355 / 854
日常
第三百四十一話 麻婆豆腐
しおりを挟む
「うわ、めっちゃ砂」
廊下を掃除していた宮野が心底嫌そうな声を上げる。
避難訓練の後は大体そうだよなあ。それとか、体育祭練習の後とか。なんか教室とかが全体的に埃っぽい。
「ちゃんと洗っていただきたいのだが」
「洗う場所限られてるし、面倒で洗わないやついるもんな」
「それと、中途半端に洗って、そのまま歩いて濡れた砂が落ちて、それが乾燥したとか」
「そうそう」
教室の窓枠に寄りかかり、廊下をのぞき込む。うん、なんか白い。
宮野は盛大にため息をつくと、集めた砂をちりとりに集めようとした。その時、換気のために開けられていた窓から風が吹き込み砂を散らし、雑談をしながら駆け抜けて行った二人組の風圧によって、集める前よりもさらに広範囲に砂が広がった。
しばらくの沈黙の後、宮野は「ああーもう!」と座り込んでしまった。
「せっかく集めたのに。やり直しとか萎える」
「あはは、ドンマイ」
しばらくうつむいていた宮野だったが、やれやれというように立ち上がると、再びちまちまと集め始めた。
廊下掃除の人員は二人だけ。しかも今もう一人はごみ捨てに行っている。
一方教室掃除はといえば、人数多すぎて飽和状態だ。確か事務室と校長室の掃除がないんだったかな。だからそこの掃除当番のやつらが教室にいるんだ。
「手伝うか?」
そう聞けば宮野は「頼める?」と実に情けない声で言ったものだ。
「何すればいい」
「ほうきもう一本持ってきて、掃くの手伝って……」
「分かった」
砂とは案外集めにくいもので、少々強く掃かなければいけない。それに、ほうきにまとわりつくので、きれいになったと思っても、ほうきから砂が落ちてきて堂々巡りなのだ。
見ればよそのクラスも苦戦しているらしい。
「ちょっとずつ集めて捨てて、ってした方がよさそうだ」
と、宮野はちりとりに砂を収めてごみ箱に捨てた。
「面倒だけど、また散らかされるよりはいい」
「それはそうだ」
何とか片付くめどが立ったところで、宮野は安堵の息をついた。
「時間内に終わらなかったらさあ、結構先生たちうるさいでしょ? 何ならやり直しとかさせられるし」
そういやうちの学年の先生の中に、やたらと掃除に命かけてる先生がいるんだよなあ。
「あー、あの先生だろ。ほら」
「そうそう。名前は出てこないけど、あの」
「廊下の番人」
それはその先生の通称で、毎年、廊下掃除の監視役をしているからとか、通りがかりに過剰なほど注意していくからとか、いろいろないわれがある。
「はもったなあ」
そう言えば宮野も楽しげに笑った。
掃除が終われば後は帰るだけだ。なんとか時間内に終え、番人のチェックもつつがなく突破し、帰りのホームルームである。
「来週からはテスト期間だからな。テスト範囲もそろそろ出るし、予習復習はしっかりするように」
テスト範囲って、どうしてテスト一週間前にしか出ないんだろう。もうちょっと早めに出してくれれば対処のしようがあるのになあ、と思わなくもない。特に期末とか、範囲広いし。
まあ、期末テストはこの際どうだっていい。問題は……
「それと、体育祭の練習も始まるから、その辺も頭に置いておくように」
きたよ体育祭。あー、やりたくねえー。
まかり間違っても何かしらの役にはなりたくない。あ、でもちょっとさぼれそうなやつがあるならいいなあ。体育祭の熱気自体はまあ、強要さえされなければ眺めている分には嫌いじゃないし。
合法的にさぼれる係があるんなら、やってみたいものだな。
「以上。他に連絡事項のあるやつはいるか?」
地味に日が照る中、一時間ほど防災教室を受けた後、そこそこの休み時間を経て、古文、数学、極めつけに体育の授業を受けたのだ。教室中がだるい空気に満ちている。たとえ連絡事項があったとしても、明日の朝でいいだろうという雰囲気である。
「ないな? それじゃ、解散」
先生が言い終わるや否や、誰からともなく立ち上がり、部活に向かうやつら以外は荷物を持ってそそくさと帰っていく。
ま、俺もそのうちの一人なんだけどな。
疲れはしたが、飯はしっかり食いたいものである。
というわけで今日は麻婆豆腐を作る。しかもレトルトじゃなくて、自分で調味料調合して作るやつだ。コチュジャンとか豆板醬とかはある。母さんが色んな調味料を集めるのが好きで、色々揃ってんだ。たまにゲテモノ買ってくるけど。
こないだ味噌で代用して作って、麻婆豆腐? って感じになったからな……リベンジしたかったんだ。
まずは、油をひいたフライパンで豚肉をにんにく、しょうが、ネギと一緒に炒めていく。豆板醤も加えて……って、どんぐらい入れりゃいいんだ。うーん、よく分からないから、調べたレシピの分量より少し少なめに。
