことは言えない。今でも休みの日は、下手したらそれぐらいやっている。めっちゃ目、疲れるけど。なんか勉強以上の充実感あるんだよな……
「でさー、そん時に飲んでたのが、子どもビールなんだよ。あの泡の感じとか好きでさー、今でも見つけたらつい買っちまう」
「あ、それ分かるわ」
咲良も楽しげに話に加わる。
「今結構いろんな種類出てるじゃん?」
「そうそう! 瓶から直飲みするの、憧れでな~」
子どもビールか……確かにあれ、うまい。甘さが程よくて、炭酸もいい感じで……
あー、考えてたら飲みたくなってきた。
「……ばあちゃんってさ、実はエスパー?」
「なに、急に」
今日は店の方に泊まりに行った。先に着いていたうめずは、晩ご飯はまだかと待ち構えている。
冷蔵庫から出てきたのは子どもビールの瓶である。
「いや、ちょうど飲みたいなーと思ってたから」
「それはよかった」
店で見かけて、買ってきてくれたらしい。ほんと親とかじいちゃんばあちゃんって、超能力が使えるんじゃないかと思ってしまう。
「ほら、食べよう食べよう」
「いただきます」
じいちゃんは本物のビールを、俺は子どもビールをプシュッと開ける。コップに注ぐときは、泡ばっかりにならないようにしないといけない。
細かい炭酸、もこもこの泡、リンゴ風味のジュース。見た目は本物のビールと並べても違いが分からないぐらいだ。
おかずは、からあげ、肉の天ぷら、磯部揚げに枝豆のにんにく炒めときたもんだ。
やっぱ揚げ物からいっとくかあ。鶏のからあげは胸肉ともも肉の両方がある。胸肉はプリプリとした歯ごたえが好きだ。程よい醤油の香ばしさにレモンをかけるとさっぱりする。サクサクの衣もうまい。
もも肉はジューシーだ。こっちはにんにく強めだろうか。ジュワッと染み出す油とともに、薫り高いにんにくと醤油のうま味があふれ出す。これ、ご飯が進まないわけないよなあ。
肉の天ぷら。濃いにんにく醤油の味付けに豚肉のうま味がジュワッと広がる。脂身の甘味もいい。これ、どうしてもご飯で追っかけてしまう。うまいなあ。
磯部揚げは、かりふわっとした衣がおいしい。青のりの香り豊かで、衣とちくわのほのかな甘みとよく合う。ちくわのプリプリとした歯触りと、魚のうま味がうまい。マヨネーズをつけても、ご飯に合っていい。
そんで、枝豆。おお、結構辛め。しかしご飯が進む進む。ジュースも進む。プチッとはじける枝豆の青い風味はそのままに、にんにくの風味がガツンと効いている。こういう枝豆もありだなあ。
「今日は、春都もビールか」
じいちゃんが枝豆をつまみながら言う。
「うん。ジュースだけどね」
「一緒に飲むのが、楽しみだなあ」
そう言ってじいちゃんは焼酎の準備を始めた。よく飲むなあ。
「春都はずいぶん強そうだ」
「そうかなあ。まあ、じいちゃんの孫だから」
「はは、それを言われちゃあ、何とも言えないな」
やっぱビールでこのおかずを食うと、味わいが違うのだろうか。
そんなことに思いをはせながら、今日はご飯をかきこむ。マヨ付けたからあげは、やっぱりうまいなあ。
子どもビール、もう一本あるらしいし。明日も飲もう。
「ごちそうさまでした」
「テストの後の休みってさ、なんか特別な感じするよな~」
キャスター付きの椅子に座り、くるりと一周して咲良が言う。
「頑張った後のご褒美って感じ?」
「それは分かる」
「はあ~、午後を乗り越えたら休みだぁ~」
そう言って咲良が伸びをする。
午後か……午後の授業、なんだっけ。思い出そうとしたら、先に咲良が答えを言った。
「体育館だよな、集合場所。あっついだろうなあ~」
そうだった、思い出した。午後からは体育祭の係決めなんかがあるんだった。体育祭自体がただでさえ嫌だってのに、こんな日差しのある日に空調設備の一つもない体育館で人が集まるとか、考えただけで気分が悪くなりそうだ。
「お、お二人さん。今日はおそろいのようで」
「早瀬。お前何ブロック?」
