一条春都の料理帖

藤里 侑

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日常

第三百三十八話 ホットプレート飯

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「あ、うめずも見る~? 僕のとこおいで」

「わうっ」

「おい、もうちょいそっち寄ってくれ」

「今いいとこなんだって、ちょっと待ってくれ」

 静かにアニメ鑑賞をするはずの休日。

 どうしてこう、人口密度が高く、騒がしいのだ?

 事の始まりは一時間ちょっと前のことである。朝食を終え、今からのんびりするぞ、とジュースやらお菓子やらをそろえていた時のこと。

 チャイムが鳴ったので、何か荷物でも届いたのだろうかと思えば、違った。

『はーるとくーん。あっそびーましょー』

 居留守してやろうか、と思うようなふざけた声。咲良が満面の笑みでインターホンに映っていた。しかもなんか引き連れてきている。観月と守本だ。

「何しに来た」

 かろうじて絞り出した問いに咲良はあっけらかんと答えたものだ。

『え? 遊びに来た』

 その表情と言葉に毒気を抜かれ、何も言い返せない。せめてもの抵抗として盛大なため息をついた後、ロックを解除した。

 嬉々としてやってきたそいつらの手土産であるジュースとお菓子も追加して、ほとんどパーティ状態の机。そして、家にあるアニメ映画のDVDをセットし、再生。

 今に至るというわけである。

「おい、守本。こっち来ていいぞ」

 先ほどから咲良に追いやられている守本に場所を空けながら立ち上がる。

「俺、ソファの方座るし」

「そうか? 悪いな」

 もとはソファに座っていた咲良が、映画が盛り上がってきたタイミングでずり落ちるようにして下に座ったのだ。

 うめずを押しやりながらソファに座れば、足の上にうめずが顎をのせてきた。

「ねー春都。このキャラの声優さんってさー、あのキャラと一緒?」

 咲良がクッションを握りしめ、画面に目を向けたまま聞いてくる。咲良が言ったキャラクターの名前に、思考を巡らせる。

「あー……惜しい」

「惜しい?」

「その人の、妹」

「ああ、そういうこと。なんか似てんなとは思ったけど、そういうことかあ」

 納得したらしい咲良は、再び映画に集中し始めた。

 ソファで隣に座る観月がうめずの体をなでながら話す。

「これ、漫画は読んだことあるけど、映画は見そびれてたんだよね。春都は劇場に見に行ったの?」

「ああ。それで気に入って円盤買った」

 エンドロールが流れだしたところで、守本が伸びをしながら言った。

「なんか腹減ったなあ」

「ん、そういやそうだな」

「ねー春都。なんか作ってよ」

 そうふてぶてしく言うのは咲良だ。こいつ、本当に遠慮がないな。

 自分一人で準備するのもなんとなく気に入らないし、でも、こいつらに任せる勇気もないし、さて、どうしたものか。

「あ、そうだ。ちょっと待ってろ」

「おー」

 三人がうめずと戯れている間、飯の準備をする。

 まずはキャベツを千切りに。そして卵とお好み焼きの粉を合わせて、水を加えて混ぜる。そこにキャベツを入れ、あとは……天かすと、紅しょうがを刻んだもの、さらには小エビも入れようか。

 肉っ気は……ウインナーの薄切りでいいだろう。

 それともう一つ。ホットケーキミックスを溶く。デザートにもってこいだろう。

「よし、テーブル片付けろ」

 ほとんど観月が片付けたテーブルに置くのはホットプレート。

「おお、お好み焼き? 皆で作るって、なんかいいねえ」

 観月は楽しげに笑って言った。

 そう、みんなで作ればいいのだ。

「まずは……」

 鉄板に油をひき、温まったところにウインナーとお好み焼きの生地をのせる。

「あ、そうだ。菜々世、ひっくり返せよ」

 咲良の提案に、守本は「ええ~?」と困ったように笑った。

「どうなってもいいならいいけど、だめだろ?」

「いや別に」

「僕たちだけで食べるんだし、いいでしょ」

「だ、そうだ」

 フライ返しを咲良から手渡され、守本は実に真剣な面持ちでお好み焼きの下にフライ返しを滑り込ませた。

 そして、ごくりとつばを飲み込むと、勢いよくひっくり返した。

 鉄板にビタンッと着地したお好み焼きは、思いのほかきれいな形をとどめていた。

「おー、すごいすごい」

「残りは一条がやってくれ……」

 人数分焼いたら、各々好きにソースやら何やらをかけていただく。

「いただきます」

 紙皿に割りばしで食うのが、なんかお祭りっぽくていい。

 カリッとした表面にもちっとした中身。箸から伝わる感覚が楽しい。味もいいものだ。ソースの酸味にマヨネーズのまろやかさ、かつお節のうま味、香り。

 生地の味もいい。キャベツの甘味も加わって、卵の風味と粉ものらしい口当たりが最高だ。

「んー、うまい」

「おいしいね」

「ウインナーもいけるもんだな」

 そう、守本の言うとおり、ウインナーもうま味があっていいのだ。

 はじける脂と香辛料、カリカリでプリプリの食感。なかなか粉ものと相性がいいものである。

 今日の飲み物はメロンソーダ。ぱちぱちはじける強めの炭酸がうまい。

「よし、食ったな」

 お好み焼きを消費したら、次はホットケーキである。

 油をひきなおして、鉄板をきれいにしたら、さっそく焼いていく。合わせるのはバターとメープルシロップだ。

「はちみつじゃないんだな。うちと一緒だ」

 咲良が楽しげに笑いながら皿に盛る。うまそうな盛り付けすんなあ。

 ふわふわでもないし分厚くもないが、いい感じだ。溶けるバターとメープルシロップをたっぷりと絡ませて食べる。これはうまい。お好み焼きを食べてしょっぱくなった口に、甘みが心地いい。

 バターの塩気とうま味がホットケーキの素朴な甘みによく合う。久々に食ったなあ、うちのホットケーキ。

「昼から何する~? 俺、ゲームしたい」

「お、いいな、それ」

 咲良の提案に、今度はノリノリの守本である。観月もにこにこ笑って頷いていた。

 まだ居座るつもりかよ。そろそろのんびりテレビが見たいのだが。

 ……まあ、別にいいか。深く考えるのはよそう。流れに身を任せて、楽しんでしまったもん勝ちだ。



「ごちそうさまでした」

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