一条春都の料理帖

藤里 侑

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日常

第三百五十話 ファストフード

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 期末テストは三日間にわたって行われる。
 最終日前日。家に帰り、残る三教科の勉強をする。といっても、見直し程度だ。提出しなければいけないワークは終わっているし、あとは教科書とノート見直すぐらいでいいだろう。
 しかし、昼飯を食ってからの勉強というのはどうもはかどらない。特に家だと、すぐそこにソファもあるわけだし、寝てしまいそうだ。
 いっそのこと、少し昼寝してやるか。
 えっと、明日は現代文と生物基礎と化学基礎だっけ。うん、この三教科なら何とかなるだろう。三十分くらい、休むとしよう。
 普段は昼寝なんてしようとも思わないが……どうしてこう、テスト前とか、やるべきことが山積みになっているときに限って、休みたくなるのだろうなあ。
 そういや明日は帰りに図書館行かないといけないんだったな。なんか面倒だなあ。さっさと帰ってゆっくりしたい。せっかくテストも終わりだというのに。
 昼飯は何にしようかなあ。あまり手間のかからないものがいいが……
「あー……」
 天井を見上げながら、今朝、新聞に挟まっていた広告を思い出す。
「ハンバーガー食いてえなあ」
 クーポン券があったんだ。明日、帰りに寄ろう。
 それなら、財布にクーポン入れとかないと。確かセットメニューが安くなるはずだ。
 さて、飯をうまく食うためにも、勉強、頑張っときますかね。

 今日は理系も同じ時間に終わったようである。掃除を終え、図書館に向かおうと準備をしていると、咲良が迎えに来た。
「おかげで英語はなんとかできたわ。赤点回避」
「そりゃよかった」
「そんでさあ、さっきのテスト中なんだけど……」
 テストが終わった開放感からか、咲良はいつにもまして饒舌だ。図書館にたどり着くまで、話が途切れることはなかった。
「こんにちはー」
「おお、お疲れ」
 漆原先生は詰所で作業をしていた。朝比奈と早瀬はまだ来ていないので、適当に時間をつぶして待つ。
 十分ほどしたところで、二人はやってきた。
「揃ったな」
 今日はもともと開館日ではないので、他に生徒はいないし来ることもない。そろってテーブルにつくと、先生はこの間のプリントのコピーを配って説明を始めた。
「七月の末頃に、各高校の図書委員が集まって、いろいろとまあ、活動報告をするんだ。会場は……」
 そこそこ広いホールの、貸会議室を使うらしい。
「わー、都会じゃないっすか」
 咲良がワクワクした声音で言う。
「海沿いっすよね、ここ」
「ああ、そうだな。近くにはショッピングモールなんかもある」
「ですよね! えー、じゃあ、帰りに行きましょうよ~」
「昼飯も向こうで食べないといけないからな。考えておこう」
 お、マジか。それはちょっと楽しみだぞ。
「どうやって行くんです?」
 そう聞くのは早瀬だ。先生はプリントをゆらゆらさせながら答えた。
「学校の車で、俺が送迎する予定だ」
「他に先生はついてきますか?」
「一人な」
 まだ決まってはないが、と先生は付け加えた。
「それでだな、うちの学校の発表についてなんだが……」
 あ、そっか。すっかりお出かけ気分でいたが、本題は活動報告だった。
「結構な数の学校が集まるから、持ち時間は単純計算で十分から十五分といったところだ。内容は学校の方から指示が出ている」
 なんでも、ポップコンテストについてまとめてくれとのお達しだ。
 先生もあまりやる気はないようで「まあ、なんだ」と気の抜けた口調で言った。
「大それた研修会でもないし、力の入っている高校が長いこと発表するからなあ。うちの学校の発表時間は、もっと短いと考えてくれていていいだろう。それらしいことを言っておけば、先生方も満足するだろうし、気楽にやってくれ」
「はーい」
 次の集まりの予定を立てて、この日は解散になったのだった。

「クーポンのご利用ですね、ありがとうございます」
 持ち帰るか店内で食うか迷ったが、せっかくクーラーが効いていたので、店内で食うことにした。
 注文した商品を受け取って、窓に面したカウンター席の隅の方に座る。昼のピークは過ぎたのか、人の姿はまばらだ。
「いただきます」
 今日は期間限定のハンバーガーにしてみた。セットはポテト、ジュースはコーラだ。
 普通のハンバーガーよりふわふわのパンは香ばしくも甘く、肉は分厚くジューシーだ。そして何より、野菜たっぷりなのがうれしい。みずみずしいレタス、爽やかな玉ねぎ、ほのかに甘いトマトもいい。
 あ、これ、ソースがちょっと違うんだな。こしょうが効いていて、濃い。ステーキソースぽいのかな? 食べ応えがあってうまい。
 ジャンクな味には、コーラが合う。
 はじける炭酸に、強い甘み。これがハンバーガーと合わさるとなんだか爽やかな気分になるので不思議なものである。
 塩気の強いポテトは、ラードで揚げられていてカリッカリだ。
 あ、薄っぺらいの発見。ポテチみたいでいい。めっちゃ長いのとかもうれしい。しなしなになったのもまたよしである。
 ポップコンテストで十分かあ……ま、俺一人で考えなきゃいけないわけではないし、何とかなるだろう。プロジェクターとかは、朝比奈と早瀬が扱えるらしいし。
 それよりあれだ。向こうでどんな飯を食うかだ。
 それこそ海辺でハンバーガーとか。ああ、ショッピングモールの中の店もいいなあ。向こうでしか食べられないもの、といっては大げさだが、この辺じゃ滅多に食べないようなものがいいなあ。
 いつもと違うシチュエーションでいつも食ってるものを食うってのもありだな。
 このハンバーガーとかも。家で食うのと店で食うの、外で食うのじゃ味わいが違うもんな。
 結構なボリュームだったが、すっかり完食してしまった。もう一つ、期間限定の商品があるみたいだから、今度食ってみよう。

「ごちそうさまでした」
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