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日常
番外編 本多勇樹のつまみ食い②
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部活の朝練が終わって、教室に向かう。これから朝課外かあ。寝てしまいそうだ。
「おい、勇樹」
「うぇ~?」
「なんだその態度は」
いぶかしげにこちらに視線を向けるのは健太だ。その手には見慣れた水筒がある。
「部室に忘れてたぞ」
「おぉ、悪いな」
水筒を受け取り、鞄にしまう。
ああ、それにしたって今日は眠い。薄暗い空と重だるい空気、そして月曜日。そりゃ、しんどいよなあ。
「ひと雨きそうだな」
健太が面倒くさそうにつぶやく。
「こうも天気が悪いと、五割り増しで月曜日が憂鬱だ」
「それな。曇天も悪くはないんだけどさ~。なんかやな湿気があるっていうか」
「おかげで髪が落ち着かん」
くせっ毛の髪を撫でつけながら、健太は不機嫌そうに言う。
俺は特に天気の影響を受けない髪だから、その辺の苦労はよく分からない。
「うぃーす」
「お、勇樹。おはよー」
「おう」
教室に入ると、健太はそそくさと自分の席に行ってしまった。俺とは仲良くしてる相手が違うんだ。まあ、そんなもんなんだろうけど。だからたまに、どうして俺こいつと仲良くなれたんだろうなあ、と思う。
ま、昔なじみって、こういうものだろう。気づいたらつるむようになってた、みたいな。
出入り口付近の席のやつと話した後、俺も自分の席に向かう。健太は、その頃にはもう、いつも死んだように眠っているのだが、最近はちょっと様子が違う。春都とずいぶん仲がよく、しょっちゅう話をしているのだ。俺たちの数少ない共通の友人の一人だ。
二人とも、よくゲームをするらしい。趣味が合うんだとか。今もそれらしい会話をしていた。
「おはよ、春都」
「おお、おはよう。お疲れ」
「何の話してんのー?」
ゲームは暇つぶし程度にしかやらないが、暇なので会話に加わってみる。ま、追いつけないだろうけど。
「やってるゲームのガチャで、推しのバースデー限定ガチャやってんだ。その話」
ふうん、そうなんだ。
しかし春都は飯以外でもこんな楽しそうにできるんだなあ。生き生きしてるというか、なんとなく子どもっぽい。
「で、一条。石足りなくなったんだろ? どうやって工面したわけ」
「今イベントもやってんじゃん。その報酬に石あるの見つけてなあ。めっちゃイベ頑張って」
「まじ? それでそれで?」
「最後の一回、単発で出てきた」
「うわー、それ嬉しいやつぅ」
話自体にはさっぱり追いつけないが、楽しそうにしてるやつらを見るのは楽しい。そのゲーム、やってみようかな。でも育成とかよく分かんないんだよなあ。ほんとこいつら、よくやるよ。
二人の話が一段落したところで声をかけてみる。
「そんなに好きなんだ、そのキャラ」
「ん? ああ、そうだな」
春都は、はっきりと言いきった。まだ少しテンションが上がっているのか、屈託のない笑みを浮かべている。
「なんか俺にはよく分かんないけど、すげー楽しそうだし、一生懸命だなって」
「まあ、期間限定だからな。今引いとかないと来年になるし、復刻するか分かんないし」
「大変そうだな」
「できるだけ課金はしたくないからさ。それならもう、自分で稼ぐほかないし」
春都がしみじみとつぶやくと、健太も「分かる」というように頷いている。ふうん、そんなもんかねえ。
「俺はあんまゲームとかやんないから、よく分からんけど。楽しそうなのはいいことだよな」
「はは、そりゃどうも」
春都は笑ってそう言った。
と、予鈴が鳴り、先生がやってくる。予習してたっけなあ。
朝課外が終わって机にうなだれる。予習していたのはよかったが、ひどく眠くてしょうがなかった。
「お前、途中で寝そうになってたろ」
リュックサックに朝課外専用のワークをしまいながら、春都は笑って言った。
「あ、バレた?」
「よくもまあ、先生の目の前でうとうとできるなと思ったよ」
「いやー、もう、抗えない眠気というものがだな……」
今も話している途中で眠ってしまいそうである。いかん、これでは今日一日ぼんやり過ごしてしまいそうだ。
「今日は食わないのか」
後ろの席に座る健太が、椅子を蹴ってくる。その振動に、上体を起こした。
「食うよ」
「何を?」
「これこれ」
鞄から取り出すのはおにぎりだ。保冷バックにしっかり入れられているので、ひんやりしている。春都はそれを見ると「ああ」と納得したようだった。
「早弁その一」
「正解」
昼までなにも食わないでいると、気絶しそうになるほど腹が減る。今、もうすでに腹が減っているのだ。
「いただきます」
きっちりのりが巻かれたおにぎり。具材は梅干しだ。今日は高菜じゃなかったかあ。ま、これはこれでうまい。
酸っぱいんだよなあ、梅干し。疲れてるときは染みる。
「一条気付いた? さっきの授業」
「ああ、にやけるの必死に抑えてた」
ん、何の話だろう。聞き耳を立てながら飯をほおばる。のりの香りが強いなあ。
どうやらアニメのキャラクターのモチーフになっている何かが、授業で出ていたらしい。さっきの授業、国語だったよなあ。何だろう。そういや、日本史の時も盛り上がってたような。
うん、やっぱ、楽しそうな話声を聞きながら食う飯はうまい。
腹も心も満たされるってもんだ。
「ごちそうさまでした」
「おい、勇樹」
「うぇ~?」
「なんだその態度は」
いぶかしげにこちらに視線を向けるのは健太だ。その手には見慣れた水筒がある。
「部室に忘れてたぞ」
「おぉ、悪いな」
水筒を受け取り、鞄にしまう。
ああ、それにしたって今日は眠い。薄暗い空と重だるい空気、そして月曜日。そりゃ、しんどいよなあ。
「ひと雨きそうだな」
健太が面倒くさそうにつぶやく。
「こうも天気が悪いと、五割り増しで月曜日が憂鬱だ」
「それな。曇天も悪くはないんだけどさ~。なんかやな湿気があるっていうか」
「おかげで髪が落ち着かん」
くせっ毛の髪を撫でつけながら、健太は不機嫌そうに言う。
俺は特に天気の影響を受けない髪だから、その辺の苦労はよく分からない。
「うぃーす」
「お、勇樹。おはよー」
「おう」
教室に入ると、健太はそそくさと自分の席に行ってしまった。俺とは仲良くしてる相手が違うんだ。まあ、そんなもんなんだろうけど。だからたまに、どうして俺こいつと仲良くなれたんだろうなあ、と思う。
ま、昔なじみって、こういうものだろう。気づいたらつるむようになってた、みたいな。
出入り口付近の席のやつと話した後、俺も自分の席に向かう。健太は、その頃にはもう、いつも死んだように眠っているのだが、最近はちょっと様子が違う。春都とずいぶん仲がよく、しょっちゅう話をしているのだ。俺たちの数少ない共通の友人の一人だ。
二人とも、よくゲームをするらしい。趣味が合うんだとか。今もそれらしい会話をしていた。
「おはよ、春都」
「おお、おはよう。お疲れ」
「何の話してんのー?」
ゲームは暇つぶし程度にしかやらないが、暇なので会話に加わってみる。ま、追いつけないだろうけど。
「やってるゲームのガチャで、推しのバースデー限定ガチャやってんだ。その話」
ふうん、そうなんだ。
しかし春都は飯以外でもこんな楽しそうにできるんだなあ。生き生きしてるというか、なんとなく子どもっぽい。
「で、一条。石足りなくなったんだろ? どうやって工面したわけ」
「今イベントもやってんじゃん。その報酬に石あるの見つけてなあ。めっちゃイベ頑張って」
「まじ? それでそれで?」
「最後の一回、単発で出てきた」
「うわー、それ嬉しいやつぅ」
話自体にはさっぱり追いつけないが、楽しそうにしてるやつらを見るのは楽しい。そのゲーム、やってみようかな。でも育成とかよく分かんないんだよなあ。ほんとこいつら、よくやるよ。
二人の話が一段落したところで声をかけてみる。
「そんなに好きなんだ、そのキャラ」
「ん? ああ、そうだな」
春都は、はっきりと言いきった。まだ少しテンションが上がっているのか、屈託のない笑みを浮かべている。
「なんか俺にはよく分かんないけど、すげー楽しそうだし、一生懸命だなって」
「まあ、期間限定だからな。今引いとかないと来年になるし、復刻するか分かんないし」
「大変そうだな」
「できるだけ課金はしたくないからさ。それならもう、自分で稼ぐほかないし」
春都がしみじみとつぶやくと、健太も「分かる」というように頷いている。ふうん、そんなもんかねえ。
「俺はあんまゲームとかやんないから、よく分からんけど。楽しそうなのはいいことだよな」
「はは、そりゃどうも」
春都は笑ってそう言った。
と、予鈴が鳴り、先生がやってくる。予習してたっけなあ。
朝課外が終わって机にうなだれる。予習していたのはよかったが、ひどく眠くてしょうがなかった。
「お前、途中で寝そうになってたろ」
リュックサックに朝課外専用のワークをしまいながら、春都は笑って言った。
「あ、バレた?」
「よくもまあ、先生の目の前でうとうとできるなと思ったよ」
「いやー、もう、抗えない眠気というものがだな……」
今も話している途中で眠ってしまいそうである。いかん、これでは今日一日ぼんやり過ごしてしまいそうだ。
「今日は食わないのか」
後ろの席に座る健太が、椅子を蹴ってくる。その振動に、上体を起こした。
「食うよ」
「何を?」
「これこれ」
鞄から取り出すのはおにぎりだ。保冷バックにしっかり入れられているので、ひんやりしている。春都はそれを見ると「ああ」と納得したようだった。
「早弁その一」
「正解」
昼までなにも食わないでいると、気絶しそうになるほど腹が減る。今、もうすでに腹が減っているのだ。
「いただきます」
きっちりのりが巻かれたおにぎり。具材は梅干しだ。今日は高菜じゃなかったかあ。ま、これはこれでうまい。
酸っぱいんだよなあ、梅干し。疲れてるときは染みる。
「一条気付いた? さっきの授業」
「ああ、にやけるの必死に抑えてた」
ん、何の話だろう。聞き耳を立てながら飯をほおばる。のりの香りが強いなあ。
どうやらアニメのキャラクターのモチーフになっている何かが、授業で出ていたらしい。さっきの授業、国語だったよなあ。何だろう。そういや、日本史の時も盛り上がってたような。
うん、やっぱ、楽しそうな話声を聞きながら食う飯はうまい。
腹も心も満たされるってもんだ。
「ごちそうさまでした」
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