炒めたら、酒、コチュジャン、醤油、鶏がらスープの素、砂糖、水を入れてひと煮立ち。砂糖も気持ち少なめにしておこう。
そんで、賽の目切りした豆腐を入れて、ぐつぐつ煮る。とろみは水溶き片栗粉でつける。
匂いはいい感じだが、果たして味はどうだろう。仕上げにねぎを散らしごま油を垂らしたら、完成だ。
「いただきます」
熱々なので、気を付けないと。
ん、意外と辛くない? いや、あとから来るな、この辛さは。でも嫌な辛さじゃない。なんだか爽やかというか、しつこくないのだ。油っぽくもないし、濃くやうま味もしっかりあっておいしい。キレがいい、という表現が合うかもしれない。
豆腐にもしっかり味が染みている。淡白な豆腐のうま味はそのままに、中華の調味料の辛さとコクが染み染みだ。
豚肉のうま味もしっかり効いてる。濃い味付けに負けない肉の食感と味、脂身の甘味。
これをご飯にかけて食べる贅沢よ。味噌で代用したのもうまかったけど、麻婆豆腐っつったらこの辛さだよな。うん、やっぱコチュジャンとか豆板醤って大事だ。
ネギのさわやかさもおいしさに一役買っている。ごま油の香りもいい。
しっかり辛く、うま味もあるのに、脂っこくなくてもったりしない。手作り麻婆豆腐、いいなあ。
また作ろう。
大成功だ。
「ごちそうさまでした」
廊下を掃除していた宮野が心底嫌そうな声を上げる。
避難訓練の後は大体そうだよなあ。それとか、体育祭練習の後とか。なんか教室とかが全体的に埃っぽい。
「ちゃんと洗っていただきたいのだが」
「洗う場所限られてるし、面倒で洗わないやついるもんな」
「それと、中途半端に洗って、そのまま歩いて濡れた砂が落ちて、それが乾燥したとか」
「そうそう」
教室の窓枠に寄りかかり、廊下をのぞき込む。うん、なんか白い。
宮野は盛大にため息をつくと、集めた砂をちりとりに集めようとした。その時、換気のために開けられていた窓から風が吹き込み砂を散らし、雑談をしながら駆け抜けて行った二人組の風圧によって、集める前よりもさらに広範囲に砂が広がった。
しばらくの沈黙の後、宮野は「ああーもう!」と座り込んでしまった。
「せっかく集めたのに。やり直しとか萎える」
「あはは、ドンマイ」
しばらくうつむいていた宮野だったが、やれやれというように立ち上がると、再びちまちまと集め始めた。
廊下掃除の人員は二人だけ。しかも今もう一人はごみ捨てに行っている。
一方教室掃除はといえば、人数多すぎて飽和状態だ。確か事務室と校長室の掃除がないんだったかな。だからそこの掃除当番のやつらが教室にいるんだ。
「手伝うか?」
そう聞けば宮野は「頼める?」と実に情けない声で言ったものだ。
「何すればいい」
「ほうきもう一本持ってきて、掃くの手伝って……」
「分かった」
砂とは案外集めにくいもので、少々強く掃かなければいけない。それに、ほうきにまとわりつくので、きれいになったと思っても、ほうきから砂が落ちてきて堂々巡りなのだ。
見ればよそのクラスも苦戦しているらしい。
「ちょっとずつ集めて捨てて、ってした方がよさそうだ」
と、宮野はちりとりに砂を収めてごみ箱に捨てた。
「面倒だけど、また散らかされるよりはいい」
「それはそうだ」
何とか片付くめどが立ったところで、宮野は安堵の息をついた。
「時間内に終わらなかったらさあ、結構先生たちうるさいでしょ? 何ならやり直しとかさせられるし」
そういやうちの学年の先生の中に、やたらと掃除に命かけてる先生がいるんだよなあ。
「あー、あの先生だろ。ほら」
「そうそう。名前は出てこないけど、あの」
「廊下の番人」
それはその先生の通称で、毎年、廊下掃除の監視役をしているからとか、通りがかりに過剰なほど注意していくからとか、いろいろないわれがある。
「はもったなあ」
そう言えば宮野も楽しげに笑った。
掃除が終われば後は帰るだけだ。なんとか時間内に終え、番人のチェックもつつがなく突破し、帰りのホームルームである。
「来週からはテスト期間だからな。テスト範囲もそろそろ出るし、予習復習はしっかりするように」
テスト範囲って、どうしてテスト一週間前にしか出ないんだろう。もうちょっと早めに出してくれれば対処のしようがあるのになあ、と思わなくもない。特に期末とか、範囲広いし。
まあ、期末テストはこの際どうだっていい。問題は……
「それと、体育祭の練習も始まるから、その辺も頭に置いておくように」
きたよ体育祭。あー、やりたくねえー。
まかり間違っても何かしらの役にはなりたくない。あ、でもちょっとさぼれそうなやつがあるならいいなあ。体育祭の熱気自体はまあ、強要さえされなければ眺めている分には嫌いじゃないし。
合法的にさぼれる係があるんなら、やってみたいものだな。
「以上。他に連絡事項のあるやつはいるか?」