だらりと背もたれに身を預け、咲良が聞く。早瀬は襟をパタパタとしながら答えた。
「俺? 俺は赤」
「なんだ、一緒か」
「あ、春都も赤?」
体育祭は気がのらないが、赤いハチマキは嫌いじゃない。なんか一番強そうな感じがする。
早瀬は「そっかあ」と笑うと、近くから椅子を引っ張ってきて座った。
「ま、俺はあんま係決めカンケーないけど」
「そうなのか?」
聞いた後で、そういえばこいつは放送部だったということを思い出した。放送部って行事の度に忙しそうにしてるもんなあ。
早瀬は少しくたびれたような笑みを浮かべた。
「一年の頃は一つぐらい、競技出てたんだけどな。二年からは出ない。その代わりというか、放送が大変でなあ」
「あー、毎年機材運ぶの大変そうだよな。雨降ったら特に」
「そうそう。それもある。でもさー、何がしんどいって……」
そこまで言うと、早瀬は周囲を見て、ちょいちょいと俺たちに手招きをした。顔を寄せ、早瀬は声をすぼめて言う。
「実行委員とか応援団とか、先生たちの無茶振りなわけ」
「あー……」
「期限ギリギリに原稿を提出してきたかと思えば、やっぱ変更したいとか。応援の時に使うCDの編集が無理だからやってくれとか、この競技の放送は放送部以外の人にやってもらうとか」
「何それ、すげーわがまま」
咲良が素直に感想を言えば、早瀬は苦笑して体勢を元に戻した。
「そうなんだよ。でも、お礼は言われない。むしろ文句の受け皿だよ」
大変そうだなあ、とは思っていたが、実際は想像以上に大変だな。
「自分たちの大会もあるんだろ?」
「うん。人数多いとこは、大会出るやつらと行事回すやつらとで役割分担できるみたいだけど、うちは少ないからなー。ま、顧問の先生が俺らの味方してくれるだけいいけど」
「それは……そうだな」
「怒ったらおっかねえけど」
早瀬は楽しそうに笑う。部活自体は楽しいらしい。
「二人は部活入ってないんだろ? なんか興味ある部活とかないわけ?」
「いやー、俺はもう部活とかいいかな~。今で十分楽しいし」
「一条は?」
「俺も同じようなもんだ。家でゆっくりしたい」
その気持ちは分かる、と早瀬は笑った。
「家でのんびりするのいいよなー。ゲームとか漫画とかに埋もれてさ。小学生の時の夏休みなんて、毎日十二時間ぐらいゲームしてたもん。今もたまにやるけど」
十二時間。それはとても疲れそうだ。
しかし俺も人のことは言えない。今でも休みの日は、下手したらそれぐらいやっている。めっちゃ目、疲れるけど。なんか勉強以上の充実感あるんだよな……
「でさー、そん時に飲んでたのが、子どもビールなんだよ。あの泡の感じとか好きでさー、今でも見つけたらつい買っちまう」
「あ、それ分かるわ」
咲良も楽しげに話に加わる。
「今結構いろんな種類出てるじゃん?」
「そうそう! 瓶から直飲みするの、憧れでな~」
子どもビールか……確かにあれ、うまい。甘さが程よくて、炭酸もいい感じで……
あー、考えてたら飲みたくなってきた。
「……ばあちゃんってさ、実はエスパー?」
「なに、急に」
今日は店の方に泊まりに行った。先に着いていたうめずは、晩ご飯はまだかと待ち構えている。
冷蔵庫から出てきたのは子どもビールの瓶である。
「いや、ちょうど飲みたいなーと思ってたから」
「それはよかった」
店で見かけて、買ってきてくれたらしい。ほんと親とかじいちゃんばあちゃんって、超能力が使えるんじゃないかと思ってしまう。
「ほら、食べよう食べよう」
「いただきます」
じいちゃんは本物のビールを、俺は子どもビールをプシュッと開ける。コップに注ぐときは、泡ばっかりにならないようにしないといけない。
細かい炭酸、もこもこの泡、リンゴ風味のジュース。見た目は本物のビールと並べても違いが分からないぐらいだ。
おかずは、からあげ、肉の天ぷら、磯部揚げに枝豆のにんにく炒めときたもんだ。
やっぱ揚げ物からいっとくかあ。鶏のからあげは胸肉ともも肉の両方がある。胸肉はプリプリとした歯ごたえが好きだ。程よい醤油の香ばしさにレモンをかけるとさっぱりする。サクサクの衣もうまい。
もも肉はジューシーだ。こっちはにんにく強めだろうか。ジュワッと染み出す油とともに、薫り高いにんにくと醤油のうま味があふれ出す。これ、ご飯が進まないわけないよなあ。
肉の天ぷら。濃いにんにく醤油の味付けに豚肉のうま味がジュワッと広がる。脂身の甘味もいい。これ、どうしてもご飯で追っかけてしまう。うまいなあ。
磯部揚げは、かりふわっとした衣がおいしい。青のりの香り豊かで、衣とちくわのほのかな甘みとよく合う。ちくわのプリプリとした歯触りと、魚のうま味がうまい。マヨネーズをつけても、ご飯に合っていい。
そんで、枝豆。おお、結構辛め。しかしご飯が進む進む。ジュースも進む。プチッとはじける枝豆の青い風味はそのままに、にんにくの風味がガツンと効いている。こういう枝豆もありだなあ。
「今日は、春都もビールか」
じいちゃんが枝豆をつまみながら言う。
「うん。ジュースだけどね」
「一緒に飲むのが、楽しみだなあ」
そう言ってじいちゃんは焼酎の準備を始めた。よく飲むなあ。
「春都はずいぶん強そうだ」
「そうかなあ。まあ、じいちゃんの孫だから」
「はは、それを言われちゃあ、何とも言えないな」
やっぱビールでこのおかずを食うと、味わいが違うのだろうか。
そんなことに思いをはせながら、今日はご飯をかきこむ。マヨ付けたからあげは、やっぱりうまいなあ。
子どもビール、もう一本あるらしいし。明日も飲もう。
「ごちそうさまでした」
22
お気に入りに追加
253
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!


妻を蔑ろにしていた結果。
下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。
主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。
小説家になろう様でも投稿しています。
「一晩一緒に過ごしただけで彼女面とかやめてくれないか」とあなたが言うから
キムラましゅろう
恋愛
長い間片想いをしていた相手、同期のディランが同じ部署の女性に「一晩共にすごしただけで彼女面とかやめてくれないか」と言っているのを聞いてしまったステラ。
「はいぃ勘違いしてごめんなさいぃ!」と思わず心の中で謝るステラ。
何故なら彼女も一週間前にディランと熱い夜をすごした後だったから……。
一話完結の読み切りです。
ご都合主義というか中身はありません。
軽い気持ちでサクッとお読み下さいませ。
誤字脱字、ごめんなさい!←最初に謝っておく。
小説家になろうさんにも時差投稿します。
サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜
野谷 海
恋愛
「俺、やっぱり君が好きだ! 付き合って欲しい!」
「ごめんね青嶋くん……やっぱり青嶋くんとは付き合えない……」
この3度目の告白にも敗れ、青嶋将は大好きな小浦舞への想いを胸の内へとしまい込んで前に進む。
半年ほど経ち、彼らは何の因果か同じクラスになっていた。
別のクラスでも仲の良かった去年とは違い、距離が近くなったにも関わらず2人が会話をする事はない。
そんな折、将がアルバイトする焼鳥屋に入ってきた新人が同じ学校の同級生で、さらには舞の親友だった。
学校とアルバイト先を巻き込んでもつれる彼らの奇妙な三角関係ははたしてーー
⭐︎毎日朝7時に最新話を投稿します。
⭐︎もしも気に入って頂けたら、ぜひブックマークやいいね、コメントなど頂けるととても励みになります。
※表紙絵、挿絵はAI作成です。
※この作品はフィクションであり、作中に登場する人物、団体等は全て架空です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる