一条春都の料理帖

藤里 侑

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日常

番外編 朝比奈貴志のつまみ食い②

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 休日である。

 課題は終わらせ、予習も完璧。手元にはお菓子、飲み物、スマホに漫画にゲーム。ティッシュとアルコールシートもある。DVDのディスクを入れ替えるときだけは立ち上がらないといけないが、そのほかは手を伸ばせば届くところにある。

「それと……」

 今日は目を酷使する予定なのでコンタクトではなく眼鏡をかける。黒縁の眼鏡は、小学生の頃と中学の最初の方以来、学校にかけて行ったことはない。

 さてまずはアニメだ。もう何度見たか分からない作品を見る。これ、やっぱ初期の頃がいいんだよなあ。

 座椅子に座って再生ボタンを押す。

 そういえば一条も初期がいいっつってたなあ。お互い、語るより一人で楽しむ方が好きなタイプだからあんま話さないけど、共通の話題を持っているというのはなんか楽しい。言葉が通じるって感じ。

「さて、どれから食べようかな」

 まずはスナック菓子からいくか。うすしおのポテト。なんだかんだいって、これとコーラがあるとワクワクする。

「いただきまーす」

 濃い塩気、甘くシュワシュワしたコーラ。いいね、休みっぽい。

 井上はこのアニメ、あんま知らないんだったか。というか自分らが小学生の頃に放送されてたアニメだからなあ。いまだに好きってやつの方が少ないのかな。まあ、自分が楽しけりゃいいんだけど。

 でも結構深いぞ、このアニメ。今になってやっとわかるようになった展開とか言葉とかあるし。

 ……あ、ポテチなくなった。早いなあ。最近量減った?

 まあいいや。次はポップコーン。バター醤油味がジャンクな感じでうまい。

「あー。この声優さん、出てたっけ」

 今じゃ知らない人はいない……は、言い過ぎか。でも、アニメを見ない人でも知っているような声優さんが脇役で出ている。もう十年近く前だから年齢的に、駆け出しの頃って感じかなあ。

 昔のアニメを見る楽しみって、こういうところもある。新たな発見があるとでもいいますか。

 優太はアニメ、見ないわけじゃないけど偏ってんだよな。興味ないもんは素直に「興味ない!」って言いきるし、見ないし、というか少しも見向きしないし。

 でも絵は描いてくれるんだよな。

 何度も見ているのでセリフ完璧に覚えてる。展開もタイミングもばっちりだ。なので、ゲーム片手に見る、というのも乙なものでして。

「うーん」

 ゲームカセットを収納しているケースを見ながら、時々テレビに視線を戻しながら、今日やるゲームを考える。この瞬間、生きてるって感じがする。

 最近買った、前やってたゲームのリメイク版でもやるか。それこそこのアニメがやってた頃出てたやつのリメイクだ。RPGで、結構な思い出がある。

 モンスターを捕まえて育成しながらクリアしていくゲームなわけだけど、小さい頃は育成の仕方も何も知らなくて、初期に捕まえたモンスターとか好きなやつとかばっかりが強くなって、勝てなくて詰んだ、ってなったな。

 今じゃある程度分かってきたし、楽しみ方も変わったもんだ。

 どうやったらワンパンで倒せっかなとか、効率的なレベル上げとか、あとはどれだけ早くクリアできるかなとか。もちろんストーリーも楽しいんだけど、効率も考えるようになったよなあ。

 ゲームをするときはできるだけ手を汚したくない。ので、お菓子もそういうのにシフトする。

 飴とかいいよな。一回口に入れたらしばらく考えなくていい。ガムも悪くないけど、あれ、吐き出さなきゃいけないし、味無くなるとちょっとな。

 飴はぶどうが好きだな。いかにも香料使ってます、みたいな。

「ん~……やっぱタイプ相性が……」

 分厚い攻略本をめくりながらやるのが楽しい。

 攻略サイトもたまには見るけど、やっぱ攻略本とゲームはセットだろうよ。高いけど。

「あ、アニメ終わった」

 入れ替えるか。あー、でもその前にトイレ済ませとこう。



「あ、貴志」

 自室に帰る途中、お茶も飲みたくなったので台所から麦茶のペットボトルをもらっていこうとしたら、そこにいた姉に呼び止められた。

「何」

「暇? ちょっと味見してほしいんだけど」

「……なにこれ」

 姉の手元には茶色やらベージュやらの何かがあった。皿に盛りつけられているところを見るあたり、食いもんらしい。

「クッキーよ、クッキー」

「クッキー……?」

 少なくとも俺の知っているクッキーの形ではない。こう、規則正しい丸や四角、あるいは星型とか、そういうふうに形容できるものじゃなくて、なんていうんだろう。

「アメーバ型?」

「誰がアメーバ型のクッキーなんて作るのよ」

「でも姉さん、昔、ミジンコ型のクッキーとか作ってなかった?」

「それは……生物部の出し物だったから」

 その時に見たクッキーはなんというか、子どもが見たら逃げ出しそうな、魔除けにすらなりそうな感じだったけど。

「花よ、可憐な花」

「かれんなはな」

 まあ、そう見ようと思えば見えなくもないか。

 姉さんは、はつらつと笑うと「部屋で食べて」と言ってクッキーをのせた皿を差し出してきた。

「作り過ぎちゃったのよ」

 見れば調理台には、おびただしい数のアメーバ……もとい、花が咲き誇っていたのだった。



「いただきます」

 新しいディスクに入れ替え、さっそくクッキーを食べてみる。

 味はいつも悪くないんだよなあ。ココアのクッキーはほろ苦く、プレーンはバター控えめでうまい。

「姉さん、立体物苦手なんだよなあ……」

 平面になるとそれはもう寸分の狂いもない図形やスケッチ、グラフを披露してくれるのだが、立体物になるとどうもいけないらしい。だから設計図と完成品の差が激しくて、毎回びっくりする。

 これ、ジャムかな。花びらにしたかったのか、あるいは花の真ん中を描きたかったのか。真偽不明だが、イチゴジャムを選んだのはいけない。なんかこう、やばい感じがする。

 でもこの甘酸っぱさとクッキーのほのかな甘みがちょうどいい。ああ、なんか脳が混乱する。

 ……これ、あいつらに見せたらなんていうだろう。

 一条は言葉を選びつつもはっきり感想を言ってしまいそうだし、井上は笑って、でも、食ってみたいって言いそうだし、優太は「どうして……?」と言いながらも姉のことを知っているので呆れて笑うだろう。

 実物を持っていけそうか、あとで姉さんに聞いてみよう。

 ついでにラッピングしてもらおうかな。独創的な色使いのラッピング、なんだか癖になるんだよなあ。



「ごちそうさまでした」

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