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日常
第三百四十三話 高菜尽くし
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今日は咲良に引き連れられて、バス停の方から回って帰ってきたので、せっかくだし、店に寄ってみる。
このまま泊まりたいのは山々だったが、なんも準備してなかったもんなあ。
「あ、今日はもう店閉めるの」
「天気がいまいちだからねえ」
そう言いながらばあちゃんは表に出していたのぼりを片付けていた。
梅雨時は確かに、自転車に乗るの、悩むよな。
「なんかするよ」
「あら、ありがとう」
中古車を店の中にしまう。テントを上げるのは結構な重労働だ。
「おっも」
「重いだろう。やってくれると助かるよ」
縄のような紐を引っ張ってテントを上げ、それを結んで固定する。結ぶのはじいちゃんたちの方が慣れているので任せよう。へたにやってほどけると大惨事なのだ。
「ありがとうね、手伝ってくれて」
帰り際、ばあちゃんがお土産を持たせてくれた。
高菜の漬物だ。
「もう切ってあるから。よかったら食べてね」
「ありがとう」
かなりたっぷりあるみたいなので、しばらく楽しめそうだな。
高菜は味変にもいいんだ。
朝飯の卵かけごはん。ご飯と卵をしっかり混ぜたところに、小さく切ってある高菜を入れて、さらに混ぜる。
「いただきます」
高菜そのものがしょっぱいので、醤油はあまりかけない。
まろやかな卵の風味と口当たり、そこにシャキシャキといい触感の高菜。みずみずしく、唐辛子のピリッとした辛さがいい感じだ。
高菜はマヨネーズをつけて食うのもうまい。卵と食った時とはまた違ったまろやかさがある。
おにぎりに入れてもうまいんだよな。
食堂の湿気はなかなかのもので、テーブルに結露ができるほどだ。
「春都、みそ汁だけ?」
冷やし中華の大盛りを頼んだらしい咲良が、向かいに座りながら聞いてくる。
「おにぎりとおかずは持って来てるし」
「あ、ホントだ。またうまそうな」
「冷凍だけどな」
それと卵焼きも。高菜のおにぎりは四つ持って来ている。
「いただきます」
シンプルに醤油垂らしたのが二つと、マヨと和えたのが一つ、ごまをまぶしたのが一つ。
まずはシンプルなやつから。高菜の風味がよく分かる。この塩気、本当にご飯に合う。世の中には色々なご飯のお供があるけど、高菜の漬物は相性の良さ、ランク上位なんじゃないか。
マヨで和えただけで、途端にジャンキーになるのもいい。濃いので、食いごたえもいい。
「季節によっては、食欲がなくなるとかいうけどさ」
咲良は笑いながら言う。
「春都にはなんか、無縁だよな」
「俺も一応、食欲ないってことあるぞ」
「そう? なんかそんなふうには見えねーけど」
「まあ、しょっちゅうってわけじゃないけど……」
そう言えば咲良は「やっぱり」と納得したようだった。
あんまりじめじめしてたら、さすがの俺でも気力が吸い取られるというものである。でも、どうせなら気分良く過ごしたいので、そういう時でもうまく食える飯を考えているだけだ。
さて、卵焼きとつくねを食べて、プチトマトでさっぱりしたところで、ごまをまぶした高菜を。
ああ、香ばしくていいな。高菜単体でも当然うまいけど、ごまの香ばしさが加わることで、よりおいしさが際立つというものである。
みそ汁は揚げと大根だ。ほのかな甘みが程よい。
それにしたって高菜のさわやかなうま味は、じめじめした時期でも、おいしく食べられるんだなあ。
「来週からテスト期間かあ。朝課外なくなるのはうれしいよな」
「勉強はしろよ」
「大丈夫。今回はなんかいける気がする」
はつらつとした笑顔でそう言い切る咲良である。
不安でしかないのだが。
高菜とくれば、ラーメンも食いたいところである。
そしてラーメンにのせる高菜は炒めたのがいい。というわけで、作ってみよう。
刻まれた高菜をごま油で炒め、味付けとして、砂糖、醤油、酒を入れる。もう香りだけで飯が食えそうだ、というところにゴマと一味唐辛子をまぶせば完成だ。
ラーメンは袋麺の豚骨。
鍋にお湯を沸かし、麺を入れてほぐしたら、粉末スープを入れて溶く。どんぶりに盛ったらねぎをトッピングして、出来上がり。
米も食おう。
「いただきます」
高菜のせて食うから、今日のラーメンはちょっとあっさり系にした。
じわーっとスープに広がる高菜。いい光景だ。麺と一緒に食べる。これこれ、これが食いたかった。
ピリリと辛い高菜炒めの味に、高菜そのもののさわやかさ、そして豚骨の香りにかための麺の食感。うま味がこれだけいっぺんに口の中に飛び込んでくると、ちょっとパニックになりそうだ。
でもここで訳分かんなくなっても、もったいない。しっかり味わいつくさなければ。
ご飯にのっけて食うのもいい。よりご飯が進む味になっているので、最高にうまいのだ。高菜炒めだけで食うとだいぶ辛いが、そこに冷たい麦茶を流し込むのもいい。
そして味が染み出した豚骨スープのうまさよ。
ここに白米入れて、お茶漬けみたいにして食うのもうまい。そうすれば、トッピングした高菜も余すことなく食えるからな。
ついつい飲み干してしまううまさである。
