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日常
第三百四十九話 オムチャーハン
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「君たち、確か部活はやっていなかったね?」
今日は朝比奈も巻き込んで咲良の勉強に付き合っていたわけだが、漆原先生にそう聞かれ、いったん手を止める。
「はい、まあ。いまさらそんな確認してどうしたんです?」
思っていたことを代わりに咲良が聞いてくれた。
先生は意味深に笑うと、一枚のプリントを取り出してテーブルに置いた。
「これ、協力してほしいんだが」
プリントには、様々な学校の図書委員が一堂に会して、各学校の図書活動の報告をするとかいう集まりのことが書かれていた。
先生は朝比奈の隣に座り、頬杖をつく。
「夏休みの最初の方にあるんだが、部活があって参加できないやつが多くてな。四人、来てくれると助かる」
「で、そのうちの三人が俺たちということですか」
「他につかまらんのだよ」
「いっすよ、俺、夏休みは基本暇なんで!」
咲良はすがすがしい笑顔で承諾した。それはまあ、予想通りである。どうしようかな、と考えていたら、意外にも朝比奈が快諾したのである。
「俺も行きます」
「おや、君のことだから、渋ると思ったのだが」
先生が聞けば、朝比奈は緩く首を横に振り、絞り出すようにしてつぶやいた。
「夏休みは、極力、家にいたくないので……」
その様子に咲良と視線を合わせる。治樹のことだろう、というのは早々に気が付いた。先生は治樹の存在を知らないので不思議そうな顔をして朝比奈を見つめている。
「なんだ。なんかあるのか?」
「元気な盛りの甥っ子が襲来する、といえば分かりますか」
「ああ、なるほど」
納得したらしい先生は、今度は俺に視線を向けてきた。
「で、一条君はどうだい?」
「え~……」
本来なら行きたくない。だって、人前に出て発表するとか、面倒でしかないじゃないか。その準備とかもしなきゃいけないし。
でもさあ、ここで断ったら、俺、なんかヤなやつじゃね?
「まあ、いいですけど」
「よし、それじゃあ三人確保だな」
先生は満足したように頷き、プリントを持って立ち上がる。
咲良と朝比奈がいるだけ、まあ、いいか。うん、良しとしておこう。
「あと一人はどうするんすか?」
咲良が聞けば、先生は少し考えて言った。
「君たちで決めてくれて構わないぞ。人前に出て発表するし、機械もちょっと使うだろうから、そういうのが得意なやつがいると、安心だな」
そこまで言ったところで、先生は詰所に戻ってしまった。
「人前に立つのが得意で、機械が扱える人なあ……春都、誰か知ってるやついない?」
「俺の交友関係の狭さは知ってるだろう」
「あ、ごめん」
「謝るな」
向かいに座る朝比奈に視線を向ける。朝比奈は頬杖をついて、何やら考えているらしかった。
朝比奈は俺と咲良に視線を向けると、言った。
「一人、心当たりがある」
「お、いいぞ~」
朝比奈の心当たりの人物は、二つ返事で了承した。
見た目はずいぶんいかついというか、少々やんちゃっぽいが、人当たりのいい笑みを浮かべるこいつは早瀬拓矢。放送部に所属しているらしい。朝比奈のクラスの、もう一人の図書委員でもある。
「部活はいいのか? 大会とか、体育祭の準備もあるだろう」
朝比奈が聞けば、早瀬はうーん、と笑みを浮かべたまま考える。
「どっちもほとんど自分の練習が主だからなあ。大丈夫だ、問題ない」
「そうか。といってもまあ、俺たちも今、決まったばかりで何も知らないんだ」
「あ、そうなん? りょーかい」
早瀬は愛想のいい笑みを浮かべたままこちらに顔を向けた。
「一条と井上な、よろしく~」
「おー、よろしくな!」
「よろしく」
愛想はいいが、腹の底が読めん奴だ。
まあ、あの警戒心高めの朝比奈が普通にしゃべってるんだし、悪いやつではないのだろうけどな。
とりあえず、テスト最終日の放課後に図書館に集合するという約束だけして、今日は解散した。
また大変なことに巻き込まれた気がするが……今は、気づかないふりをしておこう。
疲れた日には、冷凍食品が非常に役に立つ。
「今日はどれにすっかなあ」
おかずはもちろん、ご飯ものから麺類まで。最近の冷凍食品のラインナップは目を見張るものがある。
今日はこれにしよう、炒飯だ。
皿に袋の中身を出して、レンジでチン。簡単なものだ。これだけっていうのも栄養偏りそうなので、薄く焼いた卵を上にのせ、オムライス風にする。それと、わかめスープ。これもインスタントだ。
「いただきます」
オムライスのような見た目だが、香りは確実に中華だ。
ごろっと入ったチャーシューがうま味たっぷりだ。噛み応えもあり、脂身のジュワッとした食感がたまらない。香ばしい味付けで、うちで作るのよりも濃い目である。薄焼いた卵と一緒に食べるとちょうどいい。
ネギが意外としゃきしゃきで、味も風味もはっきりしている。あ、炒飯にも卵入ってたな。こっちはふかふかした口当たりで、薄焼きとはまた違っていい。
わかめスープ、うまい。つるんとしたわかめの風味にごまの香ばしさがよく効いてる。
炒飯と一緒にすくって食べてみる。中華風お茶漬け、みたいな。
あ、これうまい。スープと一緒に食うと、塩気がマイルドになる。さらさらっと入ってくる感じもいいし、味わい深くなる。ほろほろ崩れるのがいいな。
そういや、活動報告会、どこであるんだろう。パッと見ただけだけど、結構遠かったような気がするが……
