330 / 854
日常
第三百十八話 コロッケサンド
しおりを挟む
豆腐とねぎの味噌汁に炊き立てのご飯、銀だらみりんを焼いたもの、そしてキュウリのサラダ。豪華な朝飯だな。
「いただきます」
銀だらみりんはほくっとした箸の感触がいい。つるんとした見た目で、表面はこんがりといい色をしている。とろけるような食感に、香ばしいたれの香りがたまらなくおいしい。ご飯によく合うのだ。
それに豆腐のまろやかなみそ汁を合わせる。うまいなあ。
薄く切ったキュウリにドレッシングとマヨネーズをかけただけのシンプルなサラダだが、これがうまいんだ。
「今日のお昼はどうしようね」
お茶を一口飲んで、ばあちゃんが言った。じいちゃんは少し考えると、俺の方を向いた。
「春都は何が食べたいんだ?」
「俺は……コロッケ」
「ああ、そうだった。言ってたね。じゃあ、そうしよう」
ばあちゃんはうんうんと頷く。
あ、銀だら、なくなった。おいしいものは減るのが早い。
「ごちそうさまでした」
皿洗いをしていたら、材料を確認していたばあちゃんが「あら」と声を上げた。
「どした?」
「いや、パンが今日までだったから。食パンって気づいたら消費期限ギリギリになってるのよね」
ああ、それはよく分かる。冷凍してもいいけど、それはそれで忘れるんだよな。
「お昼、パンでもいい?」
「もちろん」
むしろ願ったり叶ったりである。
「コロッケサンドにする」
「あ、それおいしそう。そうしよう」
タイマー式の食器乾燥機に、洗った食器をすべて入れてふたをし、スイッチを入れる。
窓から差し込む朝日のきらめきがまぶしかった。
予習を済ませ、さて今から何をしようか、というところで家の電話が鳴った。間もなくしてばあちゃんが受話器を取り、しばらく話してから通話を切った。
「うーん……何時くらいになるかなあ。ねえ、春都」
「なにー?」
「お客さんのとこに行かなきゃいけないんだけど、ちょうどお昼ご飯の時間なの。作る時間がないだろうから、何か買ってきてもいい?」
「あー……」
それは別に構わないのだが、大変ではなかろうか。
自転車を取りに行って、修理して、また持っていくってことになるだろうから……途中で買い物に寄るのもなあ。荷物増えるしなあ。
「だったら、俺が作るよ」
「えっ、いいよ。大変でしょう。ゆっくりしてなさい」
「特にやることもないし、コロッケサンドでいいなら」
「ほんとに? ありがとうねえ」
何を使ってもいいから、とばあちゃんは言ってエプロンを外した。
「それじゃあ、行ってくるね」
「はーい。行ってらっしゃい、気を付けてね」
さて、それじゃあ、どうするかな。
まずはジャガイモを茹でるか。それからベーコンと玉ねぎと……味付けは塩コショウだけって言ってたな。どれくらい入れればいいんだろうか。ま、頑張ってみるか。
ジャガイモは洗って、皮をむいたら火が通りやすいように切り分ける。できるだけ均等な大きさに切らないとな。そしたら鍋に移して、ひたひたになるまで水を注ぎ、火にかける。土に埋まっているものは水から、それ以外は沸いてから茹でるのだとか。
火が通ったらお湯を捨て、ジャガイモをつぶしておく。
ベーコンと玉ねぎは細かく切って炒める。ある程度炒めたらつぶしたジャガイモと混ぜていく。そして塩コショウで味付け。ちょっと味見してみるか。
「こんなもんか……?」
うまいので良しとしよう。
アルミホイルを広げ、小麦粉とパン粉を用意する。卵はボウルに溶いておく。
コロッケは成形するときにしっかり空気を抜いておかないと爆発する。売り物ではないので見た目は気にする必要ないが、揚げているときにはじけると危ないのだ。一度はじけてえらい目にあった。
小麦粉、卵、パン粉の順につけ、熱した油にそっと入れる。
ジュワワッとパン粉に油が染みるようにコロッケが音を立てて沈む。ここで焦って動かしてはいけない。衣がはがれてしまう。
いまだに、料理は完璧には作れない。一年やって何とか食べられるものが作れるようにはなったが、ばあちゃんや母さんには遠く及ばないものだ。
そりゃそうだ。年季が違う。
あ、そうだ。パンも焼いとかないと。片付けもしなきゃいけないし、キャベツの千切りも準備しないとなあ。
料理って本当、大変だ。家庭科で調理実習とかするけど、それとはまた違うんだよなあ。そもそもメニューから考えないといけないんだ。教科書があるわけでも、決められているわけでもない。
ほんと、日々こなしていくだけで必死なのである。
焼いたパンにキャベツをのせ、ソースをかけてコロッケをのせ、ソースをかけてパンで挟む。カリカリカリッと、パン粉とトーストされたパンが触れ合う音がいい。
「はー、終わった。ただいま」
配達を終えたばあちゃんが戻ってきた。じいちゃんも一緒だ。
「おかえり。もうすぐできるよ」
「わあ、楽しみね」
「座って待ってて」
ザクッと半分に切る。おお、いい感じだ。