長いこと楽しめると思ったが、この調子だと、すぐに食いきってしまいそうだな。
「ごちそうさまでした」
このまま泊まりたいのは山々だったが、なんも準備してなかったもんなあ。
「あ、今日はもう店閉めるの」
「天気がいまいちだからねえ」
そう言いながらばあちゃんは表に出していたのぼりを片付けていた。
梅雨時は確かに、自転車に乗るの、悩むよな。
「なんかするよ」
「あら、ありがとう」
中古車を店の中にしまう。テントを上げるのは結構な重労働だ。
「おっも」
「重いだろう。やってくれると助かるよ」
縄のような紐を引っ張ってテントを上げ、それを結んで固定する。結ぶのはじいちゃんたちの方が慣れているので任せよう。へたにやってほどけると大惨事なのだ。
「ありがとうね、手伝ってくれて」
帰り際、ばあちゃんがお土産を持たせてくれた。
高菜の漬物だ。
「もう切ってあるから。よかったら食べてね」
「ありがとう」
かなりたっぷりあるみたいなので、しばらく楽しめそうだな。
高菜は味変にもいいんだ。
朝飯の卵かけごはん。ご飯と卵をしっかり混ぜたところに、小さく切ってある高菜を入れて、さらに混ぜる。
「いただきます」
高菜そのものがしょっぱいので、醤油はあまりかけない。
まろやかな卵の風味と口当たり、そこにシャキシャキといい触感の高菜。みずみずしく、唐辛子のピリッとした辛さがいい感じだ。
高菜はマヨネーズをつけて食うのもうまい。卵と食った時とはまた違ったまろやかさがある。
おにぎりに入れてもうまいんだよな。
食堂の湿気はなかなかのもので、テーブルに結露ができるほどだ。
「春都、みそ汁だけ?」
冷やし中華の大盛りを頼んだらしい咲良が、向かいに座りながら聞いてくる。
「おにぎりとおかずは持って来てるし」
「あ、ホントだ。またうまそうな」
「冷凍だけどな」
それと卵焼きも。高菜のおにぎりは四つ持って来ている。
「いただきます」
シンプルに醤油垂らしたのが二つと、マヨと和えたのが一つ、ごまをまぶしたのが一つ。
まずはシンプルなやつから。高菜の風味がよく分かる。この塩気、本当にご飯に合う。世の中には色々なご飯のお供があるけど、高菜の漬物は相性の良さ、ランク上位なんじゃないか。
マヨで和えただけで、途端にジャンキーになるのもいい。濃いので、食いごたえもいい。
「季節によっては、食欲がなくなるとかいうけどさ」
咲良は笑いながら言う。
「春都にはなんか、無縁だよな」
「俺も一応、食欲ないってことあるぞ」
「そう? なんかそんなふうには見えねーけど」
「まあ、しょっちゅうってわけじゃないけど……」
そう言えば咲良は「やっぱり」と納得したようだった。
あんまりじめじめしてたら、さすがの俺でも気力が吸い取られるというものである。でも、どうせなら気分良く過ごしたいので、そういう時でもうまく食える飯を考えているだけだ。
さて、卵焼きとつくねを食べて、プチトマトでさっぱりしたところで、ごまをまぶした高菜を。
ああ、香ばしくていいな。高菜単体でも当然うまいけど、ごまの香ばしさが加わることで、よりおいしさが際立つというものである。
みそ汁は揚げと大根だ。ほのかな甘みが程よい。
それにしたって高菜のさわやかなうま味は、じめじめした時期でも、おいしく食べられるんだなあ。
「来週からテスト期間かあ。朝課外なくなるのはうれしいよな」
「勉強はしろよ」
「大丈夫。今回はなんかいける気がする」
はつらつとした笑顔でそう言い切る咲良である。
不安でしかないのだが。
高菜とくれば、ラーメンも食いたいところである。
そしてラーメンにのせる高菜は炒めたのがいい。というわけで、作ってみよう。
刻まれた高菜をごま油で炒め、味付けとして、砂糖、醤油、酒を入れる。もう香りだけで飯が食えそうだ、というところにゴマと一味唐辛子をまぶせば完成だ。
ラーメンは袋麺の豚骨。
鍋にお湯を沸かし、麺を入れてほぐしたら、粉末スープを入れて溶く。どんぶりに盛ったらねぎをトッピングして、出来上がり。
米も食おう。
「いただきます」
高菜のせて食うから、今日のラーメンはちょっとあっさり系にした。
じわーっとスープに広がる高菜。いい光景だ。麺と一緒に食べる。これこれ、これが食いたかった。
ピリリと辛い高菜炒めの味に、高菜そのもののさわやかさ、そして豚骨の香りにかための麺の食感。うま味がこれだけいっぺんに口の中に飛び込んでくると、ちょっとパニックになりそうだ。
でもここで訳分かんなくなっても、もったいない。しっかり味わいつくさなければ。
ご飯にのっけて食うのもいい。よりご飯が進む味になっているので、最高にうまいのだ。高菜炒めだけで食うとだいぶ辛いが、そこに冷たい麦茶を流し込むのもいい。
そして味が染み出した豚骨スープのうまさよ。
ここに白米入れて、お茶漬けみたいにして食うのもうまい。そうすれば、トッピングした高菜も余すことなく食えるからな。
ついつい飲み干してしまううまさである。
長いこと楽しめると思ったが、この調子だと、すぐに食いきってしまいそうだな。
「ごちそうさまでした」
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