なんかうまいもの、食えるかな。
「ごちそうさまでした」
今日は朝比奈も巻き込んで咲良の勉強に付き合っていたわけだが、漆原先生にそう聞かれ、いったん手を止める。
「はい、まあ。いまさらそんな確認してどうしたんです?」
思っていたことを代わりに咲良が聞いてくれた。
先生は意味深に笑うと、一枚のプリントを取り出してテーブルに置いた。
「これ、協力してほしいんだが」
プリントには、様々な学校の図書委員が一堂に会して、各学校の図書活動の報告をするとかいう集まりのことが書かれていた。
先生は朝比奈の隣に座り、頬杖をつく。
「夏休みの最初の方にあるんだが、部活があって参加できないやつが多くてな。四人、来てくれると助かる」
「で、そのうちの三人が俺たちということですか」
「他につかまらんのだよ」
「いっすよ、俺、夏休みは基本暇なんで!」
咲良はすがすがしい笑顔で承諾した。それはまあ、予想通りである。どうしようかな、と考えていたら、意外にも朝比奈が快諾したのである。
「俺も行きます」
「おや、君のことだから、渋ると思ったのだが」
先生が聞けば、朝比奈は緩く首を横に振り、絞り出すようにしてつぶやいた。
「夏休みは、極力、家にいたくないので……」
その様子に咲良と視線を合わせる。治樹のことだろう、というのは早々に気が付いた。先生は治樹の存在を知らないので不思議そうな顔をして朝比奈を見つめている。
「なんだ。なんかあるのか?」
「元気な盛りの甥っ子が襲来する、といえば分かりますか」
「ああ、なるほど」
納得したらしい先生は、今度は俺に視線を向けてきた。
「で、一条君はどうだい?」
「え~……」
本来なら行きたくない。だって、人前に出て発表するとか、面倒でしかないじゃないか。その準備とかもしなきゃいけないし。
でもさあ、ここで断ったら、俺、なんかヤなやつじゃね?
「まあ、いいですけど」
「よし、それじゃあ三人確保だな」
先生は満足したように頷き、プリントを持って立ち上がる。
咲良と朝比奈がいるだけ、まあ、いいか。うん、良しとしておこう。
「あと一人はどうするんすか?」
咲良が聞けば、先生は少し考えて言った。
「君たちで決めてくれて構わないぞ。人前に出て発表するし、機械もちょっと使うだろうから、そういうのが得意なやつがいると、安心だな」
そこまで言ったところで、先生は詰所に戻ってしまった。
「人前に立つのが得意で、機械が扱える人なあ……春都、誰か知ってるやついない?」
「俺の交友関係の狭さは知ってるだろう」
「あ、ごめん」
「謝るな」
向かいに座る朝比奈に視線を向ける。朝比奈は頬杖をついて、何やら考えているらしかった。
朝比奈は俺と咲良に視線を向けると、言った。
「一人、心当たりがある」
「お、いいぞ~」
朝比奈の心当たりの人物は、二つ返事で了承した。
見た目はずいぶんいかついというか、少々やんちゃっぽいが、人当たりのいい笑みを浮かべるこいつは早瀬拓矢。放送部に所属しているらしい。朝比奈のクラスの、もう一人の図書委員でもある。
「部活はいいのか? 大会とか、体育祭の準備もあるだろう」
朝比奈が聞けば、早瀬はうーん、と笑みを浮かべたまま考える。
「どっちもほとんど自分の練習が主だからなあ。大丈夫だ、問題ない」
「そうか。といってもまあ、俺たちも今、決まったばかりで何も知らないんだ」
「あ、そうなん? りょーかい」
早瀬は愛想のいい笑みを浮かべたままこちらに顔を向けた。
「一条と井上な、よろしく~」
「おー、よろしくな!」
「よろしく」
愛想はいいが、腹の底が読めん奴だ。
まあ、あの警戒心高めの朝比奈が普通にしゃべってるんだし、悪いやつではないのだろうけどな。
とりあえず、テスト最終日の放課後に図書館に集合するという約束だけして、今日は解散した。
また大変なことに巻き込まれた気がするが……今は、気づかないふりをしておこう。
疲れた日には、冷凍食品が非常に役に立つ。
「今日はどれにすっかなあ」
おかずはもちろん、ご飯ものから麺類まで。最近の冷凍食品のラインナップは目を見張るものがある。
今日はこれにしよう、炒飯だ。
皿に袋の中身を出して、レンジでチン。簡単なものだ。これだけっていうのも栄養偏りそうなので、薄く焼いた卵を上にのせ、オムライス風にする。それと、わかめスープ。これもインスタントだ。
「いただきます」
オムライスのような見た目だが、香りは確実に中華だ。
ごろっと入ったチャーシューがうま味たっぷりだ。噛み応えもあり、脂身のジュワッとした食感がたまらない。香ばしい味付けで、うちで作るのよりも濃い目である。薄焼いた卵と一緒に食べるとちょうどいい。
ネギが意外としゃきしゃきで、味も風味もはっきりしている。あ、炒飯にも卵入ってたな。こっちはふかふかした口当たりで、薄焼きとはまた違っていい。
わかめスープ、うまい。つるんとしたわかめの風味にごまの香ばしさがよく効いてる。
炒飯と一緒にすくって食べてみる。中華風お茶漬け、みたいな。
あ、これうまい。スープと一緒に食うと、塩気がマイルドになる。さらさらっと入ってくる感じもいいし、味わい深くなる。ほろほろ崩れるのがいいな。
そういや、活動報告会、どこであるんだろう。パッと見ただけだけど、結構遠かったような気がするが……
なんかうまいもの、食えるかな。
「ごちそうさまでした」
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