地味に日が照る中、一時間ほど防災教室を受けた後、そこそこの休み時間を経て、古文、数学、極めつけに体育の授業を受けたのだ。教室中がだるい空気に満ちている。たとえ連絡事項があったとしても、明日の朝でいいだろうという雰囲気である。
「ないな? それじゃ、解散」
先生が言い終わるや否や、誰からともなく立ち上がり、部活に向かうやつら以外は荷物を持ってそそくさと帰っていく。
ま、俺もそのうちの一人なんだけどな。
疲れはしたが、飯はしっかり食いたいものである。
というわけで今日は麻婆豆腐を作る。しかもレトルトじゃなくて、自分で調味料調合して作るやつだ。コチュジャンとか豆板醬とかはある。母さんが色んな調味料を集めるのが好きで、色々揃ってんだ。たまにゲテモノ買ってくるけど。
こないだ味噌で代用して作って、麻婆豆腐? って感じになったからな……リベンジしたかったんだ。
まずは、油をひいたフライパンで豚肉をにんにく、しょうが、ネギと一緒に炒めていく。豆板醤も加えて……って、どんぐらい入れりゃいいんだ。うーん、よく分からないから、調べたレシピの分量より少し少なめに。
炒めたら、酒、コチュジャン、醤油、鶏がらスープの素、砂糖、水を入れてひと煮立ち。砂糖も気持ち少なめにしておこう。
そんで、賽の目切りした豆腐を入れて、ぐつぐつ煮る。とろみは水溶き片栗粉でつける。
匂いはいい感じだが、果たして味はどうだろう。仕上げにねぎを散らしごま油を垂らしたら、完成だ。
「いただきます」
熱々なので、気を付けないと。
ん、意外と辛くない? いや、あとから来るな、この辛さは。でも嫌な辛さじゃない。なんだか爽やかというか、しつこくないのだ。油っぽくもないし、濃くやうま味もしっかりあっておいしい。キレがいい、という表現が合うかもしれない。
豆腐にもしっかり味が染みている。淡白な豆腐のうま味はそのままに、中華の調味料の辛さとコクが染み染みだ。
豚肉のうま味もしっかり効いてる。濃い味付けに負けない肉の食感と味、脂身の甘味。
これをご飯にかけて食べる贅沢よ。味噌で代用したのもうまかったけど、麻婆豆腐っつったらこの辛さだよな。うん、やっぱコチュジャンとか豆板醤って大事だ。
ネギのさわやかさもおいしさに一役買っている。ごま油の香りもいい。
しっかり辛く、うま味もあるのに、脂っこくなくてもったりしない。手作り麻婆豆腐、いいなあ。
また作ろう。
大成功だ。
「ごちそうさまでした」
24
お気に入りに追加
253
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!


妻を蔑ろにしていた結果。
下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。
主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。
小説家になろう様でも投稿しています。
「一晩一緒に過ごしただけで彼女面とかやめてくれないか」とあなたが言うから
キムラましゅろう
恋愛
長い間片想いをしていた相手、同期のディランが同じ部署の女性に「一晩共にすごしただけで彼女面とかやめてくれないか」と言っているのを聞いてしまったステラ。
「はいぃ勘違いしてごめんなさいぃ!」と思わず心の中で謝るステラ。
何故なら彼女も一週間前にディランと熱い夜をすごした後だったから……。
一話完結の読み切りです。
ご都合主義というか中身はありません。
軽い気持ちでサクッとお読み下さいませ。
誤字脱字、ごめんなさい!←最初に謝っておく。
小説家になろうさんにも時差投稿します。
サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜
野谷 海
恋愛
「俺、やっぱり君が好きだ! 付き合って欲しい!」
「ごめんね青嶋くん……やっぱり青嶋くんとは付き合えない……」
この3度目の告白にも敗れ、青嶋将は大好きな小浦舞への想いを胸の内へとしまい込んで前に進む。
半年ほど経ち、彼らは何の因果か同じクラスになっていた。
別のクラスでも仲の良かった去年とは違い、距離が近くなったにも関わらず2人が会話をする事はない。
そんな折、将がアルバイトする焼鳥屋に入ってきた新人が同じ学校の同級生で、さらには舞の親友だった。
学校とアルバイト先を巻き込んでもつれる彼らの奇妙な三角関係ははたしてーー
⭐︎毎日朝7時に最新話を投稿します。
⭐︎もしも気に入って頂けたら、ぜひブックマークやいいね、コメントなど頂けるととても励みになります。
※表紙絵、挿絵はAI作成です。
※この作品はフィクションであり、作中に登場する人物、団体等は全て架空です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる