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日常
第三百十一話 ナポリタン
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中間試験の範囲が掲示される頃になると、文化祭準備もそろそろ動き出す。
昼休み、委員会の集まりで配られた資料には文化祭に向けたスケジュールが記載されていた。
「ポップコンテスト、今年もやるんですね」
解散になった後、柱にもたれかかって気だるげに人波を眺めていた先生に聞けば、これまためんどくさそうに「やるんだなあ、それが」と笑った。最近染め直したらしい髪は光の加減で深い青にも見える。鳥の羽みたいだ。
「前回のが好評だったらしくてな」
「面倒なら嫌っていえばいいのに」
と、咲良が俺の背後にやってきた。からかうように咲良は笑った。
「先生なら言えるでしょ」
「お前は俺を何だと思っている?」
先生は言うと苦笑した。
「やりたくないからやりません、というのは通用せんことぐらい俺でも分かる」
「分かってんですね」
「やりたいことだけやって食っていけりゃ世話ないさ」
ひらひらとプリントをちらつかせ、先生はカウンターに向かった。
「文化祭なあ」
咲良は近くの椅子に座る。
「せっかくなら、いろいろやればいいのに。今年からやんねーかな」
「いろいろって?」
その向かいに座り聞けば、咲良は楽しげな様子で話し始めた。
「やっぱカフェとか、屋台とか!」
「ああ、そういう」
「クレープとか、ジュースとか。調理部は毎年クッキーとか作ってるけど、食いもんってそれだけじゃん?」
「そうだな」
人が集まり過ぎるのもあまり好きではないが、屋台とかはいいかもしれない。食べ物がたくさんあるのはいいことだ。
「文化祭なあ……」
やっぱり焼そばとか、たこ焼きがメジャーなのだろうか。ジュースは業務用を買ってくるとか? 業務用スーパーって楽しそうなんだよな。大型スーパーも楽しい。
「クラス別でテーマ決めて教室改造するとか」
「改造?」
「お化け屋敷とか」
「えー……お化け屋敷ぃ?」
その手のアトラクションはちょっと苦手だ。
咲良は笑って言った。
「なに、怖いの?」
「怖いっつーか、ホラーとかあんま好きじゃない」
「あー、まあ俺も好みかどうかと言えば、好みじゃないなあ。じゃあ、なんだろ」
「飯がいい」
設備は限られてるし凝った料理は出せないだろうか。作り置きできる料理ならどうにかなるか。でも衛生面はどうだろう。湿気の多い時期だもんなあ。
「カフェとかなら、ケーキか?」
「ああ、食堂でも出てるから、現実的だろうな」
ケーキなら冷凍のものを準備していてもいいだろう。種類も豊富だし。
「俺はしょっぱいのも食いたい」
そう言えば咲良は「お前はそうだよな」と笑った。
「焼きそば、たこ焼き、お好み焼き?」
「出店系って、粉もの多いよな。箸巻きもある」
「イカ焼きとか、焼きとうもろこしもあるぜ」
「ああ、海鮮いいな。とうもろこしもうまそうだ。醤油が焦げた匂い、たまらん」
咲良は背もたれに身を預けると「まあでも」とため息をついた。
「実際やるわけじゃねえけど」
「まあな」
こういうのは考えている間が一番楽しい気がする。準備も楽しいっちゃ楽しいが、たぶん俺は途中で「しんどい」が先行する気がするんだよなあ。特にクラスでやるってなったら、気疲れしそうだ。
そういうのは、楽しむ側が気楽かもしれない。ああ、それなりに仲のいい奴らとやるんだったらいいかもな。
「あ、そういや、観月の学校がそんな感じの文化祭っつってたな」
「えー、いいなあ。楽しそう」
しばらくの間の後、咲良は聞いた。
「いつなんだろ、文化祭」
「秋だった気がする」
「行きたいな」
一般開放はされてるって言ってたし、在校生からの招待券とかがあればちょっとした優遇が受けられるとかなんとか。
「行けるといいな」
「なー」
まあ、とりあえず今は、自分らのことだ。
どうせ今年もポップコンテスト、こき使われるんだろうからな。
ちょっと今日は使ってみたい調理器具がある。
細長いタッパーみたいなやつで、これにスパゲティの麺と水入れてレンジでチンすれば茹で上がるという代物だ。なんでも、味付けとかもこれで済むらしい。
まあ、今日はナポリタンにするから、フライパン使うけど。
野菜はピーマン、玉ねぎ。ウインナーかベーコンかで悩むところだが、今日はウインナーにする。ケチャップソースはしっかり酸味を飛ばして、バターを入れるのを忘れちゃいけない。
鍋でゆでるよりも時間はかかるが、鍋を一個準備しなくていいのは楽だ。
茹で上がった麺をソースと絡めたらあとは盛り受けて完成である。今日はここに目玉焼きをのせてみる。一気にお子様ランチっぽくなった。
「いただきます」
つやのある麺。この赤色がたまらなく好きだ。
クルクルとフォークで巻いて、ソースが飛び散らないように一口食べる。まろやかな口当たりはバターのおかげだろうか。トマトの風味は残りながら酸味はなく甘い。麺もしっかり茹でられているみたいだ。
もちもちの麺の食感は、野菜のシャキシャキとの相性がいい。ナポリタンのピーマン、食感といい味といい、最高だな。玉ねぎは主張弱めだけど、それもまたよし。
ウインナーはプリップリ。肉の味と香辛料、まとわりついたソースのバランスがばっちりだ。
やっぱナポリタンってうまいなあ。
そんで目玉焼きを一緒に食ってみる。黄身の部分がすでに崩れていたので、それを和えて……おお、さらにもったり、まろやかになった。これは食べ応えがあっていいぞ。うまい、うまい。白身も淡白なので、濃いソースによく合うのだ。
ナポリタンって、定期的に、無性に食べたくなるんだよなあ。
粉チーズとタバスコをかけたときのあの味を想像するともうたまらなくなる。よし、かけよう。
まろやかで濃いチーズの風味にピリッと爽やかなタバスコの刺激、そして、トマトの甘味。このバランスたるや。最高だ。
いやあ、今回も腹いっぱい、堪能した。
今度はベーコンで作ろうかな。パンも準備して。
「ごちそうさまでした」
昼休み、委員会の集まりで配られた資料には文化祭に向けたスケジュールが記載されていた。
「ポップコンテスト、今年もやるんですね」
解散になった後、柱にもたれかかって気だるげに人波を眺めていた先生に聞けば、これまためんどくさそうに「やるんだなあ、それが」と笑った。最近染め直したらしい髪は光の加減で深い青にも見える。鳥の羽みたいだ。
「前回のが好評だったらしくてな」
「面倒なら嫌っていえばいいのに」
と、咲良が俺の背後にやってきた。からかうように咲良は笑った。
「先生なら言えるでしょ」
「お前は俺を何だと思っている?」
先生は言うと苦笑した。
「やりたくないからやりません、というのは通用せんことぐらい俺でも分かる」
「分かってんですね」
「やりたいことだけやって食っていけりゃ世話ないさ」
ひらひらとプリントをちらつかせ、先生はカウンターに向かった。
「文化祭なあ」
咲良は近くの椅子に座る。
「せっかくなら、いろいろやればいいのに。今年からやんねーかな」
「いろいろって?」
その向かいに座り聞けば、咲良は楽しげな様子で話し始めた。
「やっぱカフェとか、屋台とか!」
「ああ、そういう」
「クレープとか、ジュースとか。調理部は毎年クッキーとか作ってるけど、食いもんってそれだけじゃん?」
「そうだな」
人が集まり過ぎるのもあまり好きではないが、屋台とかはいいかもしれない。食べ物がたくさんあるのはいいことだ。
「文化祭なあ……」
やっぱり焼そばとか、たこ焼きがメジャーなのだろうか。ジュースは業務用を買ってくるとか? 業務用スーパーって楽しそうなんだよな。大型スーパーも楽しい。
「クラス別でテーマ決めて教室改造するとか」
「改造?」
「お化け屋敷とか」
「えー……お化け屋敷ぃ?」
その手のアトラクションはちょっと苦手だ。
咲良は笑って言った。
「なに、怖いの?」
「怖いっつーか、ホラーとかあんま好きじゃない」
「あー、まあ俺も好みかどうかと言えば、好みじゃないなあ。じゃあ、なんだろ」
「飯がいい」
設備は限られてるし凝った料理は出せないだろうか。作り置きできる料理ならどうにかなるか。でも衛生面はどうだろう。湿気の多い時期だもんなあ。
「カフェとかなら、ケーキか?」
「ああ、食堂でも出てるから、現実的だろうな」
ケーキなら冷凍のものを準備していてもいいだろう。種類も豊富だし。
「俺はしょっぱいのも食いたい」
そう言えば咲良は「お前はそうだよな」と笑った。
「焼きそば、たこ焼き、お好み焼き?」
「出店系って、粉もの多いよな。箸巻きもある」
「イカ焼きとか、焼きとうもろこしもあるぜ」
「ああ、海鮮いいな。とうもろこしもうまそうだ。醤油が焦げた匂い、たまらん」
咲良は背もたれに身を預けると「まあでも」とため息をついた。
「実際やるわけじゃねえけど」
「まあな」
こういうのは考えている間が一番楽しい気がする。準備も楽しいっちゃ楽しいが、たぶん俺は途中で「しんどい」が先行する気がするんだよなあ。特にクラスでやるってなったら、気疲れしそうだ。
そういうのは、楽しむ側が気楽かもしれない。ああ、それなりに仲のいい奴らとやるんだったらいいかもな。
「あ、そういや、観月の学校がそんな感じの文化祭っつってたな」
「えー、いいなあ。楽しそう」
しばらくの間の後、咲良は聞いた。
「いつなんだろ、文化祭」
「秋だった気がする」
「行きたいな」
一般開放はされてるって言ってたし、在校生からの招待券とかがあればちょっとした優遇が受けられるとかなんとか。
「行けるといいな」
「なー」
まあ、とりあえず今は、自分らのことだ。
どうせ今年もポップコンテスト、こき使われるんだろうからな。
ちょっと今日は使ってみたい調理器具がある。
細長いタッパーみたいなやつで、これにスパゲティの麺と水入れてレンジでチンすれば茹で上がるという代物だ。なんでも、味付けとかもこれで済むらしい。
まあ、今日はナポリタンにするから、フライパン使うけど。
野菜はピーマン、玉ねぎ。ウインナーかベーコンかで悩むところだが、今日はウインナーにする。ケチャップソースはしっかり酸味を飛ばして、バターを入れるのを忘れちゃいけない。
鍋でゆでるよりも時間はかかるが、鍋を一個準備しなくていいのは楽だ。
茹で上がった麺をソースと絡めたらあとは盛り受けて完成である。今日はここに目玉焼きをのせてみる。一気にお子様ランチっぽくなった。
「いただきます」
つやのある麺。この赤色がたまらなく好きだ。
クルクルとフォークで巻いて、ソースが飛び散らないように一口食べる。まろやかな口当たりはバターのおかげだろうか。トマトの風味は残りながら酸味はなく甘い。麺もしっかり茹でられているみたいだ。
もちもちの麺の食感は、野菜のシャキシャキとの相性がいい。ナポリタンのピーマン、食感といい味といい、最高だな。玉ねぎは主張弱めだけど、それもまたよし。
ウインナーはプリップリ。肉の味と香辛料、まとわりついたソースのバランスがばっちりだ。
やっぱナポリタンってうまいなあ。
そんで目玉焼きを一緒に食ってみる。黄身の部分がすでに崩れていたので、それを和えて……おお、さらにもったり、まろやかになった。これは食べ応えがあっていいぞ。うまい、うまい。白身も淡白なので、濃いソースによく合うのだ。
ナポリタンって、定期的に、無性に食べたくなるんだよなあ。
粉チーズとタバスコをかけたときのあの味を想像するともうたまらなくなる。よし、かけよう。
まろやかで濃いチーズの風味にピリッと爽やかなタバスコの刺激、そして、トマトの甘味。このバランスたるや。最高だ。
いやあ、今回も腹いっぱい、堪能した。
今度はベーコンで作ろうかな。パンも準備して。
「ごちそうさまでした」
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