皿にのせて……添え物はないが、十分だろう。ボリュームがあっていい感じだ。
「いただきます」
あまりの大きさで、パンの耳しか口にできない。モチモチしていておいしいのだが、早く中身が食べたい。
たどり着いた。
サクッと香ばしいパンに、ソースが染み染みのコロッケ。ジュワアッと口の中に酸味と甘みが広がり、次いで、ジャガイモのほくほくとした口当たりがやってくる。うん、味もちょうどよかったみたいだ。ベーコンのうま味がにじみだし、玉ねぎも程よく存在感がある。
キャベツのみずみずしさと青さでさっぱりするので、いくらでも食えそうだ。
「おいしい。上手になったね、春都」
ばあちゃんがそう言ってくれると、なんだかうれしい。
「酒が欲しくなるな」
と、じいちゃんも満足そうに食べてくれている。
食パンがしんなりしてきた部分もうまい。コロッケサンドは、そこが一番うまいんじゃないかと思う。
具材とパンがなじんで幾分か食べやすくなり、その分、おいしさも味わいやすくなる。すべてがうまいこと合わさったコロッケサンドは、ボリュームがあって、ソースの風味がダイレクトに伝わる。
パンとパン粉の香ばしさ、塩コショウが効いたジャガイモ、ベーコンの脂、玉ねぎのほのかな甘み。これこれ、これが食べたかった。
今度、弁当で持って行こうかな。
「ごちそうさまでした」
「いただきます」
銀だらみりんはほくっとした箸の感触がいい。つるんとした見た目で、表面はこんがりといい色をしている。とろけるような食感に、香ばしいたれの香りがたまらなくおいしい。ご飯によく合うのだ。
それに豆腐のまろやかなみそ汁を合わせる。うまいなあ。
薄く切ったキュウリにドレッシングとマヨネーズをかけただけのシンプルなサラダだが、これがうまいんだ。
「今日のお昼はどうしようね」
お茶を一口飲んで、ばあちゃんが言った。じいちゃんは少し考えると、俺の方を向いた。
「春都は何が食べたいんだ?」
「俺は……コロッケ」
「ああ、そうだった。言ってたね。じゃあ、そうしよう」
ばあちゃんはうんうんと頷く。
あ、銀だら、なくなった。おいしいものは減るのが早い。
「ごちそうさまでした」
皿洗いをしていたら、材料を確認していたばあちゃんが「あら」と声を上げた。
「どした?」
「いや、パンが今日までだったから。食パンって気づいたら消費期限ギリギリになってるのよね」
ああ、それはよく分かる。冷凍してもいいけど、それはそれで忘れるんだよな。
「お昼、パンでもいい?」
「もちろん」
むしろ願ったり叶ったりである。
「コロッケサンドにする」
「あ、それおいしそう。そうしよう」
タイマー式の食器乾燥機に、洗った食器をすべて入れてふたをし、スイッチを入れる。
窓から差し込む朝日のきらめきがまぶしかった。
予習を済ませ、さて今から何をしようか、というところで家の電話が鳴った。間もなくしてばあちゃんが受話器を取り、しばらく話してから通話を切った。
「うーん……何時くらいになるかなあ。ねえ、春都」
「なにー?」
「お客さんのとこに行かなきゃいけないんだけど、ちょうどお昼ご飯の時間なの。作る時間がないだろうから、何か買ってきてもいい?」
「あー……」
それは別に構わないのだが、大変ではなかろうか。
自転車を取りに行って、修理して、また持っていくってことになるだろうから……途中で買い物に寄るのもなあ。荷物増えるしなあ。
「だったら、俺が作るよ」
「えっ、いいよ。大変でしょう。ゆっくりしてなさい」
「特にやることもないし、コロッケサンドでいいなら」
「ほんとに? ありがとうねえ」
何を使ってもいいから、とばあちゃんは言ってエプロンを外した。
「それじゃあ、行ってくるね」
「はーい。行ってらっしゃい、気を付けてね」
さて、それじゃあ、どうするかな。
まずはジャガイモを茹でるか。それからベーコンと玉ねぎと……味付けは塩コショウだけって言ってたな。どれくらい入れればいいんだろうか。ま、頑張ってみるか。
ジャガイモは洗って、皮をむいたら火が通りやすいように切り分ける。できるだけ均等な大きさに切らないとな。そしたら鍋に移して、ひたひたになるまで水を注ぎ、火にかける。土に埋まっているものは水から、それ以外は沸いてから茹でるのだとか。
火が通ったらお湯を捨て、ジャガイモをつぶしておく。
ベーコンと玉ねぎは細かく切って炒める。ある程度炒めたらつぶしたジャガイモと混ぜていく。そして塩コショウで味付け。ちょっと味見してみるか。
「こんなもんか……?」
うまいので良しとしよう。
アルミホイルを広げ、小麦粉とパン粉を用意する。卵はボウルに溶いておく。
コロッケは成形するときにしっかり空気を抜いておかないと爆発する。売り物ではないので見た目は気にする必要ないが、揚げているときにはじけると危ないのだ。一度はじけてえらい目にあった。
小麦粉、卵、パン粉の順につけ、熱した油にそっと入れる。
ジュワワッとパン粉に油が染みるようにコロッケが音を立てて沈む。ここで焦って動かしてはいけない。衣がはがれてしまう。
いまだに、料理は完璧には作れない。一年やって何とか食べられるものが作れるようにはなったが、ばあちゃんや母さんには遠く及ばないものだ。
そりゃそうだ。年季が違う。
あ、そうだ。パンも焼いとかないと。片付けもしなきゃいけないし、キャベツの千切りも準備しないとなあ。
料理って本当、大変だ。家庭科で調理実習とかするけど、それとはまた違うんだよなあ。そもそもメニューから考えないといけないんだ。教科書があるわけでも、決められているわけでもない。
ほんと、日々こなしていくだけで必死なのである。
焼いたパンにキャベツをのせ、ソースをかけてコロッケをのせ、ソースをかけてパンで挟む。カリカリカリッと、パン粉とトーストされたパンが触れ合う音がいい。
「はー、終わった。ただいま」
配達を終えたばあちゃんが戻ってきた。じいちゃんも一緒だ。
「おかえり。もうすぐできるよ」
「わあ、楽しみね」
「座って待ってて」
ザクッと半分に切る。おお、いい感じだ。
皿にのせて……添え物はないが、十分だろう。ボリュームがあっていい感じだ。
「いただきます」
あまりの大きさで、パンの耳しか口にできない。モチモチしていておいしいのだが、早く中身が食べたい。
たどり着いた。
サクッと香ばしいパンに、ソースが染み染みのコロッケ。ジュワアッと口の中に酸味と甘みが広がり、次いで、ジャガイモのほくほくとした口当たりがやってくる。うん、味もちょうどよかったみたいだ。ベーコンのうま味がにじみだし、玉ねぎも程よく存在感がある。
キャベツのみずみずしさと青さでさっぱりするので、いくらでも食えそうだ。
「おいしい。上手になったね、春都」
ばあちゃんがそう言ってくれると、なんだかうれしい。
「酒が欲しくなるな」
と、じいちゃんも満足そうに食べてくれている。
食パンがしんなりしてきた部分もうまい。コロッケサンドは、そこが一番うまいんじゃないかと思う。
具材とパンがなじんで幾分か食べやすくなり、その分、おいしさも味わいやすくなる。すべてがうまいこと合わさったコロッケサンドは、ボリュームがあって、ソースの風味がダイレクトに伝わる。
パンとパン粉の香ばしさ、塩コショウが効いたジャガイモ、ベーコンの脂、玉ねぎのほのかな甘み。これこれ、これが食べたかった。
今度、弁当で持って行こうかな。
「ごちそうさまでした」
14
お気に入りに追加
253
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!


妻を蔑ろにしていた結果。
下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。
主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。
小説家になろう様でも投稿しています。
「一晩一緒に過ごしただけで彼女面とかやめてくれないか」とあなたが言うから
キムラましゅろう
恋愛
長い間片想いをしていた相手、同期のディランが同じ部署の女性に「一晩共にすごしただけで彼女面とかやめてくれないか」と言っているのを聞いてしまったステラ。
「はいぃ勘違いしてごめんなさいぃ!」と思わず心の中で謝るステラ。
何故なら彼女も一週間前にディランと熱い夜をすごした後だったから……。
一話完結の読み切りです。
ご都合主義というか中身はありません。
軽い気持ちでサクッとお読み下さいませ。
誤字脱字、ごめんなさい!←最初に謝っておく。
小説家になろうさんにも時差投稿します。
サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜
野谷 海
恋愛
「俺、やっぱり君が好きだ! 付き合って欲しい!」
「ごめんね青嶋くん……やっぱり青嶋くんとは付き合えない……」
この3度目の告白にも敗れ、青嶋将は大好きな小浦舞への想いを胸の内へとしまい込んで前に進む。
半年ほど経ち、彼らは何の因果か同じクラスになっていた。
別のクラスでも仲の良かった去年とは違い、距離が近くなったにも関わらず2人が会話をする事はない。
そんな折、将がアルバイトする焼鳥屋に入ってきた新人が同じ学校の同級生で、さらには舞の親友だった。
学校とアルバイト先を巻き込んでもつれる彼らの奇妙な三角関係ははたしてーー
⭐︎毎日朝7時に最新話を投稿します。
⭐︎もしも気に入って頂けたら、ぜひブックマークやいいね、コメントなど頂けるととても励みになります。
※表紙絵、挿絵はAI作成です。
※この作品はフィクションであり、作中に登場する人物、団体等は全て架空です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる